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命の章 ~ 授命 ~ 守るのは・・・LBの中の透久那

 成さん、秀さんの絵に穴が開いた。周りを飲み込んでいく。

 普通じゃない。怖いよ。


並んだモニターの前で、椅子に座り腕を組む成彦のスマホにメールが届いた。

切羽詰まった卯月のメールに、成彦は笑って済まされない何かを感じた。


時計を見ると11時を過ぎていた。

顔を上げると、事代はガラスに囲まれたLBを睨み付け立っている。

成彦はもう一度卯月のメールを読み返した。

絵に穴が開いて周りを飲み込む?絵が熱を帯びる、そんなことがあるのか?


そのときモニター画面が一斉に開いた。

振り返った事代が叫んだ。

「LBが反応した。透久那が目覚めたんだ」


インサイドは中止。


事代の喜びを否定した連絡が岩堤から入った。


成彦はサーバー室から出て、思兼に電話を入れた。


「思兼、インサイドは中止したんだな。上手くいったのか?透久那さんの意識が戻ったのか?今、LBが起動したぞ。」

「LBが起動?いや、透久那さんはそのままで意識はない。倉岡の方が限界だった」

「そんな・・・倉岡は大丈夫か?」

「今、手当をしている。熱が下がれば命に別状はない・・が、意識がすぐに戻るかは分からない。倉岡の脳は相当なダメージ受けたようだ。私はここに残り、ベンが付き添ってヘリで三重へ向かう。倉岡は岩堤さんに任せて、佐多はLBを頼む」

「了解。思兼・・・透久那さんが目覚めなければ、LBとのコンタクトはできないはずではなかったか?」

「そうだ。勝手にLBが起動はしないはずだ」

「外部からのハッキングの可能性は?」

「分からん・・・」

「LBの意思・・・ってことは・・・ないな」

「ない。ただ、インサイドを中止したあと30秒ほどだったが、透久那さんの脳波が異常な波形を示した。それがなんらかの影響をLBに与えたのかもしれない。状況を事代さんに伝えてくれ。大臣の了解は取ってある、とにかくLBを頼む」

「了解」


成彦がサーバー室に戻ると、複数のモニターにゲームらしきものが映し出されていた。

成彦は、モニターの前に笑みを浮かべて立っている事代の横に並んだ。

「事代さん、これは?いったいどういうことですか?」

「透久那が友達と作ったゲームです。LBが起動してゲームをしてます。透久那が目覚めたんですね」

「・・・」

返答のない成彦に、事代の顔から笑みが消えた。

「透久那は、透久那の意識は戻っていないのですか?」

「ええ、戻っていません」

「だがこうしてLBは起動している。透久那の指示がなければLBは動きません」

「分かっています。しかし透久那さんは目覚めていないのです」

事代はモニターを指さしたが、反論の言葉を飲み込み、目を伏せた。

「倉岡が限界でした。ヘリで病院に搬送しています」

「倉岡さんが・・・」

「事代さんも透久那さんのことがご心配でしょう。しかし、今はここを離れることはできません。申し訳ございませんが、私と残りLBの対応をしていただきたいのです。透久那さんの意思とは関係なくLBが起動しているのなら、今後どのようなことが起こるのか予測できません。是非とも助けていただきたい。ご協力をお願いします」

「透久那に何が起こったのでしょうか?ディープインサイド・・・あなた方は安全だとおっしゃたのに・・・」

「返す言葉がありません・・・インサイドプレー中に、倉岡の体温が42度を超しました。その時点では透久那さんの状態に変化はなく、私どもは倉岡の状況を診て、インサイドの中止を決定しました。倉岡は透久那さんから離れた途端に倒れこみ、そのときには意識を失っていました。倉岡を運び出すのに数分かかりました。その数分に透久那さんに何らかの変化が生じ、脳波に異常が現れました。ただ30秒ほどで波形は正常に戻ったそうです」

「義兄は・・・大臣は何と言っていましたか?」

「私どもの判断に委ねるとのことです」

「・・・失礼する」

事代は部屋を出ていった。

成彦は椅子に座り、流れていくモニターを見ていた。

2人の少年が砂漠を旅しながら、次々に現れる困難に立ち向かっている。

仮想の世界なのだが、2人の関係は何となく微笑ましく、温かく感じられた。

「秀・・・」

しばらくするとゲームが終了してモニター画面が暗くなり、ステージ1クリアーの文字が浮き上がった。

成彦は秀と過ごした少年の日々を、モニターの中で思い出していた。


どこからかカタカタとキーボードを叩く音が聞こえた。

はっと気づくと、モニター画面に文字が打ち出された。


 スクナガキエタラボクハイラナイ

 ダカラミンナモイラナイ

 タビガオワルトミンナキエル


目で追いながら、成彦は違和感を覚えた。

「・・・透久那さん・・・」

僕?とは・・・透久那さんではない。LB・・・これはLBの意思なのか?


ミンナキエルとは・・・

モニターの文字がフッと消えた。


同時にドアが開き、事代が戻ってきた。

「遅くなりました。LBの管理を受けている医師に連絡を入れ・・・」

事代は消えたモニターを呆然と見ている成彦の姿に眉をひそめた。

「何かありましたか?」

「・・・ゲームが終わって画面が消えました。あとは変わりありません」

「・・・そうですか?」

「子供たちは大丈夫ですか?LBは管理を続けているのですか?」

「今のところ全員変わりはないそうです。透久那がいる限り、LBが子供たちを見捨てることはない・・・」

事代はため息交じりに笑った。

「そうですね、透久那さんはそうされるでしょう・・・」

成彦はLBからと思われるメッセージを事代に告げなかった。

事代は腑に落ちない様子を垣間見せたが深く触れようとせず、成彦に失礼するとばかりに会釈して、1台のパソコンの前に座った。


事代はLBの管理下にある子供たちの情報を入力するのでは?

成彦はパスワードを読み取ろうと、事代の手元の見える位置に移動した。


すると、まるで成彦の行動を見透かしたように、ステージ2という文字がモニター画面に浮かび上がり、事代が開いていたモニター画面もゲーム画面に切り替わった。

事代はキーボードから手を離し、困惑した表情でゲームの表題を眺めていた。

「水の星・・・」


成彦はゆっくりと振り返った。

そこにLBは変わらず静かに存在していた。


LB・・・行動を読んでいるのか?いや、読むというよりは予測している・・・


成彦はモニター画面に視線を戻した。


水をテーマにしたゲームはステージ1と同様に、2人の少年が水に絡む様々な障害を乗り越えていく冒険のゲームが進んでいった。


ゲームを無言のまま見守る事代の目には、涙が滲んでいた。


「事代さん、この少年は透久那さんなのでしょう・・・」

「・・・そうです・・・これが透久那の叶わなかった夢。それをこんな形で叶えようとしていたなんて・・・哀れでしかない・・・」

「・・・」

成彦も視線をモニター画面に移して、2人の少年の動きを見ていた。

しばらくすると水の星を無事脱出した2人は、画面の中で勝利宣言のように繋いだ手を挙げた。


タビガオワルトミンナキエル


その中で片方の少年の唇が動いた。

そして成彦にはその口角がかすかに上がり、にやりと笑ったように見えた。


成彦は拳を握って声を上げるのを抑えた。

事代を見ると、ステージの終わりを告げて感情のない色になった画面を、感慨深げに眺めている。

事代はあの表情に気づかなかったのか?

「ステージ2が終わりましたね。透久那さんは嬉しそうでしたね・・・」

「佐多さんは面白いことをおっしゃる。透久那の思いはあっても透久那がそこにいるわけではない。単なるゲームですよ」

「そうですね・・・この中はLBの世界でしたね・・・」


成彦は卯月をふと思った。

やれやれ、俺まで幻を見るようになっちまった。

だが、あの表情はデフォルメされた2次元のものではなかった。

確かに俺に伝えてきた。


タビガオワルトミンナキエル


成彦はゆっくりと振り向き、意思を持つはずのない透久那の分身に語りかけた。


「承知しました。最後までお付き合いしましょう」


事代がブツブツと呟く成彦に驚いて寄ってきた。

「どうされた?」

「いえ、フッ、LBと話が出来たらと思いましてね、話しかけてみたところです」

「佐多さん・・・何を思ってのことかな?」

成彦のふざけた返答に、事代は不信感をあらわにした。

「これは、失礼しました。他意はありません。本当にLBと話が出来たらと思っただけです。このゲームはとても面白いので・・・LBと話ができれば、結末やステージの数を知ることができますから・・・事代さんはその辺りはご存じありませんか」

事代は腑に落ちないとばかりに成彦を睨みつけたが、その口調は穏やかになっていた。

「友だちとゲームを作っていると聞きはしましたが、詳しい内容は私も知りません。しかし透久那が作ったものです。きっと優しくて幸せな結末です」


成彦は事代の透久那への絶対的な信頼に、透久那が命をかけて守ってきたすべてを理解した。


そんな成彦に思兼から連絡が入った。

成彦は事代に会釈をしてサーバー室を出た。


「倉岡の意識が戻った。詳細を送る」

成彦はメールの画面に釘付けになった。


倉岡はヘリでの搬送中に目覚めた。

「ベン、思兼さんに連絡してくれ、インサイドの報告する」

「倉岡、無理はするな、あと20分ほどで到着する」

「いや、記憶がはっきりしているうちに伝えなければならない」

「承知」

インカムを倉岡につけると、ベンは倉岡の体を起こし支えた。


菌叢きんそうというものが宿主の種族、年齢、生活環境、食物で変動する。増殖のない感染は存在しない。遺伝子に組み込まれたレトロウイルスが、ある一定の基準に達する。トリガー的なバクテリアとの接触。進化の過程の中で姿を隠していた遺伝子の発動。遺伝子の変化が起こる、今がまさにそのとき、トリガーのバクテリアを持つ完成体の発現」

倉岡は一気に話し切り一息ついたが、休まずに続きを話し始めた。


「透久那さんはここ1年の記憶のみを残し、LBに覚えさせるために、意識下にある記憶をすべてバイナリーコードに書き換えていました。その解読は無理でした。今回、透久那さんの命の始まりにたどり着けませんでした。永遠なのです。記憶の底が見えず、まるで深海のような圧迫を感じました。深く暗い世界を永遠に彷徨うことになるのではと恐怖を覚えたとき、螺旋の光が下りてきました。手を伸ばして触れようとしたとき、意識が遠のきました。私は透久那さんの意識に取り込まれる寸前に、現実に引き戻されて助かったのかもしれません」


唯一読み取れたバイナリーコードを送ります

0011000001010101

0011000001011001

0011000001010001


思兼から倉岡の音声とともに2進法の数字の羅列が送られてきた。

「完成体、バイナリーコード、深海のような・・・」


深海のようなという言葉に、成彦は壁にかけてある秀の絵の深く暗い青に漂う己の姿を見た。

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