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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 美紀美美
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木々はざわめいて

大学へ向かう坂の途中で……

 何時ものように、小型バイクで学校へ行こうと自転車置き場に向かった。


今乗っているのは125CCクラスのスクーターだ。



(――そう言えばこのバイクも二人で選んだんだったな……



――キミを乗せて色々な場所へ行ったな……)


又思い出していた。

これにも沢山の思い出が刻み込まれているからだ。





 このバイク魅力は何と言っても操作が楽なことだ。


塞いである鍵穴の下にある凹凸のある丸いキーオープナーに、鍵の突端部分にある凹凸を合わせるように差し込んで回す。



……カチャ。


その音と共に鍵穴が現れる。


僕はおもむろにキーを差し込んだ。



左側のハンドルに手を掛け、ブレーキレバー掴みながらセルを回す。



それだけでエンジン一発スタートだ。



セルとはセルフスターターのことで、右のハンドルの脇に付いているボタンだ。

キックスタートより力を入れなくても済むから楽チンなのだ。



それに税金も安いし、車検も要らない。


オマケにただで此処に置かせてもらえるから、駐輪費用も掛からないんだ。



それでいて、二人乗りも出きるんだ。

ただ……高速だけは走れないけどね。





 僕の通っている大学はかなり勾配がある坂の途中にある。

だから毎日、エンジンには負担を掛けている。

それは解っているが、自転車では通えるはずがない。



もっとも、通っている人は沢山いるのだけどね。



良く体力が続くものだと感心しきりなのだ。


僕には絶対に無理なことだと自負している。



実は僕は以前、ゼロハンと呼ばれている原付自転車で通っていたんだ。


高校には内緒で、在学中に自動二輪の小型免許は取得した。



だから卒業時点で購入したのだ。


本当は90CCクラスにしたかったのだけど、高額だったから結局それになったんだ。


だけどそれは、エンストやら何やらでトラブル続きだったんだ。


だから思い切って……

彼女のために購入したわけなのだ。





 僕が住んでいるのはほぼ駅前だ。

大学はその一つ先の駅。

其処から無料のスクールバスが出ている。


でも僕は雨の日以外は殆ど乗らない。



何となく面倒なんだ。だから自由のきくバイク通学をしてしまうのだった。



(――だけど、本当にこの坂はきついよな。


――あの原付の故障だって、きっとこの坂が原因になったに違いないな)


呑気にそんなことを考えながら何時もの道を走っていた。





 その大学の下には動物園があって、何時も大勢の子供達で賑わっていた。



(――今日もいっぱいだな)


横断歩道で手を挙げて歩いてくる子供達を僕は懐かしく見ていたのだ。



……ドキン。



(――ん!?)



……ドキン。



(――えっ、今の何だ?)



……ドキン、ドキン。



(――えっ、又……)


僕の前を、保育園児の手を引いて若い保育士が通っていた。


原因はその人だった。



僕の心臓が激しく波打った。



(――何なんだ?


――何でこんなことになるんだ)


僕は……

ただ呆然とその人を見つめていた。





 見覚えがあるようでないようでハッキリしない。


何故ときめいたのかも解らない。


でも僕のハートは完全に持っていかれた。



(――おい、待てよ。僕はまだ彼女のことが忘れられないんだろう?)



……ドキン……


それでも、気持ちは正直だった。

僕はもう、その感情を止められなくなっていた。



(――おい……止めておけよ。


――あの人にも、彼女にも失礼だぞ)


まさにその通りだった。

僕は、彼女をまだ愛していた。


心の底から愛しく思っていたのだった。





 何故保育園児か判ったのかと言うと、着ていた物が僕が通っていた場所と同じだったからだ。

だから懐かしかったのだ。



市に五ヶ所ある公立の保育園は、皆同じ色のスモックだったのだ。



其処に居たのは青色の上着の幼児達だったのだ。



彼女はその子供達を引率していた。


だから保育士だと判断した訳だ。


何処の保育園までかは解らないが……





 ……ブ、ブブー!!


いきなりクラクションを鳴らされた。


見ると横断歩道にいた子供達は既に渡りきった後だった。

僕は大急ぎでアクセルを回した。


その時慌てていたのか、バランスを崩してバイクを転倒させてしまったのだ。



小型のバイクと言ってもかなり重い。

見兼ねた男性が助けてくれた。



「ありがとうございます。お陰で助かりました」



「あれっ!? その声もしかしたら(しゅん)か?」


僕は慌てて、ソイツの顔を見た。



「あっ、孔明か」


ソイツの名前は松田孔明。

親が風水に凝っていて、諸葛孔明から名付けたそうだ。



「懐かしいな。あっそうかお前、確か上の大学だったな」



「うん。でも懐かしいとはなんだ。この前会ったばかりだろう?」


僕はそう言いながらも、セルを回し続けた。





 「ダメか?」

孔明の言葉に頷いた。



「大学までかなりあるのに、どうしよう?」


落ち込む僕の後ろで、孔明はバイクを押し出した。



「しょうがないから手伝ってやるよ」



「流石親友。でもいいのか?」


「すぐ戻って来るからって言ってくるよ。それからで良いなら……」



「それじゃ頼むわ」


俺は孔明の思いやりが嬉しくて泣いていた。





 木々をざわめかせながら、さわやか春の風が吹いていた。


動物園に消えて行った保育士のことが気になる。



それでも僕は孔明と一緒にバイクを押しながら、きつい坂道を歩き始めた。






あの保育士は……

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