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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 美紀美美
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アクシデント

バイクはトラブル続きだった。

 昨日行き過ぎた三十番法雲寺の入り口。


地図を良く見える、白久駅よりほど近かった。

僕達は御花畑駅のコインロッカーに荷物を預けて、この白久駅で降りた。

最終日に出来る限り多くの寺院を回ろうと思っていたからだ。



又、女将さんのオニギリ持参だ。

その代金が含まれているかどうかは判らないが、チェックアウト時点で支払った金額は予定していたそれより少なかった。





 白久駅前から真っ直ぐに伸びる道。

それが札所三十番へと続く巡礼道だった。


僕達は昨日、確かに此処を通り過ぎた。

でも、その辻に置いてあった入口の案内板を見損なっていたのだった。



「どうして昨日気付かなかったのかな?」


優香の発言にドキンとした。



僕は結夏のことを考えていたのだ。





 結夏とバイクで回った思い出の地。

丁度お花見の時期だったので桜の名所をアチコチ回ったんだ。

その一つが昨日鍾乳洞の中で話した吉見の百穴だった。



結夏の思い出の地だと言うので、内緒で連れて行ったんだ。



着いた時に結夏は泣いていた。

その涙を見ながら、結夏を幸せにすることを誓ったんだ。


だから結夏が気にしていた窓にカーテンを付けようと思ったんだ。



『お天道様が見てる』


結夏は何時も言っていた。

僕は昼間も結夏と愛し合いたくて……

そんな打算もあって、あのカーテン売り場に行ったのだ。





 昨日青雲寺の前を過ぎた時、『何時か訪ねてみたいね』と言った結夏との会話を思い出していた。



だから僕は、心これに在らず状態だったのだ。





 車がやっとすれ違がえるほどの細道を歩いて行くと、カーブの先に急な坂道ある。


それは駐車場まで続いていた。



(――こんな道を皆良く上れるな)


そんなことを考えていた。



実は僕のバイクは調子が悪いんだ。


結夏とアチコチ行ったように、優香とも回りたくなって古代蓮公園に行ってみたんだ。

炎天下に止めておいたせいだろうか?

途中で寄ったコンビニでエンストしたんだ。



仕方なくバイクを押しながらガソリンスタンドへ向かった。

行く途中で何度もセルを回してみた。

カチカチするだけでエンジン音に繋がらない。

まだまだ遠い道のりに僕はため息をついた。



何とか掛かってくれた時は、ガソリンスタンドのすぐ手前だったんだ。



僕は秩父へ優香ど訪ねる前にバイクを買った店へ行き、修理を依頼した。

そして、バッテリーを交換したのだった。





 何時だったか原付に乗っていた時も同じようなことがあり、プラグを交換した経験がある。

だから今回もプラグ交換を依頼したのだ。

でも、今のバイクを買わされた店ではバッテリーとオイル交換しかしてくれなかったのだ。





 「おん、はんどめい、しんだまに、じんばら、うん」


札所三十番は如意輪観音のご真言だった。



此処は花の寺だと言う。

小さな花が沢山咲いていた。

葉はヤブランに似ている気がした。



「あの花は何て言うのですか?」

納経所で聞いてみた。



「ヤブランですよ」


そう教えてくれたのに、疑っていた僕だった。


細くて長い葉に紫の粒々状の花がヤブランだ。

似ても似つかない、と思っていたのだ。





 白久駅まで戻り、手前を左に曲がり三峰口駅前を目指して歩き始めた。



その先の橋を渡り、右に曲がった。



案内板を頼りに信号を渡り、次なる目的地を目指す。

でもその先の辻には巡礼道を示す札もなかった。



そんな場所を何十分も歩いていると不安になった。



「本当に此方で良いのかしら?」

遂に口に出る。



「多分……」

それしか言えない僕。



「不親切だね」


優香の言う通りだと思った。



秩父に観音霊場が置かれて今年で七百八十一年だと言う。

秩父は古くからお遍路と係わりあってきた。


だから案内板設置さえも蔑ろにされてきたのかも知れない。


きっと皆知っているものだとされているのかも知れない。





 トンネルの先は更に解り難かった。

丁字路に印しさえも存在していなかったのだ。



「バカにしているね。まるで遭難してくれって言っているみたい」


優香の言葉に頷きながらも左に折れる。


でも、幾ら歩いても案内板はなかったのだ。





 僕達は遂に歩みを止めた。

さっきのトンネルが示すように、山深い場所なのだと思う。


もし本当に遭難でもしたら……

そう考えたら恐くて仕方なくなったのだ。



僕達は元来た道を引き返した。


どうにかトンネルまでたどり着いた時はホッとした。


優香は今にも泣くき出しそうな顔をしていた。





 僕達は何とか三峰口駅前までたどり着き、御花畑駅に向かった。


コインロッカーに預けた荷物を持ち、帰路に着いたのだった。



結局、結願寺まではたどり着けなかった。

隼人之霊と書かれた札をお焚き上げにしてもらうにはもう少しかかることになったのだった。





 翌日一人バイクで秩父へ向かった。



国道140号にある和銅大橋信号を右に曲がろうと、バンドルをきった。



その信号手前には、優香と降りた和銅黒谷駅前にに出る信号があった。



和銅大橋を渡り、その先を真っ直ぐに行く。

標識がその先に国道299があることを教えてくれたからだった。



ポールの立つ場所を潜り抜けて、右に曲がると椋神社に出会した。



(――えっ、椋神社!?)


僕は其処が、秩父事件の舞台となった場所だと勘違いした。



(――もしかしたら、此処は吉田!?)


物凄く不安になった僕は傍にいた人に近付いた。



「すいません。あれ秩父事件の椋神社ですか?」



「あっ、違うよ。あれはお田植え祭りの椋神社だよ。秩父事件の椋神社は吉田だから、あの山の向こうだよ」



「ありがとうございました」


そう言った時、栗尾行きのバスが僕の横を通り過ぎた。



「あっ、そうか。確かあの先だ」



「は?」



「いや、今のバスです。栗尾って確か札所三十番の手前でしたよね?」



「そうだけど」



「実は僕、札所三十番に行こうとしていました。色々とありがとうございました」


僕はお礼を言ってからバスの後を追い掛けようとバイクのキーを捻った。



……カタカタカタ。

でもその音はエンジン音に結び付かなかった。



(――結局バッテリーじゃなかったってことか?)


僕は途方に暮れながら、取り敢えずガソリンスタンドへ向かおうとバイクを押し出した。





 途中にあった木陰で休憩をとった。


何時もだったらそれだけで又走り出してくれるからだ。



物凄く心配だった。

もしかしたら、このまま此処で……

そんな思いも交錯していた。





 三十分もしたら、何とかエンジンが掛かってくれた。

ガソリンはまだあったから、僕は一目散にバイクショップを目指すことにした。



何度かエンストして馴れていた。

一度エンジンがかかると、切らない限り動いてくれるのだ。



僕は今来た何十キロもの道を、慎重に折り返していた。





 「又エンストしました。バッテリーではなかったようです」



「お客さんが、セルが回らないって言うからバッテリーを交換したんだけど……」


責任は僕にある的な返事だった。



「カタカタって音はしていました。だからプラグも変えてくださいって言ったのですが……」


僕も負けていられない。

だって僕は、最初からプラグ交換を依頼していたのだから……





 「でも、お客さんが言ったから、こっちも判断した訳で……プラグではないと思いますが、其処まで言うのであれば解りました。プラグを交換しましょう」


店員はそう言って、裏の修理場にバイクを持って行った。



納得がいく訳がない。

第一、僕は此処でバイクを買った訳ではなかったのだ。



僕は以前、ゼロ半と言われる原付自転車に乗っていた。

それが一年も経たない内に調子が悪くなった。

買ったバイク屋さんに持って行ったら、従業員慰安旅行で休みだったんだ。


仕方なく又出掛けたら、今度は臨時休業。


結局原付を見てもらえたのが購入してから一年と少し経った頃だった。



『保証期間の一年が過ぎましたから有償になります』

平然と店長が言った。



『何度来ても休みだったから、騙し騙し乗っていたんだ。一年過ぎたから有償だってことはないだろう!!』


普段穏和な僕も遂にキレた。


従業員慰安旅行や臨時休業の証拠写真を見せて対抗してやったら、無償で直してくれることになったんだ。



そんなことがあって、そのバイクショップで次のを買いたくなかったのだ。



今乗っているバイクを注文したのは結夏推奨の自転車屋だった。


でも其処が店仕舞いするとかで、バイクを届けてくれたのが自宅よりかなり離れたらショップだったんだ。



以前のゼロ半はオイルを継ぎ足すスタイルだった。

でも新しいのはオイル交換が必要だった。


僕はそのためだけに、時間がかかるこのバイクショップを訪れる羽目になったんだ。



どうして自転車屋が、店仕舞いするのを隠して注文を受け付けたのか?



結夏と選んだカタログ。

僕達には楽しい日々が待っている。

あの時はそう感じていたのだった。





 その自転車屋の前を通りながら、遠方の店へとバイクを走らる。



其処のシールが貼ってあるから、別の店に行く訳にいかないんだ。

僕はこの道を何時もボヤきながら走っていたのだった。





 僕はその翌日も秩父へ向かった。

今度は順調だった。



(――何だよ。結局プラグだったんじゃないか


――僕が言った通りに換えてくれれば、こんな思いしなくても済んだのに……)


そんなこと思いつつ、国道299号を進んで行く。


秩父から小鹿野へ向かう道は急なカーブの連続で、命の危険を感じた。


とてもじゃないが、優香と一緒に走れる道ではなかった。


僕はやはり考え方が甘いようだ。

もしバイクで回れたなら楽出来る。

そんなことを考えていたのだ。





 幾ら歩いても着かなかったはずだ。


その道は果てしなかった。



右、下吉田の標識がある信号を幾つも越えてやっと札所三十番の案内板を見つけた。



「これじゃ迷うはずだ」


思わず独り言を呟く。



優香に怖い思いをさせてしまったから余計だった。





 次に出て来た案内板を右に曲がる。

農場の休憩所のような板張りテラスを左に見て、真っ直ぐに進むと山全体が白い場所に出会した。



良く見ると、それは水子地蔵だった。



「うわっー!!」


僕は悲鳴を上げた。

右も左の斜面も、水子地蔵で埋め尽くされていたのだ。


そんな山が三つ、それ以外の山も切り開かれたていた。



「隼人……ごめん」


まともに見られなくなった僕は、隼人と同じような水子達にも謝りながらバイクのアクセルを吹かせた。





 その先のトンネルを抜けて少し行くと、札所三十番観音寺の駐車場があった。


岩井堂にも匹敵する階段だった。


僕は芭蕉の句碑がある奥の院まで上ってみた。


でも、其処で気が付いた。

携帯のリアカバーが無くなっていたのだった。



納経所に寄って携帯の電池カバーを無くしたことを告げたら、もしあったらとっておいてくれると言われた。





 その帰り、急カーブの上り坂を越えた時にバイクに違和感を覚えた。


それはパンクだった。



必死に転がして山道を下った。



「その先に公衆電話がありますから、其処にある電話帳に自転車屋さんが載っていると思いますが」


そう言ってくれたのは地元の尾田蒔中学校の生徒達だった。



早速電話帳に載っていた自転車屋に片っ端から電話した。



最後に残った一件。

此処が駄目ならバイクを置いて帰るしかない。

そう思っていた。


でも、その人は車で取りに来てくれて直してくれたのだった。



パンクの原因は、空気圧だった。

タイヤに空気が入っていなかったのだ。



説明を受けながら対処法を尋ねてみた。



「オイル交換とかした時に見てもらえますよ」

とその人は言った。



(――オイル交換だけじゃない。バッテリーもプラグも換えた。


――しかも昨日、プラグ交換も依頼した。


――どうして何もしなかったのか?)


僕はバイクを買わされたショップに不信感を抱いていた。



「後輪だから良かったですね。もし前輪でしたら大怪我をしていたと思いますよ」


実はそのタイヤが最後の一本だったと言う横瀬町の自転車屋さん。


感謝だけでは足りない。

そう感じた。






尾田蒔中学校の女生徒達の機転と親切。

バイクを取りに来てくれて横瀬町の自転車屋さん。

全ての方達に感謝の気持ちを伝えたいと思い、この章を執筆致しました。

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