16話 クリスタ王国
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トランスヴァールから2日程かけて、俺たちはクリスタ王国に到着した。
クリスタは街道から見た感じとしては、大きさはトランスヴァールの半分程。
多重に張られた結界や頑強な壁があった少し物々しい雰囲気のトランスヴァールと違い、ここはそこまでの印象を受けない。
街の中央から端々にまで伸びる川や緑も見えたからか。
第一印象としては、俺は結構この街の造りは好きかもしれない。
街の入口となる正門には門番が二人立っている。
そこから中に入ろうと近付く俺達に、話し掛けてきた。
「ここはクリスタ王国である。街に入るには許可証が必要となる。提示願いたい」
許可証は、アルフィンが持っていたな。
「タクトさん。ここは、わたくしにお任かせください。クリスタには何度も来ておりますので」
俺が確認する前に、アルフィンは許可証を取り出していた。
「お仕事お疲れ様です」
ふんわりとした微笑みを浮かべ、前に進み出るアルフィン。
「これはアルフィン王女。今日はどのような御用件で?」
「今日はシーゲル陛下に謁見させて頂きたいのと、港から客船を利用させて頂きたくて。陛下はおいででしょうか? あとこちらでよろしかったですか?」
アルフィンが通行証を取り出し、門番に渡した。
「これはユルゲン陛下の紋章。確かに確認致しました。陛下にお伝えして参りますのでお待ちください」
門番の一人が敬礼した後、確認をしに行ってくれた。
15分程して帰ってくる。
「お待たせして申し訳ありません。陛下からそのままお通しせよとご通達がありました。いま、門を開場しますので少々お待ちください」
門番の人が扉の紋章に右手を近づけ、魔力をかざした。
数秒して、開門された。
「お待たせ致しました。どうぞお入りください」
「ありがとうございます。それでは参りましょう」
門をくぐり街に入る。
まず視界に入ったのが、至るところでゴンドラ乗りが乗客を乗せ、川を移動している光景だった。
綺麗な透明度からなる、川には大小様々な魚が泳いでいる。
街中には小島がいくつもあり、本土と島の間には運河があってアーチ状の石橋がかけられている。
クリスタに向かう道中にアルフィンから街の特徴を聞いておいた。
クリスタは沿岸都市と呼ばれ、水産業と貿易に力を入れている。
何隻もの船を停めておく巨大な港を要し、獲れる魚介類は鮮度抜群でとても美味との事だ。
程よく、緑色の木々もあり、見事に川、海、緑が調和されている。
街中は、細い石畳の路地が縦横に張り巡らされ海から吹く風が心地いい。両側に軒を並べる石造りの建物からは歴史が伝わってくる。
クリスタは、国としてはそこまで大きくはないが、世界で一番綺麗な国として賑わっていた。
「街の外からも見えた通り、綺麗な所だ」
「そうですね。自然も豊かですし、とても美しい所です」
シズクが、街をキョロキョロと見て感嘆の声を出す。
「まずは、シーゲル陛下に会いに行くんだったか。アルフィンは、俺がこっちの世界に来た時、クリスタに向かってたんだっけ?」
「はい。御父様のお使いとしてクリスタでシーゲル陛下にお会いする予定でした。カイザーベアに襲われてしまい状況が変わってしまいましたが。今日は、シーゲル陛下にタクトさんを紹介させて頂きます」
「今は各国の連携を深める必要もあるしね」
「はい。その意味合いもあります」
「それなら、城に……シズクどうした?」
シズクはまだ街をキョロキョロと見渡していた。
「あ、すいません。私は教会から出たことがほとんどなく、トランスヴァールの周辺しか見たことがなかったもので物珍しくて」
シズクはリアンヌさんの付き騎士として教会からもほとんど出たことないと言っていた。
「シズクがそうなってしまうのも、分かります。マギア・フロンティアでもここまで美しい街はないですからね。獲れる魚は美味しく、貿易も盛んなので色々と物資も手に入りますし、観光としても人気がある所ですから」
確かに街の至るところから芳ばしい香りがするな。
綺麗な空気と一緒に、流れてくる。
ぐぅ~
誰かのお腹の音が鳴った。
俺じゃないよ。
音が鳴った方向を向くと、シズクが真っ赤な顔をしてお腹を押さえていた。
「っ!うぅっ」
本当に恥ずかしそうだ。
「シズク。わたくしもお腹が減りましたから別に恥ずかしいことではありませんよ。女の子だってお腹の音は鳴ります」
アルフィンがフォローしているが、まだシズクは顔が真っ赤だ。
女の子としては、やっぱりこういうのは恥ずかしいものなのか。男は気にもしないが。
そういえば、俺も腹が減った。
「もう昼を過ぎてる時間だし、少しお腹が減ったね。陛下を待たせない程度に軽く食べよう」
「そうですね。少しなら問題ないでしょう。露店へ行ってみましょうか」
「そ、そうですね」
道の端に並ぶ露店で、海産物を焼いた物を買って食べる。
「お、美味い。やっぱ鮮度は大事だよな」
「はい。美味しいですね。わたくしは、クリスタに来るときはいつもこの海産物が楽しみで」
「私はここまでの物は食べたことないです。少しビックリしました」
この世界に来てから感じたのは、食べ物が前世よりも美味しい事。
こういう材料一つ一つにも魔力が含まれているからかな。
程ほどに腹が膨れた俺達は、クリスタ城に向かった。
城門にいる門番に近づき、アルフィンの名前を出す。
「これは、アルフィン王女。ようこそお越しくださいました」
「お勤めご苦労様です」
「シーゲル陛下が貴賓室でお待ちです。ご案内致します」
「よろしくお願いします」
城の中は豪勢さでは、トランスヴァールに負けるが芸術を取り入れた構造と美しさでは勝っていた。
案内に従い、貴賓室の前まで来ると門番がノックして俺達が到着したことを伝え中に入る。
部屋の中には、40代ぐらいの男性がいた。
服装は一国の王が来ていそうな立派な物だが、着崩れしており印象としては、国王というより気前のいい親分という感じをうける。
そして、この人強いな。
立ち居振舞いから強者のオーラが感じられる。
ステータスオープン
シーゲル・フォン・クリスタ
クリスタ王国六代目国王
レベル36
スキル 近接戦闘(中)、中級魔法、戦術上昇
上級魔物と互角ぐらいか。
「これはアルフィン王女。よく来てくれた」
「陛下におかれましては、ご健勝のこととお慶び申し上げます」
「いい、いい。俺は堅いのは嫌いだ。王女も知っているだろう?
いつも通りに頼む」
陛下がやめろやめろと手で伝える。
「そうでしたね。それではいつも通りに」
アルフィンがニコッと笑いながら言葉を崩した。
なるほど。堅い人じゃないのは話しやすくていいな。
どことなくユーリに似ている。
「それじゃあ先ずは座ってくれ。今お茶を用意させる」
シーゲル陛下が扉の外にいた執事を呼び、お茶をもってくる様に言った。
席に座ると、お茶が用意される。
一口飲むうまい。
「それで? 今日はどうしたんだ?」
「はい。先ずはこちらの書状をお読みください」
アルフィンの手からユルゲン陛下の書状が手渡される。
シーゲル陛下が書状の紋章に魔力を集めると、ホログラムみたいに空中に文字が浮かび出されていく。
次々と浮き出されていく文字を見ながら、シーゲル陛下は時に驚き、時に感心し、時に納得していた。
時折、俺へと視線を移動しながら読み進めていく。
最後まで読み終わったのだろうか、陛下は一つ息を吐いた。
「そうか……。遂に時は来たと言うことか」
気持ちの整理をしていたのか、書状を読み終わると数十秒程目を閉じ考える仕草をした。
それが終わると俺へと向き直る。
「お前が魔王なんだな?」
「はい。魔王の称号を持っています。タクトといいます」
「そうか。どうだ? この危機を何とか出来そうか?」
言葉は軽いが、眼が真剣だ。濁りのない眼で見つめてくる。
俺の真意を確かめるかのように。
それなら俺も真剣に答えよう。
「魔王の称号を持っていますが、俺はまだまだ弱いです。
今の俺では、アルフィンを、このマギア・フロンティアをハーディーンから護り抜くことはできない。
ですが俺はこれから強くなります。必ずやり遂げてみせます」
今の俺に出来る最高の気持ちを込めて言い切った。
シーゲル陛下は何秒か俺の眼をみたあと、一つ頷き、言った。
「よし。分かった。クリスタは全力で魔王殿を支援させてもらう」
気持ちは伝わったようだ。
「ありがとうございます」
「タクトさん良かったですね」
俺達のやり取りを静かに観ていたアルフィンが微笑む。
元々シーゲル陛下の人柄を知っている為、協力してもらえないという心配はしていなかったが、先程の真剣なやり取りを観てそれでも心配だったのだろう。
そんな顔をしている。
そして、そんな俺達の光景をシーゲル陛下がおもしろい物を見つけた顔をしていたのが気になるが。
「それで、客船を使いたいと聞いていたが、どういうルートで旅をするんだ?」
「中央大陸に行こうと思います。あそこには石碑があると聞いているので。その確認と、俺達の成長の為に」
シーゲル陛下が頷いた。
「分かった。こちらからは船一隻と運航するスタッフを用意しよう。中央大陸まで船を出してやるから明日出発しろ。それから今日は部屋を用意させるから泊まっていけ。アルフィンと一緒の部屋でいいよな?」
「なっ! もう! 陛下!」
アルフィンが何を想像したのか顔を真っ赤にして文句を言う。
文句を言われた人を見ると、陛下がニヤニヤとしていた。
これは、からかわれているな。
ユーモアもある人みたいだ。
「お心遣いありがとうございます。せっかくですが俺とアルフィン達は別にお願いします」
一緒の部屋で寝るのは、まだ早い。
もっとお互いの気持ちを通じ合わせて、焦らず進めていきたい。
「なんだ。つまらんな。分かった分かった。アルフィンも落ち着け」
「もう! もう!」
顔を真っ赤にして照れているアルフィンは可愛いなぁ。
「冗談はともかく。後で飯を一緒に食べよう料理人に腕を奮わせる。美味い酒も用意しよう」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「それでは部屋に案内させる。また後で会おう」
執事の人にそれぞれ部屋へと案内してもらう。
会食までまだ時間があるため、先に風呂をいただき部屋で寛ぐ事にした。
あてがわれた広くてやたら高そうな内装の部屋。
設置されていた椅子に座る。
俺は旅に出発する際、クリスタに来たら試したい事があった。
それは収納魔法の検証と、作成だ。
収納魔法はこれから旅を続けて行く内に、荷物が増えることから必要になるだろう。
漫画やアニメ等で良くある異空間に物を仕舞えるやつだ。
収納魔法と言っても、色々と姿形は違うし効果はバラバラだ。指輪型の魔導具もあれば、袋にしまう等作品によって違う。
試しに目の前に、一つの空間を作成するイメージをして魔法を使ってみる。
分かりやすいように青色をイメージして魔力を籠めると、何もないところに青色の一メートル程の円い空間が出来た。
この中に部屋にあったペンを入れてみる。
その後空間を閉じてまた同様に青色の空間を作る。
これでペンがあれば収納魔法は完成だ。
空間に手を突っ込むと、先程のペンがあった。
取り出してみると保存状態も問題ない。成功だな。
中を覗いた感じでは空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと思う。
これで、色々と収納できるから便利になった。
検証と作成に時間が経ったみたいで気づけば会食の時間になる所だった。
食堂へと移動する。
中には、アルフィンとシズクが既に来ていた。
メイドさんにアルフィンの隣に案内され、そこの席に座った。
俺が座ると、メイドさんがシーゲル陛下を呼びに行く。
程なくして陛下が来た。
これで全員が揃った。
席順として、上座にシーゲル陛下、その隣にアルフィン、俺、シズク、と座る。
今日は正式的なものではないので他の人はいないみたいだ。
堅苦しいのが嫌いな陛下らしく、お堅い挨拶も無しに諸々に好きに食べている。
「魔王殿、こちらの世界に転生したと言ったな。前の世界の事とか話してくれ」
陛下と酒を飲みながら前世の話やこの世界の話し、陛下がアルフィンとシズクをからかう等、盛り上がった会食は楽しかった。
初見で受けた印象通りに、シーゲル陛下はユーリに良く似ている。
会食中にアルフィンが教えてくれた。
「クリスタ王国はユーリ陛下の弟君が建国されました。シーゲル陛下にもトランスヴァールの血が流れています」
と、若干疲れた顔で説明してくれた。会食中もたくさんからかわれていたからな。
程よく酔っ払った後、会食は終了。
時間もだいぶ遅くなったので各々眠る時間になった。
明日は中央大陸へと出航する。
二個目の石碑の確認と、俺とアルフィン、シズクの大幅なレベル上げをしたい。
強くならないとな。
お読みいただきありがとうございます∩( ´∀`)∩




