75話 それぞれの局面①
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シズクside
タクトさんに、ドレアムとの戦いに集中してもらう為、私はナエちゃんの村を襲った元凶の相手を申し出た。
直ぐにでも戦えるように、破魔の力を既に解放状態にして、私はその相手と相対している。
「俺様の相手が出来るかどうか。女、お前の力を見せてみろ。駄目ならお前を殺して、あの魔王をぶっ殺しにいく」
「あなたなんかに、タクトさんの相手は、もったいないです。
私が、戦闘欲求を満たしてあげます。あなたの敗北の結果も着けて、ですが」
「あ? 言うじゃねぇか。 ならよぉ、さっそく殺ろうぜ!」
ゲラルドが、その大きすぎる体を揺らして突進してきた。
この男は、確かに強い。
こうして前に立つと、邪で、圧倒的な魔力圧力が襲いかかってきます。
普通の人では、これだけで恐怖を感じて、動けないでしょう。
ですが。
「私を鍛えてくれたタクトさんは、あなたなんかよりも、ずっと、ずっと強いです。その程度の力、恐れるに足りません」
そう。
私は今日まで、毎日タクトさんと、鍛練を繰り返してきた。
真剣勝負を想定して、模擬戦闘を繰り返してきた。
非殺傷とはいえ、本番を想定して、タクトさんには手加減をしないで本気で戦ってもらった。
最初は、実力差がありすぎて、まったく何も出来ず、ボロボロにされて、アルフィン様の治癒魔法に何度もお世話になりましたが。
最近になって、やっとタクトさんの動きに対応できるようになった。
だからこそ、この男ゲラルド程度では、私は負けない。
それに。
タクトさんは、私ならこの男に勝てると信じてくれて、この男の相手を、任せてくれました。
その期待に、何としても応えないわけにはいきません。
私は、タクトさんの負担を減らすために、強くなったのです。
私は、もうタクトさんに、護られる対象ではない。
ゲラルドが、その剛腕を私の顔目掛けて、振るってきた。
その軌道を見極め、横に半歩ずれてかわし、その突き出した腕に刀を滑らせた。
「うけなさい!」
一閃。
「ぐおお!! 俺様の腕が!!」
ゲラルドの右腕に、深い切れ込みが入り、その太い腕は骨と皮膚が、かろうじて繋がっていた。
あと少しで、切り落とせましたが、ちょっと踏み込みが浅かったようですね。
修正しないと。
「……なんだ。その切れ味は。まるで、俺様の硬い肉体が、紙切れみたいじゃねぇか」
ゲラルドは、一旦、バックステップで私から距離を取り、警戒の色を濃くする。
今の動きで、私を本当の意味で、強者認定をしてくれたのか、顔つきが明らかに変わった。
そんなもの、してもらわなくてもいいのですが。
あなたは、ここで、倒すのですから。
「強ぇ剣士は、クラウドぐらいしか、いなかったけどよ。お前もその中に入れてやるよ。光栄に思いな」
「それは、素直に受け取らせてもらいます。ですが。そんな隙だらけでいいのですか?」
「ああ?」
ゲラルドが、訝しげな顔をする。
恐らく、距離が離れたこの位置からでは、私には何も出来ないと思っているのか、何の構えもせずに隙だらけだ。
私は、中距離程に離れたこの位置から、エクソードアークを三度、四度、五度とゲラルドに振るった。
今度は、しっかりと踏み込み、刀身に力を伝えて。
破魔をのせた銀色の五つの斬撃を、ゲラルドに飛ばした。
「っ!! グゥオォォ!! なんだっ! 見えねぇ斬撃が!!」
ゲラルドは、体を縮めその巨大な体躯を小さくして、飛ぶ斬撃をガードしようとする。
「それでは、防げませんよ」
私の言葉の通りに斬撃は、顔と心臓を守っていた両腕を、「スパッ、スパッ」と切断した。
「……ガアァァァ!! クソがっ!!」
両腕を失くし、膝立のまま私を、その恐ろしい目で睨み付けてくる。
「早く全力を出さないと、このまま切り伏せますが。いいですか?」
破魔の魔力を上昇させて、刀の切っ先を、ゲラルドに向ける。
「うおぉぉぉ!! お望み通りに、俺様の全力だーー!!」
非常に迷惑な大声で叫び、ゲラルドは力を解放する。
体を光が包み込み、邪な魔力が増大していく。
「なるほど。これが、進化の光ですか。タクトさんから聞いていますが、傷も魔力も回復するのですね。厄介な」
「ずいぶん落ち着いてんじゃねぇか。俺様が本気出してやったってのによ。こうなった俺様は強ぇ。女覚悟しろや」
確かに、ますます暑苦しいほどに、筋肉質になり、溢れだす魔力圧力は強大になりました。
でも。
「それでも、タクトさんには、敵いませんね」
「……あのクソ魔王といい、お前といい。……俺様をバカにしやがって。許さねぇ!!」
ゲラルドは、体をプルプルと震わせる。
「八つ裂きだーーーー!!」
また、ハタ迷惑な大声を出して、さっきよりも俊敏にタックルを仕掛けて来る。
「はあっ!!」
こちらも、突進してくる体にまた、四度、五度と斬撃の嵐をお見舞いする。
斬撃がゲラルドの体にたくさんの傷を刻んでいく。
ただ、進化してからは、外皮が硬度を増したのか、先ほどよりも深い傷が入らなくなっていた。
「うがあぁぁぁ!! こんなもんでーー!!」
ダメージなどお構い無しとばかりに、血飛沫をあげながら、迫られるのは怖いですね。
「辿り着いたぜ! この間合いなら、その斬撃は撃てねぇだろうが! こっからは、俺様のターンだ! オラァ!」
斬撃の嵐を潜り抜け、私の前にまでくると、イライラをぶつけるように、拳、足技、体当たりと連続して攻撃を仕掛けてきた。
それを、刀で弾きながら、後ろへと下がる。
刀身に響く衝撃が、徐々に握力を失わせていく。これは、いつまでも受け続ける訳には、いきません。
破魔の力を高めて、力を込めゲラルドを引きはがした。
「……なるほど。確かに、その力は脅威ですね」
「やっとその冷静な面に、焦りが見えたきたじゃねぇか。俺様はこの距離が得意なんだ。もうお前に好きにやらせねぇ!!」
私の、表情に若干の苦痛が浮かんでいたのか、私の表情を変えられたことが嬉しかったのか、口角を上げて、ニヤニヤとしている。
目をギラギラとさせて、凶悪な顔でニヤつかれると、ハッキリ言って、気持ち悪いですね。
同じ男性だというのに、タクトさんとこうも違うとは。
「ですが。私の一番得意な間合も、近距離です。有利なのは、あなただけではないですよ?」
「……そうだとしてもよ! 俺様の有利なのは変わらねぇ!!」
「そうですか、それではいきますよ」
この男に勝ち、ナエちゃんと、他で助けを必要としている所へ、いかなくては。
私はこの勝負に勝つために、力を研ぎ澄まし駆け出した。
シズクside
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