118話 宝物と過ごす時間
ハーディーンが復活するまであと二日。
今日も今日とて、マギア・フロンティアの空を飛びかっていた。
「今日はどうするの? またどこか行くの?」
「大体は行きましたよね。まだ行っていない所は……」
「そうですわね。ルーデウス帝国はまだですが、明日行きますしね」
「それなんだけど。たまには戦いも、修行も全て忘れて思い切り休もうと思ってさ。この間の何でも言うことを聞く権利それもあるしね」
「では、修行の出来は、合格ですか?」
「ハハ。あれは、冗談だよ。勿論皆は合格だよ。本当に良く頑張ったね」
「それは、本当に嬉しい限りですが、どちらで過ごされるご予定ですか?」
こういう時に、最高の一日を過ごすならあそこしかない。
「ヨーク公からのこの間のお誘いを受けようと思う。どうせなら最高のホテルを利用させてもらおう」
という事で、バラガン公国まで移動して街の入口で降ろしてもらった。
流石に丸一日を待たせるのは気が引けるのでリューガにも休日を満喫してもらおう。
「リューガも、気兼ねなく羽休めしてほしい。今日は好きに行動してもらって、明日の同じ時間にまた合流しよう」
「分かった。それでは、また明日会おう」
大きな翼をはためかせ、青空へと飛んでいった。
リューガを見送ったあと、街に入っていく。
「それじゃあ。まずはヨーク公にまた挨拶しにいこう」
宮殿へと行きヨーク公にこの間のお礼を受け取りたい旨を話すと快く要望を叶えてくれた。
しかも、街のどれでも好きな物を格安で買える特典もプラスして。
さて、三人の俺にやってほしい事。
先ずはナエのお願いから聞いていくことに。
今回は、それぞれに持ち時間を決めて、一人ずつデート形式で行動することにした。
「ナエは何して欲しい?」
「う~んとね。お兄ちゃんと一緒なら、何でもいいの。ただ、アイスとお子様ランチは食べたい」
基本普段とあまり変わらないけど、ナエがそれでいいのなら。
「こっちだよ、こっち! どんどんいくの!」
ナエに手を引かれ街の観光施設を観て回っていた。
バラガン公国は、かなりの大きさを有していて観光国としても力を入れている。
一日で全て観るのは無理な大きさだ。
それを結構なペースで回っている。
こういう時子供は非常にパワフルだな。遊びモードになると、本当にどこからそのスタミナが出ているのかと不思議な程に活発になる。
大きな遊具もある公園で遊び、ナエのお気に入りの三段アイス買ってベンチに座って食べる。
「う~ん。美味しいの! アイス大好き!」
美味しそうにアイスを食べるナエを見ると、心がホッコリする。
この公園も色々な楽しみ方も出来て、居ようと思えば半日は時間を潰せそうだ。
子供だけではなく大人も体を動かせて、ジョギングしたりランニングをしている人達もいるし、魔力を使った、アトラクションや遊具もある。
この辺りは魔法がありの異世界らしい。
目一杯遊べばお腹も減り、昼御飯を食べにレストランに入る。
俺はオムライスを注文し、ナエは。
「お子様ランチ美味しいの。この旗も全部集めたいなぁ」
夢中になってピラフやエビフライを食べるナエを見ながら話しかけた。
「ナエと旅するようになってまだ一月も経ってないけどさ、本当成長したな。強さも心も」
「う~ん。魔法は上手になったと思うけど、心は分からないの」
「成長したよ。最初はまだ泣き虫だったけど、今ではとても強くなって泣き虫も卒業したし。いつも俺達を明るく照らしてくれている。だからありがとうな」
「なんか照れるの。でも、お礼を言うのはあたしもだよ。お兄ちゃんが守ってくれるから今もこうしていられるの。だからありがとう」
二人してお礼を言い合ってしまった。
本当に素直で可愛らしい子だ。
ここで、ナエにプレゼントを渡した。
「これはなあに?」
四角い細長い箱を手に取り不思議そうな顔をする。
「開けてみて」
「うん。わぁ! リボンなの! 可愛い!」
ナエに渡したのは、今日を休日に当てようと考えていた段階で、皆に渡そうと魔法で作成しておいた物だった。
魔力付与をこれでもかと何重にも重ねている。いつもお世話になっている事と、無事に皆が生き残れる様にその願いもこめて。
「お兄ちゃん。ありがとう! 大事にするね!」
リボンをギュウッと握り締めて笑顔だ。
プレゼントを喜ばれるのは、嬉しいな。
食事を食べた後店を出る。
「あたしはこれで、ホテルに帰るの。後はお姉ちゃん達と仲良くやるの」
「帰り道分かるか?」
「そんなの余裕なの」
自信満々にホテルとは反対方向に歩きだした。
それを止めて正しい道を教える。
「今度こそ、大丈夫なの。またね」
タタッとホテルの方角へ駆けていった。
「大丈夫かな? 次は、シズクだな」
シズクとの待ち合わせの場所は、コロシアムにしていた。
時間は……歩いていけばちょうどいいか。
待ち合わせの場所には既にシズクが待っていた。
流石、何事も真面目で早めに行動するシズクらしい。
「あ、タクトさん」
俺の顔を見ると凄く嬉しい顔をしてくれる。
「ごめん。お待たせ」
「いえ。前も言いましたが、待っている時間も好きですので構いません」
そんな事もあったな。旅に出ることになってトランスヴァールを出発するときに、シズクと街の門の前で待ち合わせをした。
その時に言っていたっけ。
「それじゃあ、どうしようか? シズクは何かやりたいこととかある?」
「私は幾つか考えて来ました。それに沿って行動してもいいですか?」
「いいよ。シズクが考えてきてくれたなら、その方がいい」
シズクが俺にやってほしい事なら、その方がいい。
「ありがとうございます。それでは、行きましょう」
いつもそうだが、シズクは背筋をピンッと伸ばし姿勢がいい。
マナーもキチンとしているし、歩く時も俺の少し後ろを歩く。
こういうの何て言うんだっけ。
大和撫子というか、奥ゆかしいというのか。
「着きました。先ずはお店を軽く観て回りたいです」
「ここは、洋服屋かな」
「はい。私はどうも、こういう女の子らしい事に疎い傾向があるみたいで、アルフィン様に是非寄って何着か購入した方がいいと言われました。ですのでここで買いたいと思います」
シズクは物凄い美人だ。素材は抜群に良い。
今まで、シャトヤーンさんを護る騎士としてやってきたから、年相応のオシャレをして来なかったのかもしれない。
「分かったよ。俺もシズクに似合う物を頑張って選ぶよ」
「よろしくお願いします」
姿勢良く頭を下げられた。
そう言えば、シズクと二人きりでこうして過ごすのは初めてかもしれないな。
いつも皆で行動しているから。
それから。
シズクのミニファッションショーが始まった。
様々な洋服を試着して、新しいのをまた試着する。
どれもこれも、シズクに似合っていて、普通の人が着れば正直ダサイものでも、着こなし非常に魅力的な物に変える。
「凄いね。シズクが着ると、どんな服もオシャレな物に変わる。やっぱり美人だからかな」
率直な感想を伝えると
「……は……恥ずかしいです……。ハッキリ言われると……その……」
顔を朱に染めて、下を向いた。
「でも。そう言ってもらえて……嬉しいです」
喜んでもらえて良かった。
その後三着程、洋服を購入し他のお土産屋も覗きながら観て回った。
楽しい時間はあっという間に経過し、夕方から夜に変わる時間帯となる。
今は喫茶店で休憩しながら、他愛ない話をして楽しんでいた。
普段あまり聞けないお互いの知らない事を教えあったり、これから先の未来でやってみたいこと等を。
やがてシズクの持ち時間が終わりに差し掛かかり、店を出ることにした。
「シズク。これ使ってくれるかな?」
ここでシズクにプレゼントを渡した。
シズクには、羽織りを渡した。
戦闘中に活用出来て、専用装備程に強力ではないけど魔力付与をこれでもかというほどに重ねている。防御力もこれで格段に強化できる筈。
シズクはスピードタイプだからどうしても、軽装になる。重い鎧を着けると長所を殺しかねない。
だから、軽くて防御力が高い物を造った。
「タクトさん……ありがとうございます。私の事を考えて造られているのが分かります。とても嬉しいです」
「役立ててほしい」
「はい、必ず。……それでは。私はホテルに戻ります。それで、タクトさん」
「ん? どうした?」
「アルフィン様を待たせないでくださいね。私もタクトさんが好きですが、タクトさんを好きになったのは、アルフィン様が先です。そして、アルフィン様はタクトさんがお気持ちを伝えてくれるのを待っている筈です。ですからアルフィン様にキチンとお伝えしてください」
真剣な眼で見つめられた。
「それでは、これで」
シズクはゆっくりとホテルに向かって歩いていった。
最後のあの表情。
もしかしたらシズクは、身を引くつもりかもしれない。
だけど俺は二人とも幸せにしたい。二人とも大切なんだ。
だからアルフィンに気持ちを伝えたら、その後にシズクにも必ず伝えよう。
「よし。アルフィンと約束をしている場所へ向かおう。今日こそ気持ちを伝えるんだ」
空は完全に夜になっていた。




