第6話「魔理沙が彼女な物語」
「僕、魔理沙さんのことが……好きです。」
「好きって、え?!わ、私のこと、なんで?」
魔理沙さんは突然告白されたことに驚き、僕に質問してきた。
「僕はずっと前から魔理沙さんのことが好きでした。魔理沙さんがここに来る前から。」
「私が、ここに来る前から?お前は私のことを知っていたのか?」
「いつもスマホの画像などで見てました。魔理沙さんは画面の中だけの存在だと思って。だから、魔理沙さんが僕の家に来たときはとても驚きました。魔理沙さんは、少し言動が男勝りだったりしますけど、本当はとても優しくて、とてもかわいらしい人です。それはいつも見ていた魔理沙さんと同じで、現実でも変わりませんでした。」
「そ、そんな風に、思っていてくれてたのか。」
「魔理沙さんはいづれ幻想郷に帰ってしまう、いつまでも一緒にいることはできない、そんな気がします。だから、付き合ってとは言いません。僕の気持ちさえ知ってもらえれば、それで満足です。」
……そんなはずない。本当は付き合いたい、辛い、苦しい。でもそれは出来ない、絶対に。
「嬉しい、本当にうれしいよ。でもごめんな、お前の言う通り付き合うことはできない。私はまたいづれ幻想郷に帰ってしまう。結局離れ離れになってしまうのに、付き合ってしまったら、その時にお互い辛くなるだけだ。」
「そう、そうだよな。……よし!この話は終わり!この話のことは忘れてくれ!僕はもう、満足だからさ。」
「おいおい、何言ってんだよ。忘れるわけないだろ?それに、私の話はまだ終わってないぜ?」
「え……?」
「私知ってるぜ?私のわがままを聞いてくれてること。私を楽しませようと頑張ってくれていたこと。」
出来るだけ気づかれないようにしたつもりが、こうもあっさりバレてしまうと少し恥ずかしい。
「だからお礼にさ!私が幻想郷に帰るまで、翔兎の彼女役をやってやる!」
「それって普通に彼女やるのと変わらなくないですか?」
「彼女と彼女役は違うんだよ!それにお礼がしたいからいいんだよ!あと、今から敬語は無しな。あくまでも彼氏彼女の設定なんだから。敬語使ってるカップルなんて見たことないだろ?」
「は、はぁ……。」
「よし、じゃあまだ時間あるし、遊園地でも行こうぜ?カップルって遊園地に行くのが当たり前なんだろ?」
「あ、当たり前かわからないし、第一プールも遊園地もなんて連続で言ったらお金が無くなっちゃうよ。」
「大丈夫だ!お金なら私が持ってる。こっそりバイトとして貯めたんだぜ!」
ご都合主義とはこのことを言うのか。
「よし!それじゃ行くぞ!二人で楽しい思い出、たくさん作ろうぜ!」
こうして僕たちはプールを出て、遊園地に向かった。そこでは、まるで本物のカップルのように、手をつないで歩いたり……。そのことが嬉しくてしょうがなかった。好きな人と手をつないで歩けているんだ、当たり前だ。でも同時に、少し辛かった。心が苦しかった。切なかった。その気持ちは、家に帰っても消えることはなかった。……少し女々しいか?
「はぁ~、告白してどうなってしまうかと思ったけど、今日は楽しかったな。」
遊園地で夜ご飯なども済ませて来たので、家に帰ればもう寝る時間だ。僕は一人ベッドに横になり、そんなことをつぶやいていた。すると”ガチャ”と、ドアが開く音が聞こえた。
「よう翔兎。今日は一緒に寝ようぜ?」
「ま、魔理沙!いきなりどうしたの?」
「ん?カップルって一緒に寝るものなんじゃないのか?」
「なんか魔理沙の知識って偏ってない?まぁいいけどさ。」
「よっしゃ!じゃあ入るぜ。」
「おう。」
……と平静を装ってみたものの、ちょっとこのシチュエーションはヤバい。まさか、魔理沙と一緒のベッドで寝れるなんて……!
「……なぁ翔兎、前両親がなくなったとか言ってたよな?」
「うん。前には言わなかったけど、その話、結構最近のことなんだ。だからあんま、立ち直れてない…。」
「……やっぱりな、だと思ったぜ。」
「え……?」
「お前急に元気なくなるの、両親のこと思い出してるんだろ?」
「そう……なのかな?」
「私がこうして一緒の寝ようと思ったのは、お前の心を癒すためでもあるんだぜ?」
「癒す?俺の心を?」
「せめてこうして私と寝てる時だけは、悲しい気持ちは忘れて、安心して幸せに寝て欲しいんだぜ。まぁ私にお前を安心させる力があるかどうか分からないけどな。」
「ありがとう、魔理沙。……本当に。」
この子は本当に心の底から優しい子だ。魔理沙は幻想郷に帰れなくて、悲しくないのか?幻想郷にいるであろう仲間に会えなくて寂しくないのか?いや悲しいはずだ、寂しいはずだ。それなのに、自分のことは棚に上げて、相手のことを思えるのは、本当に優しい子である証拠だ。そんなことを考えているうちに僕は、眠りについていた……。
「それにしても今日はいろんなことがあったな。」
私は眠りについた翔兎の顔を見ながら、ひとり静かにつぶやいた。ほんとに今日、いろいろなことがあった。まさか翔兎から告白されるなんて思ってもみなかった。
「私あの時本当にうれしかったんだぜ?翔兎との遊園地も楽しかったしな。」
今日あったことを振り返る。すると、一筋の涙が頬を伝ってきた。そして、何かを……言いそうになる。
「翔兎、私本当は、翔兎のこと……。……いや、何でもない。」
そうして涙を拭うと、一回、インターホンが鳴った。
「なんだ?こんな時間に。」
私は足早に玄関に向かい、そしてドアを開けるとそこにいたのは……。
「……!なんでここに……!霊夢っ!」