76話 それぞれの局面②
ナエside
「もう、ここでいいんじゃない? 充分、魔王の人の所から離れたしさ」
「そうだな。ここでなら、他の所にも被害は出ないだろう」
「お兄ちゃんのお邪魔にならないなら、どこでもいいの。あなたを倒して、もどるんだから」
「チビ。何僕に勝てる気になってんのさ。ムカつくなー」
「だから、あたしはナエだって言ってるの。それにチビなのは、お互い様なの」
「いーや! 違うね。僕の方が、背が高い! お前なんかこんなに小さいじゃないか」
ジャギが自分の腰ぐらいに手を当てた。
「そんなに小さくないの。それに、あたしはまだ10歳なの。将来性は、あたしの方があるの」
「だからさー!」
「……もう、その辺でやめておかないか。いつまでも、言い合うばかりになってしまう」
ラカンおじさんが、顔に手を当てて、「ハアッ」と息をはいた。
何か疲れることがあったのかな。
「そうだね。僕も忙しいんだから、いつまでも、お前達と遊んでられないんだ。遅くなると、ドレアムに……怒られるんだから」
ジャギが、ドレアムっていう人の名前を言った時、顔が青くなった。そんなに怖い人なのかな。
「そのドレアムっていう人。そんなに怖いの? 顔は凄い怖かったけど」
お兄ちゃんを見ているときも、あの人はずっと同じ顔をしていた。怖い顔で。
「僕は別に怖がってなんかないけど、ゲラルドがいっつも、ぶっ飛ばせれてのは、見るけどね。そういう意味では、怖いんじゃない? すぐ怒るし。僕は別に怖くないけどね」
ジャギは、嘘をついてる顔をしてるの。
「ふぅ~ん。そうなの。同じお兄ちゃんだけど、タクトお兄ちゃんは、優しいよ。いっつも頭撫でてくれるし、おんぶもしてくれるの。アイスも買ってくれるし」
「……いいなぁ。あっ。ゴホン! そんなの別に羨ましくはないけどね。……まぁ、そろそろやろうか。日が暮れちゃうしさ」
「わかったの。全力でいくの」
「やっとか。もう準備は出来ている。悪いが、こちらは二人がかりで挑ませてもらう」
「別に、お前達が何人で来ても、僕の勝ちは変わらないんだからいいよ」
その言葉で、ジャギがもの凄い早さで、魔力を溜めていくのが分かった。
その早さに、少しビックリしながら、収束スキルで魔素を集めていく。
あたしの周りに、どんどんと魔素が集まって魔力へと変わる。
魔力と収束の力で、いつでも魔法を撃てるようにした。
「まずは、お前達の力、見せてもらうよ! コールドピラー!!」
ジャギが使ったのは、氷属性の特級魔法で、激しい冷気が周りを凍らせて、次々と巨大な氷柱を地面から発生させた。
「これは、氷属性の特級魔法。ナエ殿、火属性魔法で、こちらは対抗だ。炎爆!!」
それに対抗するように、ラカンおじさんも魔法を放った。
「わかったの。いくの! 親分火熊!!」
あたしも、同じタイミングで大きくて可愛い火熊の親分を撃った。
「へぇ~そのキラキラが光るスキル凄いじゃん。
周りから、魔力を生成するなんてさ。専用スキルでしょう、それ。……だけど、魔法のモチーフを動物にするのは、どうなのさ……」
「親分は、強いんだよ。それに、可愛いからいいの」
あたしの親分と、ラカンおじさんの魔法と、ジャギの魔法がぶつかった。
ジャギは、一発しか魔法を使ってないのに、あたし達よりもちょっとだけ威力が高い。
あたしは、収束のスキルを使ってやっと、特級魔法を撃てる。
ラカンおじさんの魔法がなかったら、これだけで負けてたかもしれないの。
魔法がぶつかって、雨みたいに空から水がおちてきた。
「なるほどね~。直ぐ終わるかと思ったけど、楽しめそうじゃん」
「あたし達は、そんなに弱くないの。バカにしないで」
「その通りだ。アーロン皇帝程ではないが、俺達も力を合わせれば、そう簡単に負けはせん」
「あっそ。じゃあやってみればいいさ」
それから、何回も魔法を撃ち合った。
ジャギは、あたし達がここに来る前から戦ってるのに、まだまだ元気なの。
途中からは、ジャギがピカッて光って、更に魔力圧力も増えた。魔法も、やっぱり強くて少しずつ押され始めた。
ラカンおじさんも、魔力残量も減ってきて苦しそうだし、あたしも、ジャギの魔法を何回か当たって体に傷も出来ていた。
「……流石、四天王だな。……はぁ……はぁ」
「……悔しいけど……はぁ……ジャギやるの」
「僕相手に、ここまで粘るなんて予想外だよ。
それに……直撃ではないにしても、僕の凄い魔法をくらって、その程度のダメージなんて」
ジャギの凄いその魔法を受けて、体に傷は出来ているけど大怪我まではならなかった。
「それはナエ殿の、圧倒的な魔法耐性のお蔭だろう。その力は、相手の魔法のダメージを抑えて、使用者を守る。
お前みたいな砲台タイプの魔法使いには、天敵となるだろう」
「確かに。その魔法耐性は、厄介だね。僕の魔法の威力を弱めるなんて。だけど、これはどうかな?」
ジャギが、この戦いで一番の魔力量を作っていく。
「……この魔力反応は。いかん。特級魔法を同時に撃つつもりだ。
一発でも、やっと互角なのに複数となると、持ち堪えられない」
ラカンおじさんが、顔に冷や汗を浮かべていた。
「……お兄ちゃんに、普段は禁止されてることがあるの。だけど…本当に必要な時は使っても良いって言われてる事があるの」
「タクト殿にか」
「うん。だから、ここはあたしがやるから、ラカンおじさんは、後ろにいて」
「分かった。一応だが、結界を張っておく。タクト殿やアルフィン王女ほどの物ではないが」
ラカンおじさんは、結界を張りながら後ろに移動した。
「それじゃあ、いくよ。これで終わりかな」
ジャギが、三発の魔法を放った。
それを見ながら、あたしは、タクトお兄ちゃんに言われた事を思い出していた。
「――いいかナエ。これから言うことは、とても大切だから、しっかり覚えておくんだ。ナエは、現段階の魔力操作では、特級魔法でも下級までの魔法しか使っちゃ駄目だ。そこまでにしとかないと、扱いきれなくて危険だからだ。……だけど、もし。
もし、ナエがどうしても、それ以上の力を使わないと自分が危なかったり、誰かを護れない時は、使ってもいい。
強い心で必ず成功させると、イメージしながら使うんだ」
そうお兄ちゃんは、言ったの。
あたしも、こんな所で死ねないの。ラカンおじさんも護りたいから。
だから。
「今が、その時なの!! ん~!! やるの。やるの。やるの。やるのーー!!」
あたしの周りの魔素が、急激に大量で高レベルの魔力に変わっていく。今まで使ったことがない程に。
「これは、なんという魔力だ……まだ高まっていく。特級を超えかねん……」
「氷リューちゃん!! いくのーー!!」
「氷の……竜王族の魔法? また、動物かよ。芸がないなぁ」
「氷リューちゃんは、強いんだよ。いけーー!!
あたしのリューちゃんと、ジャギの三発の魔法がぶつかり合う。
「僕の魔法を撃ち消した? たった一発で?」
「だから言ったのリューちゃんは強いって。もう、あなたの好きには、させないの。これからはあたし達が攻める番だよ」
これぐらいの魔力操作は覚えたから、もう大丈夫なの。
ジャギを倒して、お兄ちゃんに頭撫でてもらうの。
ナエside
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