桜散る少女
桜が満開だけど、
同時に散っていて、
それはそれはキレイで、
その下を歩くのは、
すごく心が晴れた。
ある日の朝、
春の始まりに、
3月の末に、
暖かい空気に、
満開で散っていく桜の、
そこの下を歩いたとき、
踏みしめたものがあった。
それは、枝だった。
すぐに割れたので、
小さな小さな命だった。
やがてやがて桜が散る季節になった。
ピンクのワンピースの少女は、
白いカーディガンを着て、
それでもやっぱり桜の下を歩いていて、
枝をバキバキと踏みしめた。
もう、二度と来ない春を覚悟していた。
これが最後の春。
これが最期の春。
散っていく桜とともに
駆け抜けてく風とともに
これが最後の暖かさ。
夏はもう来ない。
冬ももう来ない。
もう暑さにも寒さにも苦しむことはない。
それだけが少女の希望。
それだけが少女の望み。
苦しむことも
哀しむことも
笑うことも
楽しいことも
すべて他人事になるために、
少女は枝を踏みしめた。
やがて全ての桜が散って、
季節は移り変わるとき、
少女の姿はもうなかった。
何もかも、
他人事になることを、
夢見ていた少女は、
もうこの世にはいなかった。
ただ、
それだけが少女の希望だったので、
誰も怒らなかったけれど、
ただただ周りは哀しんだ。
少女は、春風とともに消えた。
少女は、桜とともに散った。
儚い儚い夢物語。
折れた枝はもう直らない。
桜があった道の上には
折られた枝がたくさんあった
けれど、やがて消えていった。
土に還って
消えていった。




