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三年越しの写真

作者: 鯣 肴
掲載日:2016/06/16

 低めの緑色のフェンスの上に止まるカラス。その嘴には青い針金ハンガーを咥えている。そんな、数年前に取ったスマホ写真。部屋の片付けをしていると出てきたのだ。


 日付を確認するとおよそ3年前のものだと分かった。当時のことが思い出される。


 3年前の夏の終わり。当時私は大学一年生で、親元離れて一人暮らしをしていた。






 5ヶ月も経てばある程度生活にも慣れてくる。この前は、お盆休みは実家への初帰省を果たし、そんな報告をしたなあ、そういえば。


 夏の昼下がり。そんなことを考えながら、私は暢気に自転車を漕いでいた。自炊のための食材の買出しの帰りだった。


 家への帰り道、私は線路沿いの道を通る。ある夏の昼間、私はそこでなんとも珍しいものを見たのだった。


 私はそのとき自転車に乗っていた。踏み切りを横切り、いつもの道、線路沿いの道に差し掛かった。すると、何かが光り、その光が反射して私の目に差しこんできた。


 私はバランスを崩しそうになったが、かろうじて持ちこたえ、自転車から降りた。その正体が気になった私は、自転車を引っ張りながらゆっくりと光の発生源に向かって接近することにしたのだ。


 光の発生源は、この線路沿いにある、私の背よりも低い程度の高さしかない緑のフェンスだろう。はじめはそう思っていたが、このフェンスから反射する光ではなさそうだ。


 つまり、光の発生源である向こうの方に、何かあるということだろう。フェンスの上の方に何か光るもの、例えば看板などを固定する針金のようなものでもくくりつけてあるのだろう。






 だが、私の予想は見事に外れた。光の発生源はハンガーだ。針金ハンガー。端っこがちょっと剥げており、金属部分が露出している。ここを反射した光が私の目に飛び込んできたのだろう。


 それだけでは終わらない。ハンガーはフェンスに引っ掛けられていたのではない。カラスが咥えているのだ。


 咥えているのはハンガーのフック部分である。その状態で線路沿いのフェンスに止まっているのだ。


 私とカラスの距離は5mもなかったが、カラスが逃げる様子は一切ない。


 ごくり。


 私は生唾を飲み込む。ゆっくりとそっと、引っ張ってきた自転車をその場に止め、そろりそろりと、距離を詰める。


 そして距離が2mを切ったところで私はスマートフォンを取り出し、その様子を収めた。順光だったのでピント調整などは一切しなかった。


 シャッ!


 夏でありまだ真っ昼間でこんなに日差しが強いというのに、修正無しで満足のいくものが一発で取れるとは思ってもみなかった。


 世にも珍しい、ハンガー咥えたカラスの写真。タイトルは見たまんま、【あおくろ】とした。青いハンガーを黒いカラスが咥えているという意味だ。


 で、家に帰ってネットの掲示板に上げてみると、そんなの珍しくもなんともないといわれ、検索をかけてみた。


 すると、カラスがハンガーを巣に運ぶために咥えている例が大量に出てきた。光物を集めるカラスの修正が発揮されただけだったようだ。


 私はがっくりとして溜息をついた。削除しようとスマホを操作する。だがやっぱりその様子は綺麗だったので消さずに残すことにしたのだ。






 今見ても十分綺麗だ。構図も優れているし、スマホ写真専用のコンクールに送ってみることにした。タイトルを【三年越しのあおくろ】として。さて、どうなるのか楽しみだ。


 私は部屋をあとにした。

スマートフォンで撮った写真限定の写真コンテストは実在します。

スマートフォン部門のある写真コンテストや、スマートフォンの写真でも可となったコンテストもあります。

もし興味があれば一度チャレンジしてみるのは如何でしょうか。


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