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144話 悪意の集合体

いつもありがとうございます!

 



 全世界の人間の悪意が合わさった集合体との戦いが始まった。

 この気持ち悪い化物のステータスを確認をしたが、全ての能力において規格外を示している。


 数えきれない程の悪意。

 俺は世界の総数も、どれだけの人間達がいるのかも知らない。

 だけど例え一人一人の悪意は大した事がなくても、たくさんの悪意が集まり合わさるとそれは化物に変わる。


 その力の全容が見えなくても前に立つだけで、危険な相手だというのがビンビンと伝わってくる。

 捉え所がなく、どこが急所なのかも分からない。


 だから初手は、安全策を取ることにした。



「くらえ! はあぁぁぁ!」



「消え失せよ! おおおおお!」



 アレースローンと二人で連続で魔法を撃ち込んでみる。

 初見の相手だからどんな能力を持つのか分からなかったから、近づくのは危険だと判断して。


 その判断は正しかった。

 魔法が着弾する瞬間。

 化物の体が光ったと思うと、魔法は綺麗さっぱり()()()()()



「……溶けた? 魔法が……」



「フム……。確かに溶けたな。こやつ面倒な能力を持っている。近づくのは危険な相手ということか」



 この化物に触ると溶けてしまうなら、俺達の体も危ない。

 接近戦は駄目だな。



「次も魔法を撃ってみる。ちょっと考えがあるから合わせてくれ」



 アレースローンと簡単な打ち合わせをしてもう一度仕掛けた。



「いくぞ今度はそこだ!」



「消えろ! 化物め!」



 今度は側面、背後、真上、真下からと全方向から同時に撃ってみる。

 さっきは真正面に魔法を放つとその着弾箇所が光り、溶かされた。

 真正面からは防げても、もしかしたら弱点ポイントがあるんじゃないかとの見極めも兼ねて。



 結果は。



「よし。狙い通りか」



 何発かは溶かされたけど、側面や背後の分はそのまま当たった。


 死角の部分は対応が遅れるのかもしれない。

 有効箇所の確認をした後。

 すかさずダメージの度合いを観察する。



「……不死身ではないな。魔法が入った箇所は削られている。このまま魔法を撃っていけば、大した驚異にはなら――――なっ!」



 得たいの知れない化物の分析をしていると。

 魔法を撃たれた事で怒ったのか。

 ウネウネと数えきれない触手を伸ばして叩きつけてきた。



「速い!」



「それにこの数……厄介な!」



 高速で伸びてくる無数の触手を飛んでは避けて、走っては避けて、起動を見極めて避けた。

 速度もだけど、その数もまた厄介だった。


 そして、更にやりずらいのが。



「やはりか……こやつの触手。本体同様に触れた物を溶かすぞ。気をつけよ」



「本体と同じか厄介だな。これに触れないようにして倒さないといけないのか」



 この触手は何でも溶かすらしい。

 空間にある魔素ごとジュウジュウッと音が鳴りながら溶かされていくのが見える。

 触手が叩きつけられた地面もボコボコと幾つもの穴が出来ていた。

 その穴はここからでは底が確認出来ない程に深い。



「……化物らしい能力だ。それにまだ何かありそうだぞ」



「ああ。お前や四天王達、魔物とは散々戦ってきたけどコイツはまた感覚が違う。そして強さも異質だ」



 どうするか。

 もう少し距離が離れた所から、撃ちまくってみるか。


 触手に触れないように、二人でバカスカ魔法を連射しまくった。数えきれない魔力の弾道は、容赦なく化物の体に当たる。

 ゴリゴリとその体を削り落としどんどんとその化物の体は、小さくなっていく。


 ひっきりなしに飛ばされる触手の速度にも慣れ避けながらひたすら撃ちまくる。

 撃って撃って撃ちまくった。


 拍子抜けなぐらいに、俺達の思惑通りに、無傷で一方的に有利に戦いを進められた。



「どうだ? かなりのダメージを負わせられたと思うけど」



「うむ。体躯もだいぶ小さくなった。もう少しというところか」



 最初と比べるとその大きさは半分以下にまでなった。

 それでも四メートルはあるが、厄介な無数にある触手も千切れている。



 このまま押し込めば、倒すのも時間の問題。

 と、気を抜いた瞬間をコイツは待っていた。



「ギョエエエエエエエエエエエエエあああェェェェェェェェェーー!!」



 突然におぞましい程の叫び声をあげる。

 今まで聞いたことがない程に含みがあるその声は悪寒となって体を突き抜ける。


 集合した莫大な殺意がこの化物から発せられ、ドロドロとした泥の塊の様なものがこの化物を覆った。

 その泥の効果だろうか小さくなった体を肥大させる。

 大きくなった体の表面から人間の顔のようなものが、ニョキニョキと浮き出してくると、それは一斉に悲鳴をあげ始めた。



「ぎいぃいぃうぃぁおぃやぃああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」



 耳をつんざくような苦しみと痛みをこもらせた悲鳴は、聞くものを震え上がらせる。



「何という……殺意。……ウプゥッ…………おえぇっ……」



 アレースローンがこの殺意と苦しみを混ぜ合わせた悲鳴にあてられ吐いた。

 直接人間の怨念と苦しみとも取れる塊を向けられれば、正気でいるのは難しい。

 まして、アレースローンは遥か昔からこれに触れて見てきた。

 その分俺よりも過敏に体が反応してしまうのだろう。


 正直俺もさっきから鳥肌が立ちっぱなしになっている。

 今までの人生でこんな不快な気持ちになったことはない。



「私が云うのもなんだが……ここまでの憎しみと怨みと殺意とは。その濃度は邪神を越えている。ここまでの物が集まると人間が恐ろしく感じる」



「大丈夫か? これに負けてまた邪神になったりしないでくれよ? 俺はもうお前と戦うのは勘弁だぞ?」



 青ざめた顔で口許を拭うアレースローンに冗談めかして言った。

 軽口を交わせば少しでも気持ちが和らぐように。



「もう、戻ることはない。私はまたターニアに泣かれるのは勘弁だ」



 まだ若干辛そうだけど笑みを浮かべて応えてくれた。



「だが……どうするのだ? こやつはおそらく能力が強化されたぞ」



「何処がどう変わったのか見極めないとな。戦いが長引くのは嫌だ。神級魔法で一気に吹っ飛ばしてみる。はあぁぁぁ!!」



 高密度魔力を練り上げ、化物に向かって解き放った。



「ファイナルアルティメット・マジック!!」



 ここは広範囲魔法を選んだ。

 しっかりと範囲内に化物が収まっている。


 しかし。

 魔法を解き放った瞬間。

 化物にも動きがあった。

 体をブヨブヨと震わせると、魔法をその泥で包んで無効化させた。



「なんだこやつ……魔法を吸収した……のか?」



「あの泥だ。あれが俺の魔法を。クソッ神級魔法を無効化出来るなんて卑怯だぞ」



 魔法を防がれた事に文句を言っていると、泥の中から魔力の奔流が飛び出してくる。



「あれは、俺の。マジか!」



 そう。

 化物は俺の撃った神級魔法を打ち返してきた。

 焦りながら魔法を何とか避ける。



「……今のは危なかったぞ。危うくのみこまれる所だった」



「ああ……。自分の魔法でやられるとか冗談じゃない。しかし、今の感じだと魔法は使えない。流石にあれを返されるのは嫌だ」



「と、なると。無理にでも接近して、あの何処かにある核を見つけ壊さねばならぬか」



「そうなるよなやっぱり。だけど、あれに近づきたくないな……」



 泥を纏ってからウネウネと動く触手はその数を増している。

 触れた対象を溶かせるのは変わらないだろうし。

 接近戦はリスクが高すぎる。



「だが……やるしかあるまい。私があの化物の動きを止める。その間にそなたはあれの核を見つけるのだ」



「あの触手をお前だけで? 危険だ」



「忘れたか? 私は不死身の能力を持っている。そなたとの戦いで魔力はかなり減ってはいるが、復活することは出来る。甦るまで時間はかかってしまうがな」



「……分かった。今は手段を選んでられない。外もどんどんとヤバい状況になってるし……」



 外のアルフィン達の様子を見ると、どんどんと被害が拡大していた。

 せっかく避難が順調にいっているのに、急がないと本当にマギア・フロンティアが崩壊してしまう。



「ならば決まりだ。動きを止めたら合図を出す」



「ああ。頼む」



 俺の数歩先に立って化物を見据えると、アレースローンは言った。



「まさか私がまた人間の悪意と戦うことになるとは。少し前であれば、とても信じられなかった。だが、私はもうターニアの想いを無下にするつもりはない。見ていてくれターニアよ」



 アレースローンが()()の魔力で出来た鎧を構成する。邪神の時の魔力色は黒だった。

 本当の意味で戻れたんだな。



 その鎧の上から更にあの曼荼羅のシールドを展開して、化物に突っ込んだ。


 化物はアレースローンを迎撃しようと無数の触手を伸ばす。

 その触手に当たりあの絶対的なシールドに穴が開く。


 あれだけ頑丈なシールドすら溶かすのか。

 それでもお構いなしと、化物の前で魔力の檻を造り、それで囲いこんで巨体の動きを止めた。


 目の前で留まるアレースローンに化物は触手を巻き付ける。

 そのシールドと鎧は「ガリガリッ」と削られ、その体まで傷つけられる。



「……ぐおおっ……今だ! タクトよ!」



 合図が来た。

 せっかく体を張ってチャンスを造ってくれたんだ。

 俺も頑張らないとな!



 アレースローンの拘束から逃れた触手をかわしながら、化物に近づき(コア)を探す。



「何処だ……何処にある」



 両目に魔力を集め化物の内部を探ると、体内の中心に悪意の泥で何重にも固められた(コア)を見つけた。



「見つけた!」



「よし!」



「皆。また力を借りるぞ」



 アルフィン達の顔を思い浮かべ、その想いを魔力に変換する。

 この化物に普通に突っ込めば俺の体など溶かされるだろう。

 だが、アルフィン達に貰ったこの黄金色の魔力で全身にバリアを展開すれば。



 黄金色の魔力を纏いそのまま頭から中に突っ込んだ。

 それでも抵抗しようと、少しずつだが溶かそうとしてきた。



「この魔力でも溶かそうとするのか……」



 少しずつバリアが溶かされていく恐怖と戦いながら、奥に進み(コア)の前までたどり着く。



「この場所なら魔法は防げないだろう。もう二度と現れないように、完全に壊してやる」



 右手に黄金色の魔力を溜めて解き放った。



「思いやりの力」



 マギア・フロンティア最強の魔法で(コア)を木っ端微塵に破壊した。



 (コア)を破壊された化物は、その体を維持できなくなると、ドッパアアアアンッと体が飛び散り完全に消えさった。



「……やったな……見事……。やはりそなたには敵わぬな……」



 体の左半分を溶かされたグロテスクな状態のアレースローンが、労いの言葉をかけてくれた。



「いや。お前が体を張ってくれたお陰だ。ありがとう」



 死ぬかもしれないとの恐怖感から二人して地面に座り込む。

 アレースローンは死ぬことはなくても、俺は正直内心ドキドキだった。

 はぁ……怖かった。


 でも。

 とりあえずは脅威を何とか出来た。

 後は、女神の作業が終われば。

 この危機はマギア・フロンティアの崩壊は阻止できる。


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