恐怖のレベリング
俺はエントリー期間の終了と同時にレベリングを開始した。暫く自分のホーム周辺を探索していた時、ついに初モンスターを発見する事になる。
あれは……ゴブリンか?
ゲームなら雑魚だし……よし!
俺の能力が低いとは言え、流石に大丈夫だろ。地面に落ちていた木の棒を握り締めた俺は、ゴブリンの背後から力任せに棒を振るった!
ゴッ!!バキッ……
側頭部にヒットしたゴブリンは吸い込まれる様に地面へと倒れて行く。
木の棒は無惨にも粉砕したが、ゴブリンを倒したはずだ。
俺は手に残る感触と、初討伐を成し遂げた達成感で気が緩んでいた……
突然脇腹に走る激しい衝撃に視界が歪むと、次の瞬間目の前に地面が映る。
「ゲボッ!ぐ、ぐあぁぁ……!?」
涙で視界がボヤけ脇腹から全身に激しい痛みが走る。痛い痛い痛い!!
恐怖の中で見たのは、太い棍棒を振り切ったゴブリンだった……
「う、うあぁぁぁッ!!!」
気がつけば林の中を必死に駆けていた。今更考えが甘かったと後悔しつつも……
「ぐ……このままじゃ殺される、何とか逃げなければ……クソッ!」
俺は脇腹の痛みに耐えながら、太い大木に身を預けた。隠れながらも周囲を確認する、ゴブリンは俺への追跡を続けていた……
人間の子供ぐらいの小柄なゴブリンは、動きがかなり素早やかった、醜悪な表情はまるで鬼を連想してしまう。キョロキョロと周りを見渡す緑のそいつは、動きを止めゆっくりとこちらに振り返った。
「ギギッ!」
危険を感じた俺は、大木の影から直ぐに飛び出した。
「ヤバイヤバイッッ!殺される……はぁはぁ……!!」
必死に自分のホームへと向け、重い足を動かして行く。慣れない林は今の状況を更に悪化させていく。
ガッ!
不運にも生い茂る木々の根に足を取られてしまう。前のめりで地面へと転がった俺は、直ぐに立ち上がろうと上体を起こした。
「うっ!?……ぐ、足を挫いたか……」
右足首に体重がかかると痛みが走る。
は、は……これはかなりヤバイ状況だよな。目前には迫り来るゴブリンがいた。
ゴブリンは太い棍棒を振り上げると、躊躇する事なく俺の頭に向かって振り下ろした。
「がぁぁあっっ!!」
俺は声にならない声を上げ、死に物狂いで地面を転がり棍棒を躱した。
さっきまで俺がいた地面は、衝突音と共に地面を抉っていた……
脳裏に浮かぶ死の恐怖に、体が震えてしまう。
「クソッ!クソッ!死にたくないっ!」
俺は惨めに必死になって地面を這っていた。
死の恐怖が迫る中で、手探りで掴んだ10㎝程の折れた木の棒に俺は絶望を感じた……
「ギギッギ!」
そんな物でどうするんだ?お前は今から死ぬ。ゴブリンはそう言った様に思えた。
ゆっくりと棍棒を振り上げ、一歩、また一歩と迫る死へのカウントダウン。
「く、来るなぁっ……!!」
地面へとヘタりこんだ俺は、震える両手で折れた短い木の棒を握りしめる事しか出来なかった。
情けない。開始早々リタイアだなんて……
ステータスもクズだし、スキルも使えな……い……
歩みよるスピードを上げたゴブリンは、勝利を確信するかの様に走りながら奇声を上げた。
「ギギギィッ!!ギィッア!??」
俺まであと一歩の場所で、勢い良く前のめりに突然バランスを崩したゴブリンは、俺の体に覆い被さるようにそのまま倒れこんだ。
「ギッッァッ!?……ギィ……ッ……」
一瞬の悲鳴を上げ直ぐに全体重が俺にのしかかる……
手元に伝わる感触、重なり合う地面を赤黒く染める様にゴブリンの血液が地面へと広がって行く。
俺は動かぬゴブリンを振り払う様に、乱暴に押しのけると仰向けになった腹には、最後まで握りしめていた木の棒が根元まで刺さっていた。
「……ハァハァ……ざまあぁみろコノヤロォォッッ!!バナナをナメんなよぉっ!!」
そこには踏み潰された黄色いバナナの皮があった……
突然ゴブリンは光輝くと、光の粒子に分解されていく様に消えていく。
テッテレ〜♪
突然頭に響く日本の某有名番組、ドッキリ大成功の音響だ……
ドッキリ……大成功!!って、やかましわっ!!
とりあえず、ホームに戻らねば、このままじゃ本当に死にかねない。
俺は恐ろしく長く感じた雑魚モンスター、ゴブリンとの死闘を制し帰路につくのだった。
ズルッ……
がはっ……!?誰だこんな所にバナナの皮置いたやつ!?
ダイブしちゃったじゃねぇか!
まさにバナナダイブ……やかましわっ!
テッテレ〜♪
スキル
【バナナの皮】踏んだ者を転倒させる場合がある。使用者の知力により効果UP
設置後10分で効果消失
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