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閑話 暗雲立ち込めるお屋敷で( 2)

お待たせいたしました。

次回の更新は4月15日更新です。

Side:和磨


優香さんと開いた扉は、すんなり開いて。けれど、そこからは想像以上の闇が、まるで塞き止められた水が一気に流れ出るように溢れた。そう、溢れるという言葉がピッタリの状態だったんだ。


「ブラオさん! 殿下!」


優香さんは自分の事で手一杯で、周りまで気に掛ける余裕はない。僕がしっかりしないと!

そう思っているうちに、殿下とブラオさんは、あっさりと闇を浄化していった。そう、まるで、最初から闇なんて無かった…………そう思わせる程に。


「大丈夫だよ、カズマ、僕はそんなヘマはしないよ」


こんな状況なのに、クスクスと笑っているフランツ殿下に、僕は思わず小さなため息を溢す。確かにフランツ殿下はそうだろう。この人は何でも器用にこなすんだから。しかしである。ここは一応、呪咀の本体の向かった場所なわけで。僕が何を言いたいのかと言えば。


「フランツ様………お戯れも程々に」


釘を刺したくなるのも、仕方ないだろう。


「これでも修行はしてるんだ、遅れを取るような真似はしないよ」


駄目だ、分かってない。この人は絶対に。茶目っ気たっぷりに言ってる場合じゃないんだよ!? 絶対に分かってないでしょ!? そうは思っても、とりあえずは顔は平常心で。内心が荒れていたとしても、顔には出してはいけない。確か父がそんな事を言っていた。医者は顔には出してはいけないんだと。患者さんを不安にしないために。

……………まさかこんな事態で役に立つとは思わなかったけれど。


「行きましょう、カズマ殿」


「あ、はい」


ブラオさんに言われて、はたと我に返る。どうにか挨拶したものの、きっと感のいいブラオさんは気付いてるはずだ。僕が殿下の行動にヒヤヒヤしている、つまり、心配していることに。


「何か………凄く寂しいね」


部屋に入ってすぐに、優香さんが言った。確かに年頃の貴族の娘さんにしては、物が少ない。それに色合いが随分と寂しい。明るい部屋ならまだしも、暗い部屋では、まるで化け物屋敷にしか見えない。


「誰かいますね」


すっと目を細め、険しい表情のフランツ様。その隣には、胸元に手を当て、不安そうな優香さん。それでもいつでも魔法を使えるように待機しておくあたり、不安でも状況は分かっているのだろう。ブラオさんは先行し、部屋をあっさりと炎で浄化していく。家具を燃やさないその技に、流石と内心で思う。声には出さないけど。


「彼女が、今回の元凶かな?」


軽口で言うものの、目が笑っていないフランツ様。それはそうか。自分の妹がやられて、怒らない方がおかしい。


「ブラオさん、彼女の浄化は僕が」


そう断ってから、僕は大きなベットに横たわる、一人の女性に近づいた。薄暗い部屋を、小さな光を喚んで、手元を照らす。

随分と痩せている。美しかったであろう顔は骨が浮き出ていて、肌もカサカサしている。美しかっただろう髪も、ボサボサになっており、手入れをしていないのは明らかだ。


「栄養失調に症状は似てますね、しかし浄化しても、恐らく直ぐに元に戻るでしょう、このままだと」


「な、なんで? 浄化したら、大丈夫じゃないの?」


困惑気味の優香さん。確かに、普通ならそれで終わる。けれど、考えてみてほしい。体が健康でも、彼女の精神状態はどうだろう? 恐らく、自分のした事を覚えているだろう。はたしてその時、精神は正常な状態でいれるだろうか。


「その点は大丈夫だよ、カズマ、サキが浄化と共に、彼女の記憶を正すそうだから」


「…………フランツ様、初耳なんですが」


思わず半眼になる。仕方ないでしょ。


「サキが来る途中、言ってたんだよ、呪いの本体たる体は浄化とヒールだけで大丈夫だとね」


「…………………」


咲希さん!? 僕にも一言位、言ってくれても良かったんじゃないか!?


「さあ、彼女を浄化してしまおう、外も始まったみたいだし」


ドォォォ―――――ン


確かに爆発音が聞こえてきた。間違いなく、外で戦いが始まったのだろう。けれど、嫌な予感がする。彼女をこのまま浄化してしまって、大丈夫なのだろうか? こう、違和感があるのだ。それが分からない。


「どうしたの? 和磨くん」


一向に治療を始めない僕に、優香さんが問うてくるけれど、僕は疑問にぶち当たっていて、余裕はない。


「何か、違和感があるんだ…………このまま浄化してしまって、本当にいいのかな」


「カズマ、何が気になるんだい?」

フランツ様に言われて、違和感の正体を考えてみる。この部屋に入った時に、溢れた闇色の霧。けれど不思議な事に、僕達が来てからは部屋に闇が漂う事もない。

咲希さんが言っていたんだ。別れる前に。


『本体の人、魂が出ちゃってるから、死んだように見えるかもね、でも実際は死んだ訳じゃないから、気を付けてね』


あの時は信じられなかったけど、実際に見れば咲希さんの言葉が如何に正しいかよく分かった。

だって今、彼女は息をしていない。まるで死んでしまったかのように、その瞼を閉じている。


「そうか………だから咲希さんは、僕達に中をお願いしたんだ」


「どういう事? 和磨くん」


ようやく納得した僕に、不安そうな優香さんの顔が見える。


「カズマ、すまないが僕達にも分かるように言ってくれないか?」


殿下とブラオさんも、僕を見ていた。凄く真剣な顔で。


「ずっと気になっていたんです、この部屋に入ってから」


そう、浄化をして綺麗になった部屋。闇は皆が浄化しているから、間違いなく減っているんだろう。


「僕は呪いの事はよく分からないけど、医者の見方をするなら、普通はこんな濃い闇の中にいたら、間違いなく死んでしまう……………けれど、彼女は生きている」


そこから導き出される事はただ一つ。


「闇があったから、彼女は生きていられたんだ、その闇を払ったら……………、彼女の体は不味い状態になるんじゃないかな?」


「……………確かに、それはあり得るね」


難しい顔をしている殿下は、あっさりと気付いたらしい。流石、切れ者の殿下だ。

その隣で、未だに状況が飲み込めていない、ブラオさんと優香さんは怪訝そうな顔のまま。納得してないみたい。


「もし浄化するなら、体を僕達が維持しないといけないんだよ、闇がやっていた役目をしないといけないんだ」


「えっと…………浄化して、それから体を維持するために、光の魔法を使えばいいんだよね?」


疑問符付きだけど、大体当たりかな。浄化は簡単だけど、その後の維持が大変なんだ。口で言うのは簡単だけど、やるのは違う。だって一歩間違えたら、死んじゃうんだから。


「僕と優香さんの光の魔力で、浄化は出来る、けど維持するほどの魔力は僕達には残らないかもしれない」


維持する事はとても大変だ。僕達では安全には出来ないから。何せやったことがない。


「それでしたら、ご安心下さい、殿下が出来ますから」


ブラオさんがさらりと言い放った言葉に、僕は目が点になる。


「はっ…………? あのー、今なんと?」


「ですから、殿下が出来ます」


「水の魔法や氷の魔法の中には、そういう魔法があるんだよ」


そういうのは早く行ってくれよ!!


「分かりました、そちらはお願いします」


内心、おもいっきり突っ込みをしたけれど、僕は顔には出さずに、頭を下げる。

さあ、浄化を始めよう!


『『浄化(ライティング)の(・)(プリフィケーション)!!』』


僕と優香さんの声が重なり、優しく全てを照らす光が、女性を包み込む。少しずつ丁寧に浄化を施していく。一つ一つ、最新の注意を払って、僕と優香さんは確実に浄化していく。思った以上に繊細な作業で、緊張感も否応なしに高まっていく。意識を最大限に集中させるため、疲労感も馬鹿に出来ないほど。


「これが出来たら、殿下、お願いします!」


「分かった」


既に準備が出来ているらしい。本当に、何と気がきくことか。


「和磨くん! 終わったよ♪」


優香さんが最後の闇を浄化し終え、殿下へとバトンタッチする。殿下は直ぐに手を女性に向ける。水の魔法が女性を包むように広がっていく。凄く綺麗な魔法だ。

僕は雷の方が強いから、こういうのは無理なんだよね。


「後は咲希さんが来てくれれば………」


まさに一息ついて、つぶやいた時だった。僕は多分、油断していたんだと思う。闇は全て払われたんだと……………。


「それはー、困るんだよねー?」


ここには居ないはずの、知らない声が聞こえた。


「誰だっ!?」


ブラオさんが辺りを見るけど、誰もいない。僕も確認するけど、やはり見つけられない。というよりも、状況は最悪なんだ!

見えない敵。見えないとはつまり、殿下を襲う事も出来る訳で…………。


「ブラオさん、殿下から離れないで! 来て下さい! グランツさん!」


「ソール、ムーン! 来て!」


僕と優香さんが武器を出して構えるけれど、全く相手の場所が分からないんだ。


「あのさー? 我はここにいるんだけどー?」


呆れたような、気の抜けた声がする。悪かったな! 僕は気配とか、分かんないんだよ!!


『火よ(ファイア)!』


優香さんが、小さな火を誰もいない空中に向けて放った。どうしたんだよ!? 優香さん!


「いつまで隠れてるんです! そこにいるのは、分かっています!」


ビシッと剣の先を向けたのは、またしても誰もいない只の空間で。

………………そういえば、優香さんて、気配とか感じられる人だった。


「おやー? 我の気配、分かってるー? 凄いねー! 我の気配は生半可な人間じゃ分からないはずなんだけどー?」


そして一瞬のうちに姿が突然、その場にあらわれたのは、一人の男。


「お前は! 魔族!?」


紫の髪を背中まで伸ばした、20台位の若い魔族。服装は、ゴシックタイプのタキシード。ジャラジャラと装飾も多い。顔立ちはたれ目のせいか、やる気が全く感じられない。顔はニコニコと胡散臭い笑顔だが、目は笑っていない。


「うーん、困るんだよねー、君たちー…………邪魔だしー、消えてくれるー?」


それは新たな戦いの始まりでもあった。


読了、お疲れ様ですm(__)m


最近、作品を立て続けに投稿してます、秋月です(;^_^A


滅茶苦茶疲れてます…………。

いやー、まさか、和磨くん視点や優香ちゃん視点がここまで大変とは思いませんでした…………。

勿論、投稿は毎週水曜日は変えませんよ? 他の不定期とかは別ですが(汗


短編が思いの外、好評の為、続けてましたが無事に完結☆ まあ、番外編かくかもですが、一応完結!

しかし気は抜けません。新作を作らないと…………。『夢渡りの姫』も書かないといけませんし。あら、書くのが一杯(・・;)

が、頑張ります!


すいませんが、本日はミニ小説はお休みです。


感想、ご意見、誤字脱字、いつでもお待ちしております。返事はきちんとお返し致しますので、ご安心ください。なお、甘口で下さると助かります。作者、メンタル強くないので。

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