136話 大切な者の為に
「ならば、その心をへし折るまでだ!」
「俺は絶対諦めない!うおおおぉぉぉぉ!」
普通に攻撃した所でハーディーンには通用しない事は分かっている。
少しでも速く、効率的に死角を突いて攻撃するんだ。
一撃ごとに全神経を集中するつもりでやらないと、コイツには届かない。
俺が今出来る最高の動き出しからの攻撃をしかける。
「そなたの考えなど、読んでおるわ!」
言葉通りに俺の動く先には、拳を構え待ち構えるハーディーンがいた。
死角を突き、背後から現れた俺はカウンターよろしく盛大に殴り飛ばされた。
「ぐふぅああっ」
追撃として更に脚技から旋風を飛ばされる。
相変わらずその一撃一撃は鋭く重い。
しかも只の攻撃ではなく、魔力も装填されている。
必死にガードに撤するが、ゴリゴリと魔力を削られていくのを感じる。
このまま受け続けると魔力切れを起こして、何も出来なくなってしまう。
何とか反撃をしたいけど俺からの攻撃は読まれて、通用しない。
俺はハーディーンの攻撃を防ぐことが出来ない。
八方塞がりだ……。
何分、何十分か分からないけどそのまま一方的にボコられた。
いいだけ攻撃され、体のあちこちの骨は折られ全身は血だらけになっている。
サンドバッグのように殴られ続けてもう体は、限界を迎えていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
立つことも出来ずに大の字に倒れた。
息をする度、折れた箇所が痛む。
殴られ蹴られた箇所は、どす黒く変色している。
ローブは血に染まり、ボロボロになっていた。
「ここまでの様だな。所詮そなたも、口だけだったか」
倒れた俺を見てハーディーンが何か呟くのが聞こえた。
唯一動く首だけを向けると、ザッザッザッとゆっくりと歩き近づいてくる。
まだか……。
まだなのか。仕掛けが作用するのは。
ハーディーンの様子を見ても変化はない。
クソッ!
万策尽きた。
俺はここまでなのか……。
せっかくユーリに助けてもらって、女神に力を強化してもらって。
修行も頑張ったのに。
ようやくアルフィンとシズクと気持ちを伝えあって、これからだっていうのに。
俺の戦いはこんな所で終わるのか?
たくさんの人達の思いを託されてこの場所に来ているのに。
だけど体が動いてくれない。
戦う意思は少しも衰えてないのに力が入らない。
まだ何もハーディーンに人間の事を正しく理解させていないのに。
俺はこんな所で死ぬわけにはいかないのに。
体が動かないんだ。
それがどうしようもなく、悔しくて仕方ない。
俺へと近づいてきていたハーディーンが半分程の距離まで歩いた所で、やっと俺の手札は発動した。
「ぐっ! ……うああああおおおおあ! がはぁっ…………これは。そなたが設置した……時限式魔力……最期まで抵抗しおって忌々しい!」
やっと来た。
今、ハーディーンの体内では俺が少し前に殴った時に仕掛けた魔力が爆発している。
コイツの魔力は半端ないからと、多めに設置したが。
このフルパワーのコイツにどこまで効果があるか。
これで、もし。
もしハーディーンが無事なら……俺は殺される。
どうだ……。
ちゃんと効いてくれよ。
「ぐおおおぉぉっ! あがぁっ! ……はぁ……はぁ……小癪な……真似を……もう許さぬ!」
駄目か……。
ハーディーンは確かにかなりのダメージを負った筈だ。
体は傷つき魔力も減っているが、俺を殺す分には問題ないだろう。
その足で俺へと向かって歩き出した。
駄目だったか……。
首を元の位置に戻し天井を見上げる。
皆ごめん……俺の力じゃハーディーンには勝てない。
だけど。
目を閉じ皆の顔を思い浮かべる。
アルフィン。
シズク。
ナエ。
アリサ女王。
アーロンさんや皆。
ユーリ。
「例えお前に勝てなくても……俺は最後まで……死ぬまで抗い続けてやる!」
フラフラになりながらも、足にありったけの力を込めて立ち上がった。
骨折の痛みと出血の量が多いのとで気を失いそうになる。
せめてもの抵抗をと、俺の残り少ない魔力を体全体に纏った。
ハーディーンに対してあまりにも心許ないが、無いよりはましだろう。
例え敵わぬとも、最後にハーディーンに人間は諦めが悪いことを教えてやる。
お前の思い通りになんていかないんだって事を。
意地を見せてやろうと足を踏み出すと。
周りの時が静かに停止した。
ハーディーンが同じ姿勢で止まっている。
周りを漂う魔素もその場に留まっていた。
「なんだ……何が起きてるんだ……周りの物体が動かなくなった。それなのに何で俺は動けるんだ? それに……この……光は……」
金色と黒色と茶色と銀色の光が突如この空間に現れ、俺の前で浮遊する。
試練の滝で俺に力をくれた光みたいに俺の周りをぐるぐると回り出した。
その内ピタッと俺の前で停まると、そこから声が聞こえ始めた。
「声が聞こえる……これはアルフィンとシズクとナエ、アリサ女王のだ」
《タクトさん。無事に帰って来て下さい。わたくしは、あなたと一生を添い遂げたい。あなたとこれから先もずっと一緒にいたい。だから、生きて帰ってきてください!》
アルフィン……こんなにも俺の事を。ありがとう俺も同じ気持ちだよ。
《私は皆さんと共に、タクトさんのご帰還を待っています。私はタクトさんと共に居たい。だから一緒に生きて帰りましょう。タクトさんの勝利を信じています!》
シズクありがとう。必ず帰るから。
《お兄ちゃん。早く悪い人をやっつけて帰ってくるの。たくさん戦ってお腹も空いたから、早く帰って一緒にお子さまランチ食べるの。悪い人になんか負けないで!》
はは。ナエらしいな。ありがとう頑張るよ。
《タクト。ハーディーンになんか負けるんじゃないわよ。さっさと終わらせて二人っきりでバカンスに行くわよ。無事に帰って来たら、わたしの全てをタクトにあげるから必ず勝ちなさい!》
アリサ女王まで。二人っきりは無理だと思いますが、ありがとうございます。帰ったらアリサ女王の事も真剣に考えます。
四人の想いの声は言いたいことを言い終わると、もう一度俺の周りを一週して俺の体に入り溶けるように消えた。
その瞬間。
俺の体は光照らされ、ボロボロだった体の傷は一瞬で癒え、枯渇しそうだった魔力は全快した。
それだけではなく、更に溢れんばかりの力を感じる。
体からは、黄金色の魔力が溢れる。
何だろう……この次から次へと溢れる力は。
今なら更に上の領域の力を扱えるかもしれない。
皆が戦う力を立ち向かう勇気を、必ず勝って帰るとの希望をくれた。
ありがとう。
俺はこれでまた戦えるよ。
こんな場所まで想いの光を届けてくれた皆に感謝していると。
さっきから俺に向けられている視線に気づいた。
そこには。
俺が会った事がない若い女性が立っていた。
その顔は、悲嘆に暮れているように感じる。
「君は……」
声をかけようとすると、その姿は見えなくなった。
続いて停止していた時間が動き出す。
「なんだ……今の現象は……何がおきた。余は……こんなのは知らぬ」
ハーディーンもこの異変に気付き戸惑っている。
俺へと目線を向けると、驚愕の表情を浮かべた。
「……そなた傷が……それに……何だその眩しい魔力は……」
俺が纏う眩い光の魔力を見て数歩後ずさった。
「俺の大切な皆が想いの力を与えてくれた。負けるな。勝てと。必ず帰って来いと力をくれたんだ」
「バカな……ありえない……! この空間に外から干渉するなど。それに想いの力だと? ふざけるな! そんな力などこの世にありはしない!!」
「お前が信じることをやめた力だ。皆と一緒に俺はお前に勝つ! いくぞ! 究極突破ーー!!」
この黄金色の魔力を爆発的に高め、一気に解放した。




