78話 新たな力
よろしくお願いします!
ドレアムが造り出した神級魔法は、尋常ではない大量の魔力で構成され、自然界にすら影響を及ぼしかねないとんでもないものだった。
凄まじいエネルギーを内包したそれは、今まさに俺へと放たれた。
「……これが、神級魔法……」
見ただけでこの魔法のヤバさが分かる。
俺の勘が、この魔法をくらってはいけないと警鐘を鳴らす。
これを受けては、死ぬと騒ぎ立てる。
これを何としても、防げと脳は命令し、俺は体を動かした。
「死んでたまるかーー!! はあぁぁぁーー!!」
死ぬ気で体中の全ての魔力を放出し、目の前に迫る神級魔法にぶつけた。
もはや魔法とは呼べない魔力の奔流で、ドレアムの魔法の動きを止める為に。
―――――――だけど。
動きを止められたのは数秒だけで、アイツの魔法の威力は凄まじく、踏ん張りをきかせても、後ろへ、後ろへと押されていく。
地面に俺の足跡が、長い二本の線を作りながら何とか勢いを殺そうとするが、尚も、魔法の威力がおさまらない。
巨大な黒い炎は、俺の耐熱効果が施されているはずのローブを、チリチリと焼いていく。
「……やばいっ! このままじゃ……」
莫大な熱量に全身を焼かれ、朽ち果てる映像が頭に浮かんだ。
刻一刻と、死の気配が近づいてくるのが分かった。
絶対絶命の状況で、この危機を切り抜けるにはどうすればいいか、必死に頭を働かせて考える。
「何とかしないと……死ぬ……クソッ! どうすればいい……どうすれば!」
ドクンッ!
この感覚は……。
【タクト耐えろ。あれをくらえば、死ぬぞ】
「ユーリ。ドレアムに神級魔法を使われた」
【……そのようだな。あの魔力の規模を見れば、嫌でも分かる。
あれに、対抗出来るのは神級魔法だけだが、まだお前には扱えない】
「どうすれば、いい?」
【俺の魔力も使え。そこまで大量には無いが、幾分かマシになるはずだ】
ユーリが、俺の体に魔力を流かしてくれるのが分かる。
その魔力を使い、魔力奔流は勢いを増して、ドレアムの魔法を塞き止められるようになった。
【一時的に止められたが、これも時間稼ぎにしかならない。
それに、まだアイツは全力を出していないんだろう。徐々に威力が上がっていっている】
ユーリの言うとおり、せっかく均衡が取れた矢先に、また少しずつ押され始めた。
【完全に計算外だ。アイツ、400年前よりも強くなってやがる。
俺と戦った時には、ここまでの強さも魔法も撃てなかった】
400年前には、ドレアムはユーリが倒したと聞いている。
【恐らくだが、ハーディーンの野郎に力を貰ったんだろう。とにかくこれを何とかしないことには、ジリ貧だ】
「だけど。これ以上、どうすればいい? ユーリから貰った魔力も使ってるけど、それでもこれは防げない。いつまでも、耐えられないし、いずれあれに飲み込まれる」
【……一つだけ、可能性があるとすれば。お前の最後のギフト……それが、どんなもんか知らないが、それに賭けるしかない】
「だけど、俺も使い方が分からない。レベルもだいぶ上がったけど、いまだに目覚めないんだ」
まだ目覚めない、スキル。
どんなものかすらも分からない、女神からもらった最後のギフト。
俺が転生する時。
このマギア・フロンティアに来る前に、女神はハーディーンを倒す為に力をくれた。
その力は、ここまで俺の力として役立ってくれた。
それは俺の力になるからこそ、くれたはずだ。
だからここでも俺の力になってくれるはずなんだ。
どんな能力かも、発動条件があるのかも知らないが、今使わないと死ぬっていうのなら!
「女神見ているなら、ギフトを解放しろーー!!
俺が転生したのは、ハーディーンを倒すためなんだろう!!
こんな所で死ぬ為じゃない!! マギア・フロンティアを救って欲しいんだったら……俺に力を、寄越せーー!!」
空に向かって、叫んだ。
俺の叫びが届いたのか、体を光が覆ったと同時に、ドレアムと戦うにつれて増していた、体の違和感が最高潮に達した。
体中に、とてつもない熱が広がっていく。
その熱に反応するように、力が湧き出すのを感じた。
【……女神が何かしたのか知らないが。お前の体に、魔力とは違う系統の力が流れているぞ。俺も見たことがないものだ】
「とにかく、この魔法を何とかしないといけないけど……この力の使い方が分からない。
どんな能力か、教えといてくれよ女神。いきなり目覚めても、使い方分かんないって! えーと、とりあえず!」
早く何とかしないといけないと、焦ってテンパってしまう。
魔法を消し去るでも、弱めるでも何でもいいから、この状況を何とかしてくれーー!!
両手を突きだし、力を込めて強く祈った。
「……どうだ? ……駄目か? 使い方間違ってんのか?」
失敗したと思い始めた時。
タイムラグが発生し、七色の光がドレアムの魔法に向かい、魔法の規模を小さくして威力を弱めた。
「……よく分かんないけど……よし! これで何とかなる!」
ドレアムの魔法が弱まったことで、一気に魔力を込めた奔流をぶつけ消滅させることに成功した。
魔法が消え去る事で、空を多い尽くしていた闇が晴れ、光が戦場を満たす。
「……バカな。神級魔法を……」
無表情のドレアムも、この時ばかりは眼を大きく見開いて、驚愕の表情を浮かべていた。
「……貴様。何をした。何だその力は……」
「お前には教えねーよ」
俺だって知らないんだ。仮に知ってたって教えるわけないだろう。
「…………フン。では、もう一度やるまで。魔力は心もとないが、あと一発分は――――」
途中で言いかけて、ドレアムの動きが止まった。
「……神から帰還せよと、命令が入った。貴様を始末出来なかったのは残念だが、戻らねばならない」
「次は、絶対に負けない。お前よりも強くなってやる」
「フン。次のステージに向けて準備があるから、今回はこれで退いてやる。
また、戦う時まで精々力をつけるがいい」
そう言い残して、ドレアムは転移魔法で姿を消した。
ゲラルド達の魔力反応もしなくなったから、一緒に消えたか。
敵の気配が無くなり、緊張の糸が切れたのか。
足腰に力が入らずに、背中から地面に倒れた。
「はぁ~疲っかれた。体中痛いし、怠いし」
こうして横になっているのも、辛い。
体の至るところにダメージもある。
擦り傷、切り傷、何ヵ所もの骨折に、内臓も結構やられた。
アルフィンに治してもらわないと。
それに限界突破の反動から、体が鉛のように重い。前に限界突破を使用した時は、二日ぐらい辛かった。
魔力も、この一戦でほぼ、枯渇したから二、三日は回復までかかる。
「はは。ボロボロじゃん」
笑えるぐらいに、まさに満身創痍。
【ひとまず、危機は脱したな。ドレアム相手に良くやった】
「魔力ありがとう助かったよ。……何とかなったけどアイツと戦って俺の力不足が分かった。もっと力をつけないといけない。このままだと、次に戦うときには殺される」
【強くなるしかないな。奴もまた何かやらかそうとしているみたいだったからな。次は、竜王国に行くのか?】
「ああ。リューガから竜王に会ってほしいと頼まれた。俺も竜王国と協力体制を作りたいから」
【それなら、あそこには面白い物があるからそこでみっちり鍛えられる。危険だがタクトお前なら乗り越えられるだろう。
俺は、さっきので魔力消費したからまた少し眠る。何かあったら呼んでくれ】
「分かったよ。おやすみ」
ユーリの気配も消える。
結果だけ見れば、連合軍は生き残った。
邪神軍に対抗できる戦力は、残った。
俺も謎のスキルが目覚めたし、アルフィン達も、無事だった。
結果オーライか。
「明日からまた、鍛練だな」
ボコボコにやられたけど、ドレアムと戦えて良かった。
アイツが見せた、力や、魔力操作を手本にして、それを上回れれば俺はまだまだ強くなれる。
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