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7話 腹が減っては何とやら


【7話】



「えっ……と……それはどういう意味ですか?」



『その言葉のまんまの意味だ。エルナの魔法に対する姿勢を聞いておきたい。それによって俺の教え方も変わってくるからな』

「うーん……」


 彼女は困ったような顔で悩んでいた。

 だが、しばらくして――。


「その質問の答えとは、ちょっと違ってきてしまうかもしれないんですが……」

『構わない、それでいい』


「魔法が使えなくても日常生活で困ることは無かったんですが……。こんな時に魔法が使えれば……っていう場面はどうしてもあったので……」

『なるほど』


 そこで見せた少し寂しげな表情が何を意味するのかは、彼女の過去を知らない俺には分からない。でも、魔法に対する気構えは把握出来た。


「宝石さんと違って、しっかりとした目的じゃないんですけど……」

『いや、今はそれでいいと思う。あとあれだ……俺は宝石さんじゃない。さっきも言ったがアクセルという名前がある』


「あ、すみませんでした。アクセルさん」

『呼び捨てでいいぞ』

「はい、アクセル」


 彼女は柔和な笑みを見せながら俺の名を呼んだ。

 少し、くすぐったい気がした。


『じゃ……じゃあ早速、この洞窟を出て修行を始めようか。まずは何から……』


「あ、あの……その前に……その……」


 先程まで笑顔だったエルナの表情が、急に沈鬱なものにすり替わる。


 どうしたというのだろうか?

 修行を始めるに際して何か不安があるとか?


 魔法に触れることも初めてな訳だから、それもそうか。

 となると、今の俺の役目は彼女の不安を取り除くことだろう。


『なあに、魔法は怖いものじゃないから安心しろ。それに最初は簡単なものから……』

「いえ……そうじゃないんです」

『ん? じゃあなんだ?』


 他にどんな理由があるのだろうか? それを考えようとした時だった。


 エルナの腹がグゥゥ……という可愛らしい音を立てたのだ。



「はうぅ!?」



 彼女は慌てたように片手で腹を押さえる。

 その頬は仄かなピンク色に染まっていた。


 なるほど……そういう事か。


『そういや何も食べてないって言ってたな』

「ううぅ……」


 道に迷って三日間、食事を取っていないという話をさっきしていた。


 さすがにそのまま魔法修行に入る訳にもいかないだろう。

 なら、まずは飯の調達だな。


『じゃあ先に腹を満たそう』

「えっ……ご、ごはんがあるんですか!」


 彼女の顔に僅かな生気が戻った気がした。


『自分で穫るのさ。この洞窟の周りはどんな環境なんだ?』

「ええーと……物凄く深い森が広がってます」


『そこに何か食えるような獲物はいそうか?』

「ここに来る間、鬼猪バーサークボアを見かけましたが……私の持っている弓矢ではとても太刀打ち出来るようなものじゃないので……」


 聞いたことない名前の動物だな。前世とは違い、この世界にはこの世界の動物が生息してるっぽい。


 その鬼猪バーサークボアとかいうのが、どういった動物なのかは分からないが、彼女の話に出てくるってことは食用にすることがある生き物ってことだ。なら、試しにそいつを狙ってみるか。


『なんとかなるだろ』

「えっ、まさか……鬼猪バーサークボアを?」


『まずいのか? 味的な意味じゃなくて』

「えっと……かなり凶暴な魔物・・なので、結構実力のある冒険者でないと、狩るのは難しいかと思います……」


『ちょっと待て……魔物だって? この世界には魔物がいるのか?』

「ええ……いますけど? アクセルのいた世界にはいなかったんですか?」


『まあ……な』


 俺のいた世界では、動物が魔力によって凶暴化した程度の魔獣と呼ばれるものは存在していたが、魔物は、もう何百年も前に魔王と共に駆逐されている。


 知識としては知っていても伝説に近いくらいの存在でしかなかったので、それが普通に闊歩していることに驚いた。


「理由は分からないですが、最近、魔物の動きも活発になってきているみたいですよ」

『ふむ……その魔物が存在しているとして……一つ素朴な疑問が』

「なんです?」


『魔物を食っても平気なのか? なんかヤバそうな感じがするけど……』

「大丈夫ですよ。普通、魔物の肉は魔素を含んでいるので臭みが強く、あまり好んで食べる人はいないんですけど、エルフはそんなお肉でも美味しくする方法を知ってるんです」


『え……』


 すると彼女は腰に付けている革のポーチから小瓶を取り出して見せた。

 中には緑色の粉が入っている。


「これはプントル草っていう香草を乾燥させて粉末にしたものですが、これを魔物のお肉によーく擦り込むと魔素が抜けて、そこそこ美味しくなるんです」


『そこそこ……』


「もちろん普通のお肉にかけたら、それはもう絶品です。しかもこのプントル草っていうのはエルフの嗅覚でないと探すことが困難な草で、森と共に生きているエルフだからこそ知り得る貴重な草なんですよ」


『はあ……』


 それを普段から持ち歩いている彼女は、相当な食いしん坊だということだけは理解した。

 ともあれ、今から何をすべきかが定まった。


『なるほど、じゃあ大丈夫だな』

「え?」

鬼猪バーサークボアを狩る話さ』


「……」


 彼女は唖然としていたが、俺は内心で含み笑う。



『魔法の練習にもなるだろ?』


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