66話 意地
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時は少し遡る。
連合軍side
野外に設置されている仮設の本部に、連合軍の最高戦力である男達が、これからの戦いを見据え話し合っていた。
「ふぅ……これでより一層に戦況は厳しくなったか……」
長テーブルに地図を拡げ、それを見ながら溜め息を吐くのは、銀色の髪に、エメラルドグリーンの瞳の見るからに美形な青年。
彼は、連合軍バラガン公国の隊長として、この戦況これからの戦いの行方を案じ、いかにしてこの戦いに勝つことが出来るかを真剣に考えていた。
「……エデンを陥落されたのが大きい……。
あそこを失うことで、人員は勿論、補給、そして、魔法具も足りなくなった。
俺達もそうだが、隊の皆も疲労がピークになってきている。
それに、俺達が唯一、邪神軍に勝っていたアドバンテージが無くなった。これで連合軍の勝ちは限りなく遠退いたことになる」
「ドレアムの野郎。汚ぇ手を使いやがって! 正々堂々と正面から来やがれってんだ! クラウド何かいい案はないのか? ドレアムにいいようにやられっぱなしなのは腹がたつ」
そう敵対している相手のやり方に文句を言うのは、赤髪で無精髭を生やした男。本来の性格は、豪快で明るいのだが、流石にこの状況ではそれも鳴りを潜めている。
正面からくれば、自慢の防御力と、難攻不落の結界で防げるのにと不満顔になっていた。
「そうは言うがジェクトよ。お前も気付いていると思うが、ドレアムは、まだ一度も本気を出していない。
誰もあの進化の光を見るどころか、まともに追い詰めてすらいないのだ」
赤髪の男を諭すように話すのは、年齢による白髪と、右頬に、爪痕を刻まれた初老の男性。
ただ、まとう雰囲気からは、かなりの高貴さを出している。
実質、彼もまた連合軍の主力中の主力として、最前線の双翼のルーデウス帝国の皇帝として、連合軍自体を引っ張るリーダーの役割を担い戦っていた。
このメンバーの中でも、年長者として、長年の経験則から来る、判断力、勘等で中心メンバーとして隊をまとめている。
「バハムートも、そう思うだろう?」
ルーデウスの皇帝は、視察から戻ってきた竜王国の戦士に向けて声をかけた。
「アーロンの言うとおりだ。あの男は、まだまだ力を隠しておる。あの男だけは、他の四天王とは別格だ。
我等が全員で挑もうとも、あしらわれたのは、そなたも覚えておろう」
そう話しながら、上空からゆっくりと降りてくるのは、連合軍の隊長の一人であるバハムート。
竜王国の民は、年月と共に体躯の大きさが変わり、その中でも、バハムートは一際巨大で優に十五メートルは越えていた。
金色の翼をたたみ、ゆっくりと地面に降り立った。
「それは……そうだけどよ。このままアイツらのやりたい放題だと、俺達は本当に負けちまう。
ハーディーンの所にすらいけねぇんだぞ」
「……だが。この戦況で俺達に出来る策は、限られている。
だからこそ、ラカンをバラガンまで治療に戻らせた。
上手くバラガン公に援軍を頼めている事を、前提に作戦を練りたいと思う」
そう言ってクラウドは現状の戦力、物資の残量、援軍が来るまでの日数を考慮して、どれだけの期間を耐え忍べばいいのかを計算し導きだした。
「俺達は援軍が来るまで、三日間を奴等の猛攻から、ルーデウスを護りきらなくてはならない。
俺達が援軍が到着するまで耐えれば、まだ希望は繋がる。
だが、それまでに、ルーデウスまで失うことになれば……。俺達の負けが確定する」
「……三日もかよ……」
「…………」
「だが、これを凌げなければ……」
「そうだ……もう俺達には、一歩も後退は許されない」
状況を鑑みて、全員がそれがいかに難しいことかを把握していた。
現状を考えれば、二日持てば良い方だろう。
隊長達も、隊の戦士達も、もう心身共にボロボロだ。
三日など、とても耐えきれる日数ではない。
そして、ドレアムはこの機を見逃すことなく、更に追撃の一手を打つことは、この場にいる全員がこれまでに散々思い知らされてきた。
「もう補給もできないしな……やるしかない」
「厳しいけどよ。やってやろうじゃねぇか」
「うむ。我等の総力を今、ここに使うべきだろう。今やらねば未来はないのなら」
「そうだな……腹を決める時が来た。俺達の意地を見せてやろう」
隊長達は覚悟を決め、作戦を練り直した。
こちらから攻め込むには、戦力が足りない。
と、なれば残される手は一つだけ。
「このルーデウスを護り抜く事に、総力をかける。全ての物資も、戦力もここで使いきるつもりでなければ、耐えられないだろう」
敵は待ってはくれない。
早急に全隊に作戦を流し、防衛の布陣を敷く。
人員の配置を済ませ、魔法兵器の設置に、必要な物資を各ポイントに配る。
見張りをたて、交代で休憩を取りながら戦いの準備を済ませた。
そして。
「隊長方。魔物の大群と、四天王が来ました! 奴等は今までの最大数で攻め込んできた模様です!
索敵班の報告で……その数。五万は確実かと!」
見張り台から、遠くを見ていた戦士が邪神軍が現れた事を告げた。そして敵の数も報告される。
「ちっ! もう来やがったのか。少しぐらい休ませろってんだ!
それによ、何だよあの数は!」
ジェクトが前方に拡げられている、予想よりも遥かに多い魔物の集団に文句を言った。
「五万か。ずいぶんと奴等も、本気だな。何としてもここで我等を駆逐したいとみえる」
「奴等もここが勝負の分かれ目だと、分かっているんだろう」
「故に。俺達はここで勝たねばならない。今この瞬間に己の全てを賭ける!」
アーロンが前に進み出て、全連合軍を見渡して鼓舞した。
「皆の者! ここが、我等の明日を掴み取る分かれ目となる。
国に残してきた、大切な者達を護れるかは、ここで決まる!
我等はその為に、この一年間、奴等、邪神軍と戦ってきた!
我等の意地を示してやろう!
全軍何としてでも、この戦いに生き残るのだ!
勝って、大切な者達の元へ帰ろう!
我等の勝利をこの手に!!
全軍!!
勝つぞーーーー!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
連合軍の意地を見せる為に、必ず大切な人達の元へ帰る為に、己を鼓舞する為に、全員が腹の底から雄叫びを上げた。
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