表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Canvas  作者: 紫雨
本編
4/9

04 # 占領されている


それを全部罪だと言うなら、受け止めるから。





「――おまたせ」


 高橋君の優しい声と共に、ポンと頭に何かが乗った。

 買ったプレゼントだろうか。


「……買えた?」


 振り向かずに尋ねた。

 私今、どんな顔してるんだろう。想像出来ないし、したくないけど、きっと見せられない顔だ。


「おう」

「よかったね」


「――――今の、元彼?」



 ――ドクン


 心臓が大きくざわめいたのが、嫌でも分かった。

 懸命に作った笑顔で、ひきつった苦笑いに近いものを、私は彼に向けた。




「………見てたの?」





   *   *




「――今でも…すきな訳じゃ、ないんだよ」


 場所を公園に移し、ベンチに腰を下ろして静かに話し出す。

 それまで私も彼も、何も言葉を発さなかった。


「…ただ、何かにつけて思い出したり、考えたり、胸を占めてる存在で―――」


 さっき感じた感情に、名前があるのかも解らない。

 ただ胸が、しめつけられた。


「時々、凄く苦しくなる――」

「……それって、すきってことじゃねぇの?」

「初めはそう思ったよ、でもきっと違う…」


 私をすきだと言ってくれた。

 こたえてあげられなくても、ただそう言われるだけで、自分の存在が肯定されているような気がして嬉しかったのは事実。

 私はそれにひどく甘えていたんだと思う。


「…違うの…。」


 こんな気持ちでは、駄目なんだ、と。

 相手を傷つけるだけでしかない、最低な感情だ。



「――訳わかんね」

「…え?」


 彼の声のトーンが、少し冷たいモノに変わった気がして驚いた。

 それがなんだかとても怖くて、私は俯いたまま、顔を上げることができなかった。


「……俺には、よくわかんねぇよ」

「…………」

「……ゴメン、俺、帰るわ」


 そう言って彼は、ベンチから立ち上がった。

 その気配を感じ取って、私はぱっと顔を上げたが、彼の表情を見ることは出来ない。もう彼は歩き出していたから。

 ただ彼を取り巻く空気が、いつもと違うことだけ、はっきりと解った。


(…怒った、かな。それとも呆れた…?)


 私の声がギリギリ届く位の距離に彼が遠ざかった時に、私は声をかけた。

 彼は振り返らずに、ただ立ち止まる。



「――私は、きっと誰とも付き合わない、付き合えないんだと思う。貴方がさっき言ったみたいに思ったのなら、尚更。だから――――ごめんなさい。」

「………」


 彼はそのまま、何も言わなかった。何も言わずに、歩いて行った。


(――ごめんなさい)


 こんな私を、少しでもすきだと言ってくれて。

 だけどそれに、私は甘えたりしたら駄目なんだ。

 明らかに私が悪い。だからこのまま、嫌ってくれれば―――いいと思った。




   *   *




「亜~希っ」

「由佳里、おはよー」

「今日弘巳の誕プレ買いに行きたいんだ~っ、付き合って☆」

「おっけー」


 由佳里にそう誘われたのは、あれから5日後のことだった。

 あの日から、彼とはもちろん一度も連絡はとっていない。


「うまくいってるみたいだね、階堂君と」

「ふふ、まあね♪」


 高橋君と回ったお店の中で、由佳里は楽しそうにプレゼントを選んでいる。

 もう顔は恋する女の子モード全開で、見てるこっちが微笑ましいくらい。

 恋する女の子は可愛い”って言うけれど、もう由佳里はまさに、その典型例だ。






「コレ渡して、告ろっかなぁ…」


 買い物をし終わった帰り道、プレゼントを幸せそうに抱えながら、由佳里は言った。


「いいんじゃない?私、二人は絶対両想いだと思うんだけど。」


「へへ、そっかなぁ」

「自信持ちなよ~」


 照れている由佳里を横目に見ながら歩いていると、目の前に人影が見える。



(―――あれは……)


 夕方なので薄暗い中、見覚えのあるあのシルエットは ―――陽一の、彼女。


 だんだん距離が近付くにつれて、姿をはっきりと捕えることができた。

 彼女は電柱の脇に立ち、静かにこっちを見ている。


「……誰?」


 由佳里が耳打ちで尋ねる。


「―――陽一の今カノ」

「えっ?」


 私の答えに、由佳里は驚いたようだ。


「――――あの、二人でお話がしたいんですが…良いですか」


 彼女は一歩踏み出して、私の目を真っ直ぐ見て言った。


「…由佳里、ごめん先帰ってて」

「う、うん…」


 由佳里は不安げに私を見てから、駆け足でこの場から離れた。

 どうして、彼女が私に話があるのかなんて分からない、想像もできないけど、ただ真剣なことが、伝わって来たから断らなかった。


 断れ、なかったんだと思う。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ