133話 人間の本質
ハーディーンが本当の姿と力を解放してからの戦いは、その圧倒的の力の前に劣勢になりながらも、何とかくらいついていった。
戦いが進むにつれ、トランスヴァールで戦った時に俺に絶望を植え付けた神級魔法を放たれ、それを乗り越え前に進みたくて、俺もあの時と同じ魔法でのぶつかり合いを選んだ。
今回こそは負けられないと、魔力操作で魔法を強化する事で、前回の時にやられた隕石群を全て破壊することに成功する。
壮絶な魔力が込められた二つの神級魔法は、空間に亀裂を入れ、ビシビシッと、崩壊させていく。
ここまでの力の衝突は、周囲に影響を及ぼすようだ。
「いかんな。せっかくこの空間を造り出したというのに。少し場所を変えよう」
ハーディーンが指を『パチン』と鳴らすと、二人は別の場所に転移した。
「ここは……」
周囲に目線を向けて、新しい空間を見渡した。
さっきとは違う場所の様だ。
ここもまた、特別な場所なのか不思議な力で構成されている。
魔力の流れも、重力すらも地上とは明らかに違う。
より一層に闇の濃度は増している。
「ここは少々特別な場所でな。全力を出しても壊れることはないから、遠慮はいらぬぞ。
その代わり、一度入れば勝者しか出れぬという決まりごとはあるがな」
一度入ったら勝者しか出られない空間。
ここから出るにはコイツに勝たないといけない。
ハーディーンがここから出るということは、俺は殺されているということ。
「そなたを殺しここを出た後は、全人類をゆっくりと一つずつ殺していこう。それが、終わればいよいよユグドラシルを破壊……それで余の願いは成就する。その後は他世界も全て破壊し新たに世界を創世する」
「お前は、何でそこまで人間を憎む。何で自分が育てた世界を破壊しようとするんだ。お前だって元々は女神のように人間達を守り導いてきたんだろうが」
「ふむ……まだそのような事を気にかけておったとは、物好きな奴だ。それを知った所で何も変わるわけでもあるまいに。
だが、……ここまで余を楽しませた褒美に少しだけ教えてやっても良い。
そうだな……その前にそなたに問おう。
そなたこの世に愛はあると思うか? 裏切りの無い想いはあると思うか? 人類は変わる事が出来ると思うか?」
ハーディーンから問われたのはさっきの話の続きでもあり、かなり重たい内容だった。
俺は真理なんて分からないし、説得力がある話も出来ないけど、真剣に考え答えた。
「俺はまだそこまで人生を全うしたわけでもないし、人間の本質とかを完全に理解しているわけでもないけど。それでも俺の周りの人達や今まで出会ってきた人達の事なら分かる。
残念だけど、全員が善人だったわけではない。悪人もいた。だけど、その中でも良い人達もたくさんいる。他人を愛し、思いやる心を持つ人達はいた」
その人達の顔を思い浮かべる。
前世で出会った友人達や、恩師、家族。
マギア・フロンティアで出会った、アルフィン、シズク、ナエ、アリサ女王や、たくさんの人達。
「お前言うとおり、悪人はいた。救えないと思った人もいた。
だけど、全員が悪人なわけじゃない。
悪人もいれば、善人だっている。
何で一生懸命に、真面目に生きてる人達にまで危害を加えようとするんだ?」
俺の話を真剣に聞いていたハーディーンが口を開く。
「そなたは甘いな。
余がどれ程の長い期間、無数の世界の人間達を見守ってきたと思う。
アフロイーリスが管轄する、そなたの世界も見てきたが、人間の奥底にあるのは常に身勝手な心だ。
親は子を殺し、子は親を殺す。
他者を直ぐに裏切り、自分さえ良ければ良いと考える。
所詮は口だけ、腹の中は違うことを考えている。
恩があろうと、仇で返し他者を騙す。
王は民に食料を与えず餓死させ、兵器開発を行い自身と権力者の身を守る。
肌の色が違うからと自分と何か違うからと、迫害し殺害する。
たった一つの兵器によって数多の人間を殺し人生を奪い、それがないと保てぬ仮初めの平和」
そこで、これまでの事を思い浮かべたのか心底悲しい表情を浮かべた。
今ハーディーンが言ったことは、俺の前世でも行われてきた不幸の数々。
「人はいとも容易く裏切る。
余は間違いを指摘し、良い道を共に考え実行した。
だが、それでも人は過去の過ちを忘れる。
そんな人間達が道を間違えそうになればその度にそれを正し、修正した。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も!!」
ハーディーンの感情が昂り、魔力が吹き荒れた。
「いずれ世界が栄える事で人間達がより幸福に満ちれば、他者を思いやれる様に変わるかも知れぬと一種の希望を抱き、関わってきた。
だがな。
結果は、どれだけ人間達が豊かになろうと変わらなかった。
どこまでも、人間の本質は欺瞞と裏切りばかり。
何百年、何千年、何万年経とうとも……人間は人間だった」
それだけ長い時間、負の部分を見てきたのなら気が狂いそうになるのも分かるけど。
でも。
それでも。
「それでも。世界を壊して良いことにはならない。真面目に真っ直ぐ生きてる人だっているんだ」
「まだ分からぬのか? そなたの世界だけでも、ここまでの人間の負と闇があるのだぞ?
それが何十、何百、何万、何億それ以上の世界の闇を見るとどうなると思う?
そなただってとても、人間を信じようとは思わなくなる筈だ。
それだけではない。
人間は自らの手で世界を滅ぼした。
それも、一つの世界だけではない!
何個も、何個もだ!
くだらぬ民族意識、信じる者の差異からいつまでも終わらぬ戦争。そして破壊。
余は何度も止めたぞ! だが人間は根本はいつまでも、どこまでも腐っていく!
余がアレースローンとして人間達を見守り下した結論は。
人間の本質は悪だということだ!
そして極めつけは――――いや……」
何だ?
何を言おうとした?
「余の行いを止めたければ、余を殺せ。
余は、もう躊躇せぬ。
ここからは、そなたを全力で殺そう。
今度こそ、余が愚かな人間共に終焉を与える為に! さぁ構えよ!!」
全てを聞き出せなくて、スッキリしないけど。
「俺にだって譲れないものがある。失いたくない人達がいるんだ。それを奪おってんなら俺は許さない。絶対に負けてたまるか!」
俺にだって譲れないものがある。
絶対に壊させてたまるか。




