3話 魔王
よろしくお願いします!
力が欲しいと。
護る為の、力が欲しいと願った。
その時、ズキリと頭に痛みが走る。
その痛みと同時に、俺の脳内には聞いたことがない声が響いていた。
【おい】
(え?)
【おい。お前、俺の声が聞こえているよな?】
謎の声が俺に語りかけてくる。
(なんだ? どこから聞こえてるんだ?)
【お前の頭に語りかけてんだよ】
(俺の頭に?)
【そうだ。ちなみに、お前にしか声は聞こえていない。後ろの姫様にも聞こえてないから安心しな】
(そんな心配は、どうでもいいんだけど)
【まぁいい。そのまま聞け。
状況はかなりヤバイ。カイザーベアなんざ、本来こんな所に出る魔物じゃない。
この裏には、黒幕がいそうだが……まぁ今はいい。
魔法もまともに使えないお前じゃまず相手にならない。このままだとお前も、そこの姫さんも殺されるだろう】
(そんなこと分かってるよ。身体能力強化してもらっても俺にはどうにもならなかったんだ。
こんな魔物が相手では魔法でも使えないと、それもあの巨体をぶっ飛ばせるぐらい強力な)
【力が欲しいか?】
(え?)
【だから、力が欲しいかって聞いてんだよ。お前が望むなら、その強力な魔法の使い方を教えてやってもいい】
(本当か?)
【ああ。お前には邪神を倒す目的があるのは知っている。俺も邪神の野郎には用があってな。その為にはお前に死んでもらっては困るんだ。だから、力を貸してやる】
(目的は一緒ってわけか。でもどうすればいい?)
【まずは、魔法の感覚を掴んでもらう所からだな。体は一旦俺に預けて、お前は見ていろ。魔法がどんな感じかまずは見せてやるから】
承諾すると目線が変わる。
後ろかろ自分を見ている感じになった。
【思った通りだ。お前は、かなりの魔力を持っている。だからコツさえ掴めばすぐ使えるようになるだろう。いいか、魔法てのはな想像力が大事だ。
例えば右手にオーラを集中するイメージだと、右手に魔力が集まる。こうやるとな】
すると、自分の右手に魔力が集まるのを感じた。
じんわりと、温かい。
【イメージは掴めたか? 次はお前がやってみろ。左手に集めるイメージだ】
視点が切り替わる。
今度は自分で左手にオーラが集まるイメージをする。
右手と同じように、左手にも熱がこもった。
(出来た。これでいいんだよな?)
【お。やるな】
何となく分かってきたぞ。
思っていたより、難しくないかも。
(なるほど右手にイメージしたら右手に、左手にイメージしたら左手に、身体全体にとイメージしたら身体全体に魔力を纏わせることができるんだな)
【そう言うことだ。魔法は想像力が強ければ強い程に威力が増すんだ。まぁ……先ずはあのデカ物をぶっ飛ばしてみるか。
お前、前世ではゲームをやっていただろう。
とりあえずあの世界の魔法をイメージしてぶっぱなしてみな】
ゲームは好きだったからイメージはしやすい。
けど。
(何でゲームを知ってるんだ? この世界には、そんなもの無いよな?)
【まぁ……追々話してやる。まずは魔物退治が先だ】
それもそうか。
謎の声の通りに、右手をカイザーベアに向け魔力を練った。
そのままゲームの魔法をイメージしながら放出する。
ガカァン!!
(うわぁぁっ!)
想像していたより、音と反動が強い。
右手から放たれた魔力は、黒い雷となって、魔物に向かっていく。
俺の初めての魔法は、見事にカイザーベアに直撃すると、その巨体を吹き飛ばした。
どれだけダメージを与えられたか気になり、ステータスを確認する。
カイザーベアのHPは、今の一撃で3割程削れていた。
凄い威力だ……。
(……初めて魔法使ったけど、魔法てこんなに凄いもんなのか……)
【今の魔法は中の上ぐらいだな。まぁ、初めてにしては上出来だろう。慣れれば、威力もランクが高い魔法が使えるようになる。よし次だ。今度は体全体に魔力を纏わせろ】
(こんな感じかな?)
先程でコツを掴んだのか、すんなりと体全体に魔力を纏うことが出来た。
【覚えが早いな。お前はセンスがいいから教える側としては楽できていい。
次はその状態で手に持っているロングソードに魔力を纏わせて攻撃してみろ。イメージはさっきまでのと同じだ】
ロングソードに、魔力を移動、と。
イメージそのまま、ロングソードを魔力が包む。
そのまま、魔力を纏わせた状態でカイザーベアに走り出す。
ドオンッ!!
(うわっ! なんだ先程とはスピードが段違いだ)
さっきまでと比べられない速度。
体は軽くて、まるで背中からジェット噴射しているみたいだ。
「うおおおおーー!!」
その速度のまま、カイザーベアを斬りつける!
ザシュッ!
「グオオオオオオオオっ」
カイザーベアは一瞬で接近した俺に反応が出来ない。
無防備な右腕にロングソードを振り下ろす。
まるでバターを斬るかの様に、簡単に切り飛ばした。
(同じ武器なのに……こんなにも変わるものなのか……)
改めて魔法の凄さに気付く。
続いて左腕も切り落とす。
「グオオオオオオアアアっ!!」
両腕を切り落とされたカイザーベアが、咆哮を上げた。
よし、効いてるぞ。
【どうだ魔法の凄さが分かったか?】
(ああ。魔法があれば、こんな化物でも負けない)
【後でじっくり教えてやるが、魔法使いには色々種類がある。
お前がさっき使った雷系や炎、氷等様々な属性魔法を極めて主に後方から魔法を放つ砲台タイプ。
剣術や格闘技も鍛えて、接近戦も魔法も放つ魔法剣士タイプ。
高い身体能力も要求されるから、難易度は高いがお前は身体能力も魔力もハイレベルだから魔法剣士タイプを極めろ】
魔法使いもタイプが様々あるんだな。
魔法剣士か。
接近戦も遠距離戦も色々出来るのは、この世界では有利だよな。
【さて。こんなところか。そろそろとどめをさしてやるか】
ステータス表示でカイザーベアの状態を確認する。
HPは残り僅かまで削られていた。
あと一撃魔法を放てば勝てそうだ。
【最後は授業の仕上げに俺が魔法を見せてやる。また体を借りるぞ】
体を一時的に預けた。
魔力を纏うのを感じる。
さっき自分でやった状態よりも、濃密で強力な魔力だと分かった。
そういえば、ステータス表示を解除していないのに気付く。
試しに現在の状態を確認してみた。
(え?)
ユーリ・ライゼ・トランスヴァール
大魔王
レベル99
スキル 特大魔力操作、近接戦闘、ステータス表示、封印魔法、ほぼ全ての魔法行使
トランスヴァール? 魔王?? レベル99!?
一度にたくさんの情報が分かり、混乱しそうになる。
【よし派手なのをいくぜ!】
声の主の名前がユーリというのは、分かった。
そのユーリの声が聴こえ、俺は混乱しそうなのを堪えて、戦闘に集中した。
一秒、二秒と経つごとに強力な魔力が収束していく。
魔力が増大していくのと同時に、大気がビリビリと揺れ始めた。
雲は高速で流れ始め、周りの木々は大きくしなり、草は激しく揺らいでいる。
【ハアアアアアアア! ヘルエクスプロージョン!!】
ドガァァァァァァァァァァァァっっ!!
俺が放った魔法の何十倍。
それだけの魔力の塊が解き放たれた。
その魔力の奔流は、カイザーベアの周囲で大爆発を引き起こす。
立っていられない程の突風が巻き起こり、吹き飛ばされそうになる。
「きゃああああ!」
後ろでアルフィン王女が悲鳴をあげる。
王女は、何とか吹き飛ばされないように木にしがみついていた。
何秒だろうか。
いいだけ周囲を破壊しつくした爆発は、次第に収まっていく。
前が見えない程の土煙がようやく消え失せると、カイザーベアが立っていた所が見えるようになった。
そこには、何もなかった。
カイザーベアの肉片すら残っていなかった。
(なんて魔法だ……)
【ま、こんなもんだな。お前も魔法を極めればこれぐらい直ぐに出来るようになるさ】
(……本当に?)
ユーリが使った魔法は、RPGだと最後に覚える最強クラスの魔法だったと思う。
あれが俺にも使える様になるのは、どれだけ先になるのか。
だけど。
とりあえず、危機を乗り越えられて良かった。
危ない所だった。
俺一人では勝つことは出来なかっただろう。
ユーリが魔法を教えてくれたからだ。
まずは命の危機を脱したので、聞きたかった事を聞いてみた。
(ありがとう。何とかなったよ。そういえば結局俺に魔法教えてくれたあんたは何者なんだ? 何故俺の頭に直接語りかけてきたんだ?)
【俺か? ……俺はトランスヴァール皇国初代国王。
ユーリ・ライゼ・トランスヴァールの魂だ。
今お前の心臓には俺の魂がある状態だ。何故こうなったかっていうと……女神が俺とお前を繋げたからだ。何故魂だけかは、邪神の野郎が関わっている。だから奴に用があるんだ】
この国の初代国王?
その魂?
女神が、ユーリと出会わせた?
また一気に情報が増えて頭がパンクしそうになる。
(初代国王なのも驚きだけど、何で魂が存在してるんだ? 何で俺にだけ声が聞こえるんだ?)
【この世界では、誰しも称号を持って生まれてくる。
この世界では、最強の魔法使いには魔王の称号が与えられるんだ。
俺は初代国王だったが同時に最強の魔法使いでもあった。
だから魔王とも呼ばれていた。俺の後に魔王の称号が与えられることはなかった様だが。それとさっきの質問だが……】
ユーリが一旦言葉を止め、また語り出した。
【お前は魔王の称号を持っている。
まだ、駆け出し魔王というところだが。
もちろん魔王だからといって、今すぐ最強になれる訳ではない。魔法の修行は必要だ。
だが、魔王の素質を持って生まれてくるのは今までいなかった。そんな素質を持っているから女神が俺とお前を繋げたんだろうな】
俺が魔王の素質を?
女神はそんなギフトをくれていたのか……。
そして、カイザーベアを倒した事でまたレベルが上がった。
タクト
駆け出し魔王
レベル26
スキル 魔力操作、近接戦闘、ステータス表示、経験値ブースト
魔王の称号が表示される様になった。
色々な事が起きて、分からないことだらけだけど何とかなって良かった……。
お読みいただきありがとうございます\(^o^)/




