03 # 穏やかな日の、悪戯な再会
願うのはきっと、それだけだった。
《明日、放課後暇?》
ある夜、高橋君から届いたメール。
もちろんこのメールが初めてじゃないけれど、こうやって誘われたことはなかった。
「ねー、校門のトコに立ってる人!かっこよくない!?」
「ほんとだーっ!誰かの彼氏?」
第一発見者の発言からものの数十秒で、教室中は一気にざわめき出した。
そして窓際には人だかりが出来る。
出会いの少ない女子高校門前に立っている男子は………貴重らしい。
(みんな必死だなぁ)
私は興味がないので、自席でいそいそと帰り支度をする。
「――亜希、亜希っ!」
すると窓の人だかりの中に居た由佳里が、慌てた様子で私の元に駆け寄る。
「なに?」
「校門に居る人、高橋君じゃない?」
「…うそっ!?」
高橋、という名前を聞いて私は驚いて、急いで立ち上がり窓際に向かう。
「……………」
確かに、彼だ。
視力は良い方なので間違いない。
というか、この距離でカッコイイって騒いでた女子たちは、相当目が良いんじゃないかって思ったりもした。
「…亜希、待ち合わせ?もしやもう付き合っ…」
「違う!ちがう違うよっ!?」
どうしてこんなに慌てているのか。
どうしてこんなに顔が熱いのか。
どうして―――早く行かなきゃって、思うのか。
「――っばいばい!」
素早く鞄を掴んで、全速力で彼の居る校門まで走る。
「………っ高橋君!」
「あ、こんにちは」
「こんにちは…じゃなくって!」
危うく彼のペースに飲まれそうになるのをなんとか抑え、走ったために乱れた息を整え、深呼吸をした。
「……公園じゃ…なかったっけ、待ち合わせ…」
慌てまくってる私とは正反対に、微笑んでる彼を見てると、何だか自分が間違ってるような気がして自信がなくなると共に、私の声はフェードアウトしていく。
「驚かそうと思って。」
彼はいたずらに笑って言う。
それに魅せられて、私は何も言えなかった。
* *
「てかゴメンね、いきなり誘って」
「んーん、暇だったし、大丈夫だよ。」
きっと凄い注目の的だっただろう校門から離れ、歩きながら話す。
由佳里が以前言っていたように、高橋君はカッコイイのだと思う。
凄い美形って訳じゃないけれど、何だか人目を引く顔立ち、魅力?何だろう、引き付けられる何かがある。
「んで、どこ行くの?」
「うん、再来週、階堂の誕生日なんだよね」
「あれ、そうなんだ」
「で、誕プレ買うの付き合って欲しくて。」
「このパターン、多いね」
先日由佳里の誕生日プレゼントを買いに行った時のことを思い出して、少し笑みがこぼれた。あの時からは確実に、仲良くなったと思う。
少しそっぽを向いて、頭をかきながら彼は言う。
「実はサ、由佳里ちゃんが誕プレ選びやすいよーに、北村さんに好みを叩き込もうっていうのが、本来の目的。ちなみにコレ、階堂発案の計画ね。」
私は少し呆れて、苦笑いしながら言った。
「…よーやるわね」
「だよな」
(――あ、笑った)
この人が笑うと、空気が変わる気がする。
凄く温かい、笑顔。人を引き付ける魅力は、コレかな。
「もう由佳里が買ってたら、どーすんの?階堂君の好み外のモノとか」
「それは、どんまいだな」
「あはは、それ希望だな~」
あれから、階堂君と由佳里は付き合ってはいないけどいい雰囲気のようで。きっと時間の問題だと思う。
高橋君の案内で、男の子がよく行くようなお店を回る。
私が滅多に入らないお店とかもあって、中々新鮮だった。
最終的には駅前の輸入雑貨屋さんに入って、ウケ狙いの面白いモノを買うようだ。
「会計してくるから、外で待っててくれる?」
「はーい」
お店を少し出たところで、目の前を通る見覚えのある顔に思わず立ち止まる。
向こうも、こちらに気付いたようで、目が合った。
「…………陽一…」
それは2年前付き合っていた、陽一だった。
高校が別れてから、一度も会うことはなかった。
それでも、一瞬で分かってしまった。どこか変わったようで変わっていない彼を。
――喉元に込み上げて来る何かが苦しい。
「…陽一、誰?」
陽一の隣を歩いていた女の子が、彼に尋ねる。親しげに、腕を絡めて。
新しい彼女のようだ。
「久しぶり、元気?」
彼女が何かを感じとってしまわないようにと、私は出来るだけ明るい調子で声をかける。
「…おー、お前も、元気?」
「もちろん?そちらは、彼女さん?」
「おう。」
陽一の発した言葉に彼女は照れた様子で顔を俯けた。
(…可愛いな)
恥ずかしがる仕草に、女の子らしさが溢れてて可愛い。
きっと男の子にとって、こういう子が“守ってあげたくなる子”なのだろうか。
「陽一には勿体ないんじゃない?」
「うるせーほっとけ!…っと電車の時間。――じゃあな」
「ばいばーいっ」
携帯を開いて時間を確かめた彼に、ひらひらと手を振って遠ざかる背中を見送った。
胸が痛いのはきっと気のせい。
ただ私が傷つけてしまった分もどうか、
どうか幸せに――――。