11話 出発前日
おはようございます。
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トランスヴァールに戻ってきた頃には、既に日が落ち始めていた。もうすぐ夜になる。
ユルゲン陛下が言っていた俺の歓迎会は、まだ準備がかかるそうで俺は貴賓室で休ませてもらう事になった。
思えば、マギア・フロンティアに来てから一人になる時間がなかった。
せっかくだから、今のうちに明日の行動を考えておこう。
まずは、冒険の準備と言えばショップだよな。
ユルゲン陛下から装備品は貰えたからわざわざ買わなくても良さそうだけど、色々な便利アイテムもあるかもしれないから一応寄って見るとして。
大きな問題が一つあるんだな。
俺この世界の貨幣を持ってないんだよな。
魔物を倒しても、ドロップしなかったし。
このままじゃ買い物が出来ない。
明日アルフィンに聞いてみて最悪、冒険で稼ぐとかで借してくれるかお願いしてみよう。
冒険者ギルドもあるのかな。
一度、寄ってみたいと思ってたからそこも行くとして。
トランスヴァールを出たあとは、
貰った地図を取り出し、確認する。
トランスヴァールがある南大陸には、トランスヴァールとクリスタ王国の二つの国があり、大陸が繋がっていない為、他の大陸に渡るには船に乗る必要がある。
トランスヴァールからも船は出ているが、クリスタの方にも行っておきたいから、ギルドを見てみてちょうどクリスタ方面の依頼があれば受けてみるかな。
先程の会議で、ユルゲン陛下から世界にある四つの石碑の場所を聞いておいた。
そこには、絶対行くだろう。
それから、
コン！ コンッ！！
ドアがノックされると、廊下から声が聞こえた。
「タクト様。準備が終了しました」
歓迎会の準備が終わり、知らせに来てくれたようだ。扉を開けると、城のメイドさんが黒色のタキシードを持って立っていた。
「タクト様。こちらの正装をお使いください」
やっぱり城のパーティーはこういうの着るんだな。
メイドさんから受け取り、着替えて会場へ向かった。
綺麗な絨毯が敷かれた廊下を歩き、到着したパーティー会場の広さは結構なものだった。
飾り付けも気合いを入れてくれたらしく、華やかに仕上がっている。
いくつものテーブルには、既にたくさんの料理とお酒や飲み物が並べられていた。
俺が最後の入場者らしく、既にレスターさんや謁見の間に居た人達、その場に居なかった人の顔も見える。
結構な人数がいるな。
皆俺が来るのを待っていた様だ。
そして、会場の奥側。上座というのかは分からないが、そこにユルゲン陛下とアルフィンが座っている。
「タクト様。こちらへ」
メイドの人にアルフィン達が座る席へと案内された。
陛下は来賓を迎える際に着る正装を。
アルフィンは。
赤色を基調とした、華やかなドレスを着ていた。
髪も少し、ウェーブをかけているのか、普段とはまた違う雰囲気で、アクセントのリボンが、アルフィンの可愛さと綺麗さを醸し出していた。
(うわぁ……ヤバイ。目の前のアルフィンが天使過ぎて、心臓がバクバク言ってる)
ドキドキしすぎて、胸の音が煩わしい。
アルフィンは頬を染めて、微笑んでくれた。
「タクトさん。正装とてもお似合いですよ。タクトさんの凛々しさが増していて、素敵です」
これまた、更に頬を染めながらストレートに感想を伝えてくれる。
「アルフィンも、そのドレス。とても似合っているよ。その髪も。普段のアルフィンも可愛いけど、また違う魅力を感じて素敵だ」
アルフィンに習って思った事を言ってみた。
俺も多分顔赤くなってんだろうな。
「ふふ。ありがとうございます嬉しいです」
お互いに見つめあう形になる。
ダメだ。視線を外せない。何て言うのかこの感じは。
胸の鼓動も煩くなっていく一方だし。
アルフィンも同じ用で、こちらを見つめ返してくる。
頬もどんどんと赤く染まっていっている。
やばい。このままでは……。
「オッホンッ！」
咳払いの音で二人我に帰った。
陛下からその辺にしとけや。いつまでも始められねぇだろうが。それと、後で話があるから逃げるなよ。との眼差しを向けられた。
ちょっと二人の世界に入りすぎてたかな。
「始めようか」
陛下が前へと進み、開会の挨拶を行う。
「それでは、主役が揃ったのでそろそろ歓迎会を始めよう。
まずは、我が娘アルフィンをカイザーベアから助け、護ってくれた、既に知っている者もいるが、こちらの青年を紹介しよう。
この度、予言の一説の通り魔王の称号を持ちこのマギア・フロンティアへと来られた。救世主タクト殿だ」
陛下の言葉で隣まで進む。
軽く頭を下げ、挨拶をする。
「ただいま御紹介にあずかりました、タクトといいます。
女神より転生し、邪神の手からマギア・フロンティアを救ってほしいとお願いされました。
俺は、魔王の称号を持ちます。
ですが、まだまだ未熟な身ですので、皆さんの助けが必要です。
敵も強大とも陛下より聞いています。それでも皆で力を合わせてこの窮地を脱していきましょう！ 俺も力を尽くします」
挨拶中、称号の話しの時に少しざわついたが、終わると盛大な拍手を貰えた。
ふぅ無事に終わって良かった。
前世でもこんな大勢の前で話したことなかったから緊張した。
反応を見た限り成功かな？
陛下の隣まで戻る。アルフィンが隣まで歩いてきた。
「それでは、乾杯をしよう。皆のものグラスは持ったかな。マギア・フロンティアの平和を！！ 乾杯！！」
会場中で乾杯の声と、グラスが当たる音が聞こえる。
俺も陛下と乾杯したのち、アルフィンともグラスを当てて乾杯した。
中身は、シャンパンに近い飲み物で口当たりがいい。
「タクトさん挨拶お疲れ様でした。これから会場の人達とお話しされるのですよね？」
「ありがとう。会議の時の人達ともまだ話せていないし、せっかくだから色んな人達とも話したいかな」
「分かりました。タクトさんのお話しが終わったら……あの」
「分かっているよ。俺もアルフィンともっとたくさん話したいんだ。終わったら迎えにいくね」
「はい！ お待ちしてますね！」
花が咲いた様なアルフィンの笑顔に送られて、会場の中央の方へと向かった。
それからは、たくさんの人達と話した。
ルフト宰相や国の重鎮の人達、街の有権者、レスターさんと近衛隊の人達、マードックさん等とも。
料理も一品一品とてもおいしかった。王族のお抱えシェフなのだろう。
その腕前はお見事でした。
どうやら俺の存在は物珍しく、沢山の人達も俺と話したいと次々と近寄ってきては入れ替わりで話していった。
かなりの人数が参加する歓迎会。
その大体の人達と話し終わる頃には、結構な時間がたっていた。
「まずいかな。アルフィンを待たせてしまったかな」
少し気持ち焦り目で、アルフィンの姿を探すと最初の定位置で待っていてくれた。
「アルフィンお待たせ。ごめんね遅くなってしまって」
「タクトさん。いいえ。皆さんもタクトさんと話したかったと思いますので」
にこやかに微笑んでくれる。
良かった。怒った素振りはない。
「それで何処で話そうか？」
「ちょうどいい所がありますので、ご案内しますね」
アルフィンの案内で城の廊下を歩いていく。
廊下の方から中庭に出れるらしく、そこで話をすることになった。
中庭は花壇も綺麗に整えてられていて、休憩スペースとしても良さそうだ。
お茶も出来るようにテーブルと椅子も完備されている。
その椅子に隣同士に座った。
「今日は本当にたくさんの事が起きました。クリスタに向かう途中でカイザーベアが現れ、クルーゼ達が犠牲になって……。
そこにタクトさんが現れ、護ってくれて、タクトさんが予言の救世主で、一緒にユグドラシルを見に行って、歓迎会の後こうしてお話をして……。言葉にすると短いのに、実際はこんな濃密な一日でした」
アルフィンが今日一日の事を思い出しながら、時に哀しそうに、時に驚いたように、時に嬉しそうに、時に照れたように話していた。
「たくさんの別れもありましたが、わたくしは、こうしてタクトさんと出会えた事を感謝しています。
幼い頃からこの治癒の魔法に目覚め、将来この力をハーディーン討伐の為にと、鍛えてまいりましたが、邪神軍の力は強大で正直恐ろしかったのです。
本当に自分は邪神と戦えるのか、その時になったら怖くて逃げ出してしまうのではないかと。
ですが、予言の救世主がタクトさんで良かった。
この人となら一緒に戦っていけると、一緒にいる内に深く確信出来ました」
「アルフィンは王女だけど、16歳の女の子なんだ。怖くて当たり前だよ。
俺もアルフィンと一緒なら必ずやり遂げられると、思っている。シズクもいるしね。
それに、俺はもっと強くなって絶対に君を護り、やり遂げてみせる。だから大丈夫だ」
そうだ。俺は前世の家族、友人を護るために転生を引き受けた。
だけど、この世界に来て、アルフィンと出会いこの子も全力で護りたいと思える存在になっていた。
もちろんこの世界も。
だから、俺は全身全霊をかけてやり遂げる。必ず。
「タクトさん……嬉しいです。わたくしも頑張ります。明日からよろしくお願いしますね」
アルフィンは不安が取れたスッキリとした顔をしていた。
それからはたくさんの話をした。
俺の前世の話も聞きたいとおねだりされた。
どんな料理が好きなのか、好きな女性のタイプは、特別な関係の人がいたのか、等色々と。
俺はそこまで鈍感ではないつもりだ。
だからアルフィンが俺に好意を持ってくれているのは分かっている。
俺もアルフィンの事が好きなのだろう。
この気持ちとはいずれキチンと向き合わないといけないと思う。
でも、今はこれからの冒険にハーディーンとの戦いに意識を向けていかないとな。
お読みいただきありがとうございます(っ´▽｀)っ
