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13話 楽しい闇の世界

【13話】



 正直、驚いた。

 こんな面白いものが存在していることに。

 早速、この魔力の正体を突き止めねば。

 まだ見ぬ魔法の世界、それを求めて転生した俺にとっては御馳走が降ってきたようなもんだからな。


 倒れている鬼猪バーサークボアを見ながら、早速こいつの中身を調べ上げようとワクワクしていると――、


 エルナも俺と同様にワクワクした表情を見せながら、鬼猪バーサークボアの体にナイフを突き立てようとしていた。


『ちょっと待ったぁぁぁっ!!』

「ふぇっ!? な、なんですか??」


 やっと食事にありつけると思っていた彼女は、急に止められたもんだから戸惑いを見せる。


『いや、すまないが……もう少しだけ待って欲しい。ちょっと調べたいことがあるんだ』

「それは構わないですけど……何をするんです?」

『そいつの中にある魔力を調べたいんだ』

「え……」


 エルナは一瞬、驚いた顔を見せた。


『俺のいた世界には魔物がいなかったからな。それで興味があるんだ。それに、こうしてる間にも死体から魔力が失われつつあるんで早いとこお願いしたい』

「お願いって……私は何をすればいいんです?」


『そんな難しいことじゃない。エルナはそのまま鬼猪バーサークボアの体に触れたままでいてくれ。ほら、俺がエルナの中の魔力を調べた時と同じ要領さ。ただ今回はエルナの体を介してるって所が少し違うが』

「えっ、なんで私の体なんです!?」


『じゃあ行ってくる』

「ちょっ、ちょっと待っ……!」


 時間が切迫しているので会話もそこそこに旅立った。


 意識体となった俺は、魔力の器を探り当てる。

(意識体と言っても雲のようなものでハッキリとした形は無いのだが)


 目を開けるとそこには手の平に載るくらいの球体の器があった。

 エルナのものと比較するのも烏滸がましいほど本当に小さなものだ。

 その器の中で、黒煙のような魔力が蠢いている。


 これが魔物の魔力か……。

 こんなの見たことが無い。


 例えるならばそれは――闇。

 闇元素と呼ぶに相応しい姿をしていた。


 その闇元素も魔力の器ごと消えようとしている。

 恐らく、完全に肉体が死滅するのだろう。


 これでは、じっくりと調べる時間も無い。

 だが、そうなることは分かっていたので、既に策は施してある。


 さて、ちょっとだけ持ち帰るか。

 サンプルが少しあるだけでいい。


 俺はドス黒い闇元素の一端を掴み取ると、鬼猪バーサークボアの肉体から離れる。

 あとは、この闇元素を解析する訳だが……そうは言っても簡単に出来るものではない。


 俺の持つ知識と魔力を使い、意識下で解析プログラムを走らせるのだが、完了するには数日かかる。

 それが未知の元素を含んだものとなると、数ヶ月はかかってもおかしくはない。


 なぜ、そんなに時間がかかるのか?


 魔法というものは複雑に組まれた回路のようなものだ。

 しかもその組み上げ方に正当は無く、十人十色。

 その成り立ちを理解する為には、これを全て分解し、広げることの出来るスペースが必要になってくる。


 その場所となるのが魔力の器だ。


 しかし緻密に組まれた魔法回路は圧縮されているので、これを一度に分解すると物凄い量になり、すぐにスペースが一杯になってしまう。

 だから、小出しに分解しては戻す、というのを繰り返して解析してゆくのだ。

 それ故に時間がかかる。


 だが、今の俺にはそんな面倒なことをしなくても済む最高の器を手にしている。

 それが先に考えていた策――エルナの体だ。


 彼女の魔力の器なら解析を行うに充分すぎるスペースがある。

 たとえそれが未知の魔法元素であっても満杯になるということはないだろう。

 なので俺は、彼女の体を借りて魔力解析を行うことにしたのだ。


 まあ、そもそも今の俺は魔力の器を有していないので、彼女の体を借りるより他は無いのだが。

 それでも魔力解析という芸当が出来る魔法使いは、世界広しと言えど俺くらいなもんだけどな。


 エルナの器に戻った意識体の俺は、早速採取してきた魔力の解析に入る。

 俺が魔力を弱めると、意識体の中から闇元素が放たれる。

 そいつは煙のように立ち上り、宙で小さな球体となって安定した。


 さて、どんな中身なのやら……。


 期待に胸躍らせながら、意識体で球体の一点を突く。

 途端、球体の表面に幾何学模様のような亀裂が走った。

 すぐさま、その亀裂を境に球体の表面が展開してゆく。


 そこに物理法則など存在しない。

 展開図が全方位に向かって無限とも思える数で広がり続けるだけだ。

 一瞬にして広大な器の中が黒に染まってゆく。


 だが、そう時間も経たない内に静寂が訪れる。

 どうやら、全て展開仕切ったらしい。


 もう、解析出来たのか。

 予想を遙かに超えた速さだ。


 さすが、この器は伊達じゃない。


 感心しながら、俺は展開されたものの一部に触れる。

 すると、魔力の構造が俺の中に流入し始める。


 それは俺達が扱う四大元素エーテルと異なり、案外簡素な魔力構造をしていた。

 力そのものと言った表現が近い。

 だが、それ故にたった一粒の粒子からも、かなりの力強さを感じる。


 この魔力の中に猪突猛進フューリアスカノンという魔法を発見したが、どちらかというとこれも魔法と言うよりは魔力そのものに近い感じがする。

 まあ、あの動物寄りの魔物が、複雑な魔法式を組めるとは思えないし、当然といえばそうなのだが。


 それはさておき、この猪突猛進フューリアスカノンという奴だが……。

 恐らく、エルナに向かって突進してきたアレのことだろう。

 力任せに突撃するだけの攻撃だが、どうやら魔力が使われているらしい。


 あんなものが魔法だと言われてもピンとこないなあ……。

 魔力そのものに近い魔法か……。


 ん……。

 ……んん??

 そうか!


 魔物が使う魔法は、複雑な魔法式で組み上げる俺達の魔法と違って、魔力そのものを放出しているような単純な魔法だ。

 だったら、まさに魔力の塊である俺に最適じゃないだろうか?


 解析結果を基にすれば、こんな姿の俺でも猪突猛進フューリアスカノンを再現することが出来るかもしれないぞ。


 だが問題は闇元素だ。


 その魔法は闇元素で形成されている。だが俺にはそいつを操る術が無い。

 というか、闇元素は魔物しか扱うことの出来ない代物だろう。

俺達人間やエルフ、その他の種族にとっても無縁の力だ。

 現に解析を終えた闇元素はエルナの中で安定を保てず、既に霞のように消え去っていた。


 しかしながら、既に闇元素そのものの構造は把握出来ている。

 だったら、その設計図を基に四大元素エーテルで代用出来ないだろうか?


 四大元素エーテルの力そのものを引き出すような魔力の構築。


 そんなことは未だかつてやったことはないが、挑戦してみる価値は大いにあると思う。

 闇元素の魔法構造は然程、複雑ではない。


 案外いけるかもな。

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