サンタじいさんの長い夜
以前、書いていた作品をベースに書き換えたお話です。よろしくおねがいします。
今日はクリスマス・イブ。
しんたろうジイは、さっきから「ああっ、どうしよう」と頭をかかえていました。毎年、サンタクロースになって、一緒にプレゼントを配っているしげぞうジイさんが、用事で参加できなくなったからです。
しげぞうジイさんのプレゼントもワシが配らなければならん。チアキにプレゼントを届ける時間に帰れないかもしれない……。
しんたろうジイはため息をつきました。
チアキはしんたろうジイの孫で今、幼稚園の年長組に通っています。
しんたろうジイは、孫のチアキが幼稚園に入園した年から、となり町で行われるサンタクロースのボランティア活動に参加していました。赤い服に着がえ、鼻とあごの下に白いひげをつけ、白いぼんぼりがついた赤い帽子をかぶってサンタクロースに変身し、町の子どもたちにプレゼントを届けてきました。
しんたろうジイはチアキが幼稚園へ入園した年のクリスマス・イブに、こんな約束をしました。
「チアキがベッドに入る9時から9時半の間に、『スーロクタンサ、ネ、テ、キ』とおまじないを2回唱えてごらん。寝ている間にサンタクロースが、プレゼントをベッドのまくらもとへ届けてくれるよ」
「わぁ、うれしい! ジイ、サンタクロースは何時ごろプレゼントを持ってきてくれるの?」
チアキは目を輝かせて、しんたろうジイに聞きました。
「チアキがぐっすり眠る10時ごろには、プレゼントを届けてくれるよ」
それからチアキは、クリスマス・イブになると、プレゼントを楽しみにおまじないを唱え、9時半にはベッドに入っていました。
「もう午後7時だ。今年は二人分、プレゼントを配らなければならん」
しんたろうジイは、となり町のサンタクロースのボランティア会場から、プレゼントがいっぱいつまった白いふくろを2つかつぎ、駐車場へ急ぎました。ドアにトナカイの絵が描かれた軽ワゴンに白いふくろを2つ積み込むと、すぐにプレゼントを配る町内へ車を走らせました。
「なんとかワシの分のプレゼントは配り終えた。だけど……」
しげぞうジイさんのプレゼントのふくろが残っています。プレゼントを配る場所は、ここから車で15分はかかります。しんたろうジイは、ポケットからスマートフォンを取りだし時間を見ました。午後8時50分です。
もうすぐチアキがおまじないを唱えてベッドに入るころだなぁ……。このままだと、プレゼントを届ける時間に間に合わないぞ。チアキがもし約束した10時に目を覚まして、まくらもとにプレゼントが置かれていなかったら、どれだけショックをうけるだろう。こまったなぁ……。
と、その時です。
コンコン。
運転席の窓をノックする音がし、
「しんたろうジイ、何をしているんじゃ」
運転席の窓の外に、ジイと同じかっこうをしたサンタじいさんが立っていました。ジイよりひとまわり大きく、お腹がぽっこりでています。しんたろうジイは、びっくりしました。
「あれっ。ボランティアでは見たことがない人だ。どうしてわしの名前を……?」
「そんなことは気にしなくてよい。それより早く残ったプレゼントを配らないと。チアキちゃんとの約束の時間に間に合わんじゃろう」
「そ、そうですが、このプレゼントは配るところが初めてで、道がよくわからないんです」
「何を言っておる。ワシがプレゼント配りを手伝ってやる。そうすればすぐに終わる」
サンタジイさんは、助手席の方へまわりこむと、ドアを開けて、しんたろうジイの軽ワゴンに乗りこんできました。
「あ、あのプレゼントを配る場所はお分かりですか?」
「そんなことは分かっておる。しんたろうジイはハンドルをにぎっていればよい。それっ、出発じゃ」
サンタジイさんは、左手をのばしてハンドルに触れました。
「ありゃ! 車が、車が勝手に走りだしたぁ!」
「車はプレゼントを配る家の近くに着いたら、自動で止まる」
軽ワゴンは、左へ右へ曲がりながら、どんどん道を走り抜けていきます。
そして、三階建ての家の前に止まりました。
「ここがプレゼントを配る最初の家じゃ。さ、配っておいで」
しんたろうジイは、しげぞうジイさんが配るプレゼントの入った白いふくろを持って軽ワゴンから降り、赤い服のポケットからプレゼントのエリア地図を出しました。
「おおっ、本当だ! プレゼントを配る一軒目の家だ。すごいなぁ」
しんたろうジイは、白いふくろからプレゼントを取り出して、その家の子どもに手渡しました。
「ほれ。次の家へ行こう」
二人のサンタじいさんは軽ワゴンに乗って、2軒、3軒……と、プレゼントを配っていきました。
とうとう最後のプレゼントを配り終えました。
「ひゃあ! 本当に早く終わったぞ」
しんたろうジイは、ポケットからスマートフォンを取り出して時間を見ました。午後9時15分です。
「このまま帰れば、チアキとの約束の時間に間に合うぞ! サンタじいさんのおかげだ」
しんたろうジイは、助手席に顔を向けました。
すると、さっきまで横に座っていたサンタじいさんがいなくなっていました。
あれっ? サンタじいさんは、どこへ行ったんだろう。お礼が言いたかったなぁ……。
しんたろうジイは、サンタクロースのかっこうをしたまま軽ワゴンを運転して家に急ぎました。
中に入り、時計を見ました。午後9時50分です。
「おじいちゃん。プレゼント配りごくろうさまでした。チアキはもう、二階で寝てるわよ」
お母さんが、しんたろうジイに伝えました。
「わかっておる」
しんたろうジイは自分の部屋にしまっていたチアキのプレゼントを持ち、音をたてないように階段を上りました。2階に着くとドアを開け、チアキの部屋に入りました。
「ネ、テ、キ、…スー、ロ 、ク、タ、ン、サ……」
チアキは、寝言でおまじないを唱えていました。その顔はニコッ、と笑っていました。
「おお、かわいい寝顔だ。メリークリスマス。チアキ」
しんたろうジイは、チアキが眠っているベッドのまくらもとにプレゼントを置きました。
すると、窓の外から、シャン、シャン、リン、リンと、音が聞こえました。
しんたろうジイは、ゆっくりとカーテンを開けました。窓の向こう側には、プレゼント配りを手伝ってくれたサンタジイさんが、トナカイのソリに乗ってしんたろうジイに手を振っていました。
「あっ! ほんもののサンタクロースだったんだ……」
ソリは空に向かって上がっていきました。