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Canvas  作者: 紫雨
番外編
7/9

イコール -equal-

※ほとんど亜希と陽一のお話です。


 それまでは決して少なくない頻度でやり取りしていたメールが、付き合い始めた次の日から、毎日来るようになった。

 それがなんだか義務のようで、今までの送ろうか送らまいか悩んだり、メール音が聞こえた時の胸の高鳴りだとか、そんなものは一切感じられなくて。

 毎日同じ時間帯に鳴る音に、憂鬱になってしまう自分がいた。

 あんなに楽しかったメールが、あの気持ちが、もう何処にも無くて、それが私にはとても恐ろしかったんだ。




「――あれから、あの子どう?」

「会ってないよ。もう来ないよ、きっと」


 少し前、私は元彼の陽一と再会し、そのあとに陽一の今の彼女が私を訪ね、話をした。

 ちょっと展開が激しくなる前に、高橋は駆けつけてくれた。

 “あの子”とは、その彼女のことだろう。

 あれから数週間が経ったが、高橋は未だに心配してくれている。

 


 もちろんあれから、彼女は私の前には現れない。どうしてるかなんて知らない、気にならないって言ったら嘘になるけれど、知る由など、私にはないのだから。




 陽一のことをひきずってるワケではない。もう一度やり直したいなんて思いは、これっぽっちもない。

 ―――じゃあこの気持ちは何なんだろう?


 あの時から、心を縛る鎖のようなものが、解けなくて苦しい。もう2年も経つのにね。




 *  *



 彼――陽一と再会してしまってから、彼との記憶を思い返した。

 楽しかった思い出がたくさんあったけど、それと同じくらい苦しかったこともたくさんあったんだって、改めて気付いた。

 思い出すのはいつも、何だかキラキラしてたようなあの時。


―――思い出は、美化されてばっかりだ。




 きっと、完全に繋がりが消えてしまうのが怖かったのかもしれない。

 彼のメモリは、未だに私の携帯に在る。



~♪


 静かな夜の部屋に、着信音が響いた。

 携帯のディスプレイに映し出された名前に驚いて、携帯を握ったまま数秒動きを止めてしまった。

 …いっぱい思い出したり、したからだろうか。


(――陽一…)

 鳴り続ける音に、一つ深呼吸をして、ゆっくりと通話ボタンを押した。

 逃げては、いけないと思ったから。


「……もし、もし…」

『突然悪ぃ、話したいことあって。…今大丈夫か?』

「うん。何?」

『この前、アイツ――美砂が、オマエんとこ行ったみたいで――悪かった。』

「ああ、そんなこと、全然いいのに」

『いや、失礼なこと、言っただろ。オレが変な風に、あいつに言っちゃったせいもあって』

「?」


 陽一の言葉の意図が読み取れなくて、黙ってしまった。それが向こうには通じたみたいで、彼は言葉を続ける。


『―――アイツに告られた時はまだ、オマエに未練みたいなの、あったから』

「……」

『忘れたくて付き合ったんだ、最初は。――でも今は、アイツのこと、ちゃんと大事。』

「――うん」

『オマエのことは、初恋だったし、やっぱ忘れらんねーと思う。だけど………オレも、幸せを願ってる。』



(幸せを、願ってる)

 それは、私の言った台詞。彼女はちゃんと彼に伝えてくれたんだということが、彼の言葉からわかった。



(――もう、大丈夫)



「ありがとう。私も、きっと忘れないよ」


 綺麗な思い出として、残すから


『おう、……じゃあな。』

「元気で、またいつか。」




(………ありがとう)

 電話が切れてから、涙が溢れた。

 悲しいとか切ないとかじゃなくて、ただうれしかった。

 彼も同じ気持ちでいてくれたことがうれしかった。



 忘れなくても、いいから。

 忘れようとして、考えていた。

 大切な記憶を、無理矢理消そうとするんじゃなくて、この気持ちを、世界に一つしかない気持ちを、残しておきたい。


(―――“幸せに、なれよ”)


 私はずっと彼の幸せを願っていた。たくさん傷つけてしまった私にできることは、これくらいだと思ったから。

 だけど、彼も思っていてくれてたんだ。私が傷つけた分、私も辛かった。


 ――全ては、イコールだから――




 君の幸せを願って、君も私の幸せを願ってくれてる。

 だから、私はもう、前に進めるんだ。



 悲しい過去、苦しかった思い出も、幸せだった日々とか、嬉しかったあの気持ち。総ては今の私を形どる、大切なカケラ。

 だから忘れたりなんかしないで、私が私を受け入れて、初めて私なのかもしれないね。






このエピソードが書きたくて、始めたお話でした。

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