10話 シズク・ナナクサ
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神殿の中に入ると、数十本もの白色の石柱が左右から天井を支え、灯りの魔法で出来た光の玉が石柱に取り付けられていた。
建物内部は白色と淡い灯りが合わさり、神殿は幻想的な雰囲気の作りになっている。
「これは……凄いな」
思わず感嘆の声が出てしまう。
「神殿には特殊素材を使用していまして、構造も耐久に強い造りになっていますが、同時に美も意識して建てられています。ここを訪れた方は、タクトさんと同じ事を仰ります。……ふふ。わたくしも同じでしたね」
アルフィンが思いだし笑いをして微笑む。
アルフィンが言うとおり、建物の美しさも凄いけど空気もものすごく清んでいるのを感じる。
森林の中や、滝の側にいるようなマイナスイオンで満たされている感じ。
これも、ユグドラシルの力で浄化作用なのかな。
アルフィンは何回か来ているようで、迷いなく目的地へ進んでいく。
この神殿の士官だろうか、廊下ですれ違う人達がこちらを向いて頭を下げていく。
ここの神殿は、結構大きいから人もそれ相応にいるんだろうな。
途中、何個か部屋の前を通り歩いた先には講堂が見えた。
扉の前まで行くと、アルフィンがノックする。
「リアンヌ様。いらっしゃいますか? アルフィンです」
「はい。今開けますので、そのままお入りください」
中からは若い女性の声が聞こえる。
少しして、扉の紋章が青色に輝くと、扉が自動で開く。
開け放たれた扉の奥には、二人の人物が立っていた。
一人は、プラチナブロンドの髪を結い、それを左肩に掛け、白色のドレスを着ている。
うわぁ……もの凄い美女だ。
醸し出す雰囲気は神聖なものを感じる。この人が聖女なのかもしれない。
二人目は、黒色の髪を後ろで束ね、身長は女性にしては高めで白銀の鎧を来た美人だ。
年齢は、たぶんアルフィンと同じぐらいかな。
アルフィンが可愛い系なら、この人は綺麗系だ。
「お久しぶりです。リアンヌ様、シズク。突然の訪問に関わらず、お時間を頂きありがとうございます」
アルフィンが二人に親しみの笑顔で声をかける。
二人は、そのアルフィンに対して、同じ様に笑顔で返す。
子供の頃から何回も来ていると言っていたので勝手知ったる仲なのだろう。
「お久しぶりアルフィン様。今はユグドラシルの調整も終わっている時間帯ですから大丈夫ですよ。
以前お会いした時は、アルフィン様の16歳のお誕生日の日ですからあれから2ヶ月も経つのですね」
「そうでしたね。この前はとても楽しかったですわ。いつもありがとうございます。シズクもお久しぶりですお変わり無いようですね」
「アルフィン様、お元気そうで何よりです。
私は相変わらず鍛練の日々で、あまり代わり映えしていません。こうしてアルフィン様が来てくださり嬉しいです」
「ありがとう。今度また、お茶でもしましょうね。
美味しい茶葉をこの前頂きましたので、ご馳走させて頂きますね」
アルフィンはリアンヌさんとシズクに挨拶をすると、表情を一気に引き締めた。
本題に入るのだろう。
「リアンヌ様。実は今日お伺いしたのは、ご報告したい事と、お会いして頂きたい方がいましたので、こちらに参りました」
その言葉に二人の目線が、俺に向けられる。
部屋に入った時も一度向けられたが、先にアルフィンへと挨拶が優先だった為、俺の紹介は後になっていた。
アルフィンの紹介により、再度向けられる形になる。
「そうでしたか。それではせっかくですから、お茶を飲みながらお話を聞かせてください」
リアンヌさんは、俺へとニコリと微笑む。
俺は、部屋の中央にあるテーブル席に案内してもらうと、そこに座った。
シズクさんがお湯を沸かし、紅茶に似たものを煎れてくれる。
異世界で文化は違うけど、こういう紅茶や食べ物は同じような物があるのかな。
ちなみに、紅茶はとてもおいしかったです。
「それではまず、ご報告からさせて頂きます」
全員が唇を湿らせた後。
アルフィンから、クリスタに向かう道中にカイザーベアが現れ、クルーゼ隊が全滅したこと、殺される寸前に俺が現れカイザーベアを討伐したこと。
そして。
「その後、城へと戻り御父様の前で真実の鏡を使用しました。その結果、タクトさんが予言の通り、異世界からマギア・フロンティアを救うべく現れた、魔王の称号を持つ救世主という事が証明されました」
一連の報告を聞いて、俺が魔王の称号を持っていることに二人は驚愕の表情をしている。
リアンヌさんは、驚きはしていたけど納得の表情をしている気がする。
「クルーゼ様達は、本当に残念です。とても優しくて、勇敢なお方でしたから。皆様には、深くご冥福をお祈り致します。」
手を組み、その場で祈ってくれる。
「タクト様は、ユーリ陛下の後の魔王の称号をお持ちになるのですね。先程門番がアルフィン様の来訪を伝えに来た際、二人で来たと報告がありましたので、もしかしたらと思っていましたが……」
「はい。リアンヌ様とシズクにも、タクトさんにお会いして頂きたかったのです。これから、ハーディンを討伐する旅に出る前に」
「そうだったのですね。今が予言の時期になるのですね」
リアンヌさんが椅子から立ち上がる。
「ご挨拶が遅れました。私はここ聖樹教会の管理責任者をしています、リアンヌと申します。これからよろしくお願いしますね」
リアンヌさんが微笑みながら挨拶をしてくれる。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
俺も立ち上がり、リアンヌさんに頭を下げる。
「初めまして、聖樹教会騎士団、聖女付きの騎士シズク・ナナクサです」
シズクさんも、同様に立ち上がり挨拶してくれた。
「タクトです。よろしくお願いします」
シズクさんと挨拶を交わす。
「リアンヌ様。タクトさんがユグドラシルを間近で見てみたいということなのですが、いいでしょうか?」
「大丈夫です。それでは四人でこのまま向かいましょう」
リアンヌさんを先頭にユグドラシルまで向かう事になった。
部屋を出て、そのまま廊下を進んでいく。
距離が近づくにつれ、圧倒的な存在感が増すのが分かる。
それなりに長い廊下を歩くその先に、巨大な扉がある部屋に到着した。
トランスヴァールの地下にあった石碑にも結界が張られていた。
しかし、ここはその比じゃない。
何重……いや、下手してら何百かもしれない結界がクモの巣みたいにあった。
これが壊されると、世界が終わりみたいなヤバイ物だから相応の結界なんだろう。
リアンヌさんは魔力を溜めた左手を紋章にかざし、扉を開閉して中に入る。
「…………すげぇ…………これが、ユグドラシルか……」
ユグドラシルは巨大だった。
首が痛くなる程に頭を上に向けても、頂上は見えない。
目の前に立つだけで、高密度の魔力の波動がドクン、ドクンと波打つのを感じる。
樹木全体が目映い光を放ち、キラキラと輝いている。
「ユグドラシルを間近に見てどうですか?」
リアンヌさんが聞いてきた。
「遠くから見ても、存在感が凄かったですが、こうして目の前にすると、凄い力を秘めているのを感じます。聖樹とはどういう物なのですか?」
「聖樹はまだ分からない事が多いのですが、古より伝わる文献には、ユグドラシルを介して、この世界と異世界とを繋げる事が出来るという一説が残されています」
「アルフィンから聞きましたが、400年前の大戦よりも以前には既にあったとか」
「ええ。いつ頃からこの地にあるのかは分からのないです。
ですが、ユグドラシルを破壊されてしまうと、この世界だけでは済まないほどの被害が出ることになります。
歴代調整をしている私達、聖女だからこそ、このユグドラシルの力が分かります」
聖女は誰よりも、ユグドラシルの近くにいたからこそ、この聖樹の力も破壊された時の危険性も分かるのだろう。
「ハーディーンの封印が解かれ、予言の通りタクト様がマギア・フロンティアに来られたと云うことは、これから石碑を探しに世界に旅に出るということ。
ユーリ陛下の遺言の〈魔王の称号持ちが現れた場合、力になるように〉との約束を今こそ果たしましょう」
そう言って、リアンヌさんはシズクへ手を向ける。
シズクはその事でキョトンとしている。
「シズクをタクト様達の旅に連れて行ってください。
この子の、剣術の才能は世界でも屈指。
まだ実力は粗削りですがきっとお二人の力になれるでしょう」
「なっ。リアンヌ様何を言い出すのですか。私は聖女付きの騎士です私が離れればリアンヌ様の護衛は誰がするのですか」
「私は、この神殿にいる限り安全です。
確かにあなたは私の騎士になりますが、今は世界の危機です。
今こそあなたの力を世界の平和の為に使いなさい。
それに、ここにずっといても得られない物はたくさんあります。
世界を旅して、見聞を広め何倍も成長して帰ってきてください。私はそれを楽しみに待っていますので」
「……リアンヌ様。……分かりました。ご期待に応えられるように何倍にも成長して帰って参ります!」
「タクト様、アルフィン様。シズクをどうかよろしくお願いします。この子の力を旅の助けにお使いください。
この子の力は、まだ完全に開花していませんが、実は私と同じ調整の専用スキルを持っています。
調整のスキルはユグドラシルの維持に使用するのと他に、もう一つ能力があるのです。
それは、邪な魔力を祓うこと。アルフィン様が持つ治癒魔法とは別に邪神軍に有効な力になります」
シズクさんの力か。
二人の力も気になる
ステータスオープン。
リアンヌ
聖樹教会聖女
レベル12
スキル 調整(破邪)、結界、深層同調
シズク・ナナクサ
聖樹教会聖女付き騎士
レベル23
スキル 剣術、近接戦闘、身体能力強化、調整不完全(破邪)
確かに、これだけの力なら旅をするのに助かるな。
シズクさんの調整のスキル。
邪な魔力、魔物等にも有効な能力。破邪顕正の能力か。
「アルフィン様、タクト様。旅の同行をさせて頂きます。
若輩の身でありますが、ハーディーン打倒の為精進して参ります。これからよろしくお願いします!」
「シズクよろしくお願いしますね。幼馴染みの貴方が共にいること頼もしく思います」
「シズクさんよろしく。これから仲間として頑張っていこう」
「はい。私のことはシズクとお呼びください。私もタクトさんと呼ばせてもらいますね」
シズクと握手をする。
「出発は明日の早朝になります。明日トランスヴァールの城下町の北門で待ち合わせにしましょう」
リアンヌさんとシズクに挨拶をし、トランスヴァールに戻る。
新しい仲間と、冒険か。楽しみだ。
その前に、今日は歓迎会をしてくれるんだった。
そちらも楽しみだ。
お読みいただきありがとうございます(*`・ω-)ノ




