夢の途中
コシンスキー達が駆け付けた時にはマーベルは放心状態で、ジュウイチはエイトを抱きしめたまま動けないでいた。
ゲイツとアネッサは全身打撲だが、命には別状なかった。ラパンも意識不明の重傷だったが、なんとか命は取り留めた。
城内には、まだドーター達は残っていたはずだが、何時の間にか姿を消していた。
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エイトだけが長い昏睡を続け、ジュウイチは付きっきりで看病していた。
「結局リーザの目的は、何だったのかな?」
包帯塗れのゲイツが艦橋で呟く。
「本当に、自分の新世界の創造だったのかしら……?」
コーヒーを片手に、マーベルは遠い水平線を見詰めた。語尾は疑問譜が付いていた。
「好きだった男の生まれ変わりに、逢いたかっただけだ」
頭に包帯を巻いたアネッサが、小さな溜息を付いた。
「そんなんで、あれだけの事をするかねぇ。俺なんか――」
「これだからニブイ男は」
ゲイツの言葉を遮り、アネッサの呆れ声が被さる。
「何だ? お前に分かるって言うのか」
「分かるとも」
二人が顔を突き合わせ、鼻息を乱す。コシンスキーが苦笑いで仲裁に入る。
「リーザは出逢えたことで、満足したのよ……」
二人を無視して、マーベルは呟いた。
「それだけで満足するかねぇ?」
「多分……そうだと思う……だから、アタシ……今は……」
唖然と呟くゲイツの言葉に、アネッサは聞こえない様に囁いた。頭の中にラパンが言った事が蘇る。
二人のうち、どっちを助けるかの問いに答えた声が”ジュイチを助けるです”と何度も木霊し、結局は皆ジュウイチかと、誰にも聞こえない様に呟く。
「お前さ、諦めるのか?」
俯き加減のアネッサに、ゲイツが真剣な顔を向ける。
「なっ、何、をだよ?」
明らかな動揺、アネッサは言葉を詰まらせた。それまで黙ってたアルフがニヤリと笑う。
「らしくないぜ。俺達の姫は、諦めが悪いのが取り得のはずだがな」
「そうだよ、勝負はこれからさ」
背中を押したのはレイラで、振り向いたアネッサは顔を赤らめながら小さく頷いた。頭の中にはジュウイチの言った言葉が蘇る”アネッサに手を出すな!”思い出すだけで、アネッサは全身が震える程の恍惚感に包まれた。
「三博士も同じなのかな。エイトの事もジュウイチの事も気付いていた……でも、リーザに逢えて満足した。だから、ジュウイチが行くのに反対しなかった。むしろ、賛成してた」
穏やかにマーベルが話題を変える。
「分かんないなぁ、その辺が」
腕組みしたゲイツは大きく首を傾げた。
「だから、艦長は恋なんて出来ないんだよ」
「お前なぁ~」
首を傾げるゲイツに、アネッサが溜息混じりに突っ込む。
「それより、二つ報告があるの」
「何だ? もう大抵の事には驚かんぞ」
二人の様子に何故か目を伏せたマーベルに、ゲイツは胸騒ぎを感じながらも溜息混じりに言う。
「ラパンね、女の子だったのよ」
「何だと!」
アネッサが飛び上がる。
「どうりでジュウイチに懐くはずだ、お前、またライバルが増えたな」
ニヤケ顔で肩を突くゲイツ、アネッサは全身が真っ赤に染まりワナワナと震えた。
「もう一つは何だ?」
笑うゲイツがマーベルを見るが、その横顔に息を飲んだ。その瞳は深刻で、微かに震えていたから。
「ラパンの話だと……パトリキは三人いたそうよ」
「何だよそれ」
アネッサの中にも胸騒ぎが湧き出す。
「もしかしたら……私が撃ったのは……」
マーベルの言葉が全てに繋がり、その場を戦慄に陥れるが、アネッサは敢えて口に出した。
「可能性はあるな。だとしたら問題は?」
「リーザ本体が存在するなら……まだ終わってないって言う事だな」
腕組みしたゲイツの背中に悪寒が走る。
「そう、リーザの目的が本当に分かった訳じゃない――」
「それなら、また倒すだけだ」
不安げなマーベルの声を遮り、強い口調のアネッサが天井を見上げた。
「体制の立て直し、機材弾薬の補充、艦や人の修理……やる事は山ほどありますが、戦力は十分です」
襟を正し、コシンスキーが報告する。
「そうなるのかなぁ」
ゲイツは大きな溜息を付いた。
「博士達、本当に仕事してるのかしら?」
「さあな」
小声になるマーベルに、ゲイツの呆れた様な言葉が被さる。三博士は獣達を元に戻す研究には付いていたが、明らかに気力を失ってる様に見えた。
「恋の痛みには忘れるコトと、他に熱中するコトが特効薬だよ」
「ほう、働くマシンのアンタからそんな言葉が出るなんてな……ハウッ!!」
笑うレイラをアルフが茶化すが、強烈な肘鉄に悶絶した。
「手加減しろよレイラ……あ~あ、もう少し下だったら女になってたな」
床に転がるアルフを、嬉しそうなアネッサが介抱した。
「お前ら、暴れるなら甲板でしろよ」
のん気な声のゲイツが、頭を掻く。マーベルは皆のやり取りに微笑むと、体中の酸素を入れ替える様に、大きく深呼吸した。
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長い時間が経過した。朝日けがエイトの横顔を照らすと、蕾が開く様にエイトが瞳を開けた。
「おはよう……」
穏やかな顔のジュウイチが呟く。
「ここは……?」
エイトの中では、記憶が混沌としていた。
「アストレイアの医務室だよ。長い間、寝てたんだぜ」
「そう……皆は?」
「ラパンを残して、クリムゾン・ナイツは全滅した。他は何とか生きてるよ、残念だけどアネッサの奴は全身打撲だけだ」
「残念だけどって、何よ」
少しエイトは笑ったが、ラビー達の笑顔が脳裏で輝き、目尻から涙が零れた。その様子を、ジュウイチは黙って見続ける。
「後でエミリー、連れて来るよ。大変だったんだぜ、直ぐに会うって」
「そう……」
またエイトはゆっくりと目を閉じた。頭の中で、まだ整理は付いていない……何が現実で、何が夢なのか……。
ふいに、エイトが囁く。
「時間を、戻せるとしたら……どんな風に過ごす?」
「前にも似たような質問したね」
「少し、違うよ。時間を戻すと言う事はね、今までを経験してるって事なの。だから、今の記憶はちゃんとあるの」
「何だ、そう言う事。……そうだな、俺、バカだから、分かってても同じこと繰り返すだろうな」
「そうだね、ジュウイチは繰り返しそう」
「何が可笑しいんだよ」
エイトは頬笑みを零す、リーザの言葉が蘇る”私が、あなたを愛した様に、エイトも……”と。
「やっぱり必要よ。ね、ジュウイチには」
「何がだよ?」
「秘密」
シーツを被り、エイトは小さな声で囁いた。ジュウイチには何故か分かった気がした、目の前に居るエイトは……。
雰囲気はまるで恋人と迎えた朝、だがその蜜月の様な時間は怒号により現実に引き戻される。
「離れろっ! 何やってんだっ! バカっ!」
勿論怒声の主はアネッサである。




