勝利の栄光を俺に!!③
武装ゴブリンは目を充血させながら怒りのあまり、ブルブルと体を震わせていた。め、めっちゃ怒っていらっしゃる……
「キサマラヲコロ……コロシテヤル!!カトウナムシゴトキガッ○%#△!!」
「あ……ごめん!何言ってるかわかんない……」
鬼の形相で俺達へと喚き散らしてくる姿は、め、めっちゃ怖い!コイツがアホで受諾してくれて良かった……
まだ勝てると決まった訳ではないが、純粋な戦闘ならば俺に勝目は無かったのだから。
一応この勝負は俺がかなり有利だ、武装ゴブリンと俺のスピードは同じぐらい……スタミナは明らかにヤツが上だが、そこはたいした問題ではない。
なぜなら、このダンジョンを設計したのは俺だからだ、1度ダンジョンコアの扉までチェックがてら歩いている。俺は脳内でダンジョンの設計図を思い出していた。
「さてと……不正はナシだ。単純明快に勝負と行こうか!」
あ、タイムは誰がチェックするんだ……
レアに頼めばいいのか?
「それじゃあスタートラインはここでいいかしら?早く2人ともここに来なさいよ!」
ちょっ、まてまてっ!まてぇ〜〜いっ!?
順番に走るんだよね?
攻撃されたらどうすんだよっ!なにサラッと不利になる事言ってんだ!コイツ一体どっちの味方なんだよ!
「ちょっと待て……走るのは順番にだっ!走ってる最中にヤツの腕かなんかに触れただけで、俺は死ぬ自信がある!」
「……チッ。ビビリヤロウガ……」
舌打ちしたよっ!絶対なんか良からぬ事考えてただろコイツ……
勝負が開始すれば、細かい設定まで決めていない状態はあまりにも危険だ。ヤツとの無駄な接触は回避しなければならない。
「……それもそうね。紙装甲の陽には確かに危険よね。弱い者の思考なんて考えもしなかったわ……ごめんなさい……」
がはッ。な、何故だ!?
何故俺がダメージを受けなければならないんだ……
「……おう」
「じゃあ、ダンジョンのストップウォッチ機能を使うわね!」
わおっ!何というファンタジー仕様……
因みに目覚ましもセット出来るらしいよ!って、やかましわっ!
使おっか、そう言う便利なものは最初から使おっか……サポーターとしてもう少し頑張ろっか?
「どっちから行くかは決めていいぜ?まあ、先に行って俺にプレッシャーを与えるのが基本だろうな。
馬鹿じゃなければ普通はそうするよな。あ、ごめん!
えと……サキニイキマスカ?オレノアトカライキマスカ?」
「キ、キサマァァ!!ドコマデオレサマヲブジョ○%#△□!!!
…………
……
ハァハァ……オレサマガサキニイク!!」
チョロいぜ……基本なんてモノは存在しないんだよ!
煽ったのはヤツを先に行かせる為だった。少しでも休んでスタミナを回復したかった、負ける可能性を僅かでも回避する為に。
《勝負を開始します。先行者はスタートラインに立って下さい》
ガシャガシャと音を立てて、スタートラインへと歩く武装ゴブリンを見て、陽は不敵な笑みを浮かべていた。
完璧だ……ヤツは怒りのあまり武装解除していない。知能の高い者ならば、不利に成り得る重そうな鎧は外すだろう。
これは勝てる……!マジで勝てるかもしれない!!
思わず俺は、心の中でガッツポーズを繰り返していた。
「ちょっと待ちなさいよっ……!そのガシャガシャする音ホント耳障りなのよ!
走ったらもっとうるさくなるでしょっ!?
陽もそう思うわよね?これだから脳が豆粒以下って言われちゃうのよ……ハァ……」
キ、キサ、キサマァァァア○%#△□!!?
テメェェの下着ひん剥いて縛り上げてやろうかアァッ!
ガシャンッ……ゴトッ!
それは地面に衝突し大きな音を立てた。
俺の目の前に転がる鉄の塊……
「フム……ダイブカルクナッタヨウダ。セイセイドウドウトハジメヨウカ……」
ニヤリと笑うヤツの表情は、すでに勝利を確信したような笑みだった。
自分の失言に気がついたレアの首は、ギギギッとブリキ人形の様に俺へとゆっくり……ゆっくりと振り向いたのだった。
陽の俯き悔しそうに下唇を噛みしめる姿に、自分の犯した失敗がどれ程の物だったのか、レアが理解するには充分だった……
「ご、ご、ごめんなさいっっ!!私なんて事をしっ」
「もういい!それよりもイメージしたいから少し静かにしてくれ……頼む……」
脳内にあるダンジョンの地図、曲がり角を全て思い返して行く。先に曲がり角を把握しておけば、重心移動がしやすい。コレだけでも有利になるだろう。
内容はただのタイムアタックだが、この勝負に負ければ俺の魂は消滅してしまうんだ……
《先行者のスタンバイを確認しました。3秒後にスタートして下さい》
《3……》
《2……》
《1……》
《スタート》
俺とゴブリンウォーリアの戦いが始まったのだった。