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海ゆく空のアルドーレ  作者: 真壁真菜
第一章 
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ナチュラルの島

 オーフェンは周囲を城壁に囲まれたナチュラルの島だった。その壁には無数の剣みたいなものが連なり、シードラゴン避けだと誰にも理解出来た。


 港の入り口ゲートは大型艦も簡単に通り抜けられる程に巨大で、その壁面にも無数の剣が光っていた。


「直ぐには閉まらないだろうな。その隙にトカゲの奴、入って来ないのかな」


「だから、ほら」


 機銃デッキでボーっと見ていたジュウイチに、アルフが指差した。ゲートの上では多くの人々が、海面に向かって銃を撃つ。まるで歓迎の花火みたいに、多くの硝煙が立ち上っていた。


「何だ? 凄い煙だな」


「多分、旧式の銃だ。追っ払うだけなら、薬莢式の弾はもったいないからな」


「そうだな」


 ジュウイチの中に、終末という言葉が湧き上がる。形あるものは崩れ、損耗する。森羅万象に訪れる穏やかなはずの終わりは、今、加速している……。


 多くの事例が、嫌でもそれを知らしめる。何も出来ないのかなと、頭の天辺の方がジュウイチの意思とは別にボンやり考えていた。


「なぁ、あそこの奴等、何か人相悪いなぁ?」


 銃を撃つ連中の中に周囲から浮いた男達が居て、ジュウイチの目に止まる。


「ああ、あいつ等、海賊だ」


平然とアルフが言う。


「何で普通にいるんだよ、まさかバイトに来てる訳じゃないんだろ」


「この島にとっちゃ、海賊は取引相手さ。海賊は食料や水を、島は武器弾薬や生活用品を必要としている、商売成立な訳だ。襲われるのはな、俺たちみたいな通りすがりの通行人だけさ」


 呆れた様に言うジュウイチに、また平然とアルフが言った。


「海賊だろ、こんな島なんて征服すれば終わりじゃん」


「アホか、今時そんなのは流行らないよ。知ってんだろ、昔、大陸から逃げて来た人々と島の戦い。ほうぼうの島で繰り広げられた最悪の生存競争をな、バカな人間だって学習するさ。それに戦いよりな、商売の方が両方にメリットがあるもんさ」


「まあ、そうだな」


 冗談のつもりだったが、改めて過去の愚かな戦いを思い出したジュウイチは、複雑な表情で島民に混じる海賊たちを見詰めた。


「あれ? あそこに居るのドクじゃない?」


 ジュウイチは大きな荷物を背負い、忙しそうに走り回るドクを見付けた。


「ジジィ、妙な発明の材料探しに懸命だな」


 大きな溜息でアルフが肩を落とし、同じ様にジュウイチも溜息を重ねた。


「どうりで島が近付くとソワソワしてたんだな……でも、なんか違うな」


 島自体の匂いや風、遠くに見える波打ち際の地面までが懐かしい? みたいな感覚をジュイチに感じさせた。


「自然の島だ……大陸だって、でっかい島だ」


 アルフの言葉は妙にジュイチを納得させた。人の住む場所……それは、やはり母なる大地なのだと。


________________


「こんなとこに、いやがった」


「何だ? その格好」


 急に現れたアネッサが、凄い剣幕で仁王立ちになる、飛行服の上からネコの刺繍が付いた薄いピンク色のエプロンをしている。


「これは、その……そんなこたぁ、どうでもいい。来い!」


 耳たぶまで赤くなると、強引にジュウイチを引っ張って行った。嬉しそうに笑う、アルフを残して。


「さあ、食え!」


 食堂のテーブルの上には、見た事も無い料理? がオゾマシイ湯気を立てていた。周囲にはイワン達が門絶の表情のまま転がっている。


 横目で見た調理場は、爆撃の後みたいに硝煙? を燻らせていた。


 嫌な予感、展開的には今度の犠牲者は自分だと、ジュウイチは冷や汗と共に生唾を飲んで呟く。


「……手下を、始末したのか?」


「何を言ってる? 味見させただけだ」


 赤い顔のアネッサが俯く。毒見の間違いだろとジュウイチは心で呟き、違う言葉を言う。


「しかし、何をどうしたら、こんなになるんだ?」


「そんなに、旨そうか……」


 俯いたアネッサは、顔を赤らめる。


「褒めてないぞ……」


 唖然と呟くジュウイチに、気を取り直したアネッサが目を吊り上げ迫った。


「早く食えよ」


「お前、目が怖いぞ……何で、俺なんだ?」


「あの忌々しい女に……あたしは女なんだ!」


 ジュウイチの疑問を思わせる様な言葉に、ワナワナと怒りを噛み締めるアネッサ。またエイトと揉めた事は明白だが、何で自分が巻き込まれねばならんと神を呪った。


「そんなら、エイトに食わせればいいだろ」

 

言った言葉に後悔した、アネッサは背筋も凍る微笑みを浮かべる。


「あの女を名前で呼ぶのか?……」


「何て呼べばいいんだよ、普通は名前を呼ぶだろうが」


 言い返した事を後悔した。その表情は最早、鬼神のそれだった。


「なんだ、珍しいな。アネッサが作ったのか?」


 ふいにやって来た横からレイラが料理を摘まんだ。息を飲むジュウイチ、地獄の光景が脳裏を掠める。


「うん、いい味だ。見てくれは悪いがな」


 ニコやかにレイラが微笑む。目が点になったジュウイチは脳内汎用打算機に、生存の文字を見付けた。震える手で料理に手を伸ばす、汗が全身から噴き出す。


 自分に言い聞かせる、レイラは無事だったじゃないか、生きてるじゃないかと。


 バタリと音がした、レイラが受け身も取らずに前向きに倒れていた。時限式か……ジュウイチは悟る。そして、流し台の奥に倒れてる主計班長のリンの足が痙攣してるのも見付けた。


 ”ミナゴロシにする気だ”心で呟くと全身から滝の様な汗が噴き出した。


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