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Canvas  作者: 紫雨
本編
2/9

02 # ひっかかっているもの


忘れたいと、思っているのに。





(…気まずい…)


 階堂君がそそくさと帰ってしまってからしばらく、二人の間には沈黙が続いた。

 彼、高橋君は、階堂君が消えて行った方向に、呆然としたまま視線を向けている。


(――――あ、)

 …綺麗な、横顔。

 昨日はそれどころじゃなくて、顔をまともに見る余裕なんて無かったから。

 すっと通った鼻に、すらりと高い身長。色素の薄い、少し長めの茶色い髪が陽に透けて、キラキラと光っていた。


「―――とりあえず、行こう?」


 このままだと、沈黙が朝まで続きそうな気がして、私は口を開いた。


「…え、いいの?」


 私の言葉に、彼は少し驚いた様子で、階堂のめちゃくちゃに…と呟きながら聞いてきた。


「由佳里のためだし。ついでに階堂君もね」


 可愛くない言い方をしてしまったと、後に少し後悔したけれど、彼が少し照れたように笑ったのを見て、私は安心した。



「お金、どのくらいまでいいの?」

「あー、あいつ金持ちだから、女の子へのプレゼントなら値段とかあんま気にしないかも」

「…お金持ちなの!?」


 私はびっくりして、少し声のボリュームを上げてしまった。


「み、見えない…」

「だろ?結構なおいえの坊ちゃんだよ。…びっくりだろ」


 そういう所のお坊ちゃんって、授業料の高級な私立の高校とかに通うものだと思っていた。

 高橋君や階堂君の学校は普通の公立高校だし、階堂君の外見から、失礼だけどお金持ちオーラは出ていなかった。


「でも今はアイツ、ボロアパートで一人暮らし。なんか金持ちってレッテルが嫌みたいで。実家とかまじ大豪邸なんだけどさ」

「そーなんだ…凄いね。じゃあ、ダイヤのネックレスとか、買ってっちゃう?」

「いーね、ソレ!でも、今日の俺らの全財産で、払える?」

「あ、そっかあ……」


 階堂君からお金を預かってる訳ではないので、値段はやっぱり限られて来るのだ。

 今日の私のお財布の中には、……お札、入ってたかな。

 最初のどこか重たかった雰囲気はどこへやら。私たちはそうやって笑いながら、街へと歩いて行った。





 隣を歩く高橋君の方を、チラリと盗み見た。

 少し見上げないと、彼の顔は見れない。


(―――あの人の身長は、もうちょっと低かったかな)

 そんな風に思ってしまった。結局、思い出してしまうんだ。

 ―――――終わらせたのは自分だっていうのに。




 『歩くの遅いなあ、おまえ』


 あの人の言葉が頭をよぎる。よみがえる記憶は、2年も前のことなのに鮮明でリアルだ。

 でも私、今自分のペースで歩いている。おいて行かれるようなこともない。


(……やっぱり、悪い人じゃないんだわ)


 おそらく、高橋君は私の速度に合わせて歩いてくれているのだろう。

 そう思えば思うほど、自分の昨日の言動についての後悔がますます募ってゆく。





「―――ゴメンね私、誤解してた」


 彼は振り向いて、なんのことだという表情をした。

 それを見て、私は続ける。


「高橋君も、人数合わせの参加だったのに、何か勝手に思い込んで、軽いとか、色々失礼なこと言っちゃって――……」

「ああ、いいよ全然。気にしないで。……実際、軽いことには変わらないことを言った訳だし」


 そう言って彼はやわらかく笑った。

 視線を軽く歩く先に移して、彼は言葉を繋げる。


「――俺、絶対そんなことしないと思ってたんだけど、あの時は…身体勝手に動いてた。」


 彼は私の一歩先を歩いて居て、表情は見えない。



「…キッカケは、軽い気持ちだったかもしれない。だけど」


 そう言って彼は立ち止まって、こちらに身体を向けた。

 ――視線が、かち合う。


「今日会って、ちゃんと話してみて、やっぱり間違ってなかったって思う。」

「………」


 何て言っていいのかわからない。何も、言えない。心臓がざわざわと騒いでうるさい。

 彼の気持ちは本当なのだと、嫌でも伝わって来たから。

 だからこそ、――――私は2年前のあの時、応えたことを今でも後悔している。




   三回目の告白だった。

   少しの同情と罪悪感、それだけで了承した。

   うまくいくはずなかった。

   私も苦しかったし、きっといっぱい傷付けた。

   想いがないのに、

   軽い気持ちで、甘えてはいけないんだ。




「―――だから、アド聞いていい?」

「………え?」


 しばらく黙ってしまっていた私に、彼は声をかける。


「…この前は焦り過ぎだ。まずは友達からなら―――どう?」


(………それなら)


「――――うん…」



 この人は、私の中に、土足でズカズカ入って来るような人じゃなくて、無理矢理引っ張って行こうとする訳じゃなくて。ただ温度のあるその手を、ゆっくり、差し出してくれているような、そんな人なのかもしれない。




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