69話 隊長VS四天王①
よろしくお願いします!
連合軍side
防衛戦は局面を変え、隊長陣と四天王の戦いへと発展した。
それぞれの組み合わせは以下の通りとなった。
クラウド対ゲラルド。
アーロン対ジャギ。
バハムート対デスタ。
まず一番最初に激突したのは。
アーロンとジャギの歳の差が大きく離れている者の戦い。
この二人は、初老の男性と見た目12歳程の少年で、共にマギア・フロンティアでは最強クラスの、遠距離魔法使いの位置にいる。
その匠な魔力操作から繰り出される、強力無比な魔法は、まさに最高峰の砲台として、両軍では数多くの敵を葬ってきた。
先に動き出したのは、自分よりもだいぶ歳上な相手の男に、自分の優秀さを見せつけたい少年。
「それじゃあ! 小手調べだよ! フレイムサイクロン!!」
ジャギは、通常の魔法使いよりも圧倒的なその魔力操作で、瞬時に特大魔力を溜めると、右手から火属性と風属性の混合魔法を放った。
それを見たアーロンは。
「やれやれ、こんな面倒な魔法を使いおって。
年寄りを労らんのか最近の子供は。
フレイムサイクロン!!」
相対する少年に対し年寄りの小言を言いながら、アーロンもジャギ同様の、卓越した魔力操作でしっかりと魔力を溜める。
そして、敢えて同じ魔法を放ち、出方を窺うことにした。
「なんだよ文句言うわりに、同じ魔法じゃないか。
つまらないの。それじゃあ――」
ジャギは、右手と左手に二つの別々の魔法を作り出そうと、両腕に魔力を溜めた。
「これまた、器用な真似を。それは疲れるのだが、仕方あるまい」
そう言うと、アーロンもジャギ同様に、それぞれの手に魔力を溜めて。
「「スコーチングブレイド!!」」
「「ソニックブレイド!!」」
まったくの同タイミングで、炎に包まれた無数の刃と、真空の刃を放つ。
二人から放たれた、四つの特級魔法は、真正面からぶつかり合い相殺された。
激しくぶつかり合った際に生まれた、その凄まじい魔法のエネルギーは、周囲を吹き飛ばす程の風圧となって、この戦場を駆ける。
「……さっきから、僕の真似ばっかりじゃないか。なんなの? 僕にケンカ売ってんの?」
爆風の余波で髪を揺らしながら、イライラする気持ちを正面の年寄りに向けて、文句を言った。
「いやいや、そんな気はないのだが。
仕方なかろう? 相手の魔力を見ると何を仕掛けてくるか、分かるのだから。お主もそうだろう?」
「……そうだけどさ。このじいさん本当やりづらいなぁ」
少年は、不満顔で愚痴った。
ここまで、互角の魔法の撃ち合いをしている二人は、お互いに魔法の達人の域まで到っている。
相手が何をしようとしているのかを、魔力操作を見るだけで、理解してしまう。
そして、二人はそこからさっきやった通りの、同じ魔法をぶつけ相殺させるか、はたまた違う魔法をぶつけ、威力勝負に出るのかを選択することができる。
二人の魔力操作、魔法を行使する技量は互角。
故に、今までも決着が着かないまま、今日まで来ていた。
だが、今日は、いままで通りとはいかなかった。
アーロンがジャギの魔力操作を見極めて、真似事の様に同じ魔法を行使していたのには、理由があった。
「……はぁ……はぁ……はぁ……これは、骨が折れるな……」
そう。
アーロンは、この一年間の疲労が溜まりに、溜まっていた。
ずっと連合軍を導いてきたプレッシャーと、この四天王達を、相手にしてきた日々の疲れで、魔力の残りも少なく、とても万全な状態ではなかった。
その為、魔力も無駄に使用することは叶わず、あくまでも時間稼ぎの一環として、この少年と戦っていた。
その疲労、制限下の状態が、この戦いでアーロンの魔法行使に陰を落とし、不利とさせていた。
「こんな程度で、へばっちゃうんだ。なっさけないの」
「そう言ってくれるな。はぁ……はぁ、お主のその魔法行使に、ついていけるのは、この連合軍にはこの年寄りしかいないのだ。
その相手をしていれば、疲れるのも道理だと思わんか?」
「僕は別に、相手をしてくれなんて頼んでないけど? まぁでも、他には雑魚しかいないから、しょうがないけどさ」
「……とは言え。まずいな……」
この疲労の蓄積が、戦いの決着に於いて敗因になりかねないことは、アーロンも気づいていた。
そして、別の所では。
バハムートとデスタが、戦っていた。
上空から、滑降して鋭い爪を振るおうとするバハムートに、デスタは多重結界を自身の前に張り、バハムートの動きを止める。
「相変わらず、ちょこまかと空を飛ばれるのはウザイですね」
「そなたも、そのサポート魔法と、近接、遠距離と万能性は厄介だな」
動きを止められたバハムートは、一旦空に飛び立ち、旋回した後、地面に降り立つ。
空を飛びながら、次の一手はどうするかと考え、口に魔力を溜めていたバハムートは、魔物の数を減らすのに大いに貢献した、ブレスを放とうと構えた。
「ちょっと、ちょっと。この距離でそんなの撃たれたら、迷惑ですよっと――」
デスタは、この状況を打破する方法を、その優秀な頭脳で考える。避けるか、ジャギ達がやっている様に自身も魔法を撃ち相殺させるか、はたまた……。
「う~ん。これでいきましょう」
一瞬の間で、幾つもの選択肢を用意し、数ある選択肢の中から、ベストな方法を選んだ。
デスタがその方法を、選ぶと同時に、バハムートの口からは強力なブレスが放たれる。
相変わらずの殲滅力のブレスは、地面を削りながら、デスタへと、超スピードで迫った。
それを確認したデスタは、両腕を前に突き出し。
「ゲートオープン!」
デスタは前方に、黒い門の様な物を出現させた。
門の横には、鬼のような化物が二体立ち、その鬼達が左右から、「ギイイイイイ!」と音をたてながら門を開くと、ブレスはその中に吸い込まれた。
「……ワレのブレスが。なんともまた珍妙な魔法を……」
バハムートも思わず、初めて見る系統の魔法に、驚きと、若干呆れの声を漏らした。
「これで終わりでは無いですけどね。ゲートオープン!」
デスタはバハムートの左側に向けて、右手を向けると。
「なにっ!……クウッ!」
バハムートの左側から、先程吸い込まれ消えたはずの、ブレスが現れ、バハムートに放たれた。
それを必死に上空へと、飛び立ち回避する。
「……ワレのブレスを打ち返し……たのか?……」
バハムートも、まさか自身のブレスを打ち返されるとは、思ってもいなかったらしい。一年近く、戦ってきた相手がまだ、この様な手を残していたことに、驚きを隠せない表情をしていた。
「だってね? そのブレスは、本当に、本当にウザイんですよ。
でも、これで易々と使えないでしょう? 前から何とか潰してあげようとは思っていたのですが、中々うまくいかなくて。今日まで時間かかっちゃったんですよね~」
デスタは、相手の選択肢を一個ずつ潰し、相手を丸裸にして追い詰めるのが好きだった。
相手の今までの努力の果てに手に入れた力を潰し、絶望させるのが好きだった。
一年間、数多くの人間達を殺して来たデスタも、ここまで、用意周到にしつこく、やることはなかった。
それだけ、相対している、バハムートの実力を買っているのがデスタでもある。
口調は軽く、相手をなめている様にも見えるが、デスタは、油断はすることなく、確実に相手を仕留めることを常に考え戦ってきた。
バハムートは、今までの戦いにおいて、最高効率で、魔物達を消し去ってきた、自身の自慢のブレスが使えなくなった事は、目の前の男と戦うのに対して劣勢になった事を理解していた。
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