第7話「終わる夢物語」
朝8時、僕は目を覚ました。昨夜は魔理沙が一緒に寝てくれたおかげで、すごく気持ちよく眠りにつけた。だが今、僕の隣に魔理沙の姿はない。代わりにリビングの方から、魔理沙と聞いたことのない声の主が会話しているのが聞こえた。気になったので僕は急いでリビングに向かう。するとそこにいたのは……!
「っ……!あなたは……!博麗霊夢?!」
「あら?あなたが魔理沙の言ってたこの家の人?魔理沙の”彼氏役”だとかなんとか……。」
一体どういうことだ?!魔理沙の次は博麗霊夢?!またまた幻想郷から来たというのか?!つかこの驚き方、魔理沙が来た時と同じだ!と、とにかく……!
「レイマリ来ましたわぁ~。」
「な、なんか朝からテンション高いわね……。」
「な、どうしたんだか。」
「あなたは私のこと何故か知ってるみたいだけど、私はあなたのこと知らないから一応自己紹介するわね。私の名前は博麗霊夢。幻想郷から来たの。博麗神社で巫女をやってるのよ。」
「存じ上げております。」
「単刀直入に言うわ。今日あなたの家に来たのはほかでもない、魔理沙を幻想郷に連れて帰らせてもらうわ。」
「え……。」
そんな呆けた声が出てしまった。いや無理もない。今霊夢は何て言った?魔理沙を連れて帰る?いづれ来る未来だということはわかってはいたが、まさかこんな早くに来るとは。魔理沙の落ち着いた態度を見るに、魔理沙は僕より先にそのことを聞かされていたんだろう。
「魔理沙がいなくなったことで、今幻想郷大変なことになっているの。」
「た、大変なことって?」
「幻想郷が、崩壊し始めてるの…!」
「崩壊…!な、なんでまた…!」
「幻想郷に住む私達は、それぞれ幻想郷を構成する要素の一つなの。今回その要素の一つ、つまり魔理沙が欠けたことによって、幻想郷は原型を保つことができなくなっているの。」
「そんな…大惨事じゃないか…。」
「だからな翔兎、私もうここにはいられないんだ。幻想郷に帰らないと。」
「もし幻想郷が完全に消滅したら、どうなるの?」
「その時は…私達の存在も、完全に消滅する…。私達に関する記録、記憶、事象、もちろんあなたの中にある私達に関する記憶も全て、消えて無くなる…。」
魔理沙が帰っちゃうなんて、嫌だ。せっかく会えて、これからたくさん思い出を作るつもりだったのに。……でも、魔理沙がこの世から消えてしまうのは、もっと嫌だ。僕は、魔理沙の幸せを願いたい。……だから、僕が選ぶ選択肢は、一つしかないんだ……!
「幻想郷に帰るんだ……魔理沙……!」
「お前は……大丈夫なのか……?」
「僕の心配してる場合じゃないだろ?それに、僕はもう大丈夫だよ。魔理沙と沢山いい思い出を作れた……。……本当に幸せだったよ……。」
「そうか……。そういってもらえると嬉しいぜ……。」
「……どうやら答えは決まったようね。」
僕は魔理沙たちを見送るために、玄関に行った。……足取りは重い……。
「じゃあ翔兎、短い間だったけど、本当にありがとうな。」
「……あの、最後にお願いがあるんだけど、いいかな……?」
「ん?どうした?」
「あの、ね……その、”キス”してほしいんだけど……。」
「キ、キス!!!」
「や、やっぱりだめだよね!ごめん、忘れてくれ。」
「……いや、いいぜ?最後だし、な?」
魔理沙が顔を近づけてくる。そして僕たちは、キスを交わした。最初で最後のキスを……。魔理沙の唇の感触、熱が直に伝わってくる。あぁ、このまま時が止まればいいのにと、本気で思った。唇を離す、互いに頬を染める、床に一粒涙が落ちる、それは、魔理沙のか。
「……今まで本当にありがとうな!これでお別れだ!」
「あぁ、じゃあな、魔理沙。本当にありがとう。これからも元気で。」
泣きながらも、無理やり笑顔を作ってさよならを言ってくれる。その魔理沙の笑顔に、まだ帰ってほしくないと思ってしまう自分がいる。思わず口に出しそうになる。でもそれはギリギリのところでとどまってしまって、魔理沙に伝わることはなくて……。魔理沙が出ていく、扉が閉まる、そして静寂が訪れる。
魔理沙は、帰ってしまった……。