プロローグ 新天地を求めて
[プロローグ]
魔法はいい。
圧倒的なところがいい。
即座に行使できて、思うがままに操れるのがいい。
そこに一切の感情は存在せず、ただ無慈悲に対象を制圧する。
そこがいい。
万物を焼き尽くす紅蓮の炎。
神の息吹の如く全てを打ち崩す嵐。
恵みと破滅をもたらす深き蒼水。
大地を穿つ巨岩の流星。
それら森羅万象の理が自らの手の中にあるのがいい。
そして何よりも――、
格好良いのがいい。
魔法は誰にとっても平等だ。
どんな人間でも多かれ少なかれ、生まれながらに魔力の種を持っているし、
鍛えれば鍛えた分だけ魔力も大きく、強くなる。
それは絶対だ。
努力した者には必ず、相応の見返りがある。
やった事に対しては、同等の成果が出る。
魔法は決して自分を裏切らないのだ。
そんな魔法を敢えて避ける理由など何も無い。
寧ろ、大好きで堪らなかった。
だから、学んだ。
そして、極めた。
極めたら、いつの間にかこの世界で最強の魔法使い――、
〝大賢者〟と謳われるまでの存在に上り詰めていた。
しかし、人とは儚きものである。
魔法が誰にとっても平等であるように、寿命というものも人の身である限り、誰しにも同等に訪れる。
それは自分、アクセル・アルトマイアーに於いても同じだ。
魔力で命を限界まで繋いでも、いつかはその時が必ずやってくる。
そして己は今、その寿命を全うし、生命の営みを終えようとしていた。
普通に考えれば大往生である。
客観的に見ても、それは変わらないと思う。
大賢者と呼ばれるまでに上り詰めた男に最後に送られる言葉は、恐らく魔法に全てを捧げた人生に対する賞賛と敬意で締め括られるはずだからだ。
だが、他人が思うほど満足はしていない。
まだやり残したことがたくさんあるのだ。
魔法の真理に辿り着くには、それこそ洞窟の天井から滴り落ちる地下水が、気の遠くなるような長い年月をかけて鍾乳石を形成してゆくが如く、地道で弛まない努力が必要だ。
それには千年――いや、一万年あったって足りやしない。
そして何よりも、もっとこの身で魔法を感じていたいのだ。
我が人生は魔法と共にあった。
これからも魔法と共にありたい。
ただそれだけの純粋で単純な望み。
それが寿命というもので叶えられないのは悲しいことである。
だが、この運命を覆す、たった一つの方法が存在する。
それは――異世界転生だ。
これまでに培ってきた魔法知識と必要な魔力をそこへと注ぐ。
さすれば、この精神は若い肉体を持って新たに生まれ変わるだろう。
再び魔法と共に、私は蘇るのだ。
魔法は決して自分を裏切らない。
転生は、まさにその言葉を体現するに等しい行為。
やはり魔法は素晴らしい。
転生魔法は伝説レベルの最上位魔法。膨大な量の魔力を必要とする。
それこそ、世界に遍く漂う四大元素を余すこと無く凝縮させたくらいの力が必要だ。
だから、持てる全ての魔力で四大元素に干渉し、力を引き出し、転生魔法を発動させた。
さらば現世。
心の内でそう告げた時、意識は闇に包まれた。