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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 美紀美美
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僕と叔父さん

隼は叔父が大好きだった。

 僕は優香の前でも、つい結夏って言ってしまってた。


何なんだよ。

結夏に優香だなんて頭がこんがらがるよ。



でも、二人とも大好きだ。

どうしようもないくらい大好きだ。



『王子様』って優香が言った時、ドキンとした。


だって女の子って、好きな男性を王子様に例えるって聞いたことがあるからだ。



もしかしたら、優香は僕が好き?

なんて、考えすぎかな。



(――結夏ごめん。


――君のことで頭はいっぱいのはずなのに……


――それでも優香のことを考えてしまうんだ。


――やはり僕は優順不断なのかな?)





 優香ったら『私結構料理好きなんだ。良かったら作ってあげるよ』なんて言っちゃって、可愛いヤツだなあ。



でも、あれって本気かなー?

そりゃ僕だって一緒に暮らしたいよ。

でも早すぎるよ。



ま、優香の言った意味はきっと違うと思うけどね。


きっと僕の体のこと気にしてくれているだけだと思うけどね。





 それにしてもグッドタイミングだったな。

銀行でお金を下ろしておいて良かったよ。


光熱費や電話代などの生活費の全てはあの口座で管理してる。

僕は二十歳になった時から国民年金にも加入しているんだ。

やはり義務だし、学生だからって甘えてはいけないと思うんだ。



『俺は二十歳だから、本当なら国民年金を納めなくちゃいけないとは思うよ。だけど俺達は学生だから免除されるらしいんだ。だから、その手続きをしようと思ってる。隼もどうだ?』


孔明が二十歳を迎えた時言っていた。


紙切れ一枚で生活困難者を救済するシステムは素晴らしいと思う。

手厚い保障もあるようだ。だからと言ってそれに甘えてはいけないと思うんだ。



何でも全額免除や半分免除とかその人の収入に応じた対応になっているようだ。


本当は僕もその制度に甘えたい。

でも一応名前と顔がバレているから出来ないんだ。



【元子役の相澤隼、収入が無くて国民年金免除手続き】


そんなタブロイド誌の記事が頭に浮かんだんだ。

僕は業界では大女優の息子だってことになってるから、その人に迷惑掛ける訳にはいかなかったんだ。





 その大女優と呼ばれている人は母の姉だった。

僕の母は、その女優が売れ始めた頃付き人だったらしいんだ。



とても仲の良い姉妹で、二人で渋谷センター街を歩いていた時にスカウトされたようだ。

その人はマネージャーとなって、姉を一生懸命に育てたそうだ。



だから、母が傍にいることを好ましく思っていなかったようだ。


だけど、預ける保育園が無くて暫く一緒に移動していたようだ。



その女優は連ドラの主役に抜擢される前に、一年間のブランクがあったようだ。

本人やマネージャーの話では、アメリカで演技の勉強をしていたようだ。

でも其処には母も居たらしい。

そして母はそのアメリカで僕を出産したんだ。


極秘に帰国した時に、僕も一緒だったようだ。

でも僕は彼女の妹に抱かれていたのだ。



見た目が似ている姉妹だからこそ、そんな噂が小さな時から付いて回っていたのだった。



だから僕は常に、そんなネモハもないデマに付き纏わられていたんだ。





 両親は今ニューヨークで暮らしている。


父は商社で働いていて、パートナー同席でのパーティなども多いんだ。だから母は僕から目が離してしまうことを悩んでいたんだ。



メイドを雇えば良いってものでもないらしい。



その頃アメリカでは、預けた子供への虐待が世間を賑わしていた。


母は僕を見知らぬベビーシッターに預けることを躊躇ったんだ。


だから次の海外転勤の際に、何時も僕の傍にいた叔父に預けられたんだ。



叔父は僕を物凄く可愛がってくれていたのだ。

だから安心して旅立って行ったのだ。



叔父は父の弟で団体職員だった。

だから忙しかったんだ。



営利法人と公務員を除いた団体の職員でNPOなども含まれているようだ。



僕は叔父が何処で働いているのかなんて知らない。

可愛いがってもらっているだけで満足していたのだ。





 さっきの優香との会話の中で、叔父が優香に土下座をしたことを思い出した。



叔父は優香に本気で謝ってくれた。

本当は優香が、ブランコに乗っている僕の後ろから近付いて来たんだ。



避けられない事故だったんだ。

でもそんな言い訳が通じる相手ではないと判断したようだ。



叔父は両手をしっかり地面に付けて、尚且つ頭も擦り付けるように謝罪していた。


子供心に、とんでもないことをやらかしたと思ったものだった。



だからって言う訳ではないけど、僕は叔父が大好きなのだ。





 あのオンボロアパートは、学生時代の拠点だったそうだ。

叔父は僕と同じ大学出身だったんだ。


その頃はまだ青田刈りって生き残っていたようだ。

昭和三十七年の流行語にも選ばれたこの言葉。


企業が学生を抱え込むことを、青い田んぼのうちに買い取る青田買いになぞらえたそうだ。


叔父は優秀な生徒だったので、優遇されていたようだ。



でも叔父は決して傲らなかった。

初心を貫くために、彼処で暮らしていたのだった。





 叔父は誰にも頼らず生活していた。


自炊もしていたんだ。

ただ僕は叔父の後ろ姿を見ていながら、それらを身に付けてこなかったんだ。


悔やまれるよ。

だってまさか、叔父から離れて生活するなんて思いもよらなかったんだ。





 「隼。此処で思いっきり遊んでみろ」


この部屋を僕に貸す時に叔父は言った。



「男たるもの、小さく縮こまっていてはいけない」


そう言いながら、ある男性のアルバムを見せてくれた。



その人は大学時代の友人で、ライトバンの上に普通車の屋根を溶接してキャンピングカーを手作りしたそうだ。



『それでアメリカ大陸を横断する。そんなでっかい夢の持ち主だった』


叔父の語るその人は叔父の中で生きていた。



その人はアメリカで行方不明になっていたのだ。



僕はその人に何故か興味を抱いた。

僕もそんな生き方をしたいと思ったんだ。





 車を改良したり手を加えたりした場合、次の車検は通らないそうだ。

だからその人は廃車しても良い素材を探して合体させたのだ。


是が非でもアメリカへ行く気だったようだ。





 清貧の思想って本があるそうだ。

清く貧しく美しく……

みたいな物かな?


その人はそれを貫いていたようだ。



あのオンボロアパートがまだそんなにも古くなかった頃、叔父は良く其処で寝泊まりしていたらしい。



って言うことは、あのアパートはその人が借りていた物だったのだ。



叔父は行方不明になった親友が日本に帰って来た時のためにその人の部屋を残しておきたかったようだ。


だから今でもずっとあのアパートで暮らしているのだった。



叔父とその人は掛がえのない絆で結ばれていたのだ。






叔父の語った男性とは?

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