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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 美紀美美
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結夏の秘密

帰りはバイクはどうにか動いた。

 バイクを休ませたのが良かったのかは解らないが、大学を出る時にはしっかりとセルが回ってくれてエンジンが快調に鳴り響いた。



「やれやれだな」


そう言いながらも、ホッとした僕は何時になくルンルン気分だった。


孔明の優しさが嬉しくてたまらなかったんだ。



孔明とは保育園時代からの腐れ縁だ。

悪い意味ではない。

寧ろ、離れがたい存在だって意味だ。



ただ……

彼女のことだけは話せなかった。

彼女も……

いや、三人は何時も一緒だった。

幼なじみが恋人だ、なんて恥ずかしくて言えなかったんだ。



『良かったら夜家で焼肉やらない?』


大学の門まで押し上った僕は孔明にそう言った。



『良いのか? 俺は大飯食らいだぞ』


孔明は嬉しそうに言っていた。



『家に帰ったら電話するね』



『ああ、お腹空かせて待っているよ』

孔明はそう言いながら、ポンポンとお腹を叩いた。





 僕の住むマンションは駅からほど近い。

その上、隣が大型スーパーなのだ。



バブル期に建てられ少し老朽化したが、その頃に比べたら値段は五分の一位に以下なっているそうだ。



オーナーは叔父だ。


何でも隣のスーパーの宝くじ売り場で購入したのが大当たりして、格安物件を手に入れ借しているんだ。


でも僕は身内だって言うことで、特別に安く貸してもらっている訳だ。



小さい頃住んでいたのはオンボロアパートだった。

其処に比べたら雲泥の差だ。

だから僕は叔父に何時も感謝しているのだ。





 早速孔明に今帰って来たと連絡を入れた。



小さなホットプレートを用意してからエレベーターで下に向かう。



孔明にマンションの前で待っていると伝えてあったからだ。





 訪ねてきた孔明と一緒にスーパーへ向かう。


「此処本当に最高の立地だな」


羨ましそうに孔明が言った。



「もしかしたら、花火大会も見える?」



「もしかしなくても、最上階だから見える」


堂々と言う僕をの手を孔明がいきなり掴んだ。



「だったら此処に住んでもいい?」

これ又いきなり言った。



「やだよ。BLなんて願い下げだ」



「ボーイズ・ラブ!?」


孔明が目を丸くした。



「アホくさ。誰がお前なんかと」



「だったらどんな意味なんだよ。野郎二人で住むって意味は?」



「厭らしいなお前、変なことばかり考えているんだろう? 欲求不満か?」


孔明の指摘に言葉を失った。



「図星か? 大女優の息子なら女の子に困らないだろうに」



「止めてくれ、そんな話し。噂に決まっているだろう?」



「噂か? だろうね。あんなボロっちいアパートに大女優の息子が住んでいる訳がなかったか」



「ボロっちいか……」



「あ、ごめん。でも本当にボロだったよね?」


「うん。此処とは段違いだった……」



孔明が大女優の息子だと言ったには訳がある。

『怜奈』と言う、常に主役級の女優が僕の伯母なのだ。

だからそんな噂が小さな時から付いて回っていたのだった。



彼女には約一年間のブランクがある。

アメリカでレッスンを受けていたそうだ。

極秘に帰国した時に、僕も一緒だったようだ。

でも僕は彼女の妹に抱かれていたのだ。





 「実は、この頃兄貴の様子がおかしいんだ。何かに怯えているようなんだ。だから今日、甥の通っている保育園で兄貴には内緒で付き添い体験に参加していたんだ。離婚したんだけど、お母さんが仕事で忙しくてね」


(――えっ、もしかしたらあの保育士のいた……


――だから、彼処に居たのかな?)


僕は何気にそう思っていた。


孔明の兄貴の離婚したことより、そっちを気にしていたんだ。





 そんな話をしているうちにスーパーの宝くじ売り場にいた。



「お前の叔父さん此処で当たったんだよね。俺もあやかろう」

孔明はそう言いながらドリームジャンボを買った。



「隼はどうする?」



「あ、辞めておくよ」


僕はあまりお金を持っていなかったんだ。

肉と野菜と焼き肉タレ。

それだけでいっぱいいっぱいだった……





 モヤシにキャベツ等が盛り込まれた野菜パック。

それをホットプレートに並べて、二人だけの焼き肉パーティーは始まった。





 その時携帯に電話が掛かってきた。



『もしもし』



「あっ叔父さん? え、又アメリカに行くの? うん、解った。それにしても良く資金が続くね……」



『まあな。当たったのがジャンボだったから何とかなっているよ。今の賞金だったら良かったけどな』



「そうだよね。今ならその頃の何倍もするからな」


噂をすれば何とかだ。

でも、この頃良くアメリカに行く。

もっとも、僕の両親は今ニューヨークに居る。

だからだと思うけど……


だって叔父さんは、父の弟なんだから。





 一通り話してから切ったら、孔明が見ていた。



「あれこの待ち受け、結夏だよね。へー、付き合っていたんだ」



(――ヤバい……)


孔明の指摘した通り、彼女は結夏って言うんだ。



僕は朝、孔明のことを親友だと言った。


でも孔明をこの家に招待したことも、彼女のことも話してなかったんだ。

いや寧ろ、親友だから話せなかったんだ。



「うん。恋人だったんだ。でも会いたくても逢えないんだよ」

僕は覚悟を決めて、やっと口を開いた。



「そりゃ会えないだろう。結夏はもうじき三回忌だからね。」



「えっ、今何て言った?」



「だから、結夏が三回忌だって……えっ、えっー、知らなかったんか?」



「三回忌ってことは死んだってことか?」



「もしかしたら、結夏のお腹にいた子供の父親はお前か?」



「えっ!? 結夏に子供が……」


「そうだよ。子宮外妊娠だったんだってよ。結夏、誰にも話していなかったんだってさ。卵菅破裂ってやつで、大量に出血してのたうち回ったらしい。両親が気付いた時は、血の海だったらしいよ」



「そんな……」



「お前、結夏の親に謝らないといけないな。あれっ!? 結夏は確かストーカー被害に合っていたんだ。だから、ソイツが父親だろうって俺は思っていたんだよ。まさかお前だったとは……」



「ストーカー!?」


僕は思い出していた。

結夏と久し振りに会った日のことを……





 「僕は駅前の銀行で結夏に会ったんだ。物凄く慌てていたみたいけど、懐かしくて声を掛けたてみたんだ」



「きっとストーカーに付けられていたんだな」



「かも知れないな。そしたら、結夏が突然僕にしがみ付いてきたんだ」


僕は、あの日の出来事を思い出すようち孔明に話出していた。



「訳の解らない僕は、彼女に押しきられた格好になってこの部屋に招き入れてしまったよ。随分積極的になったって感じたけど、そう言うことか」



「結夏はお前のことが大好きだったからな。地獄に仏。いや、それ以上だったのかも知れないな」



「結夏は僕には何も言わなかった。ただ笑っていたんだ」



「あははははってか?」


孔明の指摘に頷いた。



「結夏はきっと、笑うことで恐怖を抑え込んだんだと思うよ」



「でもまさか亡くなっていたなんて……」

僕はそう言いながらあのカーテンを見つめた。



『此処本当に最高の立地だな。もしかしたら、花火大会も見える?』


突然、さっきの孔明の言葉が過った。



「それって何時頃の話?」



「確か七月の初めだったかな。ホラ梅雨の中休みかなんかで、熱中症で大勢倒れた日だったような……」



(――やっぱり、あの日だ。


――僕と最後に会った日だ。


――あれから僕は何をした?


――ただ結夏を待ち焦がれていただけだった。


――結夏の誕生日だった花火大会の時だって……)



僕は泣いた。

孔明はそんな僕をそうっとしておいてくれた。





 「ところで、何で結夏のことに詳しいんだ?」


何を言い出すのかと頭の中では考えていた。

でも何かを訊ねたかったんだ。



「忘れたのか? 俺の家は結夏家の前だったんだって」


孔明は解っていると言いたげにしながらも、笑顔で応えてくれた。



「あっ、そうだったな。だから良く三人は一緒だったんだ」



「そうだよ。公園の砂場で遊んだり……そう言えばお前、トンネルばかり作っていたな」



「ほら、オンボロアパートの近くにもあったけど、彼処の砂場狭くてな」



「お前今、自分からオンボロアパートだって認めたな」



「いや……そうか認めたか」



「それに彼処は保育園の近くだったから、凄く羨ましがっていたな」



「いや……、ただ歩きたくなかっただけだ」



「物臭だな」


孔明が笑ってた。



僕は孔明の優しさに再び泣いていた。





 僕は翌日、結夏の家に行った。



「あら、隼君。久し振り」


玄関から出てきたおばさんは保育園時代に会った時と変わらず若かった。



僕は土下座をした。

結夏のお腹の中の子供の父親はやはり僕だと思ったからだった。



「どうしたの隼君? そんなことされたら結夏に叱られるわ」



「判っていたんですか? 僕が父親だって」


おばさんは頷いた。



「誰に聞いたのか判らないけど、もう二年くらいになるかな?」


おばさんはそう言いながら、僕の手を自分の掌で包み込んだ。



「結夏ね。隼君のことが大好きだったの。だから銀行で会った時嬉しかったんだって。ストーカーにずっと後を付けられていたからね」



「僕はそんな事情も知らずに、欲望だけで結夏を抱いていました。だから子宮外妊娠で亡くなったって聞いて……」



「そう。確かに子宮外妊娠だったの。結夏、誰にも話してなくて。勿論私にもよ。卵菅破裂だってことにしたけど、本当は違うの。ストーカーの人に乱暴されたらしいの。家に帰って来た時はもうボロボロで……隼君との大切な命を……流産してしまったの」



「結夏……」


僕は地面に突っ伏したまま泣いた。



「だから、もう悩まないで。皆結夏が悪いのよ。隼君をこんな風に巻き込んで……」



「いや、結夏が悪いんじゃない。ストーカーだ。おばさん、そのストーカーは逮捕されたのですか?」



「それがまだなの。何処の誰かも解らないままなの。結夏、きっと怖かったんだと思うわ。だから隼君が救いだったのよ」


おばさんはそう言いながら、僕の肩にそっと手を置いた。




「だからもう、結夏のことは忘れて、新しい彼女を見つけて幸せになってほしいの。それが、きっと結夏の望みのはずだからね」



濡れ縁の先にある仏壇の中で……

結夏の遺影が寂しそうに僕を見つめていた。



その横で紫色の紙に描かれた観音様が微笑んでいた。



「おばさん、あれは?」



「ああ、秩父の午年御開帳の時にいただいた散華を貼る台紙よ。札所の近くに水子地蔵があるって聞いて、結夏と子供の供養ためき歩いてきたの」



「水子地蔵……」


僕はその言葉に何故か引き付けられていた。






恋人はストーカー被害に合っていた。

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