とある朝の出来事ですが…
昔むかしあるところに、独りぼっちの王子様がいました。王子様はとても美しく、綺麗な長い髪を持っています。その髪を触った者は、呪われると言われており、皆近付こうとしません。お陰で王子様は独りぼっちになってしまいました。
「普通王子様って、みんなに好かれるものじゃないの?っていうかお姫様が出てこない」
そんなことをボヤきながら缶チュウハイを啜っている私は、高梨守28歳である。昨日彼氏にフラれ、愚痴りたいが友だちみんな家庭を持ってて忙しいのだ。誰だ晩婚化とか言った奴。私の周りは皆20代半ばで結婚している。「次は守だねー」なんて話してたのは一週間前のことである。まあ、彼氏のことはもういいのだ。辛い私は幸せが欲しい、幸せを感じたいと思って、テキトーに本屋で絵本を買ってきた。
「絶対これハッピーエンドじゃないでしょう」
そう思ってしまうのも頷ける程、王子様が可哀想な展開にしかならないのだ。家臣に遠ざけられ、町民には嫌な顔をされ、親である王様からも「お前は城の外に出るな」と言われてしまい絶望しかない。買う絵本間違えちゃったなとは思ったが、王子様が凄く美しい。どんなに美しくても不幸なことがあるんだなと思うと、世の中顔だけじゃないんだなって思った。
「もういいや、寝よう。そうしよう。」
とりあえず眠って明日に備えて寝よう。お酒に弱い私が缶チュウハイを3本飲んだだけ凄いんだ。そして眠い。
眠気に勝てず、絵本を枕元に置いて眠ってしまった。
ピピピピピッ
「んっ…もう7時か…お腹すいた…あ?え?」
目を開けると目の前に綺麗な長髪のお兄さんが眠っているではないか。誰これ?不法侵入者?え?うわ、イケメンだ…って違う!見ず知らずのイケメンさんが隣で眠ってる一旦落ち着こう。
「ふぁあ…騒がしいですよ?」
うわ!起きた!イケメンさんが起きた!
「全部声に出てますよ?大丈夫ですか?そしてここはどこですか?」
イケメンさんが喋った!落ち着け、落ち着け私。とりあえず会話だ、会話しなくちゃ。
「すみません。ここは私の寝室のベッドの上です。えっと、どちら様ですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「なっ!見ず知らずの女性の寝室にいるとは私はなんてふしだらな…」
私の話きいているのか?
「あの、どちら様ですか?」
「しっ失礼しました、私はハナル王国第一王子のシェルリットと申します。」
「私は高梨守です。…シェルリットさんって」
私はイケメンさんこと、シェルリットさんの名前を聞いて昨日読んだ絵本を思い出した。
「あっ!貴方は呪いの髪の毛の!」
私がそういった瞬間シェルリットさんはとてもびっくりしたような顔をした。
「やはりここは王国の中ですね。私は城に戻らなければなりません。宜しければ城までの道を教えていただけませんか?」
悲しそうな顔をしてシェルリットさんはそう私に告げました。
「非常に申し上げにくにのですが、ここは王国ではありません。なので、お城もありません。」
私がそう言うと彼は困惑の表情を見せながら、
「では、何故あなたは私のことを知っているのですか?」
そう聞かれると私はうっと詰まってしまう。絵本のこと伝えてもいいのかな。なんて言えばいいんだろう。でも、嘘は苦手だ。
「貴方はこの絵本の中の住人なんです」
私は絵本を見せながらそう伝えると、シェルリットさんは絵本を手に取り読み始めた。
「おわかりいただけましたか?」
私が尋ねてもよほどショックだったのか、返事が返ってきません。シェルリットさん大丈夫か?するとシェルリットさんはプルプル震えだした。
「やった!私はついにあの城から逃げ出すことができた!!」
シェルリットさん…なんで喜んでるんですか。私はジト目で彼を見ています。そんな私の視線に気付いたのかハッとしました。
「コホン…取り乱してしまってすまない。どうしても城の外の世界を見てみたかったのでつい…」
ついって言う割には結構取り乱してましたが。っていうか、外の世界っていうか次元超えちゃってるんですけど。この人分かってるのか?
「あの、この世界に来た心当たりとかあるんですか?」
「ない!でも外に出たかったのは事実だからいい!」
なんて楽観的な王子様なんだ。そして言葉遣いもちょっと変わったぞ。元の世界に戻れないかもしれないですよ?分かってるのか…。
「これからどうするのですか?シェルリットさん知り合いなんていないでしょう。」
シェルリットさんはしまったっという顔をしたが、まあしょうがないだろう。
「わかりました。暫くはここに居てもらって構いません。ですが…」
私の発言に「ですが?」と繰り返す。ちょっと可愛い。
「ここに住むならば、家事ぐらいしていただきますよ?」
ニコッと微笑むと、笑顔で
「任せてください。昔から自分の事は殆んど自分でしてきましたから」と聞いているこっちが本当に王子様なのか疑いたくなるくらいの幼少期の悲しい話をし始める。本人にはそんな気は無いのだろうが泣きたくなるからやめて欲しい。
「随分と髪の毛のせいで辛い思いをしてきたのですね。」
そういうと、シェルリットさんは涙を流し始めた。イケメンの涙はずるいぞ。
「この世界にはあなたの髪に対してどうこ言う人はいません。安心してくださいね。」
その言葉に対してシェルリットさんに「はい」と、とても素敵な笑顔で返された。
キュン
異世界の王子様に恋をしてしまった。
ここまで僅か10分である。惚れやすいのも考えものだけど、これからこの恋も前途多難だな。
「ところでマモリ、イケメンとはなんですか?」
…まずは、コミュニケーションから。