04 # 占領されている
それを全部罪だと言うなら、受け止めるから。
「――おまたせ」
高橋君の優しい声と共に、ポンと頭に何かが乗った。
買ったプレゼントだろうか。
「……買えた?」
振り向かずに尋ねた。
私今、どんな顔してるんだろう。想像出来ないし、したくないけど、きっと見せられない顔だ。
「おう」
「よかったね」
「――――今の、元彼?」
――ドクン
心臓が大きくざわめいたのが、嫌でも分かった。
懸命に作った笑顔で、ひきつった苦笑いに近いものを、私は彼に向けた。
「………見てたの?」
* *
「――今でも…すきな訳じゃ、ないんだよ」
場所を公園に移し、ベンチに腰を下ろして静かに話し出す。
それまで私も彼も、何も言葉を発さなかった。
「…ただ、何かにつけて思い出したり、考えたり、胸を占めてる存在で―――」
さっき感じた感情に、名前があるのかも解らない。
ただ胸が、しめつけられた。
「時々、凄く苦しくなる――」
「……それって、すきってことじゃねぇの?」
「初めはそう思ったよ、でもきっと違う…」
私をすきだと言ってくれた。
こたえてあげられなくても、ただそう言われるだけで、自分の存在が肯定されているような気がして嬉しかったのは事実。
私はそれにひどく甘えていたんだと思う。
「…違うの…。」
こんな気持ちでは、駄目なんだ、と。
相手を傷つけるだけでしかない、最低な感情だ。
「――訳わかんね」
「…え?」
彼の声のトーンが、少し冷たいモノに変わった気がして驚いた。
それがなんだかとても怖くて、私は俯いたまま、顔を上げることができなかった。
「……俺には、よくわかんねぇよ」
「…………」
「……ゴメン、俺、帰るわ」
そう言って彼は、ベンチから立ち上がった。
その気配を感じ取って、私はぱっと顔を上げたが、彼の表情を見ることは出来ない。もう彼は歩き出していたから。
ただ彼を取り巻く空気が、いつもと違うことだけ、はっきりと解った。
(…怒った、かな。それとも呆れた…?)
私の声がギリギリ届く位の距離に彼が遠ざかった時に、私は声をかけた。
彼は振り返らずに、ただ立ち止まる。
「――私は、きっと誰とも付き合わない、付き合えないんだと思う。貴方がさっき言ったみたいに思ったのなら、尚更。だから――――ごめんなさい。」
「………」
彼はそのまま、何も言わなかった。何も言わずに、歩いて行った。
(――ごめんなさい)
こんな私を、少しでもすきだと言ってくれて。
だけどそれに、私は甘えたりしたら駄目なんだ。
明らかに私が悪い。だからこのまま、嫌ってくれれば―――いいと思った。
* *
「亜~希っ」
「由佳里、おはよー」
「今日弘巳の誕プレ買いに行きたいんだ~っ、付き合って☆」
「おっけー」
由佳里にそう誘われたのは、あれから5日後のことだった。
あの日から、彼とはもちろん一度も連絡はとっていない。
「うまくいってるみたいだね、階堂君と」
「ふふ、まあね♪」
高橋君と回ったお店の中で、由佳里は楽しそうにプレゼントを選んでいる。
もう顔は恋する女の子モード全開で、見てるこっちが微笑ましいくらい。
恋する女の子は可愛い”って言うけれど、もう由佳里はまさに、その典型例だ。
「コレ渡して、告ろっかなぁ…」
買い物をし終わった帰り道、プレゼントを幸せそうに抱えながら、由佳里は言った。
「いいんじゃない?私、二人は絶対両想いだと思うんだけど。」
「へへ、そっかなぁ」
「自信持ちなよ~」
照れている由佳里を横目に見ながら歩いていると、目の前に人影が見える。
(―――あれは……)
夕方なので薄暗い中、見覚えのあるあのシルエットは ―――陽一の、彼女。
だんだん距離が近付くにつれて、姿をはっきりと捕えることができた。
彼女は電柱の脇に立ち、静かにこっちを見ている。
「……誰?」
由佳里が耳打ちで尋ねる。
「―――陽一の今カノ」
「えっ?」
私の答えに、由佳里は驚いたようだ。
「――――あの、二人でお話がしたいんですが…良いですか」
彼女は一歩踏み出して、私の目を真っ直ぐ見て言った。
「…由佳里、ごめん先帰ってて」
「う、うん…」
由佳里は不安げに私を見てから、駆け足でこの場から離れた。
どうして、彼女が私に話があるのかなんて分からない、想像もできないけど、ただ真剣なことが、伝わって来たから断らなかった。
断れ、なかったんだと思う。