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立ち上がれ!人々を飢餓と暴力から救え!
スッと息を吸った。これまで七億回以上繰り返してきた事だ。
だが、横隔膜の強張りが、脳への血流を阻害する。
未だ犯していないはずの失敗が、胸の奥から私を蝕んでいく。
「ふっ」
重ねられた唇の合間から、音が溢れる。
頭の中で暖かな流れが、じわーっと広がっていく。
あとは流れに身を任せるだけだ。
最前列の童子は、会場から生まれた空気の唸りを、身を乗り出して感じている。
その左後ろの貴婦人は、目を丸め、ハンカチを口にあてがい、驚嘆を漏らすまいとしている。
眼前には、巨躯の猛者。
元胸甲騎兵隊員、守本繁三郎。
その身体は※1六尺三寸、目方は※2三十貫を超えていた。
右手には軍の制式装備、五六式山刀。
左手には刺突剣二型。
一方の私は、右手に刺突剣一型、左手には麻縄を巻き、拳を握っていた。
屈強な相手に対して、貧相な小男。
誰がみてもこの仕合、私の劣勢は明らかだった。