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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 美紀美美
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もしかしたらストーカー?

アイスクリームショップで又あの人に会った。

 相澤隼さん。

一つ歳上の彼……

ん、もう彼なのかな?



私は小さい頃から隼が大好きだった。

だから今が嬉しい。

再会出来て最高にハッピーなんだ。





 フレンチトーストを頬張る隼は、小さい頃テレビで観ていた王子様そのままだった。


だから尚更嬉しいんだ。



あのカッテージチーズ入りグリーンサラダは、安くて美味しくて尚且つインパクトのある料理を検索してやっと巡り会えたレシピだった。



カッテージチーズって物凄く早く出来るんだ。

鍋に牛乳を入れて沸騰させない程度に温めてレモン汁を入れるの。

暫くすると分離するからから固形分だけキッチンペーパーに移す。

たったそれだけよ。



それを胡瓜やレタスなどで作ったサラダに混ぜてドレッシングを掛けたら出来上がるの。


カッテージチーズはキッチンペーパーの上で冷ましておけばすぐ使用可能だから楽チンなんだ。



フレンチトーストはボールで溶いた玉子に牛乳を半分位加えて浸してから焼くの。



硬いフランスパンで作るのが一般的だけど、時間があまりない時はソフトタイプ。

これで柔らかさは問題はないはずよ。





 牛乳一本あればフレンチトーストもカッテージチーズも出来るんだ。



ティータイム用に、レモンを絞る前に薄切りにしてラップで取り置きした。





 余ったソフトフランスパンでラスクも手作り。


薄切りしたパンにマーガリンを塗って、オーブントースターのトレーを外して直に並べるの。

その方が早く焼けるし、食感がいいのよ。


それを一分位直焼きした後で取り出して、砂糖を振り掛け又一分位直焼きするのよ。


私の場合、焼け具合を見ながら百数えた。

そうそう、砂糖が掛かったパンは目を離しては駄目なんだ。



下手すると真っ黒焦げになるから充分気を付けて……

だから隼から目を離さなければならない。

本当はそれが辛いわ。



でもそうすることで、最高のランチとオヤツのアフタヌーンティーが演出が出来たの。



私と王子様だけの秘密の時間が……





 隼は喜んでくれた。

何時もパンばかり食べている隼に美味しい料理を作ってあげたかった。

でも私は結局、そのパンを食材に選んでいたのだ。



一応幾通りかのレシピを考えたのよ。

でも家に殆んど置いてきてしまったの。



一瞬焦ったわ。

頭がボーッとして何もかもが飛んでいた。


それでも何とかバッグの中かは探し出したのよ。



それは……

もし好きな人に出逢えた時に困らないようと、恋人も居ない時からシミュレーションしたフレンチトーストのレシピだったの。



まさに地獄に仏。

だから全部頭から消えていたの。



『スーパーに入る前までは違う料理しようとしていたのに、気付いたら……』


そう気付いたら、レシピがなかったんだ。

だから、以前にシミュレーションしたフレンチトーストになってしまったのだ。





 でも隼は美味しそうに頬張ってくれた。

その優しさが嬉しい。



ラスクを作った私を、魔法使いみたいだと言ってくれた。



私魔法使いになりたい。


隼に恋の魔法使いを掛けてみたい。



大好きな君だから。

本物の恋人同士になりたいの。





 隣のスーパーの店頭でアイスクリームを食べながら、マンションの隼の部屋を見上げた。



窓にあの遮光性のカーテンが見えた。



あのカーテンは裾が粗く縫ってあっただけだったから、直してやりたかった。



でも隼にとってはとても大切な思い出の品物らしい。



(――ねえ隼。その思い出私も知りたいな)


私はその窓の向こうに隼のいることを想像しながら、あの日以来のアイスクリームを堪能していた。





 ふと、私を見つめる目が気になった。



(――あっ、この前も確か此処で……


――私だったの?)



隼と保育園で再会したあの日。


お喋りをしていたら、じっと私を見ている目が気になった。



(――私なのかな?


――それとも隼?


――ねえ、どっちを見ているの?)


そう思いつつも、怖いと言うより親しさを感じていた私だった。



(――きっと隼のファンなんだ


――私と同じように熱狂的な……)


そう思ったからだ。



(――気にしない、気にしない。


――そんなことよりアイスクリームを楽しもう)


私は開き直っていた。





 スーパーに入り、まず持ち帰り用のアイスケースを開ける。

中にある氷を一つ手に取り、項にあるホットスポットに押し当てて数秒間おく。



たったこれだけで、普通に歩く時より体脂肪が落ちやすくなるんだって。


ホットスポットは、シャワーでも温まり効果も大なのだそうだ。



やり方は至って簡単。

シャワーのヘッドを固定して項に熱目のお湯を掛けるだけなのだ。



(――さあ、今度は家族のために腕を振るうか?)


でもそれは建て前。

本音は……


私は隼が美味しそうに食べてくれたことに気を良くして、次なるシミュレーションを家族の胃袋で試そうと張り切っていただけなのだ。



項が冷えたことを確認してから、スーパー内移動中ダイエットの幕が切って落とされた。





 出来ればスーパーはアチコチ変えた方が良いんだって。

脳が活性化するらしい。

私にはまだ早いけど、ボケ予防になるって死んだママが昔良く言っていた。



でも結局、面倒臭くて同じスーパーになってしまっていたのだった。





 私の後ろを付けてきた人がいた。スーパーの店頭にあるアイスクリームショップで、私を見ていた人だと思う。


イヤな印象のない、寧ろ好感度の男性。

のはずだった……



でも少しずつ恐怖に変わっていく。



(――私と同じように相澤隼さんのファンに違いない。


――きっと隼のことを詳しく聞きたいんだ)


それでも私はそう思うことにした。





 「あの、私に何か用ですか?」


太鼓橋を渡る手前で、私は遂に振り返った。



「いや、君じゃないんだ……」



「やっぱり。もしかしたら隼のこと聞きたいの?」


私はその時、少し嬉しくなっていた。

隼の魅力を誰かと語りたかったんだ。



「隼? やっぱり彼、相澤隼さんだったんだ」



「だとしたら?」


隼の名前を出してしまったことに少し焦っていた。

もし週刊誌や何処かの記者だったらヤバいと思っていたからだ。


でも心うらはら、私は敢えて強気に出ていた。



「いや……ただ、相澤さんの彼女のことが心配で」



「彼女って、隼に恋人が居たの?」


ショックだった。

本当は私、隼の初めての彼女になりたかったんだ。



「良く二人でバイクで出掛けていたよ。あの日だって……」



「あの日?」



「相澤さんがマンションの何処に住んでいるかなんて知らないからあのアイスクリームショップの前で待っていたんだ」



「それ、ストーカーしたってこと? 立派な犯罪ですよ。あっ……」

私は思い出していた。

私と同じゆうかさんのことを……



「もしかしたら……結夏さん?」



「えっ、彼女ゆうかさんって言うんだ」



「結夏さんなら亡くなりました。確かストーカーに乱暴されって聞きましたが……アナタだったのですか?」



「えっ!? 亡くなったのですか? いや、それは俺じゃない。本当に俺は何もしていない。ただ彼女を守ってやろうとしただけなんだ」



「守るって?」



「彼女の後を付けていた人がいたんだ。だから彼女急いで此処を渡ったんだ」


そう言いながら結夏さんのストーカーは太鼓橋を渡り始めた。





 「此処から彼女は落ちたのか?」


それは太鼓橋を渡りきった場所にある、ちょっとした隙間だった。



「彼女の姿がいきなり消えて……怖くなった俺は逃げ出していたんだ」



「つまり、犯人は、アナタじゃないんですね?」

私は草に覆われた犯行現場を呆然と見つめていた。





 「本当に俺は何もしていない。ただ彼女を守ってやろうとしただけなんだよ。でも肝心な時に逃げ出した最低なヤツなんだ。だから彼女のことが心配で……」



「此処から彼女が落とされた時、その男性の顔を見たのですか?」


私は結夏さんのストーカーを問い詰めていた。





 私は保育園で園長先生に結夏さんが太鼓橋の隙間から落とされたことを報告した。


園長先生は、教え子だった結夏さんの事件を痛ましく思っていたのだ。





 「結夏さんには好きな人がいて、その人の子供を妊娠していたの。でも御両親はその人に迷惑が掛かるって言って、誰にも言わなかった」



「あっ、その人ってもしかしたら?」



「言っちゃ駄目。それが御両親の希望だから」



(――もしかしたら、園長先生も気付いていたの?)


その時私は、『ゆうか』って言った隼を思い出していた。



(――あれは、優香じゃなくて、結夏さんだったのね)


私はあのカーテンを思い出していた。



(――あれはきっと結夏さんとの思い出の品?)


私はその時、隼の抱えた傷みがホンの少しだけ解ったように思えた。


でも隼は、それ以上の宿命を背負っていたのだった。






結夏のストーカーの犯罪ではなかったようだ。

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