プロローグ
どんな国にもどんな時代にも、
アンダーグラウンドに生きる強き女性は必ずいたものです。
だけど彼女たちが もしも
どんな権力よりも強い力を手にしてしまったら……?
プロローグ
ある夜のことであった。
妓楼「鬼灯屋」の主は、頭を抱えていた。
賑わう表通りから聞こえる楽しげな声を、疎ましくさえ思いながら。
行灯さえついていないその部屋の入口には、またもうひとつの人影があった。
「若旦那……」
「ほっといてくれ!」
もうかれこれ四半刻、彼らはこのように不毛なやりとりをしている。
それはまるで、別れ際の恋人同士のようでも、幼いきょうだいの喧嘩のようでもあった。
ふと、階下から大きな声がした。
「紫蝶はん!お客さん来られてますえ!早う降りてきなはれ!」
夜の静寂を裂く、おおよそ大柄な中年女性のものと思われるその声に、入口に立つ人影は肩を震わせた。
そして、まるで抗うことのできない力に引き寄せられるように踵を返して降りていった。
若き主は、まだ頭を抱えている。
深い嘆息をつきながら。
その痩せこけた肩をこわばらせながら。
まるで、彼の周りで時間が止まってしまったように、彼は苦悩の化石となり果てていた。
――奴は明日、現れる。
――この、神聖なる妓楼に。
――鬼が、現れるのだ。
To be continue.