二人の結末
救急車の中で黒兎は救急隊員が晏奈に検査をしている姿を歯がゆい思いで見ているしかなかった。
ただ晏奈の手が暖かいということに黒兎は一つの安堵を感じていた。
それは晏奈に暖かい血が通っているということを確実に感じさせるからだ。
救急隊員の簡単な検査が終わると黒兎は晏奈の手を握り、晏奈を受け入れる病院に着くまでただただ意識の回復を願っていた。
救急隊員からやはり頭などに外傷はなく、脈はしっかりしていることから、心的な原因などの可能性があると黒兎は簡易的な説明を受けた。
病院についてからも黒兎にできることは担当医の先生に大まかな事情を説明すること、ただ精密検査の結果を待つことしかできなかった。
黒兎がフロントで待っていると脳もどこも異常なしという結果を看護師の人が、早朝のせいか一人ぽつんといる黒兎に伝えた。
病院の人たちはいつまでも連絡がつかない両親とずっと待ち続けている男子高校生を怪しげに思いながら晏奈を個室へ入院させた。
先ほどと同じ看護師が形式的に個室への入院が決まったことを黒兎に伝えると、黒兎は込み始めた病院内をふらりとしたまるで自身も患者であるかのような足取りで、晏奈の眠る病室へと向かった。
晏奈の病室に入るがそこにはもう他に誰もいなくなっており、黒兎は一人ただただ、そこにいる眠り姫の暖かく生を感じる手を指先を感じているしかなかった。
深月と風葉、こちらも人の目覚めを待っていた。
もっとも、こちらは眠り姫の目覚めを待つなんていうことはなく、拷問中の罪人の意識がとんでしまったがために何度も水をかけて無理やり意識を戻させると言った心持だ。
実際に水を掛けたりしてしまうと、その男の扱う眠り姫を目覚めさせる可能性がゼロではない程度の機械が使い物にならなくなってしまう可能性があったためそのようなことはしていない。が、両手両足を拘束した物理教師浅野の頬を細かくペチペチと刺激を加えて待っているのだから心持はそれに近いといえよう。
「深月ちゃんと加減した?」
浅野の頬をペチペチと叩いている本人風葉が浅野を眠らせた張本人である深月に言った。
「加減はしたつもりだ。二時間ほどは眠ってもらう程度のな」
「それじゃ、まだまだじゃない。たぶんまだ一時間も経ってないでしょ」
「まさかこのようなことになるとはな、数多の世界を旅した俺でも予想できなかったさ。もっとも、俺にとっては数年間途中まで見て放置されたドラマや小説の続きを見ているようなものだから、細かい記憶については勘弁してほしい。言い訳にしかならないが、こちらの事を忘れたつもりはなかったさ、いかんせんあちらの世界も刺激が強すぎた。すべてをすべて覚えていろというのなら、そいつは物語に対する感情を持ち合わせていないすべての出来事をただの事実という名の記号として覚えているようなやつになれと俺に言っているようなものだ」
「そう、悪かったわね。うちらにとってはほんの半日前からずっと続いているのよ。忘れろという方が難しいわ。いろんな世界を旅したって言ってたけど、あなたの気にいるようなオカルティックな世界はあったの?」
「この世界においてはオカルト的な事柄であっても別の世界でそれは日常であったりするからな」
「へぇ、例えば?」
「おや?興味がおありで?」
「呪いだとか、幽霊だとかは勘弁だけど、妖精とかユニコーンだとかなら興味あるかな」
「乙女らしい発想だな」
「悪かったわね。こんな暴力の塊みたいなのにそんな発想で」
「いやいや、面白いのはよきことだろう」
深月は手直にあった椅子を自分の分と風葉の分出して座るよう促した。
「さて、ではどの話をしようか。そうだな浅野教諭の目覚めるまでだからなあまりこの世界とはかけ離れたところを説明すると世界の説明に時間がかかってしまう。世界観についてはこの世界に近いものだと思ってくれ」
「ええ、わかったわ」
「それは、俺が何度目かに飛ばされた世界、どちらかというと明石嬢の家にいた時の俺よりも今の俺に近い頃だ。俺はある街に降りた。おそらく世界線としてはさほど離れていなかったのだろう、俺は山に建つ豪邸がある街にいた。まあ、その周辺の細かいことは別にいいから、山の上に豪邸、そうだな、和ではなく洋のお屋敷を思いうかべてくれればいい。そいつがあるということだけ前提にする。」
「世界線とかあまり難しいこと言われるとこっちで意味わかんなくなるから少なめにしてくれるとわかりやすいかな」
「了解した。では、話を続けよう。俺はふと、そのお屋敷に向かった。何でもその屋敷の主人は十六夜というではないか。十五夜として近しいものを感じたからな。もし、屋敷の主人の気前がよければ当面の宿、食事が確保できると思ったのもあったがな。その屋敷に行くとカレンダーを見たり、日時のような情報を聞いていなかったから詳しくはわからんが、狂い桜というべきか周りに一本も開花した桜がないにも関わらず、屋敷に一本だけそれは怪しい美しさの桜が咲いていた。それこそなにか別の物を糧にしているようなそんな怪しさだ。その光景に思わず足を向けてしまったらそこにいた少女に不法侵入だと言われて注意されてしまった。」
「え、なに、捕まったの?」
「いいや、捕まってはいない。その桜を褒めたら、少女は喜んでくれた様子で、敵対心のようなものはなくなっていたさ、その少女がその桜に手をかざしていたから、俺も同様に手をかざすと俺に何かが流れ込んできた。それは女の感情的なものなのか言葉、ビジョン的なものだったか、とにかくその女は俺を異邦人と見抜いたうえで、俺に残る世界の残滓というやつから俺をまた別の世界に飛ばしたというわけだ」
「ごめん、よくわからない」
「説明下手であったのならばすまない、あの時の事は夢のようなものだと思っているからな。これなら不思議程度だろ?だが、俺はあの桜が忘れられそうにないんだ」
「その桜見てみたいかも」
すると、気絶している浅野の方からクククと笑い声が聞こえてきた。
「十五夜君、何だいその話は、本当に、実に興味深いじゃないか。桜が話しかけてきた?その桜に空間転移された?ククク、実に面白いじゃないか。それに聞いていると、どうやら君はいくつかの世界をまわってこの世界に戻ってきたみたいじゃないか。どおりで、昨日と印象違うなぁと思ったわけだ。本当に君はおもしろいねぇ」
「おっと、俺はもっと長く眠らせる気でやったんですけどね」
「きっと、その技を会得したときに相手にした人たちと僕の脳のできが違ったんじゃないかな。できれば今すぐにでも君の話を事細かに聞いてまとめたいところなんだけど、明石さんと白崎君がいないのは、あれかな、意識が戻ったから二人でどうこう、というわけじゃないよね。だって、二人は僕を待つ必要がないんだから」
「話が早くて助かります。そうですね、最低でも二つほど聞きたいことがありましてあなたの意識が戻るのを待っていましたよ。」
「僕に聞きたいことねぇ、それってなんだい?明石さんの意識を回復させる方法なら始めにわからないと答えておくよ」
「それも一つでしたが、もう一つは明石嬢のご両親についてどこにいるのか?を聞きたいのですが」
「ああ、はいはい、あの人たちね。今はまだ海外かな」
「海外と、言いますと?」
「確かハワイだったかな、七泊八日の旅行をプレゼントしてあげたんだよ。そこで疑問になるのは明石さん、ええと紛らわしいね。晏奈さんだけど彼女はご両親の旅行中は僕が預かるということになったんだよ。ああ、そんなに不思議な顔するなんて、少し考えればわかるでしょ?その時は既に僕の言うことは何でも聞いてくれるようなものだったからね。僕になついていて後は、僕が信用に足る人物だと演じればいいだけさ」
「俺としてみれば、あなたも充分面白いではないですか」
「君にそう言ってもらえると嬉しいねぇ。そうだね、ついでに言うと晏奈さんのご両親には連絡が通じないようになっているよ?誰もどこに行ったかなんて知らないようにしたし、携帯電話は海外で使うと馬鹿みたいに料金が高くなるって説明したら、じゃあ、使わないみたいなこと言ってたし。」
「では、ご両親は無事ということですね?」
「もちろんさ。何も僕は殺人をしたいわけじゃない。僕はただ、純粋に、自分の研究に対して取り組んでいるだけだよ」
「うちらは死にかけましたけど」
「崇高なる実験のうえに犠牲はつきものさ。僕の実験が成功すれば、地球に馬鹿みたいに高い建物がなくなるよ。マンションだとかを亜空間に作った方がはるかに土地の有効活用ができるし、地球に土地が増えればそれだけ食料を増やせる、この国とは逆の世界の人口が増え続けるという問題の解決にもつながるんだよ。むしろ名誉ではないかい?」
「どの口でそんなこと言ってんのよ。あんた自分を馬鹿にしたやつを見返したいって言ってただけじゃない」
「水本さんはわかってないなぁ。それほどのことの礎を僕が築いたとなれば僕は間違いなく歴史に名を刻むだろ?それが、僕を見下したすべての人間に僕の方が優れているという証明になるじゃないか」
「それでも、人の命の上に成り立つなんて」
「言っただろ?多少の犠牲はつきものだって。第二次世界大戦を終わらせたものは何だい?大量破壊兵器とかそんな生ぬるいものじゃないだろ?歴史の転換点には必ず馬鹿みたいな大きな力が必要なんだよ。僕のこれだってただ飛ばしてやるだけなら、準備ができれば一瞬で街を更地にできるさ」
「さて、俺としては明石嬢の件がなければ即刻警察へ送りつけたいところだが」
「前にも言ったけど、君たちに僕を立証することはできないよ。この研究を世に出さない限りはね。ククク」
「仕方がない、明石嬢の意識が戻るまでは、資金の援助をしてもらおうか。そして、俺もその研究とやらをやろう」
「ちょっと、深月」
「なあに、外部から拘束するよりも内部から観察した方が止めやすいだけだ、何よりこの研究とやらは明石嬢を救うヒントになる可能性が非常に高い」
深月は風葉にだけ聞こえる声でそう言った。
「おお、十五夜君。僕の研究を手伝ってくれるというのか、裏とかみえみえだが、ぼかぁ嬉しいよ。まずは僕の拘束を解いてもらえないかな。君がいれば僕の研究も飛躍するだろうからね」
「そいつは買い被りですよ。俺などただの流浪人なのですから」
「う、うちも混ぜてもらうわ」
「ククク。水本さんまでとは。ぼかぁ好きなことできないと言っているようなものですが。まあ、いいでしょう。お二人はよほど明石さんを助けたいと見える。その気持ちがある限り僕の大きな邪魔にはならないでしょうしね。ククク」
「浅野教諭、下手なことをしたらわかっていますね」
「ええ、もちろん。お互い様ですとも」
「風葉よ、携帯を持っているのなら黒兎に連絡をとってくれ。その際俺たちがこの研究に参加することは伝えずに頼む。黒兎にとっては授業がなければ廊下をすれ違うことも嫌悪するだろうからな」
「ええ、わかったわ。じゃあこっちから言うのは、残念なことに浅野を問い詰めたけど晏奈を救う方法が見つからなかったってところかしら」
「ああ、それでいい」
風葉は物理室を一度でていき、黒兎に電話を掛けた。何度かコールをしても黒兎は電話に出なかった。
風葉は黒兎にメッセージをとばして物理室に戻った。
「白崎君の電話繋がらなかったから、メッセだけ飛ばしておいたわ」
「そちらの方がぼろがでずに済むだろう。ということで浅野教諭俺たちが飛ばされたところに明石嬢の残留思念を集める方向で設計頼みます。」
「ああ、任せてくれ。あの空間のあれやこれやも拾ってみせるよ。ククク」
深月と風葉は物理室を出て行った。
「ねえ、あいつ一人にしていいの?」
深月はトランシーバ―に画面を付けたような。まるでガラケーと呼ばれる折らない携帯のようなデザインの物を取り出した。
「こいつで監視をするから心配するな」
深月がそれを起動すると、物理室が映し出された。さらにつまみを回すと違う角度からも映し出され、およそ物理室に死角はない状態だ。
「ちょっと、これ犯罪じゃ」
「これは先ほど電話をかけてもらっている際に承諾させたことだ。何も問題あるまい?ただ、浅野教諭の目の前で取り付けたものと実際に仕掛けた数にちと誤差があるがな」
「あんた、いつの間にそんなの仕掛けてたのよ」
「隙あらばひょいっとな。敵を騙すにはまず見方から。出なければカメラを気にしてしまうだろ?」
「そうね、カメラで撮られてるってわかってたら、意識しちゃいそう」
「というわけだ」
実際深月が風葉に見せたものは浅野の目の前で取り付けたものだ。あえてこのことを言ったのはカメラがあると意識させるためであり、風葉の把握している数、位置は浅野の知っているものと同じだ。風葉がそれらを意識し始めたと浅野が気がつけば、より深月が先に仕掛けていた方のカメラに意識が向けられず、それだけ見つかりにくくなる。
敵を騙すにはまず見方から。深月は風葉にヒントだけを与えたつもりだった。
「あ、メッセ来た。やっぱり入院みたい。でもあの病院なら学校帰りにお見舞いに行けるね。ほら」
風葉はスマートフォンのメッセージ画面を深月に見せた。
「俺たちは研究とやらもやらねばならんから大変だぞ?特に風葉、確か部活もやっていただろ?そちらがおろそかになってはいけないだろ」
「ああ、そうそう。深月には空手部入って全国目指してもらうから。約束でしょ?」
「そんな約束をしたか?」
「ええ、したわ。晏奈の家のあの装置壊すときにうちが蹴りで倒した時に約束したはずよ。うちはばっちりと覚えてるわ」
「おっと、いばらの道は俺の方か」
晏奈の手を握ったまま黒兎はウトウトしていた。明石家から脱出の際は途中で起こされて眠気が興奮によりかき消されていた状態が今まで続いていたが、とうとう緊張を維持する集中力が切れてしまい、眠気が襲ってきていた。
ふと、ポケットの中でスマートフォンが震えた気がした。が、そんなこと今はいいかと、再びコックリコックリと舟を漕いでいると、さっきからずっとスマートフォンのバイブが作動していることに気がついた。
スマートフォンをポケットから取り出して画面をみると風葉からの電話だ。何かあったのかと電話に出ようとしたタイミングでコールが終わり、メッセージがとんできた。
メッセージによると晏奈は今のところあの機械を使ってもどうにもできないということだった。
黒兎は晏奈が入院すること、その病院と病室、担当医からの説明をメッセージで送り返した。
このままでは、晏奈の上で寝てしまうと、黒兎は眠気を覚まそうとコーヒーを買いに自動販売機までいった。だが、ポケットをまさぐって探しても財布はおろか小銭すら見当たらない。
「そっか、バッグの中か」
黒兎の財布はバッグの中に入れっぱなしだ。そして、それは救急車に乗る際置いてきてしまった。
コーヒーで眠気を飛ばすことのできないとわかった黒兎は晏奈のいる病室に戻り、椅子に座り再び晏奈の手を握り二人を待つことにした。
ほんの数時間前に死の危機に瀕していたからか、今の黒兎は特に生を感じていたかった。
すると再び安堵から黒兎に眠気がきた。
今度は何にも邪魔されず、晏奈の膝に黒兎の頭がのるような形で夢の世界へと誘われた。
世界がまどろみに溶けていく。
世界が輪郭を失い始めていく。
世界が月光に照らされていく。
世界が桜の花に包まれていく。
黒兎はこの感覚を知っていた。そう、それは晏奈の部屋で眠りについた時と同じ感覚だ。
再びあの世界へと自分は誘われたのだと黒兎は思った。
そこには誰もいなかった。ここはいったいどこなのか、自分の夢なのかそれとも今回も晏奈の夢の中なのかさえわからない。
「晏奈!」
黒兎は叫んだ。
「晏奈ぁ!」
力の限り
「晏奈ぁぁ!」
何度も
「晏奈ぁぁぁ!」
何度も黒兎は叫んだ。
しかし、いくら叫んでも一向に晏奈の姿が現れる気配がない。ここにはもう晏奈はいない。
黒兎はただ、自分のために夢という幻想を作りだしていたに過ぎなかった。
「くそっ、どうして、晏奈が、晏奈は何もしてないだろ。したのは全部あいつだ。なのに、どうして晏奈だけがこんなことになって、あいつには何もないんだよ。おかしいじゃないか」
夢の中にも関わらず黒兎の頬に冷たい液体が伝い始めた。
『男の子なんだから泣いちゃだめよ』
黒兎はそう言われた気がした。
確かに晏奈の声でそう言われた気がした。
まだ、晏奈はこの夢の世界にいる。いや、もしかしたらこの夢にいるのではなくて、この夢にとらわれているんじゃないのか黒兎は直感した。
流れる涙を腕にこすりつけ黒兎は再び叫び始めた。
「晏奈!いたら返事してくれ」
「どこにいるんだ?さっきの声は晏奈だろ?」
「このままじゃ、僕たちは本当の意味であの家から解放されたことにならなくなる」
『それは、だめ』
「晏奈、晏奈だよな」
『私、だめよ』
「どうしたんだ?何がだめなんだ?」
『やっぱり、みんなに合わせる顔がないよ』
「言っただろ。僕も、風葉も、それに深月だって晏奈がどうこうして僕たちがああなったと考えていないから」
『本当?』
「ああ、本当だとも。僕を信じてくれよ。それに・・・その、ほら、あれの返事できないしさ、こっちにおいでよ」
「あれって?」
「ほら、あれはあれだよ。あの桜の木の下で約束したことだよ。返事はこっちの世界で会ってからってやつ」
「そうだね。お返事聞かなきゃ。先にも後ろにも進めないね」
「だからさ、ほら」
黒兎は手を伸ばした。そこには何も見えないけど、確かに晏奈がいて、でも触れなくて、もどかしくて、切なくて、怖くて、触れたくて、会いたくて、そんな気持ちでごちゃごちゃな黒兎はそこにない何かを確かに掴んだ。
「もう、強引なんだから」
「そっちが隠れているからだろ?」
「私は隠れてなんかないよ。勝手に黒兎君が私を黒兎君のところに引っ張っただけ」
「じゃあ、ここは僕の夢?」
「だと思うけど」
「そうか、じゃあ帰ろうか。みんなの世界に」
「うん私を連れて行って」
黒兎は晏奈の手を握ったまま意識を集中させた。今度は反対に晏奈と最後に話をした桜のある丘の公園ではなくて。四人で笑っていた光景を思い浮かべながら。
世界が溶けていく。
世界が輪郭を失い始める。
世界が光りに包まれた。
黒兎は晏奈の膝に顔を押し付けたまま目が覚めると、頭に何かが乗っかっていることに気がついた。
「やっと会えたよ」
「やっとって、一週間も経ってないよ」
晏奈がクスリと笑った。
「えっと、なんていうのかな、お久しぶりですね?」
「それじゃあ、さっきとおんなじ」
二人とも顔に涙を我慢して歪んだ笑みがこぼれてきた。
「じゃあなんていうのかな?」
「私なら黒兎君にこう言うかな。お帰り」
晏奈が笑顔で黒兎にそう言った。
「そっか、じゃあ僕はただいま。そして晏奈こそお帰りかな」
「うん、そうだね」
二人は次第に泣きそうになっていたのを我慢できなくなっていき、ポロリホロリと涙が流れ始めた。
「明石晏奈さん、好きです。僕と付き合ってください」
「こちらこそ好きです」
二人は抱き合い涙を流した。