第73話 喜びと複雑な再会なのです
次回は9日更新です。
「あいつが心優しく、優柔不断で、周りを顧みず、突っ走るヤツで、頭が少々残念なのを失念していた俺達も悪いんですが、だからってよりによって、裏切り者につきます!? 一心は信頼されまくってますから、お陰で処罰しようにも、出来ない事態になりまして…………」
確かに、これではヴァストーク国も、うかつに動けなくなってしまった。勇者がついている以上、うかつに手は出せない。勇者は魔王への切り札なのだから。処罰しようにも、勇者にまで責任が及んでしまう。そんな訳にいかないもんね。
「そこで、クラリオン王国にお願いがあります、あのバ……一心を、此方に何かしらの理由をつけて、預かって欲しいのです、その間に、一心を利用したあのアホ共は、きっちりと刈り取って来ますので!」
ソウ兄? 途中、バカって言い掛けたよね…………?? それに、最後のアホ共云々の所から、いい笑顔なのは、なんでかな!?
それほどまでに、アホ共には苛々してましたか、そうですか。
「あのアホ共、よりにもよって一心を嵌めたんですよ!? あのバ……一心は頭が少々残念なので、見事に利用されますし、はぁ〜」
美穂さん、お疲れ様です。何だか遠い目をしてますが、過去に何かしらあったんですね?
「その、イッシン殿を我が国で預かればいいんだね? 期限は?」
フランツ殿下、手を顎に当てて考えてます。うん、美形は何をしても似合いますな!
「出来ましたら、2ヶ月程―――――それだけあれば、十分です」
ソウ兄よ、何故に素敵な笑顔なのかな?? 隣の美穂さんまで、優雅に微笑んでるし!? そんだけ待ち遠しいの? アホ共を締めるのがそんなに待ち遠しいのか!? アホ共よ、何をやらかしたんだっ!? 裏切り以外にも、絶対色々とやらかしてるだろっ!!!
「父上、どういたしましょう?」
フランツ殿下の問いに、陛下は暫く考えた後、ソウ兄達へと視線を向ける。うわぉ、陛下が真面目に見える! いつもはどこか頼りないのにっ!?
「ふむ、2ヶ月程ならば良かろう、ふむ、理由は………ふむ、そうだのぅ、うちの新米勇者に色々と教える…………で、どうかのう? ふむ」
その発言で、ヴァストーク勇者二人は、歓喜の笑顔を。代わりに、クラリオン王国勇者は、ずぅーんと凹んだ。陛下? あたしら既に、此方に来て5ヶ月タチマスヨ? 新米勇者は間違ってないけど、既に新米とは言えない位の、功績やら実績を出しちゃってますよ?
一例を上げれば、翔太。彼は二回目勇者と言う事もあり、更に使っているのが、大剣。騎士団の方で色々とやってます。まずは稽古。これにより、何故か家の力で地位を得た奴らが、見事に転落した。どうやら、正論かました挙げ句、プライドをポッキリと折ったらしい。更に何故か、彼らは自ら下を望んだとの事。翔太にやられた奴らは、今は改心して、真面目に働いているそうです。そして何故か、騎士団は完全実力主義に変わったらしい。騎士団の空気も明るくなり、更に強くなった為に、翔太は騎士団で絶大な人気を誇る。
……………余談だが、このお陰で、翔太のさらなる同性愛者疑惑が高まったらしい。何て哀れな………。
さて、次に優香ちゃん。彼女は、和磨くんを巻き込んで、福祉に力を入れている。この国は、きちんと国籍があれば、医療はかなり安く済む。国が経営している為です。その為、病院はいつでも人で溢れ、スタッフが足りない事態になっている。そこに二人は行って、手伝ってくるのだ。お陰で二人の人気は国民にとても高い。
余談だが、孤児院も国が経営している。中々に優秀で、何の柵も無い人物を国が抱える事が出来る。そんな利点があるため、孤児院は国でもかなりの数を作り、教育を重視しているのだ。
さて、和磨くんにはまだある。なんと彼、この短い間に、新しい薬を二つ開発してしまったのだ! これには薬師の皆さん、呆然。何せ新しい薬を作るのは、中々に大変な事だから。数年に一つ、出来るか出来ないか…………なんだって。うん、もう何から突っ込めばいいのやら。
ん? あたし? あたしは国の防衛してるわよ?
実は、あの三流魔族さんが、城へ侵入し罠にハマったアレが、どうやら暗殺者撃退に有効と判断されまして、更に更に改良され、夜に光るペイント弾を使い、グレードアップして、城の防御に使われています☆ ちょっと、微妙と判断された罠に関しては撤去され、別の罠になってます。騎士の皆さんを絶句させた罠も、侵入者さんには効果絶大で、褒められました♪ 何人かの騎士さんが、泣いていたような気がするけど、気にしない☆
まだ、ありますよ〜!!
魔術師団の皆様とも、色々とやりまして、城の防御魔術に関する物も、しっかり見直し、グレードアップさせました! あたし頑張った!! 魔術師の皆さんが、何か遠い目をしたり、絶叫したり、気絶したりしたけれど、結果良ければ全てよし!
「ソーイチ殿、貴殿方はいつまで滞在出来るのかな?」
おや? 何でそんな質問するわけ?? あたしが考えていた間に、どうやら話が進んでいたらしい。
「サキ殿と久方ぶりの再会でしょう、お部屋を用意しましょう、積もる話もあるでしょうしね」
どうやらフランツ殿下に気を使わせてしまったらしい。
「ありがとうございます、殿下…………3日程なら、何とか」
ギリギリのタイミングで来たって言ってたわね、そういえば。あたしと会わなければ、明日にでも帰るつもりだったんだろう。
「私は明日、先に帰らせて頂きます、あのバカを放置しておいたら、何をするやら分かりませんから」
ニコニコニッコリ♪
…………美穂さん? とてもいい笑顔でなんですが、内容が辛辣なのは気のせいかな? 隣のソウ兄が苦笑いしているってことは、いつものことなのかな??
それはそれで怖いけど、きっと彼らの日常何だろうから、あたしがとやかく言う訳にもいかないだろう。
「サキ、詳しくは報告書に書いて、後でボクに渡しておくれ」
ん? 今まで、報告書なんて、フランツ殿下に言われたことないよ? もしかして、言ってない事とかがあるの、ばれちゃったのかな?!
だって殿下の目が明らかに、ワラッテマセン!!
「ハイ、ワカリマシタ」
ここは素直にフランツ殿下に従います! 触らぬ神に何とやら…………アハハ。
「すまないが、私達はまだ時間がかかるから、部屋へ案内してやってくれ」
殿下により命令された執事さんに案内され、美穂さんとソウ兄、あたしとファイさんは部屋へ。ジュビアン神官は、陛下の執務室で用事があるそうなので、ここでお別れです。
まあ、本当はファイさんも控えて貰えるかと思ったんだけど、何故か断固としてついていくと言われましたよ。そんなに信頼ないのかなぁ。
「サキ様のお兄様ならば、挨拶しなければ失礼でしょう!」
……………そっちか。バカな事を言わないといいんだけど(汗
部屋に付き、美穂さんは疲れたといって、さっさと自分の部屋に戻ってしまったため、部屋にはあたしとソウ兄、そしてファイさん。更に、給仕の執事さんとメイドさんが一人ずつ。
「久方ぶりだな、咲希」
「うん、ソウ兄も…………三年ぶり、かな?」
「もうそんなに経つのか…………皆は元気だったか?」
「うん、色々あったけど、元気だったよ、皆」
当たり障りの無い、会話が続く。勿論、あたしは気にしない。ソウ兄と会えただけで、ありがたい事なんだから。
「……………なあ、咲希」
でも、ソウ兄の方が耐えられなかったみたい。先程よりも、強ばった顔がそれを語っている。
「おまえは、俺があの日に使った蒼炎を、怖いと、感じなかったか?」
多分、答えを聞く事が、ソウ兄には怖いのだ。だから、こう聞いたんだと思う。
「そうだね、確かにトラウマにはなったよ、火が、特に青い火がダメになるくらいには」
ばか正直に言えば、ソウ兄だけでなく、この場に居合わせた執事さんやメイドさん、ファイさんが揃って顔を強ばらせる。
「……………でも、」
静かに、ソウ兄を真っ直ぐ見る。きちんと思いが伝わるように。ビクッて怯えられたのは、心外だけど。
「ソウ兄を恨んだり憎んだりは、それだけは無かったかなぁ」
「っ!?」
心底驚いたように、あたしを見るソウ兄は。多分だけど、あたしに恨まれていると、憎まれていると、思っていたんじゃないだろうか。だって、目が真ん丸になって、そして、段々とその目が、潤んできて。
「心配はすれど、流石に恨んだりとかは無いって!」
当たり前でしょう? と問えば、ソウ兄は潤む目元を隠しもせず、心底ホッとした顔をしていた。恐らく、この部屋にいるあたしを除く全員が、感動の瞬間に涙していた。長きに渡る誤解が解けて、改めて感動の対面に―――――――――――――――ならなかった。主に、あたしの一言の所為で。
「それと、ソウ兄? いつまでもぐだぐだされると、調子狂うんだけど? いい加減に、いつもの調子に戻ってよ」
「……………お前って奴はっ!」
泣いて赤い目で睨まれても、全然怖くない。つーか、ソウ兄? あたしは昔から平気だったよ。ソウ兄の鋭い視線くらい、さ?
「ソウ兄、あたしはクラリオン王国の勇者だけど、ソウ兄の義理の妹なんだから、弱音くらいちゃんと聞くよ」
茶目っ気たっぷりにウインクしたら、何故か頭を叩かれた。割と本気で。
「ったく! お前って奴は…………俺が兄なんだから、弱音を吐くのはお前だろ!」
その目が、何やらまた潤んでいたけれど、あたしは何も見てないよ。ねぇ? あたしのお兄ちゃん?
……………無事でいてくれて、ありがとう。その言葉は恥ずかしいから、言わないけど。
読了、お疲れ様でした☆
本日の咲希ちゃんは、如何でしたか? 感動のシーンのはずなのです! 何でキミ、ツンデレになってるのですか!?
……………何やら間違えた感がある秋月です。ま、まあ、テンシロだからいいのかな? いいって事にして下さいなm(__)m
次回もお楽しみに!