6話 魔王の称号
よろしくお願いします!
トランスヴァールへ到着した俺達は、アルフィンの父親である国王に謁見することになった。
アルフィンを先頭に謁見の間へ向かう。
そのまま入場し、中へ入ると、広大な空間があった。
謁見の間は長方形になっており、6本の石柱が連なっている。
ここだけ魔力の濃度が濃い。
謁見の間の中央奥には、きらびやかな玉座があり、そこに座っているのが王様なのだろう。
アルフィンと同じ金髪で、目元も何処かアルフィンに似ている。
国王の脇には初老の男性が立ち、周りには何人かのお偉いさんの姿もあった。
近くまで寄りアルフィンが跪く。レスターも同様に跪き、俺もアルフィン達に習ってすると、王様から声がかかった。
「アルフィンよ。無事に戻られて何よりだ。レスターから赤色の信号弾を見たと聞いた時は、肝を冷やしたぞ。……一体道中で何があったのだ」
その話し方からは、威厳が感じられたが何処か焦りも感じられた。
アルフィンが心配だったのだろう。
「はい。ご説明させて頂きます」
そうして、アルフィンからカイザーベアが出現し、護衛隊が全滅、殺される寸前の所で俺が現れ討伐した事が説明された。
「なに…カイザーベアが現れただと……」
国王の驚きの声と共に、周りにいる人達からも同じように驚愕の声が上がった。
一瞬にして、ザワザワとした雑音が謁見室を満たす。
「はい。ここトランスヴァール皇国にはまだ、中級魔物程度までしか出現しておりません。ですが、街道に突然現れたのです。
何の前触れもなく。
そして、こちらのタクトさんが一人で強力な魔法を使い倒してくれました」
アルフィンがこちらに手を向けた事で、王様やお偉いさんさん達から目線を向けられる。
「タクトと申したか。先ずは我が娘アルフィンを助けてもらい感謝する。我は、ユルゲン・ライゼ・トランスヴァール。そなたが駆けつけてくれなければアルフィンも殺されていたであろう。
娘を助けてくれた恩人に失礼かも知れぬがいくつか確認したいことがある。よいか?」
「はい。確かにカイザーベアを討伐したのは俺です。ですが、この世界の常識として、自分がやった事は怪しまれるのも分かりますので、質問でも何でも答えますよ」
俺自身も怪しまれるのもわかっていたし、この場で真実を明かすとアルフィンも言ってくれたから怪しまれるのは、別に気にしていない。
ついでに、次の話の展開を広げたかったから、それとなく匂わせる言い方をしたけど。
『この世界のと』言った辺りで、王様がピクッと反応していた。
気づいてくれたかな。
「そうか……この場で敢えて、自分は怪しいものではないと言わないのそなたは、面白い男とみた。そして、この世界のと、申したか」
気づいてくれた。
鋭い王様だな。アルフィンも何か気づいた様だし、流石親子だ。
「では、まず一つ。既に聞き及んでおると思うが、カイザーベアは上級魔物。
上級魔物は30人の勢力でやっと互角に戦うことができる危険な存在。それを倒したのは本当かの?」
「はい。俺が倒しました」
正確には、ユーリがだけど。
ここは、黙っておく。
「そうか。それではその力をこの場で見せてもらえないか? レスターと模擬戦闘をしてその実力を証明してもらいたい」
「模擬戦闘ですか」
「うむ。申し訳ないが、実際にこの目で確かめさせて欲しいのだ。大丈夫だ。どれだけ強力な魔法を使ってもらっても構わない。魔法大臣リーフに結界を張らせるのでな。
あと、怪我した場合はアルフィンの治癒魔法があるから心配せず思い切りやるがよい」
いらない心配までされてしまった。
「リーフ」
「ハッ。聖なる結界。絶界!!」
王様の指示により、50代ぐらいの壮年が前に出て両手を前に、詠唱を行う。この人がリーフさんか。
ブゥンとの音が鳴り魔法大臣リーフさんが結界を張った。
事の成り行きを見ていたアルフィンは王様の隣に、レスターは俺の方へそれぞれ移動した。
いきなり模擬戦闘をするのには少し驚いたが、力を証明するには手っ取り早いか。俺も実践経験を積めるのはありがたいし。
中央で俺とレスターが向かい合う形で立つ。
レスターは既にロングソードを抜いて構えを取っていた。
表情は険しく、未だに睨まれている。
「武器は必要かな?」
リーフさんが聞いてくれた。
どうしようかな。
さっきの戦闘ではロングソード借りたんだけど。今回は武器なしの格闘主体で戦ってみるか。
「いえ。武器は必要ありません」
その言葉にレスターが反応した。
舐められていると思ったかな。別に手を抜いている訳ではないのだが。
「お前の本性を王の前でさらけ出す。覚悟しろ」
睨まれる。
俺は邪神の手下かもしれないと怪しまれているからな。
仕方ないとはいえ、早く誤解を解くようにしないと。
「お手柔らかにお願いします」
リーフさんが前に出て模擬戦闘の開始を告げた。
「双方よいかな。それでは始め!!」
先ずは、体全体に魔力を纏う。
カイザーベアと戦った時の事を思い出すように。
あの時よりも、イメージを明確に具体的にする事で魔力濃度が増した。
とりあえず近接戦闘の経験値を稼ぐか。
レスターさんはこちらの出方を窺っているのか、その場で動かず構えている。
こちらから仕掛けさせてもらおう。
床を思い切り踏み出して、まず拳を叩き込む。
「速いっ! ……だがこれぐらいは!!」
俺の速度に反応して、剣の横腹で拳を受け止めようとする。
だが、衝撃までは受け止められなかった様だ。
数メートル後方へ吹き飛ばす。
「くぅっ。速くて重い一撃だ……」
レスターさんが苦痛の表情で言った。
思っていた通り、良質の魔力を纏う事が出来れば、それだけ身体能力も向上されるみたいだ。
もっと慣れて、魔力循環を高められれば近接戦闘は有利になる。
さっきのを参考に、もう一段階高めてみる事にした。
魔力を高めていくと、レスターさんが今度はこちらの番だと攻撃を仕掛けてきた。
「ハァァァァっ!!」
鋭い気合いと共にロングソードに魔力を纏わせた一撃が、上段より繰り出される。
それを、横に回避する。
身体能力が向上したことにより、動体視力も思考能力も上がっているみたいだ。余裕を持って見極めて回避出来た。
レスターさんは剣を床に叩きつけた所で動きが止まっている。
俺は横から今度は足技を叩き込む。レスターさんも今度も剣で受け止めようとするが、防御の上から打撃を叩き込み、剣を弾き飛ばす事に成功した。
「グゥッ! しまった剣が………」
その隙に、今度は背後に回り込み、無防備な背中に蹴りを叩き込む。
グシャッ!!
と、まるでプラスチックを踏み潰した様な音が鳴った。
右足から伝わった感触も、それに近いものだった。
少なくとも、鎧を蹴ったものではない。
その事を物語るかの様に、鎧は凸凹と大きく陥没し、レスターさんは物凄い勢いで結界が張られている所まで吹き飛んだ。
振り抜いた右足を地面におろし、構えを解く。
勢い良く飛んでいったレスターさんに目線を向けると、周りが無音である事に気付く。
そういえば、戦いが開始された時には周囲の雑音が聞こえていたけど、途中から集中してたからか耳に入ってこなくなっていたな。
「「「…………」」」
ぐるりと、見渡した謁見の間は、シーンと静まり返っていた。
王様を始め、魔法大臣やこの場に居る誰もが眼を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべている。
アルフィンだけは、こうなると分かっていたのか比較的冷静そうだ。
「……がはぁっ……!! ここまで、力の差が……」
声のした方を向くと、レスターさんは足をガクガクと震えさせながらも立ち上がる所だった。
「はぁっはぁっ……カイザーベアを一人で倒した事は本当だったか……」
何とか立ち上がり、息も絶え絶えになりながら、俺の力を信じてくれた様だ。
「はぁっはぁっ……。一つ聞きたい……カイザーベアを倒したのは魔法だったか……その時の魔法を見せて欲しい。
どれだけの威力なのかを、見たい。お前の魔法がどれだけの物かを見せてくれ……」
「その怪我で……魔法を受けて大丈夫ですか?」
「心配は……いらん……」
本人が言うなら大丈夫なんだろう。
万が一でもアルフィンの治癒魔法がある。
それなら遠慮なくと、さっきと同じ魔法を撃てるか分からないけど、修行も兼ねて魔力を高めて放ってみよう。
「我、ここに正義を成すため、魔法の契約を!」
レスターさんが先に詠唱を始める。
俺は集中して、イメージを高めていく。
体から、吹き出る魔力。秒を増す毎に、その質量は膨れ上がっていく。その出来立てほやほやの魔力を右手中心に集めていくと、収束した魔力は一番最初に放った魔法第一号よりも、強力になった。
それでも、ユーリが使った魔法に比べると断然落ちるが。
俺の準備が終わるのを待っていたかの様に、レスターさんが魔法を放つ。
「炎浪!!」
その魔法は炎で出来た狼の姿をしていた。
こちらへ猛然と放たれ、本物の狼みたいに地面を駆けてくる。
「デインオーバー!!」
それを迎え撃つ様に、俺も右手の魔力を前方に解き放った。
俺の魔法は先程と同じ雷系の魔法だが、魔力の本流は先程の二倍程太くなっていた。
ほぼ同じタイミングで、放たれた魔法は一瞬の均衡の後、黒いイカヅチが炎の狼を飲み込み、真っ直ぐにレスターさんに向かっていく。
魔法が直撃する直前、何処か満足した表情でレスターは魔法に飲み込まれた。
「そこまで!!」
掛け声で模擬戦闘が終了する。
同時に結界が解除された所で、アルフィンがレスターの所に駆けつけ、治癒魔法を使い傷を癒していく。レスターは気絶しているようだ。
今回の模擬戦闘は得られるものがあった。
より高濃度の魔力操作ができる程の実践経験を積ませてもらった。
心の中でレスターに感謝する。
ここで、またお決まりのレベルアップ音が鳴る。
ステータスを確認した。
タクト
慣れ始め魔王
レベル30
スキル 高魔力操作、近接戦闘、ステータス表示、経験値ブースト
経験値ブーストのお陰でレベルの上がりが早いな。魔力操作も高にランクアップしている。
「凄まじいものだなそなたの力は」
自身のステータスを確認していると、王様が玉座から立ち上がり、こちらの方まで歩いてきた。
「模擬戦闘でそなたの力は、やはり、普通の力ではないと分かった。だが、そなたがハーディーンの手下では無いとも分かる。
もしそうであるなら、いくらでも我を殺すことは出来た。今この瞬間にもな」
俺が敵なら、この場で王様を始めこの国の重鎮が集まっているなら、暴れるだろうしな。
「最後の質問だが、お主は何者なのじゃ? それだけの魔法を使える者はこの国そして、世界を見てもいない。
もしくは、一つだけ心当たりがあるとすれば、この世界には古の予言がある。
〈この世界窮地に立たされし時、世界の理外れし者、魔導を極め世界を救わん。その者魔王を名乗る者なり〉とな。
我は、そなたがその予言の救世主だと思っておる。
そなたは先程《この世界の》常識と言ったのもそれに関係していると思うのだがどうだろうか」
俺の正体に気付いたか。やはり鋭い人だ。
そうだな、ここには王様を始め、お偉い方も集まっているんだ。ここで話してしまおう。
「俺は、多分あなた方が言われる存在だと思います。
前の世界で死んだ時、女神といわれる存在からこの世界に転生して、邪神ハーディーンを倒して欲しいと頼まれました。
俺はステータス表示のスキルを使えます。その能力で自分には魔王の称号があると確認しています。」
説明を終えると、周りがザワザワと騒ぎ出す。
「そうであったか。この世界には真実の鏡と呼ばれる物がある。
これは、写した者の名前、称号、レベルが分かるようになっている。ユーリ陛下からは、「この国で生まれた赤子は生後直ぐに、この鏡を用いてその者の能力を見るのと、邪神の手先かどうかも見破る為に使用せよ」との言い伝えがあるのだ。
証明の為、使用してもよいか?」
「はい。構いません。それで信じて貰えるならば安いものです」
「すまぬな。リーフ鏡を持ってこい」
「はっ! 直ぐに」
すぐさまリーフは鏡を持って来て、鏡を使用する。
そこには。
タクト
慣れ始め魔王
レベル30
と文字が浮かび上がった。
浮き上がる文字を見て。
「やはり、そうであったか。初代トランスヴァール皇国ユーリ陛下も大魔王の称号を持っておられた。
ユーリ陛下は邪神ハーディーンとの死闘の末、自らの命と引き換えにハーディーンを封印された。
その際ユーリ陛下は幾つもの遺言と、邪神の復活に備えて様々な手を打ってくれた」
ここまではアルフィンから聞いていたな。
「その一つの遺言に〈自分の死後、ハーディーンが復活する時、魔王の称号持つ者現れる。その者には国全体で力になる様に〉と言われた。ユーリ陛下亡き後、歴代の王にも国民にも誰にも魔王の称号を持つ者は現れなかった。
今またこの世界の危機に魔王の称号を持つ物が現れた。
我々トランスヴァールはそなたに是非ともお願いしたい。
再びまた、ハーディーンからの驚異から世界を救っていただきたい。どうかこの通りに」
そう言い王様は頭を下げた。
「頭を上げてください。王様が俺に頭を下げる必要はありません。アルフィンにも必死にお願いされました。
俺も困っている人は放っておけません。俺に力があるのであれば、この力を世界の為に使いましょう」
「おお、ありがたい誠に感謝する」
王様からは心の底から感謝の気持ちが伝わった。
側に近づいてきたアルフィンからは誇らしい顔を向けられる。
ひとまず俺の存在は知ってもらえた。
次は具体的にどう行動するか話し合うか。
お読みいただきありがとうございます(^ω^)