128話 届かない言葉
ドレアムとデスタを退け、魔物を蹴散らし進んだ先で。
ようやく、ハーディーンの魔力反応がする場所へとたどり着いた。
邪悪で息苦しさすら覚える魔力が満ち溢れている。
並大抵の実力がないと、この場には立てない程に。
「ここだ。ハーディーンはこの場所にいる」
「……凄く禍々しい魔力です。先日戦った時よりも尚穢れている……。うっ」
この強烈な邪気に当てられ、アルフィンが口元を抑え苦しそうにする。顔色は青く、血色が悪い。
俺は問題ないが、ここまでドロドロした魔力だと絶対に身体に悪い。
「大丈夫? 体を包むように薄くでも結界を張った方がいい。ここは、まともな空間じゃないからどんな影響が出るかも分からない」
「はい。ありがとうございます。はぁ!」
アルフィンはヴェールの様に魔力を引き伸ばし薄い結界を張った。
これで、邪気を直接当てられるのを防げるのと、咄嗟の攻撃があっても軽減されるだろう。
「これで邪気は大丈夫だとして、ハーディーンは何処にいるか。魔力反応はこの辺りからするんだけど」
今いるこの場所はさっきまで通過してきた所よりも、一層に暗闇が支配している。
感覚を鈍くする作用も働いているのか、この場所の広さもハッキリとは分からない。
「……もう少し奥でしょうか?」
「分からないけど、気をつけながら進んでみよう」
もう少し奥の方まで移動することにした。
「それにしましても。この空間は本当に嫌な場所ですね。ただいるだけで、気持ちが落ち込みそうになります。余計な事ばかりを考えてしまいそうです」
「うん。邪神が好んでいるような場所だし、ここはアイツの部屋みたいなもんだからね。言ってしまえばそれだけ心が穢れきっているんだろう。元が女神と同じ存在だったと思えないぐらいに」
女神から色々と聞かせてはもらったけど。
ここまで女神とは対極の存在に成り下がるなんて、よっぽどの事があったんだろうか。
人間の業……か。
俺達も平和になった世の中で間違った選択をしないように気をつけないといけない。
周囲を警戒しながら女神から聞いた話を考えながら歩いた。
ハーディーンはこの奥の、より暗闇が深い場所にいた。
黒い魔力で出来た球体の様な所に入っている。
「……あの魔力の塊は、何なのでしょうか?」
「あの塊は恐ろしい魔力濃度で出来ているな。おそらくあの中で、ユーリにやられた傷を癒していたんだろう」
俺達が近づく事に気付いたのか。
それがピシピシッと、割れて中からは黒い装束を来たハーディーンが現れた。
前に対峙した時よりも禍々しい存在感を発している。
明らかに……強さも段違いになっているな。
「……どうやら魂も無事に帰って来たみたいだな。あの男のお陰か?」
「お前は、ユーリにぶっ飛ばされてボロボロになったんだってな。 復活するまで一週間かかる程に」
その言葉でハーディーンの魔力が膨れ上がる。
図星をつかれて怒ったか?
「……忌々しい……あの男は、本当に最期まで余の邪魔ばかりしおって。……だが、やっとこの世界から消滅したようだ。
この手で殺しきれなかったのは残念だが、もうあの顔を見なくてすむと思うと、幾ばくか胸がスカッとするな」
「お前には、俺が引導を渡してやる。ユーリから授かった思いもあるしそれに、お前自身の為にも」
「……余の為? ふん。アフロイーリスから余計な事まで聞いたようだ」
「ああ聞いた。お前の本当の名前がアレースローンだということもどういう存在で人間達の為に、頑張ってきたことも。だからこそ、気になっていたんだ。人間の負の部分を見てきて嫌気が差したは、何となく分かるけどでも何でそんなになっちまったんだ? 今まで守ってきた対象を滅ぼそうと考えたんだ?」
「…………」
良く見ていなければ見逃してしまう程、本当にほんの一瞬だけハーディーンは、悲しい表情を浮かべた。
「……くだらない。それよりも、そなた。仲間を置いて来たのか。中々に薄情ではないか? あれだけ仲間を大切にしていると言っていたというのに。所詮は口だけ。余の勘違いだったか」
俺の質問には答えないか。
「いや。
俺は皆がなによりも大切だ。それは、変わっていない。
お前が云うように、俺は二人を置いて来たが、それは決してこんな程度でやられる彼女達じゃないからだ。それに、お前こそドレアム達四天王をあんな状態にしてまでまた戦わせようと」
「あやつらに関しては、余が造り出した存在。
どう使おうが文句を言われることはない」
「アイツらだって、命があるんだぞ。それをあんな意識も無い状態にして。アイツらは物じゃないんだ」
「あやつらも、人間も余にとっては同じこと。この世界も他世界も、余が守り発展させてきた。だからこそ余にはそれを破壊し、新たに創造する権利がある。ポッと出てきたそなたに言われる筋合いはない」
やっぱり今の状態じゃ話は平行線か。
「……今は話しても無駄みたいだな」
「それこそ、今更だろう。もはや話し合いで解決出来るほど事態は軽くないのだ。それに、余を打倒する為にここまで来たのだろう? それならばさっさと、決着を着けようではないか」
両手を広げ、暗黒の魔力を練り上げる。
「……仕方ないか。アルフィンやろう」
「はい! 必ず勝ちましょう世界を守るために!」
「ああ。いくぞ!」
世界の命運を分ける戦いが始まった。




