9話 聖樹ユグドラシル
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レスターさんと男同士の熱い握手を交わした後、陛下とアルフィンと共に城の地下に来ていた。
地下には幾つもの頑丈な扉があり、その一つずつに紋章が刻まれている。それだけ重要な物が保管しているのだろう。
ハーディーンの力を封印している石碑があるのだから、当たり前だが。
アルフィンが扉を開閉しながら進んだ廊下の奥に、複雑な紋章が何重にも重ねられ刻まれた、一際頑丈な扉があった。
アルフィンが左手に魔力を集め、紋章に手をかざして扉を開閉して中に入る。
石碑は部屋の奥にあった。
「この薄い膜みたいなのは、結界だよね?」
「そうです。ここのは、通常の物よりも強力な結界を張っております。これもそうですが、地下にある扉の紋章もトランスヴァール家の血筋の者の魔力でしか開閉出来ない様にしておりますわ」
アルフィンが丁寧に説明してくれると、石碑の近くに寄った。
そのまま、さっきまでよりも密度の高い魔力を両腕に集めて、石碑にかざす。
パリンッと、音が鳴る。
結界が解除されたみたいだ。
俺は石碑に近づいてみた。
結界を解除したからか、石碑から2つの魔力が吹き出るのが分かった。
清浄な魔力と、おぞましい魔力が波動として部屋全体に行き渡る。
多分清浄な魔力はユーリので、おぞましい魔力はハーディーンのものだろう。
「これが、先程説明したユーリ陛下が作製し、ハーディーンの力を封印した物になる」
400年経過していても、こうして封印出来ているユーリの魔力が凄いのか、今だにおぞましい魔力を感知出来るハーディーンが凄いのか。
どちらにしろ、両魔力とも凄まじい力を感じた。
これから俺達は、これと同じ石碑を探して、もしくは作成して、ハーディーンの力を封印するか、倒すのが旅の目的になる。
造ることになった場合を想定して、形、造形を目に焼き付けた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「それでは、結界を張り直しますね」
アルフィンがまた濃密な魔力を練るのを、後ろから見る。
なるほど。
見た感じ、結界を張るのはそこまで難しい感じはしない。
これなら、俺でも出来そうだ。
石碑に結界を施した後、部屋の隅に同じ様に厳重に保管されている宝箱を陛下が持ってきた。
「これが、タクト殿に渡したい物だ。これはユーリ陛下が使用していた装備品になる」
宝箱と王様か。
思いっきりRPGだな。
宝箱を開けて取り出した物は、黒色に青いラインが入ったローブと、銀色に紋章が刻まれている腕輪だった。
これが、ユーリが使っていた装備品。
俺に鑑定のスキルはないから、この装備品がどれだけ凄いのかは分からないけど、きっと強力な物なんだろうな。
ゲームだと旅の終盤とかに見つける的な。
装備品の説明を陛下がしてくれた。
「このローブは魔王のローブと呼ばれている。
素材は、この世界最強種の竜王族のウロコを使用している。
物理衝撃にも強く、暑さや寒さにも耐性がある。
ユーリ陛下も何重も魔力を付与しているので、魔法耐性も極めて高い」
このローブ。
かっこいいな。
素材も何かヤバそうなので、作られてるし。
ユーリが付与した魔力は、まだ良く分からないけど強力な物であることは、分かった。
「次いで、腕輪は魔王の腕輪と呼ばれている。
こちらの素材はオリハルコン製。魔力循環効率を高める作用がある。
ちなみに、この二つの装備品は、魔王の称号持ちにしか装備出来ない。
このように専用装備と呼ばれる物は、特定のスキルや称号を持たないと装備出来ないから気をつけるのじゃ」
魔王のローブと腕輪か。
両方とも強力な装備品みたいだけど、ネーミングセンスはどうなんだろうか……。
「ありがたく使わせてもらいます」
早速装備してみる。
身につけると、魔力作用が働いているのを感じた。
装備品を貰い一階に戻ってきた俺は、ユルゲン陛下と別れ、ユグドラシルへ向かう。
ユグドラシルへは、アルフィンと二人で歩いて行くことになった。
トランスヴァールからは徒歩で30分ぐらいの距離らしい。
南門から外に出ると、綺麗に塗装された街道の先に砦が見えている。
「タクトさん。ローブも腕輪もとても似合っています。カッコいいです」
アルフィンから、にこやかな笑顔とストーレートな感想を貰った。
「ありがとう。身につけた感じ凄い物だと分かったよ。
様々な魔力付与と魔力作用が働いているのを感じたから。俺が貰った様な専用装備は、世界各地にあるんだよね」
「はい。わたくしも全てを把握しておりませんが、各国に保管されています。また身に付けられる人が現れるまで。ですので、こちらの装備品も、ユーリ陛下が崩御されてから装備出来る人はいなかったので、こうしてまた装備してくれる人が現れて、喜んでいると思いますよ。
わたくしも、ラクス様が使っていた治癒魔法とサポート魔法を強化するネックレスを装備出来ました」
専用装備か。
これから世界を旅するから新たな物も出てくるんだろうな。
「これから行くユグドラシルだけど、何でトランスヴァールの近くにあるの?」
勝手な想像だけど、明らかに大事な場所というか物は世界の中心にあるイメージがあるから聞いてみた。
前世のゲームとかでもそういうのが多かったし。
「ユグドラシルは、遥か昔から存在し、いつ頃からあるかは分からないのです。
400年前の大戦時に、ハーディーンがユグドラシルを破壊しようとしました。その際、ユーリ陛下がトランスヴァールをこの地に建国し、ハーディーンの魔の手から護りました。
ユーリ陛下がハーディーンを抑え込んだ事も関係しているかもしれません。それと同時期に、ユグドラシルを支え維持するため聖樹教会も出来ましたので」
ユグドラシルはそんな昔からあるのか。
確かにただの樹木ではないし、何かしらの理由があるかもしれない。
ユグドラシルを維持する聖樹教会もどんな所か、気になるかな。
「聖樹教会はどういう組織なの?」
「ユグドラシルを護り、維持するのが主な役目になります。
国という枠組みから外れ、独自の組織で運営されています。
始まりは、前大戦時、トランスヴァールを建国する際に、ユーリ陛下の勢力から一人ユグドラシルを調整する専用スキルを持つ者を聖女に据える事で聖樹教会が出来ました。
以降現代まで聖樹が護られています」
あれだけ、とんでもない物を維持していくのであれば組織力は必要になるよな。
ユグドラシルを調整するのに、専用スキルが必要になるのも分かる。
「そういえば、この辺には魔物の魔力反応がないけど。聖樹と関係あるの?」
街からユグドラシル方向にもう20分ぐらい歩いているけど、魔物が一匹もいないし、気配も感じられなかった。
「聖樹ユグドラシルには、魔物や邪な魔力を持つ者は近づけません。トランスヴァール周辺は元々、中級魔物程度しかいないのもありますが。
ただ、ハーディーンぐらいの魔力を持つものは別です。
前大戦時にはハーディーンは近づけた様ですので」
弱い魔物等は近づけなくて、ハーディーンぐらいの強い魔物は近づけるのか。
「わたくしからも質問いいですか? タクトさんが前世の時にいた異世界の事を教えて欲しいのですが。
わたくしは幼いときから絵本の世界とか冒険ファンタジーが好きで、クルーゼ達に冒険ごっこで遊んでもらったりしてました」
アルフィンからしたら、前の世界は異世界になるのか。
やっぱりアルフィンはお転婆姫だったんだな。
お転婆なアルフィンも可愛いが。
「そうだなぁ。前の世界はここと違って魔法は無い世界で、その代わりに、この世界より機械工学や軍事力も発達してたな。
そのせいで、戦争とかしょっちゅうやってた。色々と便利だし、俺も好きだっんだけど、ここの世界の方が皆平等にチャンスが与えられていて住みやすいかもね」
毎日事件とかばっかりだった。たまに良いニュースがあるぐらいで暗い事も多かった。
俺はこの世界に来たばかりだし、嫌な側面とかも見てないけど、トランスヴァールの城下町の人達は活気に溢れて生き生きしていた様に感じた。
「そうなのですね。魔法が無い世界は想像できませんが、この世界に無いものも一杯あるのでしょうから憧れてしまいます。わたくしも一度は見てみたいです」
「俺は既に向こうの世界では死んでるから難しいけど、もし、連れて行ってあげられるならアルフィンにも見せてあげたいかな。俺の家族や友人にも会わせてみたいし」
アルフィンは良い子だから、きっと皆気に入ってくれるだろう。
「えぇっ……ご家族にですか? ……それって……あの……そういう意味ですか? ……まだ早いといいますか……いえ…決して嫌とかではなくてですね? ……ゴニョゴニョ……」
アルフィンが、真っ赤な顔で俯いてゴニョゴニョ言ってる。
俺変な事言ったかな?
そんな話をしていたら、砦が見えてきた。
あれが、ユグドラシルを護る砦かな?
「おーい。アルフィンさんや。こっちに戻ってきて戻ってきて。
あれが、ユグドラシルの砦?」
「はっ! ……わたくしはいったい……。そうですあれがユグドラシルの砦になります」
「許可証はアルフィンが持ってるんだったよね? それじゃアルフィンに任せるかな」
「はい。お任せください。……あと、タクトさん。わたくしまだまだ話し足りないです。タクトさんの事をもっともっと知りたいですし、聞かせて欲しいです」
赤い顔で上目遣いで見てくる。
アルフィンさんや、その顔は反則ですよ。
美少女と上目遣いは、最強だ。
「分かったよ。今日歓迎会やってくれるみたいだから、そこでゆっくり話そうか?」
「はい! よろしくお願いします!」
うーんやっぱり可愛いなぁ。
俺もアルフィンの事を知りたい。
砦は、銀色の鉱石でできた、一枚一枚が10メートル以上の壁がずらっと聳え立ち、周辺を囲っていた。要塞に見えるが、巨大な紋章が施されている。
そして、ユグドラシル全体を囲う様に、超巨大な結界が5層にもわたり、張り巡らされていた。
更に衝撃なのが、ユグドラシル周辺をこれまた巨大な竜が飛び交っている。
あれは、魔物ではないな。もし魔物ならば、ユグドラシルに近づけないはず。
「あれは……魔物ではないよな? ユグドラシルの周りを飛んでいるのは」
アルフィンに聞いてみた。
「あそこを飛んでいるのは、竜王国の戦士達です。
古より、ユグドラシルの護りは、竜王国が担って来ました。
竜王国はここから、南東の島に国を築いていますが、民達は、強靭な肉体と精神をもつ為、邪神の影響を受けません。
少し厳格過ぎる所はありますが、正義に溢れる心を持つ勇敢な戦士たちです」
竜王国の戦士か。
竜とかファンタジーだなぁ。
いや異世界来てるからファンタジーなんだけどさ。
強そうだ。
ステータスオープン
ドラグ
竜王国戦士
レベル48
スキル ドラゴンブレス、瞑想、自然治癒能力
強い。
上級魔物以上の強さか。自力では俺も勝てないかも。
でも、彼等が護ってこれだけの結界もあるのなら、ユグドラシルは大丈夫だろう。
砦の入口には、全身銀色の鎧を着けた騎士が5人いた。
身に付けている鎧からは、魔力の波動を感じたので、魔力付与も施されていているのだろう。
「お勤めご苦労様です」
アルフィンが門番に近づき挨拶を交わす。
「これは、アルフィン王女。ようこそお越しくださいました。
許可証と念のため、こちらの真実の鏡の前へ立ってください」
許可証を見せて、アルフィンが鏡の前に立つ。鏡にアルフィン本人のステータスが表示される。
「確かに、アルフィン王女本人の確認が取れました。そこのあなたも鏡の前に立ってください」
続いて、俺も鏡の前へ立った。
俺のステータスも表示される。
それを確認した門番は。
「え? 魔王……の称号が」
称号を見て固まっていた。
ユーリ以降魔王の称号持ちはいなかったからな。
「こちらのタクトさんは魔王の称号をもっています。先程御父様にも、確認してもらいました。その事で、聖女リアンヌ様にお会いしたいのですが」
聖女とはここの管理者とかかな。
一応ご挨拶させてもらおう。
「了解しました。リアンヌ様に確認取ります。少しお待ちを」
門番の人が中に入り、確認してきてくれた。
「リアンヌ様からお会いしたいので、中に通すようにと。
聖女様は、奥の講堂にいらっしゃいます」
「ありがとうございます。それではタクトさん中に入りましょう」
門番の人が門の紋章を解除して、開閉してくれた。
アルフィンと二人中へ入った。
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