第64話 事件を聞きますか
次回は6月24日です。
「ところで、あの事件はどうなったの?」
レイヴァンさんが、別室に運ばれた後、早速、皆に聞いてみたけど、表情は浮かない。
「事件て、何かありましたの?」
恐らく何も知らされていないであろう、エリー様の言葉に、しまったと思ったけど、そこはフランツ様。あらかじめ、それなりの対策はしてあるもよう。何で分かったかと言えば、答えは簡単。フランツ様が見事なまでに、キラッキラの笑顔だからだよ! 絶対に何か考えているでしょう!?
「あぁ、サキが下町に降りた時に、事件に遭遇したみたいなんだ」
「まあ! まさか、サキがこうなったのは、それが原因なんですの!?」
「いや、違いますから!」
全力で不定しましたよ!? 半分はそうだけど、間違いなく残りの半分は、不摂生が祟ったと思われる。
だって、徹夜明けにそのまま全力で呪咀と勝負した後、繊細な作業である浄化を行い、帰って来たら、朝早くだというのに、皆様の前で今回の騒動の説明をして、ようやく解放。寝たのは、数時間のみ。
……………うん、こうやって見ると、何か色々と酷い気がする。あたし健全な乙女なはず。ってそこっ! 乙女とは誰だなんて失礼な事言わないでよ! とにかく、決してあたしは、徹夜上等なキャリアウーマンじゃない!! 決して違うから!!
「サキ殿は体調を崩していたんだよ、本人は全く気付いてなかったけどね?」
苦笑付きで言われても、嬉しくありませんよ!? ちょっと殿下! まともな説明して下さいなぁっ!!
「まあ、サキ! 女の子が無理をしてはいけませんわ! 今でさえ熱があるというのに、お兄様もお兄様ですわ! せめてサキの熱が下がってから、決めても宜しかったでしょうに」
「エリー様………」
可愛らしく頬をプクーっと膨らませながら怒っても、肝心のお兄様はどこ吹く風。全く効果がございませんよ?
「さあ、お話も終わったのでしょう!? サキを休ませますわ、皆様、出てくださいませ!」
有無を言わせぬ妙な迫力に、皆様、顔を強ばらせ、さてでは出ようかとした、その時。
―――――コンコン
控えめなノックと共に、一人の侍女さんが。
「失礼致します、エリエンヌ姫様を、王妃様がお呼びでございます」
「お母様が?」
怪訝そうに侍女を見るエリー様。呼ばれる理由が分からないみたい。
「王妃様より、東の庭園で待っていると」
「でも………」
戸惑うエリー様に、顔色も変えずに侍女さんは見事な爆弾を落としましたよ。
「来なければ、お見合いのお話はこちらで進めて……」
「行きますわ!! もうっ! 勝手に決めないで頂きたいわ!」
侍女さんの言葉を遮って、エリー様はあっという間に、部屋を出ていかれました…………。
「フランツ様? フランツ様が手をまわされたので?」
あたしと同じように、このタイミングのいい呼び出しの意味に気付いたらしい和磨くんの問いに、殿下は只、微笑むばかり。教える気ないでしょう?
「まあ、いいです………それよりも殿下? 事件の調査の進展具合を教えて下さいな」
謎の微笑みを浮かべるフランツ様は答えない気だろうから、話を別の物に切り替える。勿論、待ってましたとばかりに、出ようとしていた他のメンバーも、表情を厳しい物に変えている。
「うん、サキのご要望だから、情報は公開はするけど、一言で言えば“特に無し”としかいいようがないんだよねぇ」
「「はぁ〜〜〜〜〜!!??」」
おもいっきりあたしと翔太の声が重なった。
「そんなわけないしょう!? 確かに人が燃えたんですよ!?」
和磨くんも、声が悲鳴じみている。彼はあたしと一緒に買い物に行った一人。確かに見ているのだ。自分の目で、起きた事態を。
「確かにそうなんだけど、未だに行方不明者の捜索願いが城に来ないんだよ」
どういうこと…………?
普通、人が燃えたらパニック状態になるのは当然で、確かに現場はかなり混乱してた。けど、暫くすれば、消えた人間側の誰かがアクションを起こすはず。時間が経てば、人間、冷静になるものである。
だからこそ、不自然。
「燃やされた人間て、犯罪者とか暗い過去もちとか?」
翔太も事の異様さの意味が分かるからか、表情は必然的に厳しいものになる。
「いや、残念ながら、それも違うんだ、この国には戸籍の制度があってね、全員が産まれた時に、神殿で登録されるようになっているんだ」
ん? 神殿? 普通、役所じゃないの??
あたし達、異世界組の疑問に気付いたらしいファイさんが、説明してくれました。
「サキ様の世界は分かりませんが、この世界では、神殿で戸籍の登録をします、この国に子供が生まれると自動的に神殿にある板に、名前が表記されるんです、違う板には亡くなった人の名前が出ますし、細かい特徴や親の名前も表記されます」
……………わお。この世界、微妙な所で発達してるのね?
「だがよ? それだと抜け道とかないかー? 悪い奴らとか入り込んで、やり放題だろ?」
翔太が指摘するものの、何故かフランツ様が楽しそうに笑っておられる。
「残念ながら、それは無理だよ、神が行う所業に対し、人が騙すなんて出来ないんだよ…………真実の神の制約を受けるから、戸籍を誤魔化すバカはいないよ」
……………なんだろ、凄く怖い事を聞いた気がする。というより、フランツ様!? さらりと言いましたね!?
「さて、話を戻すけど、事件に関しては、こちらはお手上げの状態だよ」
両手を上げて、降参のポーズをとるフランツ様。美形なだけに、妙にさまになっているし。その姿にイラッときたりしたけど、とりあえず我慢。
「フランツ様、皆にも聞いて欲しいんだけど」
そう、あの時。
あたしが倒れる直前に、式神様の龍が言った言葉。あれが今になって気になってるんだ。
「あたしが気を失う前に、式神様が言ったのよ、『魔の気配がする』って」
その言葉に、皆が戸惑った表情をする。まあ、当然よね。それが表す事は、一つだけなんだから。そんな中、フランツ様が目を細める。ただし、顔はうっすら笑顔のまま。
「サキ? それはどういうことかな? 現場には、魔術師達もいたが、そんな報告は上がっていないし」
あー、やっぱり? 多分だけど、人と神の差………としかいいようがないんだよね〜。
「えー、かなり僅かな気配でしたし、あそこには人が沢山いましたからね、普通は気付かないでしょう」
龍が気付いたのも、偶然だったみたいだし。
「ここは褒めるべきなんでしょうか? 呆れるべきなんでしょうか?」
何やら疲れている顔をしているのは、統括側になったブラオさん。まあ、そうよね。だって、部下は優秀なはずなのに、何一つ手掛かりが無かったんだから。
「アハハ………、部下さんを叱らないでね? ブラオさん」
本当にこれ、偶然なんです。お願いですから、悪い事をしていないんですから、お願いします。
「しかし、魔の気配ですか…………、魔族が王都に潜入している事になりますね」
そういったフランツ様、頭を押さえてしまいましたよ。全く、見事に頭の痛い事が起きたものよね…………。
「王都の防御は完璧なはずですが……………」
胃をさすりながら、青い顔のブラオさんには悪いが、魔族相手に人間の完璧は意味がないかもです。まあ、何だか止めを刺しそうだから、言わないけど。
「あれ? でも、あの時………紫色の髪の人なんていなかったよ?」
キョトンとしたように、発言した優香ちゃんの言葉に、あ………となったあたし達。
「いなかったね………、確かにあの時」
「あー、あたしはあの時一杯一杯だったから、覚えてないや…………」
和磨くんの記憶が頼りとなるわね。あたしはあの時、錯乱に近かったし…………。
「つまり我々人間と同じ姿で、街に堂々と入ってきている、ということだよね?」
フランツ様の言葉に、ブラオさんの胃が大変な事になってるみたいだけど、仕方ない。
「あたしの体調が戻りしだい、また町におりよう…………」
あたしの提案に、皆そろって頷いたところで。
「…………大変、申し訳ないんだけど、そろそろ寝ていいかしら? 眠くなってきたわ」
難しい会話をしたお陰か、眠気が復活。目蓋が重くなってきましたわ。
「分かりました、我々は退室しましょう、レディの寝顔を見るのは、マナー違反ですから」
苦笑気味にフランツ様が言って、皆がそろって出ていく。優香ちゃんは戸惑った様子で最後までいたけど、ファイさんに促され、退室していった。
けどさぁ?
「咲希ちゃん、ぜーったいに無理しちゃダメだからね!!」
って言わなくてもよくない? 思わずベットの中でずっこけたよ!?
ま、まあ、とにかく、今は一刻も早く体調を戻さないとね!
てな訳で、お休みなさい!
読了お疲れ様でした。
秋月煉です。
いやー、スランプのお陰で書けなくて大変でした。昔の小説読み直したら、もっと笑える展開が多かったのが、ビックリでした。あれ? 最近、笑いが無くないか!? 何とかシリアス展開を終わらせて、サキちゃんには突っ込み要員になってもらいたいです。
さて、本日は短編『攻略を失敗しました♪2』を同じ時間に投稿しています。興味がある方、覗いて見て下さいね☆
それでは次回、お会いしましょう。
感想、ご意見、ご質問、誤字脱字、いつでもお待ちしております。勿論、ポイントもです! なお、作者のメンタルが弱いので、甘口で書いて下さると助かりますm(__)m