第三話 happiness(幸せ)
幸せはいつまで続いてくれるだろうか。
死ぬまで続くなんてそれは真っ赤なウソ。
だって・・・
「それでね、秋がマジックしてくれてね。葎と一緒にタネを暴こうと思ったんだけど、全然ダメでさ」
「成瀬先輩ってマジックするんだ。凄いですね」
「そうなんだよ。しかも料理もできるし、頭いいし、運動神経いいし、格好いいし。秋にできないことってないんじゃないかって思い始めてね」
現在十夜先輩とカフェでまったり話をしている。
先ほど注文を済ませたばかりで、先輩はブラックのコーヒーを、私はカフェモカを頼んだ。
「それじゃモテるんじゃないですか?女の子から」
「うん、ロッカーにラブレターが何通も入ってるなんて普通だよ」
成瀬先輩、やっぱ、モテるんだなぁ~
とはいえ、十夜先輩も負けてないと思うけど・・・
「なんだかんだ葎もモテるしね。気さくだし、話してて楽しいし」
「でも・・・ちょっと軽くないですか?性格」
「んーまぁね。でも、真面目な所もあるんだよ?あれでも」
へぇー意外・・・女の子なら誰でも話かけるような如月先輩が・・・ねぇ。
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーとカフェモカです」
「ありがとうござ・・・・」
呉羽は飲み物を運んできた店員を見て固まる。
「ん?どうかした?」
メニューに釘付けになっていた十夜も呉羽の異変に気づいて、その視線を追う。
「あれ?葎。ここで働いてるんだ」
「おう、金欲しさにバイト始めました」
紛れもなく、今目の前にいる店員は同じ学校の如月葎だった。
「にしても付き合った初日に早速デートかーお熱いねぇ」
「まぁね」
「・・・お前本当ポーカーフェイスっていうか。もっと恥ずかしそうにするとかないのかよ」
「恥ずかしくてしょうがないんだけどな。緊張もしてるし」
「ふーん・・・?そういやお前の彼女、なんて名前なの?」
不意にこちらに視線を向けた葎にドキッとする。
「あぁ、そういえば紹介してなかったね」
「えっと、柏野呉羽です。よろしくおねがいします」
「呉羽ちゃんか~可愛い名前だね。俺、如月葎。バスケ部でっす」
うーん、やっぱり軽い。
真面目な所があるってさっき言ってたけど、本当かどうか怪しい。
「あーやべ、そろそろ戻らないと。んじゃ、デート楽しんでくれー」
如月は何事もなかったかのように他の客の接客に向かう。
「ビックリしたね。まさか葎が働いてたなんて」
「ですね・・・」
「まぁ、とりあえず飲もうか。せっかく葎が運んでくれたんだし」
そう言ってお互いカップを持ち上げ口に含む。
あ、おいしい。
よく市販に売っているカフェモカを飲むのだが、やはり作りたてとインスタントじゃ作りたてが勝る。
「んー、おいしい」
「何度か他のカフェにも行ったことありますけど、ここが一番おいしいかも」
「そうなの?僕カフェ入ったのここが初めてだからわからないんだ。でも気に入ってくれたなら良かった」
先輩、カフェ初めてなんだ。ここ周辺は結構あるんだけどなぁ。
「もし良かったら、これからも来ない?ここなら学校からも近いし、ゆっくりしたい時とかにいいかなって」
「はい、ぜひ」
先輩から誘ってくれたのに断るなんてできません!
十夜は優しく笑ってコーヒーに口をつける。
「あっ、あの十夜先輩」
「ん?」
「私達、これからもっと・・・幸せになれますよね?」
「どうしたの、いきなり」
「・・・いえ・・・なんとなく怖くなって」
あの時からずっと幸せというものが怖かった。
自分が幸せに溺れて、過去の繰り返しにならないかって。
ならないと心に言い聞かせてもトラウマになっていて簡単には消えなくて。
きっと私は、自分の保身だけを考えているんだろう。
付き合ったばかりの彼に、これからの幸せの保障をしろと言っているのだから。
「・・・うん、勿論だよ。僕たちはこれからもっと幸せになる」
そういう彼の瞳はひどく悲しそうだった。
どうしてそんな顔をするの?
「君に何があったのかはわからないけど、辛いなら僕を頼って。話せる範囲でいいから話してごらん。少しは楽になると思うから」
「はい・・・ありがとうございます。というかすいません、こんな時に暗い話なんかして」
慌てて取り繕うように笑みを浮かべる。
「いいんだよ。もしかしてずっと呉羽が不安そうな顔してたのってこれのせいだったの?」
そんなに顔に出ていたのだろうか?あまり出さないように心掛けてはいたのだが。
「・・・はい、まぁ」
「そっか・・・もしこれからも不安になることがあったら、何度でも言うよ。絶対幸せにするって」
十夜は真っ直ぐ呉羽を見つめて言い放った。
その言葉に安心を覚える。
「・・・俺は君を助けるって決めたんだ。絶対に」
「先輩?」
「あぁなんでもないよ。あ、そうだ。ちょっと寄って行きたいところがあるんだけど、いいかな?」
一瞬雰囲気が変わったような気がしたのは気のせいだろうか?
うん、きっと気のせいだよね。
「どこですか?」
「レアルって店だよ。ちょっと買いたいものがあるんだ」
確か雑貨店だっけ。結構品揃えがいいって有名だったよなぁ。行ったことないけど。
「いいですよ。私も一回行ってみたいと思ってましたし」
「え?行ったことないの?女の子とか結構行ってるみたいだから呉羽も行ったことあるものだと思ってたよ」
「うーん、なんだかんだで行ってないんです」
「そうなんだ。じゃあ僕と行くのが初めてなんだね」
「はい。だからちょっと楽しみです」
「僕もワクワクしてるよ。じゃあ、そろそろ出ようか」
「はい」
二人で席を立ち、会計を済ませる。
「おっ、帰るのか?また来いよー」
丁度近くを通った葎がニッと笑って言う。
「うん、葎も頑張れよ」
「おうよ、頑張るわ。呉羽ちゃんもまたな~」
「はい、頑張ってくださいね」
「あぁ~可愛い子に応援されたらやる気出るわ」
「こら如月君!ちゃんと仕事しなさい」
店の奥から30代くらいの綺麗な女が出てきて如月を叱る。
「あーすいません。じゃ仕事戻りまーす」
そそくさと接客に向かう如月を見届けたあと、女はこちらを見てにっこり笑う。
「またのお越しをお待ちしております」
しなやかな動作で会釈をし、店の奥へと戻っていった。
綺麗な人だったなー・・・
「呉羽、行こうか」
「あ、はい」
店を出ると、先ほどまで止んでいた雪が降り始めていた。
「さむ・・・」
身震いして、コートの襟に口元をうずめる。
「呉羽」
名前を呼ばれ、突然首元が暖かくなった。
「これ巻いてれば少しはマシになると思うから」
「でも十夜先輩が寒くなっちゃうじゃないですか」
「僕は大丈夫。それより君が風邪でも引いたら困るからね」
なんか申しわけないなぁ・・・でも好意を断るのもあれだし・・・
「ありがとうございます」
さりげなく匂いを嗅ぐと、十夜の匂いがした。
「ん」
すっと手を差し出されて一瞬固まってしまう。
これって手つなごう・・・ってことだよね?
でも別に嫌じゃないし。
ゆっくり手を伸ばし、十夜の手に添えるとぎゅっと手を握ってくれた。
冷たさと、ほんのりとした暖かさが直接伝わってくる。
うわぁー今手つないでるよ・・・恥ずかしいよ・・・本当。
でも・・・嬉しい。彼女なんだって実感させてくれる。
「呉羽の手冷たいね」
「先輩の手も冷たいですよ。でも・・・暖かい」
・・・懐かしい・・・過去の記憶が蘇ってくるようだ。
「何それ。矛盾してるよ」
「だってそうなんですもん」
「ふふ、そっか。僕は君を幸せにしてあげられているんだね」
「え?」
先ほどから十夜の様子がおかしい気がする。
幸せにしてあげられている、となぜ言ったのか?まるで彼は全てを知っているかのような口ぶりだ。
「・・・あ、着いたよ。レアル」
「え?あ、本当だ」
考え込んでいるうちに目的地に着いていたらしい。
「ずいぶん考え事してたみたいだけど、何かあった?」
心配そうに言われ、小さな疑問を胸に押し込み、なんでもないと言う。
中に入るとむわっとした暖かい風が体を包んだ。
「相変わらず女の子ばっかりだな・・・」
予想していたよりも店自体が大きくはないため、細い通路ではすれ違うのに苦労しているのが見受けられる。
「色々見て回ろうか」
「はい!」
手袋やマフラー、キーホルダーやスマホのカバー、手帳やペン類などが売られておりどれも好みのデザインばかりだ。
中でも目を引いたのがペアのグッズ。
その棚の上の方にはでかでかと『彼氏と!彼女と!親友と!持とうペアグッズ』と書かれていた。
「ペアかぁ・・・いいなぁ・・・」
「じゃあ持とうか」
「え?!」
「僕が買いに来たのはこれなんだ。それに呉羽は僕のなんだってことの証にもなるしね」
そう言っていたずらっぽく笑う。
「やっぱり無難にキーホルダーかな?あ、今の時期おそろいでマフラーとかもいいね」
グッズを一通り見てみる。
キーホルダーやマフラーはもちろん、ピアスやネックレスもある。
「どれがいいかなぁ・・・」
ネックレスとかいいなぁ。ずっと着けていられるし・・・でもマフラーもいいよね・・・。
「僕的にはネックレスとかいいかなって思ったんだけど、どう?」
「えっ、先輩もですか?」
「うん。ネックレスなら肌身離さずつけていられるからいいかなって思ってね」
「ですよね」
「じゃあネックレスにしようか。あともう一ついい?」
「なんですか?」
「君マフラーないみたいだし、なんならおそろいで欲しいなって」
そんな捨てられた子犬みたいな顔で見ないで・・・
断るなんてしないし。というかもともと断るつもりはなかったけどさ・・・
呉羽が頷くと、十夜は嬉しそうにデザインどれがいい?と聞いてくる。
チェック柄、シンプルに単色、マフラーの端がストライプになっているものの三種類。
シンプルなのもいいけど、アクセントになにか模様が欲しい。
「チェック柄がいいです。おしゃれで可愛いし」
「じゃあそうしようか。ネックレスはどうしよう」
「ネックレスは先輩が選んでください。マフラーは私が選んだので」
「んーじゃあ、これかな?」
悩んだ末、十夜が選んだのはハートのネックレス。二人のネックレスを合わせることでハートになるというもの。
普通に片割れだけを見れば、向きこそ違えど月のネックレスだと間違うような作りになっている。
これからこれらが十夜と付き合っている証になると思うと、嬉しくてついにやけてしまう。
「他も見て回ろうと思ったけど・・・ちょっと無理そうだね」
「あー・・・そうですね・・・」
時間も時間だったためか、気づけば店内は客で溢れかえっており、とてもゆっくり回れる状況でもなかったので、マフラーとネックレスを手にレジに向かう。
いらっしゃいませ、と言って店員がレジに商品を通し「合計1560円です」と笑顔を向ける。
お金を出そうとした呉羽をやんわり止め、お金を出す十夜に申しわけなさがこみ上げた。
ちゃんと後で返さないと。
ペアということで買ったものを二つの袋に分けて入れてもらい、それぞれ袋を店員から受け取り店を出た。
「十夜先輩すいません、出してもらっちゃって」
「元々僕の欲しかったものだからいいんだよ」
「・・・ありがとうざいます」
「うん。あ、もうこんな時間なんだね」
腕時計を見るや、申し訳なさそうに眉を寄せる。
つられるようにスマホを取り出し確認するとディスプレイには19時13分と表示された。
いつもなら自宅で夕食を食べている時間だ。
「ごめんね、僕がもうちょっと時間気にしてればよかった。お腹空いたでしょ?」
言われてみれば空いている気がする。
普段7時になると夕食を食べるのでお腹は空いているはずなのだが、今の時間の楽しさでそれも吹っ飛んでいたようだ。
「呉羽、お家の方大丈夫?連絡とかしなくて」
「あっ、そうですね。ちょっと連絡します」
十夜から少し離れ、母親の携帯に電話をかける。
何度かプルルルルと接続音が流れ、不意に途切れる。
『もしもし』
「もしもし、私」
『あら呉羽。今日は遅くなるの?』
「そのことなんだけど、今日先輩と遊んで帰るから」
『わかったわ。楽しんできなさい。でもあまり遅くまではダメだからね』
「うん、ありがとう。それじゃ」
よし、許可貰った。これで大丈夫。
「すいませんお待たせしました」
「ううん、それで大丈夫だった?」
「はい。でもあまり遅くまではダメだと」
「僕はともかく、呉羽は女の子だからね。夜道は色々危険だし」
そういえばお母さんが私の家の近くで怪しい男がうろついてるとか言ってたっけ。
実際会うことなんてないと思うけど。
「気をつけます」
「できるだけ呉羽は僕が守ろうと思ってるけど、用心するに越したことはないからね」
「あ・・・ありがとうございます」
さらっと言われると嬉しいような、恥ずかしいような・・・
「ところで、夕飯はどうする?特に決めてなかったよね」
「ここら辺って結構お店あるし、歩きながら決めません?」
「そうだね。ここに立ちつくすのもあれだし」
そう言いながら歩きだす。
「あ、バイキング店だ」
「向こうにはハンバーガーとかありますよ」
「呉羽は何食べたい?」
「温かいものがいいです。寒いし」
「じゃあそういう店探そうか」
「あ、ラーメンとかどうですかね」
「ん、いいよ。じゃあラーメンにしようか」
「はい」
案の定少し歩いたところにラーメン屋があったので、そこに入ることにした。
「いらっしゃい!お、カップルさんかい?いいねえいいねえ。青春だねえ!」
ラーメン屋に入るやいなや店主と思わしき中年の男がニヤニヤしながら言う。
「・・・はは」
何だか照れくさくて苦笑いを零す。
客もかなり入っているようで、20席ほどある席のほぼが埋まっていた。
「呉羽、あそこ空いてるから座ろう」
十夜は端の席を指差す。そこはちょうど二つ席が空いていた。
「はい」
「いらっしゃい。これお水ね」
「ありがとうございます」
「あら~格好いいわね~」
白い割烹着に白の三角巾を身に着けた女は十夜を見るやほのかに頬を染めた。
「おい絵美子、浮気するんじゃねぇぞ」
麺の水切りをする手を止めて絵美子を心配そうな顔で見る。
「やーね、私が愛してるのはあなただけなんだから」
「お・・・俺も絵美子だけだ」
「あなた・・・」
え、ちょっと。
この人たち完全に二人の世界に入ってません?
でも歳をとってもラブラブなのっていいよなぁ。
・・・じゃなくて!
「あの・・・」
「あっ、ごめんなさいね。お客さんを放っちゃってたわ」
全く悪びれる様子もなく、絵美子はうふふ、と笑みを零した。
「それで、注文よね。どうぞー」
まるでスイッチを切り替えたかのようにメモ帳とペンを持ち笑顔で呉羽達の注文を待つ。
切り替え早いなぁ。
「んー、じゃあ僕は味噌一つ。呉羽は?」
「私は塩にします」
「味噌ひとつ塩ひとつね。じゃあできるまで少し待ってね~」
絵美子は店主にオーダーを頼むと、他の客の接客に向かった。
「なんだかフリーダムなご夫婦だね」
「確かに。でもこういうのも悪くないですね。客と店員、って割り切らないところとか」
「そうだね。アットホームな感じだからこそお客さんもここに食べに来やすいっていうのもあるのかもしれない」
客と楽しそうに談笑する絵美子を見て十夜は呟いた。
「はいよ。味噌と塩おまち」
いつの間にか目の前に来ていた店主がラーメンをテーブルに置いた。
「ありがとうございます」
「にしてもお前もなかなかやるな。こんな可愛い彼女貰うたあ」
え、可愛い!?
「最初全く話できなかったのでここまで来るの苦労しましたけどね」
「それは大変だったな。だがよ、男ってもんは女の尻を追うもんだ。それぐらいのハンデがねぇと燃えねぇだろ」
「それは言えてるかもしれません」
ちょ、待って・・・
話についていけないんだけど。ボーイズトーク?始めちゃってるし・・・
「あ・な・た?話する暇あるなら手を動かして。宮本さん待ってるのよ?」
店主の肩をポンと叩き、笑顔で言っているがどこか威圧のある笑みだ。
「あーわかった。すぐ作る。兄ちゃんすまんな。仕事に戻るわ」
店主は危機を察知したのかすぐさま持ち場に戻っていく。
「君たち、ラーメン早く食べないとのびちゃうわよ~?」
「そうだった。じゃあ食べようか」
「ですね」
十夜はテーブルの端にあった箸入れから二本割りばしを取ると、一本を呉羽に渡す。
「「いただきます」」
それぞれ熱々の麺をすくい軽く冷やして口に運ぶ。
「熱っ・・・あ、おいしい」
「良かったね。こっちも味噌だけど全然くどくないし、食べやすい」
「本当ですか?塩もなかなかさっぱりしてて美味しいですよ」
「どんな味なのか気になるな。一口・・・だめかな?」
・・・・・・。ええええっ?!
「あ、えっと・・・あの・・・どうぞ」
どんぶりを十夜に差し出す。
「ね、呉羽。食べさせて?」
「はい?!」
待ってそれって・・・!間接キスになる・・・よね・・・?!
でも・・・あーもういいや!
呉羽は一口分の麺をすくいレンゲにのせると、十夜の口に運んだ。
「ん。美味しい。塩もいいね」
ああああああ周りの視線が痛い・・・恥ずかしいよこれは・・・
でも、甘えん坊な一面もあるんだなぁ~
「ふふ、呉羽可愛い。顔真っ赤だよ?」
「・・・っ」
「一口貰ったから僕もあげる。ほら、口あけて?」
「は、はい」
ゆっくりと口を開く。
「呉羽、どう?」
「おいしい、です。味噌も」
「だよね。すごく美味しい」
どこか嬉しそうに微笑む十夜。
十夜先輩、全然気にしてないみたい。
「あらあら~ラブラブねぇ。懐かしいわぁ~昔は私達もああやって食べあいっこしてたものだわ」
「おい絵美子、あまり恥ずかしくなるようなことを言うな」
「いいじゃない、本当のことなんだから♪」
仲睦まじい夫婦の会話を聞きながら、緊張と恥ずかしさで震える手で残りの麺をすする。
正直味がわからないんだけど・・・
それでもなんとか食べ終わると、すでに食べ終わっていたであろう十夜がこちらを見てニコニコしていた。
う・・・そんなに見ないで・・・
「美味しかったね、ラーメン」
「・・・はい、とても美味しかったです」
半分棒読み状態になりながらも返事を返す。
「・・・ふふ」
返事の仕方がおかしかったことに対してか。はたまた変顔でもしていたか。
こちらとしてはどちらにせよ笑われて恥ずかしいというか。
「・・・なんで笑うんですか」
「ごめんごめん・・・ふふ・・・だってロボットみたいに言うんだもん」
「むう・・・」
笑いすぎです先輩。
「あーあ、面白かった・・・さて、食べ終わったしそろそろ出ようか。お客さんも増えてきてるみたいだし」
その言葉に周囲を見渡すと、十夜の言う通りお客さんが増えている。
食べ終わっているのに長居するのは迷惑だろう。
「・・・そうですね、出ましょうか」
「すいません、お会計お願いします」
「は~い、味噌と塩だったわね。1560円になります」
今度こそ私も払わないと。
さっきも買ってもらっちゃったし、申し訳ないし。
バッグから財布を取り出そうとする私に気づいたのか、十夜はやんわりと手で制す。
「僕に払わせて?デートなんだから格好つけさせてよ」
そう言うと、にっこりと笑って支払いを済ませてしまった。
「・・・すいません・・・ありがとうございます」
「そんな気にしなくていいよ。僕が払いたいから払ってるだけなんだから、ね?」
そうなのかもしれないけどこちらとしては・・・
「はい、これおつりね~。まいど!また来てね!」
絵美子からおつりを受け取ると席を立った。
「あ、ねぇあなた」
「・・・はい?」
絵美子はこちらに耳を貸せと言わんばかりに顔を寄せてくる。
こちらも顔を寄せると、耳元でささやいた。
「おごってもらえる時はおごってもらった方がいいわよ!下手にこっちからお金を出すと男の面目をつぶすことになっちゃうから。遠慮はしないこと!」
・・・そういうものなのかな?
「・・・わかりました・・・」
「彼とうまくいくといいわね!また何か相談したいことあったらここに食べに来なさい」
肩を軽く叩かれ、送り出される。
軽く会釈をして、入り口で待っていた十夜の元へ向かった。
エスコートされながら店を出ると髪の毛をさらさらとさらう風が吹く。
ラーメンを食べて体温の上がった今、ちょうどいい涼しさだ。
「こういうのいいかもなぁ。熱々のものを食べて、夜風に当たって涼むの」
「風に当たるからこその爽快感みたいなのはありますね」
自分で言っててなんだけど、おじさんみたいなこと言ってるよねこれ。
「あ、わかる?だよね、癖になりそうだな・・・ねぇ、呉羽が嫌じゃなかったらまた食べに来ない?ここら辺のラーメン屋さん回ってみたいな」
「いいですね、行きましょう。あ、そういえば期間限定で屋台出してるとこありますよね。確か・・・」
学生あるまじき会話をしながら、どちらともなく歩き出した。
時間も時間だからと十夜が家まで送ってくれるらしい。
家に着くまでの間、十夜との会話を楽しもう。
ラーメンの話しかしてないけど。
でも楽しいからよし。
いつもは遠い家までの道のりもこのときばかりはあっという間に感じた。
本当に恋愛とか恋愛とか恋愛は書くの苦手なんですよ、苦手なんです(メタァ