表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海ゆく空のアルドーレ  作者: 真壁真菜
第一章 
18/48

強襲

「博士! 大変です! 港に獣の群れが!」


 突然ドアが開く。フードを被った小さな子供の手を引いた、母親らしい女が血相を変えて飛び込んできた。


「種類は!」


 反射的にエイトが叫ぶ。


「狼に、猿、それに熊も混じってるみたいです。凄い数なんです、鳥が運んでるのを見ました」


 母親は、子供のフードを外しながら咳き込む様に言った。フードの下は、大きな瞳で頬をリンゴみたいに染めた可愛い女の子だった。


「そんな……バカな、この島まで鳥が飛んで来るなんて不可能だ。マチルダ、陸から何キロ離れてると思う? しかも鳥が運んで来るなんて、見間違いじゃないのかね」


「でも、私は確かに見ました」


 ドーキンスはマチルダを揺すったが、はっきりと肯定した。


「アタチも見たよ。鳥さんが、お空から運んで来たの」


 その愛らしさにエイトは自然と笑顔になったが、マーベルは女の子を見ようともしなかった。


「そう、分かったわ。あなたのお名前は?」


 戸惑う表情を浮かべる女の子に、エイトは屈んで優しく頭を撫ぜる。緊迫の事態が迫っているはずなのに、エイトは何故か女の子柔らかそうな頬に、触れてみたいと思った。


「エミリー……」


「そう、エミリーちゃんか」


 小さな声で呟くエミリーに、また優しく微笑むエイト。胸の中で、今までの経験したこと無い感情が生まれるのが分かった。


「博士、私もメイルムの街で鳥が獣を運ぶ所を目撃しました」


 向き直ったエイトが、ドーキンスに真剣な眼差しを向けた。


「あの美しい港町、ですか……」


 遠くを見詰める様なドーキンスの目、エイトはその奥の悲しみが手に取る様に分かった。


「ええ」


「被害はどうでした?」


「幸い飛来したのが少数でしたので、最小限の被害で済みました」


「そうですか……ところで、港の状況は分かりますか?」


 大きな溜息を付いたドーキンスは、エイトの肩にある無線機を見る。


「はい、連絡してみます――オットー、港の状況を報告してっ」


 無線機を取り交信しようとするが、応答は雑音だけだった。


「あそこ!」


 窓からマーベルが指差す、そこには編隊を組む鳥の姿が確かに見えた。


「窓にバリケードを!」


 エイトの声に、本棚の本をドーキンスは躊躇なく床に投げる。


「博士! 貴重な本を――」


「命より大切なモノなんてありませんよ」


 唖然とするエイトに、ドーキンスは優しく笑った。その視線の先には小さく震えるエミリーがいた。


「そういう事よね」


 頷いたマーベルも床に本を投げ、マチルダも手伝ってなんとか窓を塞いだ。


「武器はありますか?」


 小銃を車に置いて来た事を、エイトは後悔した。手持ちの武器は、あの拳銃しかない。


「護身用にこれがあります。撃ったことはありませんが」


 エイトの問いに、ドーキンスは古いショットガンと小型のリボルバーを出した。


「大丈夫です。目標に向けて、引き金を引くだけですから。マーベルさんはコレをお願い、小さい方が撃ち易いから」


 リボルバーをマーベルに渡し、弾の排出と装填の仕方を教えた。両手で銃を構えたマーベルは、小さく震えている。その姿を見ながら、エイトが自分の拳銃を抜くとドーキンスの顔色が変わった。


「その拳銃はどうしました?」


「これですか? これは私の家に伝わるとしか聞いていません」


「そう、ですか……」


「これについて知ってるんですか?」


 今度はエイトが真剣な顔で聞く。


「いっ、いえ、何も」


「そうですか……でも、私の知り合いも同じ銃を持ってました」


「それは、どんな人ですか?」


 明らかに動揺したドーキンスに、違和感を感じながらもエイトは答えた。


「彼はパイロットです、この遠征に協力しています」


「彼……ですか」


 今度は明らかに落胆の色を隠せないドーキンス。しかし、今はそんな事に構ってる場合ではない。エイトはまた屈むと、マチルダの影に隠れるエミリーに笑った。


「大丈夫よ。私が守ってあげるから」


「私にも武器を下さい、この子はどんなことがあっても守りたいんです」


 マチルダは祈る様な顔でエイトを見る。


「あなたはエミリーちゃんを、抱き締めていてください。少しの我慢です、必ず私の部下が助けに来ますから」


 微笑むエイトに小さく頷くと、マチルダは強くエミリーを抱き締めた。


________________________



 突然警報が鳴り響く。


「助かった!」


「警報だぞ?」


 声を上げたジュウイチに、アネッサが首を傾げた。


「敵襲だっ! 狼に鳥に、熊まで団体さんだ!」


 飛び込んできたアルフが叫ぶ、転がっていたイワン達が飛び起きる。


「戦車は出せるか!」


「舟艇はスタンバイOKだっ! ジュウイチ! 機体はカタパルトに待機中だ!」


 アルフの叫びに、全員が持ち場に走った。


『どうせ止めても行くだろうけど、最初に言っておく。戦車隊は先に大型の熊さん二体の迎撃に当たってくれ、他の火力じゃ歯が立たない』


 ゲイツの通信に、オットーが即答する。


「了解したっ。直ぐに片づけて隊長のとこへ行く!」


「でもさ、隊長はどこだよ?」


 アクセル全開で急発進したイワンは、泣きそうな顔になる。


「そこの角、右。直進後、指示した角を左だ。その前にマルコ、三十七ミリ弾装填、十一時の熊公にお見舞いだ」


「了解!」


 落ち着いたオルガの指示、マルコ素早く装填すると同時に主砲は熊に向かって火を噴いた。


「知ってるなら先に言えよなっ!」


 爆音に負けないくらいにイワンは叫ぶと、更にアクセルを全開にした。


「何だ? クリムゾン・ナイツが一人、砲塔の上に座ってるよ」


 ハッチから顔を覗かせたマルコが、ポカンとした顔で呟いた。


「本当か! 聞いてみろよ」


「何を?」


 驚いたイワンが、レシーバー越しに叫んだ。


「だからぁ、何でそんなトコに居るかだよ」


 イワンの声に、素直にマルコは聞いた。


「あのぉ~何で、そんなトコに乗ってるんですか?」


(助けに行くです)


 頭の中に可愛らしい声が聞こえるが、マルコは気にもしないで普通に聞き返す。


「誰をですか?」


(エイトです)


「隊長を?」


(はいです)


「そうなんですか。オイラはマルコ、宜しくお願いします」


(こちらこそです。ワタシはラパンです)


「可愛い名前だね」


(ありがとうです、ジュイチに貰ったです)


「でも、一人で大丈夫なんですか?」


(はいです、ラパン強いです)


 ニッコリ笑ったラパンに、つられてマルコも笑顔になった。


「どうよ! 何だって?」


「一緒に行くって、隊長を助けに!」


 イワンの問いに、嬉しそうにマルコが答えた。


「さあ、後一匹! そら、二時の方向、約百っ!」


 オルガが叫ぶと同時に、マルコが電光石火で装填した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ