130話 本来の姿
ハーディーンが神としての本気の力を解放した。
今だかつて感じたことがない領域の力が、波動となって伝わってくる。
「おおおおおーー!!」
雄々しく声を張り上げ力を極限まで高めていくのが伝わり、もの凄いプレッシャーとして俺に襲いかかる。
やがて力を解放し終わったハーディーンの姿は、さっきまで相対していたものとは異なっていた。
体はより大きく、筋肉量は増えて明らかに身長自体が伸びてガッチリとしていた。
今までは、どこか中性的などちらかというと女性ぐらいの体格だったのが、それが力を解放した後は成人男性の体格になっていた。
「ふぅ。待たせたな。この姿になるのは、久方ぶりでどうにも時間がかかってしまった」
「……それが、お前の本当の姿なのか?」
「そう。余がアレースローンだった時の、力の大半を奪われるまでのな。長い歳月をかけようやくここまで、力を取り戻せた。
その為、余は大変気分がいい。そこで、特別にそなたに一つ忠告するが、この姿になったからにはもう余は止まれぬぞ。加減も出来ぬ。せっかく力を解放したのだ直ぐに死ぬような事はないようにな?」
これがハーディーンの本当の姿で力なのか。
目の前に立つと、その圧倒的な存在感に気圧されそうになる。
……ここまでの力を。
次の瞬間。
全神経を集中していたのにも関わらず、俺はその姿を見失った。
「がはぁっ!」
顔面に痛みを感じたことで、自分が殴り飛ばされた事に気づく。
高密度の魔力を纏っていたから、そこまでダメージは入っていないけど反応出来なかった。
小さな動きだしも見逃さないようにしていたのに。
「ふむ。この姿は久し振り故慣れぬ。試運転とはいえ、この程度の動きしか出来ぬとは余もまだまだだな」
「良く言う。俺が反応出来ない速度で動いておいて……」
ここまで洗練された動きは初めてだ。
「どれ。次はちゃんと反応してみせよ」
咄嗟に目に魔力を溜めて、意識してハーディーンの動きに対応しようとすると、今度はその動き出しに反応することが出来た。
だが。
「クソッ……これでも、スローモーションにならないなんてどうなってんだ」
俺も驚異的な身体能力を手に入れて、スペックでも邪神には負けていない筈なのに。
「確かにそなたは強くなったが……何故自分だけそれが出来ると思い込んだのか。戦神である余も出来るに決まっているであろうが。ほれほれどんどんいくぞ」
神としての領域。
正直侮っていたかもしれない。
パワーアップしてどこかで傲っていたのかもしれない。
こんな事では駄目だ。
ここからは、油断も傲りも捨てろ。
相手は邪神で、俺よりも実力も戦闘経験も上だ。
俺が色々と反省している中で、ハーディーンはまるで戦いを楽しんでいるように、声に出して攻撃する意思を伝えてくる。
それだけ余裕があるということだろう。
「……少し天狗になっていたかもしれない。だけど直ぐに対応してやる」
お互いに己の身体能力を限界まで引き上げ、超高速の攻防が続いていく。
俺も能力を使いながら、ハーディーンの動きに必死に付いていく。
「まだまだ上げていくぞ。ついて参れ」
尚も魔力の量を練り上げ、能力を強化する邪神。
どんどんと速く、効率的になっていくその動きに。
次第に俺の方が遅れを取るようになっていった。
コイツの攻撃を打ち返していたのが、それに対応出来なくなり攻撃を受ける比率が上がっていく。
不味い。
悔しいが、戦神としての力は圧倒的だ。
やっぱりとんでもない力を隠していた。
「クッ強い。ゴアッ。……クソッ!」
連続して拳で殴られる。
「ほれほれどうした。もっと頑張らんか。これでは早々に決着がついてしまうぞ? 次のは強力だ。防いで見せよ!」
大きく振りかぶった右拳に神級魔法クラスの魔力を溜め、それを振りかぶろうとした。
冗談じゃない。
そんなものまともにくらったら……。
この力に対抗するには。
「うおおおーっ! 限界突破ー!!」
限界を引き上げハーディーンの纏う魔力以上の力で、そのヤバイ右腕ごと吹き飛ばした。
その胴体の真ん中に左足を叩き込み、ぶっ飛ばす。
「ぬうううっ! ごああーっ!」
流石に上回る事が出来たけど。
「まだ使いたくなかった……でもあの力に対抗するには」
正直ギリギリまで温存しときたかった。
魔力空間や俺も強くなったけど、限界突破を使うとそれらも消耗していく。
それに、まだコイツは全力を出していない。
最低でも、同じ条件で使いたかったな。
今更ではあるが。
「この領域の力に対抗出来るとは、そなたも既に戦神の域に到達したようだな。いいぞ~これでより戦いは面白くなる。余もようやく体が温まってきた所だ」
「俺は何がなんでもお前に勝たないといけない。自分の為に、大切な彼女達との未来の為に、そして世界を守るためにも」
正面から全力のミドルキックを放ち、それを迎え撃つように邪神も右足を振るうと、交錯した右足は衝撃波を生み出す。
「格闘は見事。それなら次だが……ふむこの魔法はそなたも見覚えがあろう?」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、俺のトラウマになった魔法を放った。
「防いでみせよ。メテオ・ゴッド・ディバウアー!!」
この魔法だ。
前回、この魔法を防ごうと魔力核が壊れて、アルフィン達を守りきれなかった……。
その結果ユーリにも迷惑かけて……。
でも、俺だってあの時とは違う!
今度こそ!
「今度こそ、負けられるかー! クラウプスユニバース!」
二人が放った神級魔法のぶつかり合いは、前回戦った時に使用した神級魔法の再現になった。
そのとてつもない魔力の衝突は、二人を飲み込んだ。




