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第一話 case:fotneller(予言者)

運命の歯車に乗せられた一人の男。

悲劇を乗り越えた先に見えたものは・・・

『危ない!』

ただ呆然と見つめる先で悲劇は起こった。

切羽詰まった声とほぼ同時に響く車のブレーキ音。鈍い音と共に空中に投げ飛ばされ、地面叩きつけられる小柄な少女。

ピクリとも動かない少女に慌てて駆け寄り、上半身を抱き上げ泣き崩れるもう一人の少女。

これは現実か?これも現実だ。まだ起こってはいない現実。

『ねぇ・・・!目を開けてよ!お願いだから!死なないで・・・!』

悲痛な叫びを聞いた瞬間、まるで何かに引っ張られるような感覚を覚え、急に視界が狭まり、ついには真っ暗になってしまった。

「・・・っ」

ゆっくりと瞼を開くと、薄暗い部屋の天井が目に入る。

「・・・次はあの女か」

少年もとい津和吹つわぶきは低く呟いた。





まさか二度と行くことはないと思っていた学校に行くことになるとは。

津和吹つわぶきはクローゼットの奥にしまいこんでいた制服を取り出し着替える。

マフラーを巻き、スクールバックを肩に背負って家を出た。

灰色に染まった空からは小さな雪の粒が降り積もり地面を白く染め上げていた。

そのあまりの寒さに身震いしながら歩を進める。

またあの偽りの日々を過ごさなければならないのか。本当の俺として学校に通えたならどんなにいいだろうか。

そんなことを考えていると、気づけば目的の学校に到着していた。

肩や頭に積もった雪をほろい、生徒玄関に入ると懐かしい景色が広がった。

最後に来たのは約一年前か・・・

留年したために以前同級生だった生徒達は卒業しもう居ないことになる。

後輩ばかりというのはなんだか複雑な気分だ。

まぁいい。とりあえず職員室を・・・

「えっ、あれって九ノくのせ先輩じゃない?!」

突然名前を呼ばれて反射的に声の主を探す。なんだかんだで九ノくのせと呼ばれるのは久しぶりだ。

「ほら、やっぱりそうだよ!」

どうやら偶然通りかかった女生徒二人だったようだ。

こちらを指差して驚いている様子。

・・・確か、前よく話かけられたな・・・

「やあ」

笑顔を浮かべながら声をかける。

「久しぶりですね!もう体は大丈夫なんですか?」

「病気だって聞いてずっと心配してたんですよ」

駆け寄ってきて心配そうな顔をする。

「大丈夫だよ、ありがとう。もう完治したから心配いらないよ。・・・あぁ、ごめん、行かないと。君たちもHRに間に合わなくなるよ」

女生徒が右腕をおもむろに眼前にやると、腕に付けていた赤いベルトの時計が袖から現れ、時計を見た途端に血相が変わった。

「あっ・・・本当だ!それじゃまた!」

慌てて走り去る後輩を見送ったあと、小さく息を吐いた。

久々だとこうも疲れるとは。

カモフラージュの為と九ノくのせ十夜とおやとして生活していたのが誤算だったか。

だが、こうするしか方法はないしな・・・

はぁ、とため息を吐いて再び職員室を目指す。

「よお、何ため息吐いてんだ色男」

聞き覚えのある声、忘れたことのないこの声は・・・

「・・・渡辺(わたなべ)和明(かずあき)・・・」

前方から気だるそうにこちらに歩いてくる人影に、思わず眉を寄せた。

警戒心を露わにする津和吹つわぶきに降参とでも言いたげに両手をあげた。

「んな警戒すんなよ。今はもう管轄外だ」

「敵には変わりない・・・それと色男はやめろ」

「つれないねぇ。ま、敵には変わりないわな」

しれっといい放つ渡辺に、津和吹つわぶきは再びため息を吐いた。

「・・・それで、何の用だ」

「あぁ・・・」

途端にふざけ半分だった渡辺わたなべの表情が真剣なものへと変わる。

「・・・一つ忠告しようと思ってな。お前達の未来がかかってる大事な助言を、な」

「!」

「近々ここで事件が起こる。それを合図にお前がよく知ってる“狩り”の始まりだ」

目を見開き、渡辺わたなべを凝視する。

一度ならず二度までもか。

確かに俺や鬼灯ほおずきが生きている地点で終わることはないと思っていたが。

まさかこうも早く行動してくるとは・・・

「何故敵である俺にそんなことを言う。機密事項じゃないのか」

「だから言ったろ、もう管轄外だって。それに俺個人、お前達に恨みはないわけだし。むしろ生きてほしいとさえ思ってる。理不尽を正せる、唯一の光だからな」

渡辺わたなべは何を考えているのだろう。知ろうにもその瞳からは何の情報も読み取れない。

「まぁ、俺の話はこれだけだ。じゃあな」

無言で立ち尽くす津和吹つわぶきの横を通り過ぎようとしたとき、渡辺わたなべが小さくあっ、と声を漏らした。

「そうそう。言い忘れていたこともう一つあったわ」

「?」

「闇には気を付けろ。あいつは諸刃(もろは)(つるぎ)だ。敵である以上立ちはだかるのは確かだし、運よく味方にできりゃ心強いだろうけどな」

「闇・・・?」

「本名じゃないけどな。あぁ、それと・・・」

柏野かしの呉羽くれはって子が最初に狙われるだろう」

「・・・何だと?」

聞き返すもすでに渡辺わたなべの姿は遠くにあり、ただ津和吹つわぶきの言葉は静寂に飲み込まれていった。


その後渡辺わたなべの言葉の真意が分からないまま職員室に着くと、クラスの担任を紹介された。

クラスは3年A組で山岸やまぎしという中年の男が担任らしい。

「付いてきてくれ」と言われ、今に至る。

「お前達は初めて会うだろうから紹介する。それじゃ自己紹介してくれ」

「九ノくのせ十夜とおやです。病気で一年留学してこのクラスの一員になることになりました。よろしくお願いします」

愛想笑いを浮かべ自己紹介を言い切ると、生徒達は拍手をしてそれぞれ小話を始めた。

「はいはい、静かに。・・・あぁ、くそ。九ノくのせ、席は窓際の一番後ろだ」

私語が止む気配のないことに山岸は諦め半分といった表情を浮かべながら、津和吹つわぶきだけに聞こえる声で言った。

「はい」

指示に従って席に座る。クラスメイトの視線が一斉に向けられて居心地が悪い。

「それじゃHRを終わる」

山岸やまぎしが号令と共に教室から出ていった後、クラスメイト達が津和吹つわぶきの周りを取り囲んで質問攻めを始めた。

「好きな食べ物は?」やら「好きな女の子のタイプは?」やら、新入生同士で聞くような内容が飛びさかった。

内心面倒ではあったが、今までの高校生活を考えると嫌な顔はできない。

津和吹つわぶきが“演じる”九ノくのせは病弱で、誰に対しても優しく、笑顔を絶やさず、嫌な顔一つせず物事をこなす。そんな人格だからだ。

「好きな食べ物か・・・特にはないけど、強いて言うならモンブランかな。好きな女の子のタイプは・・・そうだな、気配りができる優しい子かな」

一つ一つ質問に答えていくが、倍になって帰ってくる。

「好きな動物は・・・そうだな、狼かな。強くてなにより格好いい。すぐ病気にかかるような僕とは大違いだ」

自虐的な言葉を並べて周囲の同情を誘う。反感を持たれるより圧倒的にいいし、行動するにあたって色々と楽になる。

「あっ・・・ごめんなさい・・・」

津和吹つわぶきを取り囲んでいた女生徒の一人が申しわけなさそうに言った。

「いや、気にしないで。というかタメ口でいいよ。クラスメイトでしょ?」

微笑みかけるとみるみるうちに女生徒達の顔が赤く染まっていく。

やはりたやすいと心のなかで呟いた。ただ一人を除いては、だが。

その後用事があるとその場を抜け出し、三階へと向かう。

長期の休みを取る前、後輩で仲の良かった二人と当たり前のように集まっていた元部室。

「・・・いないか」

案の定二人の姿はない。

それを確認してある人物に電話をかけた。




「もしもし。・・・あぁ、あんたか。久しぶりだな。と言っても一か月ぶりくらいか」

最低限生活に必要な物が置かれ、綺麗に整頓された一室、携帯片手に何台もあるパソコンの画面を見つめる女。


『今回調べてほしいことがある。例の組織と関係があるかもしれない』

電話の相手はとある事件を通して知り合った津和吹つわぶきという男だった。

「へぇ・・・いいぜ。何を調べればいいんだ?」

『あの研究室の端末で見たリストを覚えているな?』

「あぁ、勿論だ。私たちにも関係のあるものだったしな」

『あれを手に入れたい』

「機密情報だぞ?あの時も侵入するの苦労したってのに」

『だからこそお前の出番だろ?』

相手の表情がわからなくとも信頼されているのがわかる。

まったく、こいつときたら。私がもう断れないのをわかって言っている。

「・・・報酬は?」

『俺が持っている情報全て。今回はかなり有力な情報もある』

「・・・わかった。手に入れ次第連絡する」

あぁ、と簡潔かんけつな返事が返ってきたのを確認して電話を切る。

「・・・何かが動き出した」

何がと言われれば答えることはできないが、間違いない。

「まぁ・・・あいつに任せておけば何とかなるだろ」

面倒臭そうに呟き、手の運動をすると、複数あるうちの一台のパソコンのキーボードに手を置くと、慣れた手つきでキーを叩いていく。

画面には一般人には理解できない数字と英語の羅列られつが並べられていき、画面を埋め尽くしていく。

「やっぱり本部のセキュリティーは頑丈がんじょうだな・・・」

いたってシンプルで、それでいて簡単には破れない。

セキュリティーは20本の柱を中心として、さらに10本の柱でサポートする。

前回侵入したときよりも頑丈がんじょうになっているようだ。

サポートにまわっている柱は侵入を妨害ぼうがいするためのダミーにもなっているようだ。

これは少し時間がかかりそうだ。

「またあいつに言われるなこれは」

まぁいい。今は目の前の獲物えものを捕らえることだけに集中しろ。

静かに、好戦的な笑みを浮かべた。












一方、一限目の数学の授業が始まって質問攻めから解放された津和吹つわぶきは、精神的な疲労感に襲われながらも、黒板に書かれる白い文字をぼうっと見つめる。

あいつはもう作業に取りかかっているだろうか。

鬼灯(ほおずき)、それが稀代きだいの天才とうたわれたハッカーの名だ。今は利害りがい一致いっちから津和吹つわぶきに協力している。

鬼灯ほおずきについての情報のほぼが謎に包まれていて、ただ一つ分かることは同い年ということくらいだ。

だがそれでも信頼に値すると確信している。

「それじゃ九ノくのせ!お前にとっては復習になるかもしれないが。この問題を黒板に解いてくれ」

「はい」

ハッとして立ち上がると、教科担任からチョークを受け取り黒板に向かった。

・・・このタイプの問題か。

すらすらと文字を書き出していく。

この高校生活はなんだかんだで4年目だ。かつて違う土地、違う高校で1年間を過ごした。

大学レベルの内容までは全て頭に叩き込んでいるため高校の授業は簡単だ。

それにもう高校にいる必要もなかったから、病気を口実こうじつに長期の休みをとった挙句、「とても通学できる状況じゃない」とか言って退学しようとも考えていた。

まぁ、あの夢がなければ、の話だが。

「完璧だ。九ノくのせには簡単すぎたみたいだな」

「ありがとうございます」

軽く微笑み返して席に座った。

「ここの範囲は今月末のテストに出るから勉強しておくように」

そういえばこの狗沼こぬま高校は他の高校より早くテストがあるんだったな。

ちょうど一週間後か。

「それじゃ今日の授業はここまで。起立!」

号令と共に教室全体が騒がしくなる。背伸びをしたり、友達と話をしたりと思い思いの行動をとる中、津和吹つわぶきは静かに保健室へと向かった。

また囲まれて質問攻めにあう前に避難するためだ。

コンコン、とドアをノックして中に入る。

「失礼します」

中はシンと静まり返っており、保健医の宮野(みやの)怜子(れいこ)はデスクに向かい難しい顔で書類を見つめていた。

「先生。少し休んでもいいですか。なんだか体調が優れないんです」

宮野みやの津和吹つわぶきに目線だけを向けて眉根まゆねを下げた。

「九ノくのせ君・・・久しぶりね。大丈夫?しばらくベッドで休んでいきなさい」

「ありがとうございます」

宮野みやのの指示に従い、ドアを閉めるとベッドに腰をおろす。

ゆっくりと息を吐いて天井を見つめた。

「・・・どうして戻ってきたの?もうここに居る意味はないって言っていたのに」

唐突とうとつ宮野みやのの声音が親しげなものに変わる。いつの間にか書類を机に置き、津和吹つわぶきの傍に来ていた。

「また例の夢を見た」

九ノくのせを演じることをやめ、津和吹つわぶきとして答える。

「次危ない子がここに在学してるってことね。でもここで事件が立て続けに起こるなんて物騒だわ」

深いため息を吐いて窓越しに空を見る。相変わらず灰色の空からはしんしんと雪が降り積もっていた。

「これが偶然じゃない可能性もある」

津和吹つわぶきの言葉に驚きを隠せないといった表情を浮かべ、津和吹つわぶきの方へと見返った。

「全部仕組まれたものだ、なんて言いたいの?」

「あぁ。かつてここで起こった大勢の人間が殺された事件・・・狗沼事件の被害者には共通点がある。幼い頃、“全員”拉致されていることだ。一年後何事もなかったかのように帰って来てはいるが。当時の事件での生き残りは俺と鬼灯のみ。あれが第一の“狩り”」

「確かあれは警察が揉み消したとかで表沙汰にはなってないわよね」

「そうだ。そして渡辺和明が言っていた第二の“狩り”・・・まだ可能性に過ぎないが、今回も俺達の時と同じなのかもしれない」

夢を見たこと、狩りが始まること。同時期に重なったのは偶然だとは言いにくい。

まぁ、ただの事故の可能性も捨てきれないが。それに柏野かしの呉羽くれはという子が夢に出てきた子と同一人物ということもある。

和明かずあきが?」

「あぁ、渡辺和明は前からあの事件について調べていたようだし、おそらく何か掴んだんだろうな」

「じゃあその女の子も昔拉致されたことがあるかもってこと?」

「そうだ」

「・・・もしかしてこう言いたいの?【同じ境遇に遭った子達がここに集められているかも】って」

「そう考えれば辻褄が合う。かつての事件の被害者は全員この学校から是非入学してくれと声をかけられていた。俺や鬼灯も例外じゃない。そうやって手元に置いていつでも殺せるように仕向けていたなら・・・」

「第二の“狩り”もここで起こることは必然、ってことね。・・・一度じゃ飽き足らず二度もだなんて・・・罪のない子供を殺して何になるっていうのよ。死んだ子達は皆いい子だった。未来に夢を持って・・・いきいきしてて・・・」

「もう誰も死なせない。俺の能力が続く限り守ってみせる。・・・この学校が持つ闇も、俺が払う」

もう二の舞にはさせないと心に強く誓っていたことだ。

自分の無力さを痛感したあの時、道を示してくれたあの人との約束でもあるのだから。

「その為には宮野みやの、お前の力が必要だ」

「勿論よ。あなたが必要ないって言っても力を貸すつもりだったんだから」

「・・・そうか」

不意にもポケットに入れていた携帯がブルブルと振動する。

携帯を取り出しディスプレイを見ると、鬼灯ほおずきと表示されていた。

通話ボタンを押し耳に当てる。

「もしもし」

『私だ。例のものを手に入れた。今からそっちの端末に送る』

「お前にしては苦労したみたいだな?」

『当たり前だろ。クラスター本部のセキュリティだぞ?苦戦もするさ』

「いつも30分で攻略がモットーだろ?」

『・・・今回は例外だ』

「へぇ、例外ね」

津和吹つわぶき君・・・本当に鬼灯ほおずきちゃんいじるの好きよね・・・」

津和吹つわぶきの会話の内容と、本来の人格のまま話をしていることから、宮野は相手が誰かを理解し、苦笑いとも微笑みともとれる表情を浮かべた。

『・・・とにかく、今から送る。確認してくれ』

その言葉と共に、ポケットから取り出したもう一つの端末にメールを受信したことを知らせるランプが点灯した。

透明な画面の真ん中に青い字で“メールを受信しました”と書かれている。

津和吹つわぶきはその文字をタッチすると、顔写真と文字の羅列られつが表示された。下にスライドして確認する。

「間違いない、確認した。だがこの最後の「闇」のデータがないみたいだが」

『あぁ・・・その闇ってやつの情報だけはかなり厳重に保護されててな、相当時間がかかりそうだったからやめた』

「保護か・・・」

渡辺和明が言っていた「闇には気をつけろ」という言葉が脳裏のうりによぎる。

「闇は向こうについていて、こちらの敵だと思ってよさそうだな」

『あぁ。殺そうとしてる奴の、しかもこいつのだけ厳重に守るなんておかしすぎる』

「・・・とりあえず情報は受け取った。こちらも情報を伝えよう。一か月前、隣接りんせつする深野(ふかの)町のはずれにある廃墟になった家。お前は覚えているだろう?」

『・・・私の家だ。家族全員が揃っていたとき住んでいた』

「そうだ。その家の前で佇む少女が目撃されている。冬だというのにワンピース一枚で、だ」

『ワンピース・・・どんな柄だったかわかるか』

「花柄のワンピースだったそうだ」

『・・・そうか』

ワンピースの柄を聞いた鬼灯ほおずきはどこか悲しげに言った。

「次だ。三日前、政治家の松田(まつだ)(ひで)(とし)と少女がクラスター本部に入って行くところをうちの学校の教師が目撃している。身長は155センチくらいで腰まである黒髪、赤い瞳の子だ。この時腕と頭に包帯を巻いていたらしい」

『なんだと!それは本当か?!』

「あぁ。今その教師も近くにいるが、直接話を聞くか?」

『頼む』

津和吹は宮野に電話を差し出した。

「その話をもう一度すればいいのね」

「なるべく思い出せるだけ細かく教えてやってくれ」

「わかったわ。・・・お電話代わりました宮野みやのです。ある意味初めましてよね。今までメールとかでしか交流なかったし。・・・えぇ、その時学校での仕事を終えて帰る途中だったんだけど・・・」

宮野みやの鬼灯ほおずき、知り合いだったのか。

いつの間に知り合ったんだ。まぁいい、あとは宮野みやのに任せるか。

津和吹つわぶきはベッドに寝そべると目を閉じた。

瞬時に意識を手放し、夢の世界へと足を踏み入れた。






『私の家、会社に近くてね。よく前を通るのよ。まぁ、津和吹つわぶき君に頼まれてたのもあるんだけど』

「あいつが?」

『えぇ、そう。あの会社クラスターは狗沼事件に関係しているから調べる必要がある。だから手を貸してくれってね』

あいつにしては珍しい。自分からお願いするなんて滅多にあることじゃない。なにせあいつはなんでも一人でこなせるような器用な奴だ。よっぽどのことがない限り事足ことたりる。まぁ、今姿をさらせば即終わりだろうから、顔の割れてない宮野みやのに頼んだんだろう。

「そういう時は何か考えがあってのことだろうな。まぁいい。それで?」

『車を少し遠くのところにとめて見ていたら、入口に黒塗りのベンツが一台止まったの。その車から政治家の松田と、腕を引かれてコートを来た女の子が入って行った。一応写真も何枚か撮っておいたわ。津和吹つわぶき君はあなたにその写真を見せてやれって言ってたし。今そっちに送るわね』

「あぁ」

程なくして一番右端のパソコンにメールが届く。

マウスでクリックしてメールを開き、添付てんぷされていた画像を開くと、ずらりと表示された。

そのどれもが松田と少女がSPらしき人間に守られながらクラスターに入っていくものだった。

マウスでスクロールしていく。

後ろ姿ばかりだな・・・これじゃ誰かあまりわからない・・・

『どう?』

「後ろ姿ばかりだな。・・・!!」

一番最後の画像は少女がこちらを見ているものだった。

「こ・・・れは・・・」

『どうしたの?』

「間違いない・・・摩弓まゆ・・・妹だ」

『え?妹さん?』

かつてここで起こった狗沼こぬま事件が発生したとき、行方不明になっていたのだ。

事件に巻き込まれたかどうかは全くわからないが。

あれから3年が過ぎたのか・・・事件の時同じ境遇にあった津和吹つわぶきと協力して事件を生き延び、摩弓まゆについての情報収集を始めてもうそんなに・・・

『・・・もしかして、津和吹つわぶき君があなたに画像を見せるように言ったのも、妹さんが関係してるの?』

「まぁな」

『そう・・・これ以上は詮索しないでおくわ。関係のない私が聞く必要はないしね』

なるほどな。あいつが宮野みやのを頼ったのはこういうことか。

余計な詮索はしない。でも協力してくれる。ちょうどいい人材なわけだ。

『でもクラスターとどんな関係があるのかしらね』

「・・・さぁな」

『クラスターのデータになにかあればいいんだけど。まぁ、後はあなたに任せるわ』

情報面は得意でしょ?と言わんばかりだ。

「了解した」

『それじゃまたね』

電話を切り、近くにあるベッドに投げると、すぐにパソコンに向かう。

津和吹に頼まれてリストをコピーしたとき、いつでもセキュリティーに入れるように小さな穴をあけておいた。

クラスターはあっさり入られているとは思っていないはずだ。

「摩弓・・・お前は一体何をしているんだ・・・」

自らのせいで巻き込まれているならなんとしても助けなければ。今や摩弓はたった一人の、家族だから。



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