4話 アルフィン・ライゼ・トランスヴァール
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「ふぅ。何とかなって良かった」
高レベル魔物との戦闘を何とか終えられて一息吐く。
女神に異世界転生して邪神を倒さないと、前世の家族、友人が危機にみまわれると聞いて、アルフィン王女と邪神を倒すことを了承した。
何の因果かトランスヴァール皇国初代国王だったユーリの魂が俺の魂の中にあることが分かった。
そのユーリから魔法の使い方を教えてもらって、カイザーベアを倒せたけど……危うく死にかけるところだったよ。
異世界に来てから、多分まだ二、三時間ぐらいだと思うけど内容濃いよなぁ。
でも、ゲームだとこれでプロローグ終了ぐらいなんだろうな。
何はともあれ、世界を救おうと思うなら、あれぐらいの魔物を難なく倒せるぐらいじゃないといけない。
これから、魔法の修行頑張ろう。
「あ、あの……」
【おい。姫さんがさっきから呼んでるぞ】
頑張る事を決意する俺に、ユーリから頭の中で声をかけられる。
気づかなかったけど、どうやら何回かアルフィン王女に声をかけられていたみたいだ。
(……ああそうか。戦闘を終えてからまだ話してなかったな)
【とりあえず俺は少し眠る。しばらく反応ないと思うが、起きたらまた声をかけるから】
そういうと、ユーリの声が遠ざかり、聞こえなくなった。
どうやら意識の底で眠りについた様だ。
「あっと……ごめん。ちょっと考え事しててさ」
「あ。こちらこそ申し訳ありません。お考え事を中断させてしまいましたね。助けて頂いたお礼をさせて頂きたく、お声を掛けました」
「そうなんだ」
「はい。それでは、改めまして。
この度は、命の危機を助けて頂き、本当にありがとうございます。
申し遅れましたが、わたくしはトランスヴァール皇国王女アルフィン・ライゼ・トランスヴァールと申します。
旅の方かと存じますが、貴方が助けてくださらなければわたくしは魔物に殺されていました。重ねて本当にありがとうございます」
アルフィン王女が腰を折り曲げ、深く頭を下げお礼を述べる。
その仕草は、とても洗練されていた。
前世でもこんな立派な、お辞儀見た事がない。
それに、さっきまでは死ぬか、やられるかだったからそんな余裕なかったけど。
改めてまじまじと見たアルフィン王女は、金髪のサラサラストーレートで瞳は綺麗な青色、目鼻立ちも綺麗で、一つ一つの顔のバランスが奇跡的に整っている。
醸し出す雰囲気も姫様らしいオーラも感じられて、物凄い美少女だった。
前世の世界美少女ランキングに出たら、二位にぶっちぎりの大差をつけて、楽勝で優勝すると思う。
「いや、何とか撃退出来て良かったよ。その……亡くなったお仲間達は……残念だったけど」
俺は人の死に慣れていないから、こういう時なんて言葉をかければと考えてしまう。
この人達はアルフィン王女を助けるため、自分の命を賭けて護っていた。
人の為に、そこまでできるのは忠義を持って戦えるのは本当に凄いと思う。
「はい……クルーゼ達、護衛の10人はわたくしの命を護ってくれました。盾となり、貴方が駆けつけて下さる迄。
本当に皆には感謝しています。せめて、魂が安らかに天国へと行けるように祈るしかわたくしにはできませんが……」
アルフィン王女は下を向いて、必死に涙を堪えているようだった。
「わたくしは、クルーゼ達が護ってくれた命で必ず世界の平和を勝ち取ります。
必ず邪神を倒し、魔物がいない世の中にしてみせます。わたくしには……泣いている暇などありません……」
「大切な人達なんでしょう? こんな時は思い切り泣いたっていいと思う。
一国の王女だからと泣くことが許されていないなら、俺は何も見てないし、聴こえていないから。
例え一国の王女だろうと、同じ人間だ。
辛いのを我慢しても良いことは無いし、溜め込むのも体に悪い。誰だって悲しいときは悲しいと思っていいんだよ」
「……ぐすっ……すいません……御言葉に甘えさせていただきます……うぅ……皆本当にありがとう……」
王女が声を出して思い切り泣き出したのを合図に俺は後ろを向く。
泣き顔を見ないように。
元の世界の親や友人も俺の死を悲しんでくれているかなと、暫く野原を向いて考えていた。
「……もう大丈夫です。気持ちの整理がつきました。ありがとうございます」
目元は若干赤く腫れてはいるが、もう大丈夫だろう。
「俺は何もしてないよ。自分の考えを言っただけさ。でもこれからどうするの?」
「はい、それなのですが。貴方にはわたくしの命を救って頂いた御礼をさせていただきたいのですが。
ご足労をかけてしまうと思いますが、トランスヴァール城に一緒に行ってもらえないでしょうか?」
御礼は別に貰わなくてもいいんだけど、俺にはアルフィン王女と一緒に邪神を倒さなくてはいけない目的がある。
この世界がどういう世界かも分からないし、色々と情報が必要だ。
城に行けば必要な情報も手に入るだろう。
「分かった。そういうことなら一緒に城に行かせてもらうよ」
「よろしくお願いいたします。その前に少しだけお待ちいただいてもいいでしょうか? クルーゼ達の遺体を馬車に乗せて城下町で埋葬してあげたいのです」
「俺も手伝うよ。力ならあるから」
「ありがとうございます。助かります」
女の子一人では大の男の体を持ち上げるのは大変だろう。
その分、俺は転生して身体能力も上がったし、レベルもさっきかなり上がったから、力持ちだ。
それに、俺もこの人達の遺体はこんな所に置いて行くのは嫌だった。
生まれ故郷かは分からないが、親しい人達がいるかもしれない城下町で静かに眠ってもらいたかった。
二人で10人分の遺体を馬車に乗せて、トランスヴァール皇国の方へ動き出した。
城に着けば様々な情報を得られると思うけど、この世界の事や状況を聞いてみたい。
そう思いアルフィン王女を向くと、王女もこちらを見つめていた。
「お名前をまだ、お聞きしておりませんでした。失礼でなければ、教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
そういえばまだ名乗ってなかったな。
「俺はタクト。冒険者……みたいなものかな。
ちょっと遠くの国の田舎からこちらに来たんで、世界の事とかあまり知らないんだ。だから教えてもらってもいいかな?」
いきなり転生者です。君を護って邪神倒します。って言っても怪しい奴だよな。
転生して女神からギフトを貰ったり、アルフィン王女を護る様に言われていることは、まだ黙っていた方がいいかもしれない。
正直に話したいけどしかるべき時に話した方がいいだろう。
「タクトさんと言うのですね。遠くの国というと……エリス王国やバラガン公国でしょうか。
この世界は今危機に瀕しています。邪神ハーディーンが魔物を従え各国に侵略しようとしているのです。
トランスヴァール皇国はまだ、そこまでの被害は出ておりませんが、ハーディーンの根城がある、暗黒大陸に近いエデン王国やルーデウス帝国は戦いの主戦場として、甚大な被害を受けています。その為、各国が精鋭部隊を作り救援に向かっています」
暗黒大陸か、これはゲームとか漫画でもよく聞く名前だな。
実際はゲームとかより生ぬるいものではないだろうけど。
さっきは本当に死にかけたし。
こんな世界各国に戦争を仕掛けられるなんて、邪神は思っていた以上にヤバそうだな。
ユーリも魂だけなのは邪神のせいだと言っていたから、強敵なのは間違いない。
「世界各国にって言ってたけど、邪神は一人で戦争仕掛けているのか?」
いかに魔物を従えていようと一人で全世界を敵に回すなんて出来るんだろうか。
「いえ。邪神の下には四人の幹部がいます。
それぞれ強大な力を持ち、先ほどのカイザーベアの様な上級魔物、更には上位の特級魔物をも従えています」
さっきのカイザーベアでさえも、魔法無しの俺は殺されかけたのに。
更にその上の特級魔物までいるのか……。
そして、それらをも従える四人の幹部に、邪神……敵さんside強すぎないすかね。
これから修行して、魔法や近接戦闘もレベル上げて強くなっていくとしても俺だけの力だとキツイかもしれない。
こっち側も、邪神に対抗出来るだけの仲間を集めることが必要になってくる。
ましてアルフィン王女を護りながらとなると。
だけど、何としてもこの子の力になってあげたい。
可愛いからとかではなく、さっきの泣き顔も一緒懸命さも見た、その上で力になってあげたいと思う。
「あ、あの……」
「うん?」
アルフィン王女の頬が綺麗な桜色になっている。
知らずアルフィン王女を見つめていたようだ。
「あ、ごめん。女性の顔をマジマジと見つめるなんて失礼だよね。まして王女様のを」
慌てて謝罪する。
前世ではほとんどこういう女性との会話もなかったからなぁ。
失礼の無いように気を付けないと。
「いえ……その……貴方に見つめられるのは嫌ではないです……逆にうれし……ゴニョゴニョ……」
最後のほうは聞き取れなかったけど、嫌がられてはなかったみたいだ。
「あと、アルフィンと読んでくれませんか? 貴方は命の恩人ですし貴方には名前で読んでもらいたいのです」
「えっと……失礼でなかったなら。よろしくアルフィン。俺もタクトと読んでくれ」
「はい! よろしくお願いしますねタクトさん!」
うん。可愛い。めっちゃ可愛い。普通でも可愛いけど笑顔もヤバイ。
前世でもこんな可愛い子いなかったよ。
異世界転生は凄いな。
話を戻そう。
「邪神ハーディーン……とんでもない奴だな。
その下には四人の幹部。聞く限り、こっち側がめっちゃ劣勢みたいだけど、アルフィンはこの状況を打開する方法とか知っているの?」
「仰る通り、現在状況的には劣勢です。全世界で連合軍を組織して各部隊が各方面で何とか押し止めてますが、この状況もいつまで持つか分からないと、御父様が仰っておりました。」
だよな。
これだけの戦力差があるんだ厳しいんだろう。
「ただ、この世界の古き予言に「この世界窮地に立たされし時、世界の理外れし者、魔導を極め世界を救わん。その者魔王を名乗る者なり」とあります」
「予言?」
「はい。今から400年前。
初代トランスヴァール皇国ユーリ・ライゼ・トランスヴァール陛下が命と引き換えに邪神を倒し、封印しました。ユーリ陛下は魔王の称号をお持ちでした。
ですが、今から1年前突如として邪神が復活をしたのです。
そしてまたこの世界は窮地に立たされようとしています。
予言の通りで言えば、また魔王の称号持ちが救世主となり現れ、共に邪神を倒してくれるのを、わたくしは信じて癒しの魔法を鍛えて参りました」
予言の「理外れし者」そして「魔王」か……。
多分俺の事だよな。
昔からそんな予言があったとは。
もしかして昔から俺がこの異世界に来ることも決められていたのか?
……後でユーリにも聞いてみよう。
もしかしたら何か知ってるかもしれない。
「タクトさんも物凄い魔力と魔法を使っていました。
現在あれほどの魔法を使える者をわたくしは知りません。
もしかしたらタクトさんが、予言の救世主なのかもしれません。
タクトさんが予言の通り救世主ならば、わたくしと共に邪神を倒していただきたいのです」
アルフィンが真剣な眼差しで見つめる。
俺が異世界から来たこと等は、しかるべき時まで言うつもりはなかった。
でも、ここまで真剣な意思を込めた目で見つめられると、黙っているのが悪い気がする。
どのみち、アルフィンと邪神を倒すことになるなら、先に話しておいた方がいいだろう。
「実は……」
そう思い話し始めると、トランスヴァールへと続く道の先から30人ぐらいが馬に乗り、こちらに向かってくるのが見えた。
六芒星に似た、紋章が書かれている旗も一緒に見える。
「あの紋章は……近衛隊の物です。信号弾をみて救援に来てくれたのでしょう」
アルフィンが説明してくれた。
途中で話し遮られちゃったけどしょうがないか、後で城に着いたら改めて話そう。
近衛隊の軍勢がこちらまで来て、馬を降りてやってくる。
先頭の人が隊長かな。
「アルフィン王女!! ご無事ですか? 赤色の信号弾を見て王女の身に命の危険と判断して馬を飛ばして参りました」
「レスター隊長ありがとうございます。わたくしは無事です。
クリスタに向かう街道にカイザーベアが現れ、クルーゼ隊が対処していたのですが、力及ばず全滅」
「カイザーベア!? こんな街道にまで……。
クルーゼ達が……クソっ! もっと速く駆けつけられていれば!
姫様その様な状況でよくぞご無事で」
「わたくしも死を覚悟しました。そのときにこちらのタクトさんが、助けてくださり、物凄い魔法を放ちカイザーベアを倒してくれたのです」
「なっ……一人でカイザーベアを……」
レスターが信じられないと驚いている。
まぁそうだよな。
上級魔物には30人程で互角に戦うことが出来るようだし、一人で倒したなんて、俺でも信じられないよ。
ユーリから、自分がたくさんの魔力を持っていること、魔王の称号を持っていることを聞かされて、尚且つ自分で倒したから信じられるけど。
それ以外なら目の前で倒す所を見ないとまず信じられないだろう。
「お前が一人で倒しただと? カイザーベアを? 姫様の言うことを疑いたくないが、邪神の幹部達は姿形を偽ることが出来ると聞く。お前が本当に邪神の手先ではないとこの場では判断出来ん」
「タクトさんは邪神の手先ではありません! 自分の身を危険にさらしながら、わたくしを護りカイザーベアと戦い倒してくれたのです! そんな命の恩人を疑う事は許しません!」
アルフィンがレスターに俺の事を説明する。
疑われるのは仕方ないと思うが、どうしたら信じてもらえるだろうか。少なくとも敵ではないと信じてもらいたいが。
「ですが、姫様。今この世界が劣勢の状況で疑わしい可能性は放置できません。我々は陛下、姫様の命を御守りするのが使命。
城に戻れば真実の鏡があります。
そこで真実が分かりましょう。それまで、その者から姫様を御守りさせて頂く。姫様ご理解くださりますよう」
真実の鏡? 写した人の真実の姿が分かるとか?
「仕方ありません。早く城に戻りましょう」
そうして、トランスヴァール皇国の城に向けて動き出した。
お読みいただきありがとうございます(^ω^)